短編
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志半ばで逝った者。
本懐を遂げ満足して逝った者。
その後をしかと見届けた者。
その全ての命が終わった先で椎名は令和の時代を生きている。
(流石に面影を求めるのは無理かなぁ)
椎名は前世、令和から大正へタイムスリップした身である。そこで大切なものと出会いそのまま人生を全うした。
(満足して死んだのになぁ)
なのに結局平成に産まれ直し似たような人生を歩み、今は特殊部隊に所属している。
「お前この辺りに所縁なんかあったか?」
前世を過ごした街を散策する椎名に後ろから声がかかった。部隊長の後藤が暇そうについて来ている。退屈〜と顔に書いてある後藤に椎名が苦笑した。
「無理してついてこなくて良かったんですよ?」
「悪いけど仕事なんでそうもいかないんだよなー」
椎名はこれから重要な任務に当たるため、今から護衛がついている。自分は非番だと言うのに後藤は仕事で…なんだか申し訳ない。
「つーか私服の俺よりお前の方がよっぽど仕事みたいな格好してね?」
「慣れてるから楽なんですよ」
麻のジャケットにジーパンの後藤と比べて椎名はワイシャツにベスト、タイト目のパンツスタイルだ。俺よりよっぽど男前だなと言われてセクハラですよと返しておいた。
横断歩道を渡って来た小学生3人組に道を譲るとありがとうございます、と元気な声が返って来た。狐面のキーホルダーが揃いでランドセルに付いていて微笑ましい。
(あ、ここ来たことある)
杏寿郎と年始のお参りで来たことのある神社の鳥居を見上げ懐かしさに目を細める。背後を学校帰りの高校生が賑やかに通り過ぎた。
「今日こそ定食屋さん行こ?」
「うーん…また逆さに吊るされないと良いけど」
「ちがっ…あ、あれはちぎゃっうって!!」
定食屋かぁ、と椎名は足を止めた。懐中時計を見れば一時を少し回っている。
「そう言えばお昼まだでしたね。行ってみます?定食屋」
「おー、餞別代わりに奢ってやるよ。しばらく日本食なんて食えなくなるからなお前」
先を歩く高校生達をナビ代わりにしていくと、途中小さな子ども達の声が楽しそうにしていた。幼稚園の園庭で走り回っている。転んで泣いてしまった子どもを体格のいい先生が小さく体を丸めて慰めていた。
「見たか?今の先生。いい体してんなー、身長なんて2メートル超えてるだろ。うちにスカウトしたいわ」
「職種が真逆すぎる」
あははと笑っているとビュウと突風が吹き過ぎた。あー!と叫ぶ声がして椎名が振り返ると3人の女の子が木を見上げ何かを指差している。
「どうしよう?」
「登れないよね?」
「長い棒を探す?」
視線の先を辿れば風に舞い上げられたのか3メートルほど上の枝に小さな帽子が引っ掛かっている。椎名はゆっくり近付くと声をかけた。
「あの帽子?取るの?」
「え?」
「は、はい」
「でも高くて…」
見知らぬ大人に突然声をかけられてオドオドする少女達に笑いかけると、椎名は数歩後ろに下がった。少しの助走で木の幹を蹴ると高く跳び上がる。
「「「わぁっ!」」」
パァッと目を輝かせて寄ってくる少女達に椎名は帽子を手渡した。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます!」
「凄いスゴイ!お姉さん!」
「あのね、この帽子あそこの赤ちゃんのなの」
指差す先には双子をベビーカーに乗せた母親の姿があった。会釈にお辞儀を返すとバイバイと少女達に手を振る。後藤が呆れ顔で木を見上げていた。
「いや、あの助走では普通届かんだろ…」
「えー?後藤隊長の厳しい指導のお陰じゃないですかー」
「お前は入隊して来た時から規格外だったろ」
杏寿郎の教えを思い出しながら自己流鍛錬を積んだ結果、椎名は呼吸が使えるようになっていた。と言っても基礎の基礎だけで全集中できる訳でも炎が出る訳でもないが、現代では十分過ぎるほどだ。
「で、どうする?定食屋への案内が無くなっちまったけど」
「そうですねぇ…あ、ちょっと待ってて下さい」
椎名はちょうど歩いて来た二人組の女生徒に声をかけた。蝶の髪飾りをつけた品も人も良さそうな生徒がわざわざメモを書いてくれている。
「ありがとう」
「いいえ、どう致しまして」
手を振り別れると椎名は歩き出した。後ろをついてくる後藤が感心した顔でメモを覗き込む。
「綺麗な子は字まで綺麗だなー」
「もう発想がただのおっさんですよ後藤さん」
店の看板を目認すると椎名はメモをポケットにしまった。暖簾をくぐるといらっしゃいませー!と元気な声が飛んでくる。
「二人で」
「お好きな席にどうぞっ」
先程の高校生達がご飯を食べている。どうやら今日は吊るされずに済んだらしい。カウンターに置かれた蛇の置物を一撫ですると椎名と後藤は一番隅の席についた。
「招き猫ならわかるけど蛇とは珍しいな」
「白蛇なら守り神でしょう。可愛い置物じゃないですか」
「ありがとうございますっ。うちは夫婦で蛇が大好きなんです」
そう言われもう一度カウンターの方を見ると、厨房の主人と目が合った。心なしか嬉しそうに会釈される。
「ご注文をどうぞっ」
明るい春色の髪をした店員に注文を済ませると茶を啜り、後藤がふーっと一息ついた。
「最終確認だけど、本当に行くんだな?」
「その最終確認3回目ですよ。他に適任者を探して来てくれても良いですけど、出発は明後日でーす」
「そうなんだよなぁー、やっぱ最短任期が10年ってのがなぁー」
後藤はテーブルに突っ伏した。今回椎名が受けたのは海外任務。10年で帰ってこられれば良い方で、もしかしたら帰ってこられない可能性の方が高いぐらいだ。
「お前、紫に行く話もあったじゃん。なんで断っちゃうんだよー」
「うちの隊のエースはお前だって言っておいてそれは酷くないですか?」
「エースなら海外任務受けんなよー」
支離滅裂である。椎名は笑いながらお茶を一口飲んだ。
「逃げないように監視するのも楽じゃないですね?後藤さん」
任務を受けたは良いが途中で嫌になって逃げ出す隊員と言うのは一定数いる。特に今回は海外での長期任務な上に可能ならその国の王族を誑し込んで、更に可能なら愛人関係になった上で、更に更に王族しか知らない機密を盗めと言う人権が裸足で逃げ出すような任務なのだ。
「お前が現場でペロッと命令無視する不良隊員だからだろ?」
「まぁ、否定はしませんが」
それでも目の前で助けられる命があれば助けたいと思ってしまうのは、あの時胸に宿った炎が叫ぶからだ。
「…お前には不向きな任務だと思うけど」
「それならそれで、10年真面目に歴史館職員をやって来ますよ」
「王家主催で歴史的文化遺産の研究、保護、管理とか眠くなるわ」
「後藤さんには無理ですよねー」
「お前いくつになったっけ?」
ふと後藤が真面目な顔で聞いて来た。うーんと、と首を傾げつつ答える。
「23ですね」
「精神年齢俺より上過ぎんだろ」
背筋をピッと伸ばし、落ち着き払った椎名は確かに年相応には見えない謎の落ち着きがある。所作が綺麗なので童顔に見られやすい日本人でも愛人コースでいけてしまいそうだ。
「お待たせしましたーっ」
「うおっ!?スゲー美味そう」
店員の持って来た定食の盛りに後藤が嬉しい悲鳴をあげる。椎名は小盛りにしておいて正解だったなと胸を撫で下ろした。店員がモジモジと恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「お客様がいるのに申し訳ないんですけど、賄いを食べても良いですか?」
「勿論どうぞ。店に入る時間が遅かったからですね。すいません」
「いいえっ、ごゆっくりどうぞ!」
ペコリと頭を下げると嬉々としてカウンターに戻り特盛の賄いを受け取っている店員を後藤は二度見ならぬ三度見した。
「すっ、げー…」
「後藤さん、あまり見るのは失礼ですよ」
私達もいただきましょうと手を合わせる。初めて食べる店の味なのに、何故か懐かしく優しい味がした。
「ありがとうございましたーっ」
うっぷと苦しそうに店を出る後藤にどこか休める場所を探そうと椎名は歩き出した。道路の向こうを男子生徒が二人、パトカーに追走されつつ凄い勢いで走っていく。翻る金と赤の髪に椎名は目を奪われたが、後ろの後藤はパトカーに驚いて足を止めていた。
『今日という今日は止まれクソ餓鬼どもがぁ!!』
『ちょ…先輩っ!』
顔に傷跡のある警官二人組の声がスピーカーから聞こえる。
「凶悪犯もかくやって奴だったなー。それともパトカーと並走できるガキの方を褒めたら良いのやら」
首を捻る後藤に笑うと椎名は先に見える公園を指差した。
「食休みしていきましょう」
「助かるーぅ」
空いていた東屋に腰掛けると爽やかな風が吹いて来る。小さな子供が駆け回る光景に目を細めているとカラン…と乾いた音が聞こえた。
「あ、あ…あらま」
近くのベンチに腰掛けているお年寄りの杖が地面に転がり落ちていた。立ち上がろうとしているが足腰が弱いのか動けずにいる。
椎名は老人の前に片膝をつき身を屈めると杖を拾った。
「どうぞ」
「ありがとうお嬢さん」
ニッコリ微笑むと東屋に戻る。何故かこの短時間で後藤が不機嫌になっていた。
「お前、なに急にスッキリした顔してんの?」
「突然のご機嫌斜めに戸惑うばかりですが、そんな顔をしてますか?」
椎名は自分の顔を触ってみた。とは言え自覚が無いので首を傾げるしか無い。後藤は苛々と髪を掻きむしった。
「あー、もー!なんだかんだでちょーっとだけ迷ってたじゃん!お前は入隊して来た時からなんか色々諦めがちっていうか達観してるっていうか…とにかく自分に出来ることはなんでもしますよ的な自己犠牲の強い奴だったけど、今回のは程度を超えてんだわ!こういう仕事は適正テストをクリアした奴とか実績のある奴に任せときゃ良いのにさーぁ!」
バンバンとテーブルを叩きだした後藤を慌てて止めるが、ヒートアップ中の後藤は止まりそうに無い。
「今日の最後の休暇だって本当はお前を日本に繋ぎ止める楔になりゃ良いと期待してたのに!」
「それでわざわざ後藤さんが護衛をかって出て下さったんですか」
部隊長が何故一介の隊員の護衛任務などについたのか理由がわかって椎名は苦笑した。
「こんなの諜報部の連中にぶん投げれば済む話なんだぞ?な?今からでも承諾取り消しの手続き取ろうぜ!」
「………私は…」
椎名はテーブルの上の両手を握りしめた。
《任務に行く》 / 《やっぱり行きたくない》
本懐を遂げ満足して逝った者。
その後をしかと見届けた者。
その全ての命が終わった先で椎名は令和の時代を生きている。
(流石に面影を求めるのは無理かなぁ)
椎名は前世、令和から大正へタイムスリップした身である。そこで大切なものと出会いそのまま人生を全うした。
(満足して死んだのになぁ)
なのに結局平成に産まれ直し似たような人生を歩み、今は特殊部隊に所属している。
「お前この辺りに所縁なんかあったか?」
前世を過ごした街を散策する椎名に後ろから声がかかった。部隊長の後藤が暇そうについて来ている。退屈〜と顔に書いてある後藤に椎名が苦笑した。
「無理してついてこなくて良かったんですよ?」
「悪いけど仕事なんでそうもいかないんだよなー」
椎名はこれから重要な任務に当たるため、今から護衛がついている。自分は非番だと言うのに後藤は仕事で…なんだか申し訳ない。
「つーか私服の俺よりお前の方がよっぽど仕事みたいな格好してね?」
「慣れてるから楽なんですよ」
麻のジャケットにジーパンの後藤と比べて椎名はワイシャツにベスト、タイト目のパンツスタイルだ。俺よりよっぽど男前だなと言われてセクハラですよと返しておいた。
横断歩道を渡って来た小学生3人組に道を譲るとありがとうございます、と元気な声が返って来た。狐面のキーホルダーが揃いでランドセルに付いていて微笑ましい。
(あ、ここ来たことある)
杏寿郎と年始のお参りで来たことのある神社の鳥居を見上げ懐かしさに目を細める。背後を学校帰りの高校生が賑やかに通り過ぎた。
「今日こそ定食屋さん行こ?」
「うーん…また逆さに吊るされないと良いけど」
「ちがっ…あ、あれはちぎゃっうって!!」
定食屋かぁ、と椎名は足を止めた。懐中時計を見れば一時を少し回っている。
「そう言えばお昼まだでしたね。行ってみます?定食屋」
「おー、餞別代わりに奢ってやるよ。しばらく日本食なんて食えなくなるからなお前」
先を歩く高校生達をナビ代わりにしていくと、途中小さな子ども達の声が楽しそうにしていた。幼稚園の園庭で走り回っている。転んで泣いてしまった子どもを体格のいい先生が小さく体を丸めて慰めていた。
「見たか?今の先生。いい体してんなー、身長なんて2メートル超えてるだろ。うちにスカウトしたいわ」
「職種が真逆すぎる」
あははと笑っているとビュウと突風が吹き過ぎた。あー!と叫ぶ声がして椎名が振り返ると3人の女の子が木を見上げ何かを指差している。
「どうしよう?」
「登れないよね?」
「長い棒を探す?」
視線の先を辿れば風に舞い上げられたのか3メートルほど上の枝に小さな帽子が引っ掛かっている。椎名はゆっくり近付くと声をかけた。
「あの帽子?取るの?」
「え?」
「は、はい」
「でも高くて…」
見知らぬ大人に突然声をかけられてオドオドする少女達に笑いかけると、椎名は数歩後ろに下がった。少しの助走で木の幹を蹴ると高く跳び上がる。
「「「わぁっ!」」」
パァッと目を輝かせて寄ってくる少女達に椎名は帽子を手渡した。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます!」
「凄いスゴイ!お姉さん!」
「あのね、この帽子あそこの赤ちゃんのなの」
指差す先には双子をベビーカーに乗せた母親の姿があった。会釈にお辞儀を返すとバイバイと少女達に手を振る。後藤が呆れ顔で木を見上げていた。
「いや、あの助走では普通届かんだろ…」
「えー?後藤隊長の厳しい指導のお陰じゃないですかー」
「お前は入隊して来た時から規格外だったろ」
杏寿郎の教えを思い出しながら自己流鍛錬を積んだ結果、椎名は呼吸が使えるようになっていた。と言っても基礎の基礎だけで全集中できる訳でも炎が出る訳でもないが、現代では十分過ぎるほどだ。
「で、どうする?定食屋への案内が無くなっちまったけど」
「そうですねぇ…あ、ちょっと待ってて下さい」
椎名はちょうど歩いて来た二人組の女生徒に声をかけた。蝶の髪飾りをつけた品も人も良さそうな生徒がわざわざメモを書いてくれている。
「ありがとう」
「いいえ、どう致しまして」
手を振り別れると椎名は歩き出した。後ろをついてくる後藤が感心した顔でメモを覗き込む。
「綺麗な子は字まで綺麗だなー」
「もう発想がただのおっさんですよ後藤さん」
店の看板を目認すると椎名はメモをポケットにしまった。暖簾をくぐるといらっしゃいませー!と元気な声が飛んでくる。
「二人で」
「お好きな席にどうぞっ」
先程の高校生達がご飯を食べている。どうやら今日は吊るされずに済んだらしい。カウンターに置かれた蛇の置物を一撫ですると椎名と後藤は一番隅の席についた。
「招き猫ならわかるけど蛇とは珍しいな」
「白蛇なら守り神でしょう。可愛い置物じゃないですか」
「ありがとうございますっ。うちは夫婦で蛇が大好きなんです」
そう言われもう一度カウンターの方を見ると、厨房の主人と目が合った。心なしか嬉しそうに会釈される。
「ご注文をどうぞっ」
明るい春色の髪をした店員に注文を済ませると茶を啜り、後藤がふーっと一息ついた。
「最終確認だけど、本当に行くんだな?」
「その最終確認3回目ですよ。他に適任者を探して来てくれても良いですけど、出発は明後日でーす」
「そうなんだよなぁー、やっぱ最短任期が10年ってのがなぁー」
後藤はテーブルに突っ伏した。今回椎名が受けたのは海外任務。10年で帰ってこられれば良い方で、もしかしたら帰ってこられない可能性の方が高いぐらいだ。
「お前、紫に行く話もあったじゃん。なんで断っちゃうんだよー」
「うちの隊のエースはお前だって言っておいてそれは酷くないですか?」
「エースなら海外任務受けんなよー」
支離滅裂である。椎名は笑いながらお茶を一口飲んだ。
「逃げないように監視するのも楽じゃないですね?後藤さん」
任務を受けたは良いが途中で嫌になって逃げ出す隊員と言うのは一定数いる。特に今回は海外での長期任務な上に可能ならその国の王族を誑し込んで、更に可能なら愛人関係になった上で、更に更に王族しか知らない機密を盗めと言う人権が裸足で逃げ出すような任務なのだ。
「お前が現場でペロッと命令無視する不良隊員だからだろ?」
「まぁ、否定はしませんが」
それでも目の前で助けられる命があれば助けたいと思ってしまうのは、あの時胸に宿った炎が叫ぶからだ。
「…お前には不向きな任務だと思うけど」
「それならそれで、10年真面目に歴史館職員をやって来ますよ」
「王家主催で歴史的文化遺産の研究、保護、管理とか眠くなるわ」
「後藤さんには無理ですよねー」
「お前いくつになったっけ?」
ふと後藤が真面目な顔で聞いて来た。うーんと、と首を傾げつつ答える。
「23ですね」
「精神年齢俺より上過ぎんだろ」
背筋をピッと伸ばし、落ち着き払った椎名は確かに年相応には見えない謎の落ち着きがある。所作が綺麗なので童顔に見られやすい日本人でも愛人コースでいけてしまいそうだ。
「お待たせしましたーっ」
「うおっ!?スゲー美味そう」
店員の持って来た定食の盛りに後藤が嬉しい悲鳴をあげる。椎名は小盛りにしておいて正解だったなと胸を撫で下ろした。店員がモジモジと恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「お客様がいるのに申し訳ないんですけど、賄いを食べても良いですか?」
「勿論どうぞ。店に入る時間が遅かったからですね。すいません」
「いいえっ、ごゆっくりどうぞ!」
ペコリと頭を下げると嬉々としてカウンターに戻り特盛の賄いを受け取っている店員を後藤は二度見ならぬ三度見した。
「すっ、げー…」
「後藤さん、あまり見るのは失礼ですよ」
私達もいただきましょうと手を合わせる。初めて食べる店の味なのに、何故か懐かしく優しい味がした。
「ありがとうございましたーっ」
うっぷと苦しそうに店を出る後藤にどこか休める場所を探そうと椎名は歩き出した。道路の向こうを男子生徒が二人、パトカーに追走されつつ凄い勢いで走っていく。翻る金と赤の髪に椎名は目を奪われたが、後ろの後藤はパトカーに驚いて足を止めていた。
『今日という今日は止まれクソ餓鬼どもがぁ!!』
『ちょ…先輩っ!』
顔に傷跡のある警官二人組の声がスピーカーから聞こえる。
「凶悪犯もかくやって奴だったなー。それともパトカーと並走できるガキの方を褒めたら良いのやら」
首を捻る後藤に笑うと椎名は先に見える公園を指差した。
「食休みしていきましょう」
「助かるーぅ」
空いていた東屋に腰掛けると爽やかな風が吹いて来る。小さな子供が駆け回る光景に目を細めているとカラン…と乾いた音が聞こえた。
「あ、あ…あらま」
近くのベンチに腰掛けているお年寄りの杖が地面に転がり落ちていた。立ち上がろうとしているが足腰が弱いのか動けずにいる。
椎名は老人の前に片膝をつき身を屈めると杖を拾った。
「どうぞ」
「ありがとうお嬢さん」
ニッコリ微笑むと東屋に戻る。何故かこの短時間で後藤が不機嫌になっていた。
「お前、なに急にスッキリした顔してんの?」
「突然のご機嫌斜めに戸惑うばかりですが、そんな顔をしてますか?」
椎名は自分の顔を触ってみた。とは言え自覚が無いので首を傾げるしか無い。後藤は苛々と髪を掻きむしった。
「あー、もー!なんだかんだでちょーっとだけ迷ってたじゃん!お前は入隊して来た時からなんか色々諦めがちっていうか達観してるっていうか…とにかく自分に出来ることはなんでもしますよ的な自己犠牲の強い奴だったけど、今回のは程度を超えてんだわ!こういう仕事は適正テストをクリアした奴とか実績のある奴に任せときゃ良いのにさーぁ!」
バンバンとテーブルを叩きだした後藤を慌てて止めるが、ヒートアップ中の後藤は止まりそうに無い。
「今日の最後の休暇だって本当はお前を日本に繋ぎ止める楔になりゃ良いと期待してたのに!」
「それでわざわざ後藤さんが護衛をかって出て下さったんですか」
部隊長が何故一介の隊員の護衛任務などについたのか理由がわかって椎名は苦笑した。
「こんなの諜報部の連中にぶん投げれば済む話なんだぞ?な?今からでも承諾取り消しの手続き取ろうぜ!」
「………私は…」
椎名はテーブルの上の両手を握りしめた。
《任務に行く》 / 《やっぱり行きたくない》