本編
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「おいお前!新人だろ!俺の階級は辛だから俺に従えよ!」
鎹鴉の紅の声に従い鬼の出ると言う森に着いた紗雪は、到着するなりの隊士の台詞に目を丸くした。
(おぉ、階級マウント。どこにでも居るんだなぁ)
紗雪とて軍人である。階級が上の人間に従うのは苦ではない。しかし辛の隊士は見ているだけで大変不安になる隊士だった。
「隠の話じゃこの森を根城にしてる鬼は30は喰ってるらしい。人海戦術だ。森にバラけて探すぞ」
(いや、個々人で事に当たるんかい。折角20人はいるのに)
想定している鬼ならばかなりの強さである。各個撃破されて30人プラスアルファなんてのは避けたい。
「せめて2、3人でまとまった方が…」
「癸は黙ってろ!」
(こりゃ駄目だ)
紗雪はさっと周囲を見渡すと、少し離れた場所にいる年若い隊士達に近づいた。辛の隊士への反発が滲み出ている。
「ねぇ、他の隊士に連絡取る道具何か持ってますか?」
「えっ……笛、なら」
「数は?」
「多分4、5人が」
ふむ、と紗雪は顎に手を当てた。辛の隊士は取り巻き相手にご高説中でこちらに気付いていない。
(まぁ、セイフティだと思って)
「あの辺に気付かれないように何人かに声かけて下さい。バラけたふりして2、3人ずつ合流して。笛は一班に一つ必ず持つ事」
「あの…もしかして炎柱様の継子の方ですか?」
紗雪は驚いて年若い隊士を見た。まさか自分が知られているとは夢にも思っていなかった。否定するのもおかしな話なので頷くと若い隊士の目が輝いた。
「やっぱり!薄青い羽織に炎の鍔!噂通りだ」
どんな噂だ。紗雪は心の中で突っ込んだ。これは中々厄介かも知れないと心底思う。
「30人食った鬼相手にこれだけの隊士が集められたのだから、個別に対応しない方が良いでしょう。鬼を見つけたらその場で足止めして笛で合図を」
「おいそこ!出発だ!!」
辛の隊士の声に紗雪は肩をすくめると歩き出した。わざとだらだら歩く辛の隊士と取り巻きの横を追い越す。ニヤニヤした取り巻きの声が聞こえよがしに飛んできた。
「炎柱様の継子だってよ」
「炎柱様も男だよなー」
「継子のていで囲われて恥ずかしくないのかね」
(まぁ、そう来ますよねー)
若い隊士が噂と言った段階で大体の想像はついていた。炎の鍔にそっと触れると深く息を吐き出す。
(彼らが貶めたいのは私だ。師範が侮辱されているわけじゃない)
それに事実のかけらもない話で反論する価値もない。彼らとて柱には敬意を持っている…筈だ。
(とにかく目の前の鬼を斬るのが先決)
紗雪は後ろの野次を振り切ると暗い森の中へと踏み込んだ。どこに行っても感じる鬼の薄い気配に本体の方向が掴めない。
(ざわざわと嫌な感じがするのにぼんやりしている)
雲が広がり月明かりが翳った。
ピィーーーッ!!
「!!」
細く聞こえた笛の根に紗雪は走り出した。グラグラと地面が揺れて土の中から長い腕が這い出てくる。
うねうねと曲がりくるそれを紗雪は一刀で斬り捨てた。
「うわぁっ!!」
「!」
悲鳴に先を急げば、笛を握った隊士が鬼の腕に巻きつかれ足が地面から離れていた。
ーー炎の呼吸 弍ノ型 昇り炎天ーー
腕を落とすと隊士を掴み遠ざける。他の隊士が二人、紗雪の脇に駆け寄った。
「不規則な動きをするが再生は遅い!腕は複数あるかも知れないから掴まれないように!」
それだけ言い残すと腕の伸びてきた方向に紗雪は駆けた。途中腕に足を掴まれた隊士を助けると指示を飛ばす。
「動けなくなった者が出たら来た方向に下がれ!」
「はい!」
更に3本伸びてきた腕も斬り捨てる。方向をハッキリ掴んだ紗雪は走る速度を上げた。
「おい!お前ら何してる!!足だ!足を止めろ!!」
(足を止めてどうする!首を斬れ!!)
尻餅状態の辛の隊士の声に紗雪は心の中で盛大に突っ込んだ。取り巻き達が次々生えてくる腕に苦戦する。紗雪は自分の方にも伸びてくる腕を薙ぎ払いながら、鬼を観察した。
(腕の本数は最大26本。再生に3秒。腕の伸びる速度はおよそ10m/s。足は…地面に刺さる杭のような役割か。足から伸びる腕は無し)
腕に捕まった何人かを助けながら観察を続ける。
(可動域はほぼ360度。ただし背中の真後ろは除く。首の周囲は筋肉で固めており、腕が更に分割する気配無し)
辛の隊士を抱えて一度離れると紗雪は刀を構え直した。
(観察終了。討伐開始)
「ま、待て!!」
「!?」
走り出そうとした紗雪の羽織を辛の隊士が掴んだ。足を止めた紗雪に腕が襲いかかる。ギリギリで交わした腕で額が切れた。ドロリと流れた血に紗雪は舌打ちする。
(視界が遮られる)
「お、お前手柄を独り占めする気だろう!!あの鬼の首を斬るのは俺だ!!」
「では刀を待て!!自分の力で立ち上がれ!!そして鬼に向かえ!!」
辛の隊士は日輪刀を抜いてさえいなかった。腰を抜かし紗雪の羽織にほぼぶら下がった状態だ。
「お、俺の階級は辛だぞ!?」
「それがどうした!階級で鬼が斬れるのか!?」
紗雪は辛の隊士の首根っこを掴んだまま腕を避け2本斬った。このまま張り付かれていては鬼に近づけない。
「継子の方!」
若い隊士達が数名走り寄ってきた。多少の傷はあるが十分動けそうだ。紗雪はそのうちの一人に辛の隊士を押し付けた。
「しがみついてきて動けん!確保しておいて!二班に分かれて背中寄りから攻撃!!真後ろ以外は腕が来るぞ!!一方の班が腕を落としもう一方が首を斬れ!!」
「「「はいっ!」」」
隊士達が分かれ鬼に斬りかかる。紗雪も刀を握ると隊士達が落とし損ねた腕を斬ってまわる。鬼が腕を全て失った瞬間、その首に斬りかかっていたのは辛の隊士だった。
ザンッと硬い音がして鬼の首が落ちる。塵となって行く鬼に辛の隊士が笑い声を上げた。
「は…ははは!やったぜ!!30喰った鬼を倒した!!俺がやったぜ!!」
紗雪は薬を取り出すと額の傷に塗った。血止めの効能もあるのですぐ効いてくるだろう。血振りをし納刀すると紗雪は紅を呼んだ。
「近くまで隠が来ている筈だからここまで呼んできて」
「紅、呼ブ。隠呼ブ。椎名待ッテル?」
「待ってる待ってる」
紅は紗雪の頬に擦り寄ると飛び去った。すぐ戻ってくるだろうと紗雪がのんびり構えていると、後ろで怒鳴り声が上がった。
「継子の方の足を引っ張った奴が何を偉そうに!!」
「実際鬼の首を斬ったのは俺だ!何が違う!!」
「このっ…」
「はいはい、喧嘩はご法度ですよ」
紗雪は若い隊士の腕を捕まえると踊らせるようにクルクル体を回して自分の後ろに下げた。目を回しながら隊士が声を上げる。
「ですがコイツ!鬼の討伐は自分だけの成果だと!!」
「うん?別にそれで良いですよ?」
あっけらかんと言う紗雪に隊士は唖然とした。紗雪が首を傾げながら笑う。
「大事なのは鬼を斬る事であって、誰が鬼を斬ったかじゃありませんよ」
「ですが…」
「は、はははっ!流石炎柱様のかごの鳥は余裕があるな!!」
興奮している辛の隊士が口走った言葉にその場の空気が凍った。ため息をつく紗雪の肩に手が置かれる。
「鬼は斬ったようだな!紗雪!!」
「師範!?」
場の空気を粉々にするような大声に紗雪は驚いて振り返った。2日ほど任務に行ったっきりのはずだったのに何故ここにいるのだろう。
「どうしてこ…」
「その傷はどうした」
「「「っ!!」」」
ビリビリと空気が震え隊士達全員が再び凍り付いた。煉獄の笑っていない目が紗雪の額の傷と頬にこびり付いた血を捉えている。そんな煉獄の様子を気にすることもなく紗雪は答えた。
「ちょっとドジりました」
「嘘です!!」
若い隊士が辛の隊士を指差して怒鳴った。
「コイツが鬼との戦闘中に継子の方にしがみ付いたんです!!動きを邪魔された所為で怪我されたんです!!」
「そうなのか?」
「ひっ」
煉獄の視線に辛の隊士は後ずさった。紗雪が顎に手を当てる。
「師範、実はそこそこ早い段階からいましたね?」
「っ!」
ギクッと音がしそうな程動揺した煉獄を紗雪がジト目で見た。
「まぁ、師範は任務帰りだと仮定しましょう。それでも聞いてた方向とまるきり違いますよね。偶然紅を見かけたにしたって隠さえまだ到着してないのに早過ぎます」
「…任務を終わらせてきたのは事実だ」
視線を逸らせそれだけ答える煉獄に紗雪はため息をついた。
「こういうのは反応した方の負けなんですよ。放っておきましょう」
勿論先程の辛の隊士の台詞の事だ。あんなもの気にしていたら男所帯の中で仕事なんぞ出来ない。
「しかし!」
納得しない煉獄に紗雪が明るく笑った。
「鬼を斬りまくって噂を吹き飛ばすぐらいの実績を作って見せますよ。師範の継子ですから」
「…そうか。ここでの任務は終わったのだろう!帰るとしよう!!」
煉獄は優しく笑うと紗雪と共に歩き出した。額の傷を見てやはり痛ましいと思う。
「胡蝶の所に寄って帰ろう!手当をしてもらわなければ!!」
「いやいや、この程度で胡蝶さん達の世話にはなれませんよ!?自分でやります」
「千寿郎が泣くが良いだろうか!」
「よ、くは無いですけど…。それより私としては羽織についた血の方が気になります」
「うむ!洗いに出そう!!予備があっても良いかもしれんな!」
「………」
完全に煉獄の意識の外に出た辛の隊士は地面に座り込んだ。冷や汗が出て歯の根が合わない。その肩に要が止まった。
「次ハ無イ」
それだけ言うと飛び去る。辛の隊士は気を失うとその場に倒れた。
鎹鴉の紅の声に従い鬼の出ると言う森に着いた紗雪は、到着するなりの隊士の台詞に目を丸くした。
(おぉ、階級マウント。どこにでも居るんだなぁ)
紗雪とて軍人である。階級が上の人間に従うのは苦ではない。しかし辛の隊士は見ているだけで大変不安になる隊士だった。
「隠の話じゃこの森を根城にしてる鬼は30は喰ってるらしい。人海戦術だ。森にバラけて探すぞ」
(いや、個々人で事に当たるんかい。折角20人はいるのに)
想定している鬼ならばかなりの強さである。各個撃破されて30人プラスアルファなんてのは避けたい。
「せめて2、3人でまとまった方が…」
「癸は黙ってろ!」
(こりゃ駄目だ)
紗雪はさっと周囲を見渡すと、少し離れた場所にいる年若い隊士達に近づいた。辛の隊士への反発が滲み出ている。
「ねぇ、他の隊士に連絡取る道具何か持ってますか?」
「えっ……笛、なら」
「数は?」
「多分4、5人が」
ふむ、と紗雪は顎に手を当てた。辛の隊士は取り巻き相手にご高説中でこちらに気付いていない。
(まぁ、セイフティだと思って)
「あの辺に気付かれないように何人かに声かけて下さい。バラけたふりして2、3人ずつ合流して。笛は一班に一つ必ず持つ事」
「あの…もしかして炎柱様の継子の方ですか?」
紗雪は驚いて年若い隊士を見た。まさか自分が知られているとは夢にも思っていなかった。否定するのもおかしな話なので頷くと若い隊士の目が輝いた。
「やっぱり!薄青い羽織に炎の鍔!噂通りだ」
どんな噂だ。紗雪は心の中で突っ込んだ。これは中々厄介かも知れないと心底思う。
「30人食った鬼相手にこれだけの隊士が集められたのだから、個別に対応しない方が良いでしょう。鬼を見つけたらその場で足止めして笛で合図を」
「おいそこ!出発だ!!」
辛の隊士の声に紗雪は肩をすくめると歩き出した。わざとだらだら歩く辛の隊士と取り巻きの横を追い越す。ニヤニヤした取り巻きの声が聞こえよがしに飛んできた。
「炎柱様の継子だってよ」
「炎柱様も男だよなー」
「継子のていで囲われて恥ずかしくないのかね」
(まぁ、そう来ますよねー)
若い隊士が噂と言った段階で大体の想像はついていた。炎の鍔にそっと触れると深く息を吐き出す。
(彼らが貶めたいのは私だ。師範が侮辱されているわけじゃない)
それに事実のかけらもない話で反論する価値もない。彼らとて柱には敬意を持っている…筈だ。
(とにかく目の前の鬼を斬るのが先決)
紗雪は後ろの野次を振り切ると暗い森の中へと踏み込んだ。どこに行っても感じる鬼の薄い気配に本体の方向が掴めない。
(ざわざわと嫌な感じがするのにぼんやりしている)
雲が広がり月明かりが翳った。
ピィーーーッ!!
「!!」
細く聞こえた笛の根に紗雪は走り出した。グラグラと地面が揺れて土の中から長い腕が這い出てくる。
うねうねと曲がりくるそれを紗雪は一刀で斬り捨てた。
「うわぁっ!!」
「!」
悲鳴に先を急げば、笛を握った隊士が鬼の腕に巻きつかれ足が地面から離れていた。
ーー炎の呼吸 弍ノ型 昇り炎天ーー
腕を落とすと隊士を掴み遠ざける。他の隊士が二人、紗雪の脇に駆け寄った。
「不規則な動きをするが再生は遅い!腕は複数あるかも知れないから掴まれないように!」
それだけ言い残すと腕の伸びてきた方向に紗雪は駆けた。途中腕に足を掴まれた隊士を助けると指示を飛ばす。
「動けなくなった者が出たら来た方向に下がれ!」
「はい!」
更に3本伸びてきた腕も斬り捨てる。方向をハッキリ掴んだ紗雪は走る速度を上げた。
「おい!お前ら何してる!!足だ!足を止めろ!!」
(足を止めてどうする!首を斬れ!!)
尻餅状態の辛の隊士の声に紗雪は心の中で盛大に突っ込んだ。取り巻き達が次々生えてくる腕に苦戦する。紗雪は自分の方にも伸びてくる腕を薙ぎ払いながら、鬼を観察した。
(腕の本数は最大26本。再生に3秒。腕の伸びる速度はおよそ10m/s。足は…地面に刺さる杭のような役割か。足から伸びる腕は無し)
腕に捕まった何人かを助けながら観察を続ける。
(可動域はほぼ360度。ただし背中の真後ろは除く。首の周囲は筋肉で固めており、腕が更に分割する気配無し)
辛の隊士を抱えて一度離れると紗雪は刀を構え直した。
(観察終了。討伐開始)
「ま、待て!!」
「!?」
走り出そうとした紗雪の羽織を辛の隊士が掴んだ。足を止めた紗雪に腕が襲いかかる。ギリギリで交わした腕で額が切れた。ドロリと流れた血に紗雪は舌打ちする。
(視界が遮られる)
「お、お前手柄を独り占めする気だろう!!あの鬼の首を斬るのは俺だ!!」
「では刀を待て!!自分の力で立ち上がれ!!そして鬼に向かえ!!」
辛の隊士は日輪刀を抜いてさえいなかった。腰を抜かし紗雪の羽織にほぼぶら下がった状態だ。
「お、俺の階級は辛だぞ!?」
「それがどうした!階級で鬼が斬れるのか!?」
紗雪は辛の隊士の首根っこを掴んだまま腕を避け2本斬った。このまま張り付かれていては鬼に近づけない。
「継子の方!」
若い隊士達が数名走り寄ってきた。多少の傷はあるが十分動けそうだ。紗雪はそのうちの一人に辛の隊士を押し付けた。
「しがみついてきて動けん!確保しておいて!二班に分かれて背中寄りから攻撃!!真後ろ以外は腕が来るぞ!!一方の班が腕を落としもう一方が首を斬れ!!」
「「「はいっ!」」」
隊士達が分かれ鬼に斬りかかる。紗雪も刀を握ると隊士達が落とし損ねた腕を斬ってまわる。鬼が腕を全て失った瞬間、その首に斬りかかっていたのは辛の隊士だった。
ザンッと硬い音がして鬼の首が落ちる。塵となって行く鬼に辛の隊士が笑い声を上げた。
「は…ははは!やったぜ!!30喰った鬼を倒した!!俺がやったぜ!!」
紗雪は薬を取り出すと額の傷に塗った。血止めの効能もあるのですぐ効いてくるだろう。血振りをし納刀すると紗雪は紅を呼んだ。
「近くまで隠が来ている筈だからここまで呼んできて」
「紅、呼ブ。隠呼ブ。椎名待ッテル?」
「待ってる待ってる」
紅は紗雪の頬に擦り寄ると飛び去った。すぐ戻ってくるだろうと紗雪がのんびり構えていると、後ろで怒鳴り声が上がった。
「継子の方の足を引っ張った奴が何を偉そうに!!」
「実際鬼の首を斬ったのは俺だ!何が違う!!」
「このっ…」
「はいはい、喧嘩はご法度ですよ」
紗雪は若い隊士の腕を捕まえると踊らせるようにクルクル体を回して自分の後ろに下げた。目を回しながら隊士が声を上げる。
「ですがコイツ!鬼の討伐は自分だけの成果だと!!」
「うん?別にそれで良いですよ?」
あっけらかんと言う紗雪に隊士は唖然とした。紗雪が首を傾げながら笑う。
「大事なのは鬼を斬る事であって、誰が鬼を斬ったかじゃありませんよ」
「ですが…」
「は、はははっ!流石炎柱様のかごの鳥は余裕があるな!!」
興奮している辛の隊士が口走った言葉にその場の空気が凍った。ため息をつく紗雪の肩に手が置かれる。
「鬼は斬ったようだな!紗雪!!」
「師範!?」
場の空気を粉々にするような大声に紗雪は驚いて振り返った。2日ほど任務に行ったっきりのはずだったのに何故ここにいるのだろう。
「どうしてこ…」
「その傷はどうした」
「「「っ!!」」」
ビリビリと空気が震え隊士達全員が再び凍り付いた。煉獄の笑っていない目が紗雪の額の傷と頬にこびり付いた血を捉えている。そんな煉獄の様子を気にすることもなく紗雪は答えた。
「ちょっとドジりました」
「嘘です!!」
若い隊士が辛の隊士を指差して怒鳴った。
「コイツが鬼との戦闘中に継子の方にしがみ付いたんです!!動きを邪魔された所為で怪我されたんです!!」
「そうなのか?」
「ひっ」
煉獄の視線に辛の隊士は後ずさった。紗雪が顎に手を当てる。
「師範、実はそこそこ早い段階からいましたね?」
「っ!」
ギクッと音がしそうな程動揺した煉獄を紗雪がジト目で見た。
「まぁ、師範は任務帰りだと仮定しましょう。それでも聞いてた方向とまるきり違いますよね。偶然紅を見かけたにしたって隠さえまだ到着してないのに早過ぎます」
「…任務を終わらせてきたのは事実だ」
視線を逸らせそれだけ答える煉獄に紗雪はため息をついた。
「こういうのは反応した方の負けなんですよ。放っておきましょう」
勿論先程の辛の隊士の台詞の事だ。あんなもの気にしていたら男所帯の中で仕事なんぞ出来ない。
「しかし!」
納得しない煉獄に紗雪が明るく笑った。
「鬼を斬りまくって噂を吹き飛ばすぐらいの実績を作って見せますよ。師範の継子ですから」
「…そうか。ここでの任務は終わったのだろう!帰るとしよう!!」
煉獄は優しく笑うと紗雪と共に歩き出した。額の傷を見てやはり痛ましいと思う。
「胡蝶の所に寄って帰ろう!手当をしてもらわなければ!!」
「いやいや、この程度で胡蝶さん達の世話にはなれませんよ!?自分でやります」
「千寿郎が泣くが良いだろうか!」
「よ、くは無いですけど…。それより私としては羽織についた血の方が気になります」
「うむ!洗いに出そう!!予備があっても良いかもしれんな!」
「………」
完全に煉獄の意識の外に出た辛の隊士は地面に座り込んだ。冷や汗が出て歯の根が合わない。その肩に要が止まった。
「次ハ無イ」
それだけ言うと飛び去る。辛の隊士は気を失うとその場に倒れた。