本編
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「夜遅くに申し訳ありません」
「いえ、鎹鴉から先触れは頂いていましたので」
深夜に紗雪は蝶屋敷を訪れていた。先日の那田蜘蛛山の任務で医薬品を随分使ったのでその補充の為だ。出迎えてくれたアオイについていく。
「那田蜘蛛山で救助した隊士達はその後如何ですか?」
「完全に蜘蛛になった者にはやはり後遺症が残りそうです。体の一部が溶けた者に関しても度合いによりますね」
「そうですか」
相当数の隊士が離脱と言うことになるだろう。これは忙しくなるかもしれないなと紗雪は思った。
(あれ?)
視界の端を通った影に紗雪は足を止めた。丁路地型になった廊下の向こうに禰󠄀豆子が立っている。アオイに緊張が走ったのを見て、紗雪がその肩に手を置いた。
「大丈夫ですよ。大人しい子です」
「紗雪さん」
紗雪は禰󠄀豆子に向かって歩き出した。気付いた禰󠄀豆子も歩み寄ってくる。紗雪は廊下に膝をつくと視線を低くした。
「こんな所でどうしましたか?禰󠄀豆子ちゃん」
「むー」
禰󠄀豆子がキョロキョロするのに首を傾げる。身振り手振りのジェスチャーで一生懸命伝えようとする禰󠄀豆子に紗雪は手を叩いた。
「あぁ、もしかして君のお兄ちゃんかな?」
「むー!」
禰󠄀豆子はニッコリ笑うと両手を上げた。大正解という奴だ。紗雪は禰󠄀豆子に両手を差し出した。
「今は真夜中です。お兄ちゃんはまだ寝ていますよ。怪我をしていましたからね。禰󠄀豆子ちゃんも不死川さんに随分な目に合わされたと師範から聞きました。部屋で休みましょう」
ね?と首を傾ければ禰󠄀豆子は頷いて紗雪に抱きついてきた。小さな体を抱き上げれば羽織をしっかり掴んでくる。アオイが後ろで固まっているのはわかったが、紗雪は可愛いなぁとしか思えなかった。
「薬の補充は後で行きます。準備だけお願い出来ますか?」
「わかりました」
頭を下げると立ち去るアオイを見送る。紗雪は禰󠄀豆子に向き直った。
「では禰󠄀豆子ちゃんの部屋まで案内して下さい」
「禰󠄀豆子!」
慌てて飛んできたのだろう。冷や汗をかいた炭治郎が廊下の向こうから現れた。禰󠄀豆子がパッと顔を明るくする。
「むーむ!」
「お兄ちゃんが来てくれましたか。良かったですね」
紗雪が禰󠄀豆子をおろそうとするが、禰󠄀豆子は羽織を掴んで離さなかった。それに炭治郎が混乱する。
(えっ!?柱に近い匂いの人が禰󠄀豆子のそばに居ると思って慌てて来たんだが、俺何か勘違いしてる?)
紗雪から禰󠄀豆子を嫌がる匂いはしない。それどころか禰󠄀豆子の方が懐いている。炭治郎は隠の後藤から聞いた話を思い出しハッとした。
「あの!もしかして那田蜘蛛山で禰󠄀豆子に箱に入るよう言ってくれた方ですか?俺の手当てもしてくれたって」
急に礼儀正しくなった炭治郎に紗雪は笑って頷いた。妹を守りながらやってきた炭治郎の苦労を垣間見る。
「紗雪椎名と言います。宜しくね、竈門炭治郎君」
「ありがとうございました!宜しくお願いします!!」
大声で頭を下げる炭治郎に静かにするよう合図をすると並んで廊下を歩き出す。禰󠄀豆子は紗雪の腕の中でウトウトしていた。
「禰󠄀豆子がすいません」
「炭治郎君は怪我をしているんです。無理は良くありませんよ。それに禰󠄀豆子ちゃんは軽いですからね」
首に腕を回してくる禰󠄀豆子の背中をトントンと叩く。表情を緩めた炭治郎に紗雪が切り出した。
「それより師範のことについて謝らないといけませんね」
「師範?」
キョトンとする炭治郎に紗雪が苦笑いする。
「柱合会議にいたでしょう?金髪に炎の羽織を着た…炎柱、煉獄杏寿郎です」
「………」
斬首すべし!の声を思い出し炭治郎の顔が強張った。あれだけいっぺんに殺すだの首を落とすだの言われたのは初めてだ。炭治郎の表情に紗雪は眉を下げた。
「本当に申し訳ない。あの人基本凄く良い人なんですけど、意思が固いと言うか決まり事には四角四面と言うか…」
柱合会議から帰ってきた煉獄から話を聞いた時には眩暈がしたぐらいだ。紗雪の謝罪に炭治郎は慌てて首を振った。
「紗雪さんが謝ることじゃないです!それに結局は許して貰えましたし大丈夫です」
炭治郎の言葉に紗雪は表情を和らげた。個室に入ると禰󠄀豆子をベッドにそっと下ろす。カーテンの隙間から日が入らないよう確認すると炭治郎が頭を下げた。
「ありがとうございました。紗雪さんが禰󠄀豆子を見つけてくれて良かったです」
「お館様の決められた事ですから師範ももう何も言わないとは思いますけど、私からももう少し話してみます。私の話なら聞いてもらえると思うので…意固地にならなければ」
思わずそう付け加えた紗雪に炭治郎は明るく笑った。
「紗雪さんは煉獄さんが好きなんですね!」
「……ん?」
今の話のどこを聞いたらそんな感想が出てくるのだろうか。紗雪が反応に困っていると炭治郎が慌てて説明してくれた。
「俺他の人より鼻が効くんです。人の感情もある程度は匂いで分かったりするので」
(おぉう)
それは凄いけど良くはない。中には知られたくない感情を持っている人もいるだろう。紗雪は眉を下げると曖昧に笑った。炭治郎がしゅん…と肩を落とす。
「すいません、気持ち悪いですか?」
「あぁいや、そうじゃなくて…あまり人の感情を嗅ぎ分けるのは止めた方がいいですよ。誰しもが感情がそのまま気持ちと繋がっているとは限らないですから」
自覚のない思いを抱えている人だっているだろうし、暴かれたと感じれば反発も生まれるだろう。
紗雪の忠告に炭治郎ははい!と元気よく返事を返した。
(あ、わかってない返事だ)
炭治郎にとって感情や気持ちは真っ直ぐ感じて伝えるものなのだろう。まぁ忠告はしたし…と紗雪は話を切り上げた。禰󠄀豆子の部屋を出ると窓の外はほんの僅か明るくなってきていた。
「君ももう休んだ方が良いですよ。暫くは安静でしょう?」
そしてその後にはあの地獄の機能回復訓練が待っているのだ。
「はい!では失礼します」
病室に戻っていく炭治郎を見送ると紗雪は医薬品の補充に向かうのだった。
「いえ、鎹鴉から先触れは頂いていましたので」
深夜に紗雪は蝶屋敷を訪れていた。先日の那田蜘蛛山の任務で医薬品を随分使ったのでその補充の為だ。出迎えてくれたアオイについていく。
「那田蜘蛛山で救助した隊士達はその後如何ですか?」
「完全に蜘蛛になった者にはやはり後遺症が残りそうです。体の一部が溶けた者に関しても度合いによりますね」
「そうですか」
相当数の隊士が離脱と言うことになるだろう。これは忙しくなるかもしれないなと紗雪は思った。
(あれ?)
視界の端を通った影に紗雪は足を止めた。丁路地型になった廊下の向こうに禰󠄀豆子が立っている。アオイに緊張が走ったのを見て、紗雪がその肩に手を置いた。
「大丈夫ですよ。大人しい子です」
「紗雪さん」
紗雪は禰󠄀豆子に向かって歩き出した。気付いた禰󠄀豆子も歩み寄ってくる。紗雪は廊下に膝をつくと視線を低くした。
「こんな所でどうしましたか?禰󠄀豆子ちゃん」
「むー」
禰󠄀豆子がキョロキョロするのに首を傾げる。身振り手振りのジェスチャーで一生懸命伝えようとする禰󠄀豆子に紗雪は手を叩いた。
「あぁ、もしかして君のお兄ちゃんかな?」
「むー!」
禰󠄀豆子はニッコリ笑うと両手を上げた。大正解という奴だ。紗雪は禰󠄀豆子に両手を差し出した。
「今は真夜中です。お兄ちゃんはまだ寝ていますよ。怪我をしていましたからね。禰󠄀豆子ちゃんも不死川さんに随分な目に合わされたと師範から聞きました。部屋で休みましょう」
ね?と首を傾ければ禰󠄀豆子は頷いて紗雪に抱きついてきた。小さな体を抱き上げれば羽織をしっかり掴んでくる。アオイが後ろで固まっているのはわかったが、紗雪は可愛いなぁとしか思えなかった。
「薬の補充は後で行きます。準備だけお願い出来ますか?」
「わかりました」
頭を下げると立ち去るアオイを見送る。紗雪は禰󠄀豆子に向き直った。
「では禰󠄀豆子ちゃんの部屋まで案内して下さい」
「禰󠄀豆子!」
慌てて飛んできたのだろう。冷や汗をかいた炭治郎が廊下の向こうから現れた。禰󠄀豆子がパッと顔を明るくする。
「むーむ!」
「お兄ちゃんが来てくれましたか。良かったですね」
紗雪が禰󠄀豆子をおろそうとするが、禰󠄀豆子は羽織を掴んで離さなかった。それに炭治郎が混乱する。
(えっ!?柱に近い匂いの人が禰󠄀豆子のそばに居ると思って慌てて来たんだが、俺何か勘違いしてる?)
紗雪から禰󠄀豆子を嫌がる匂いはしない。それどころか禰󠄀豆子の方が懐いている。炭治郎は隠の後藤から聞いた話を思い出しハッとした。
「あの!もしかして那田蜘蛛山で禰󠄀豆子に箱に入るよう言ってくれた方ですか?俺の手当てもしてくれたって」
急に礼儀正しくなった炭治郎に紗雪は笑って頷いた。妹を守りながらやってきた炭治郎の苦労を垣間見る。
「紗雪椎名と言います。宜しくね、竈門炭治郎君」
「ありがとうございました!宜しくお願いします!!」
大声で頭を下げる炭治郎に静かにするよう合図をすると並んで廊下を歩き出す。禰󠄀豆子は紗雪の腕の中でウトウトしていた。
「禰󠄀豆子がすいません」
「炭治郎君は怪我をしているんです。無理は良くありませんよ。それに禰󠄀豆子ちゃんは軽いですからね」
首に腕を回してくる禰󠄀豆子の背中をトントンと叩く。表情を緩めた炭治郎に紗雪が切り出した。
「それより師範のことについて謝らないといけませんね」
「師範?」
キョトンとする炭治郎に紗雪が苦笑いする。
「柱合会議にいたでしょう?金髪に炎の羽織を着た…炎柱、煉獄杏寿郎です」
「………」
斬首すべし!の声を思い出し炭治郎の顔が強張った。あれだけいっぺんに殺すだの首を落とすだの言われたのは初めてだ。炭治郎の表情に紗雪は眉を下げた。
「本当に申し訳ない。あの人基本凄く良い人なんですけど、意思が固いと言うか決まり事には四角四面と言うか…」
柱合会議から帰ってきた煉獄から話を聞いた時には眩暈がしたぐらいだ。紗雪の謝罪に炭治郎は慌てて首を振った。
「紗雪さんが謝ることじゃないです!それに結局は許して貰えましたし大丈夫です」
炭治郎の言葉に紗雪は表情を和らげた。個室に入ると禰󠄀豆子をベッドにそっと下ろす。カーテンの隙間から日が入らないよう確認すると炭治郎が頭を下げた。
「ありがとうございました。紗雪さんが禰󠄀豆子を見つけてくれて良かったです」
「お館様の決められた事ですから師範ももう何も言わないとは思いますけど、私からももう少し話してみます。私の話なら聞いてもらえると思うので…意固地にならなければ」
思わずそう付け加えた紗雪に炭治郎は明るく笑った。
「紗雪さんは煉獄さんが好きなんですね!」
「……ん?」
今の話のどこを聞いたらそんな感想が出てくるのだろうか。紗雪が反応に困っていると炭治郎が慌てて説明してくれた。
「俺他の人より鼻が効くんです。人の感情もある程度は匂いで分かったりするので」
(おぉう)
それは凄いけど良くはない。中には知られたくない感情を持っている人もいるだろう。紗雪は眉を下げると曖昧に笑った。炭治郎がしゅん…と肩を落とす。
「すいません、気持ち悪いですか?」
「あぁいや、そうじゃなくて…あまり人の感情を嗅ぎ分けるのは止めた方がいいですよ。誰しもが感情がそのまま気持ちと繋がっているとは限らないですから」
自覚のない思いを抱えている人だっているだろうし、暴かれたと感じれば反発も生まれるだろう。
紗雪の忠告に炭治郎ははい!と元気よく返事を返した。
(あ、わかってない返事だ)
炭治郎にとって感情や気持ちは真っ直ぐ感じて伝えるものなのだろう。まぁ忠告はしたし…と紗雪は話を切り上げた。禰󠄀豆子の部屋を出ると窓の外はほんの僅か明るくなってきていた。
「君ももう休んだ方が良いですよ。暫くは安静でしょう?」
そしてその後にはあの地獄の機能回復訓練が待っているのだ。
「はい!では失礼します」
病室に戻っていく炭治郎を見送ると紗雪は医薬品の補充に向かうのだった。