その後のお話
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「椎名……」
「は、ぃ」
話し合いってなんだっけ?紗雪は沸騰した頭で考えた。
蝶屋敷での慰労会の翌日、昼過ぎに煉獄家に戻った紗雪は『今夜話をしよう』と煉獄に告げられた通り夕飯の後に煉獄の自室を訪ねた。初めは対面して話していた筈なのに気付けば紗雪は後ろを文机に、前を煉獄に挟まれ身動きの取れない状況に陥っていた。ならば横に逃げるかと視線を走らせたが紗雪を囲うように文机に煉獄の腕が置かれていて時すでに遅しだ。
「俺の気持ちは写真撮影の時に伝えた通りだが、あの時はどさくさに紛れた形になってしまったからな。改めて言わせてくれ。君が好きだ。愛している」
「……っ」
顔が燃えそうに熱い。赤くなっているだろう顔を見られるのが恥ずかしくて紗雪は俯いたが、それでも煉獄の強い視線が容赦なく突き刺さってくる。俯いたせいで近くなった煉獄の着物から白檀の香りがして紗雪は慌てて体を後ろに逸らした。
「あの、ちか……」
「逃げないでくれ」
近いから少し離れて欲しい。たったそれだけの願いはますます詰め寄って来た煉獄に届く前に木っ端微塵となった。俯くだけの距離もなくなり紗雪が視線を彷徨わせる。煉獄の熱っぽい視線を見ることが出来ない。
「君と初めて会った時はただただ強い娘だと思った。自らの芯を持ち寄る辺無いこの時代でも腐ることなく自分の出来ることを成そうとする心の強い娘だと」
「…………」
初めて聞く自分への評価に紗雪は照れも忘れて顔を上げた。目の合った煉獄が嬉しそうに目を細めると指の背で紗雪の頬を撫でる。ピシリと固まった紗雪は、しかしもう一度顔を背けることも出来ず赤い顔のまま煉獄を見つめ返した。
「だが、君は強いだけの娘では無かった。その心に痛みや悲しみを抱えそれでも前を向き、そしてそれ故に優しさを持っていた」
「そ、れは……過剰な評価のような、気が……」
あんまり評価されると後から幻滅されそうで怖い。紗雪は眉を下げたが煉獄に取り下げる様子はさらさら無さそうだ。
「蝶屋敷の者が揃って君を好いているのが何よりの証拠だ。あそこは胡蝶を筆頭に人物の評定が厳しいからな」
幼い少女もいる女ばかりの所体では然もありなんと思う。煉獄がスリ……と紗雪の髪に頬擦りをした。顔が隠せたのは有難いが、煉獄の胸元に顔を寄せる形になって紗雪がますます固まる。
「思えば初めから惹かれていたのだと思う。甘露寺が恋の呼吸を生み出した後、俺は継子をとるのをやめていた。炎の呼吸が途絶えてしまうのは不甲斐ないが、新たな呼吸が生まれるのならば古い呼吸が廃れることもあるだろうと半ば諦めていたんだ。だが」
煉獄は紗雪の髪をそっと撫でると首に手を回し軽く抱き寄せた。上質な着物地が頬に当たり白檀だけではない香りが紗雪の鼻腔を満たす。
「お館様が君の身の振り方を案じられた時に、このまま目の届かぬ所にはやりたくないと思った。君の軍人としての技術は隊士に向いていると、あの時は本心思っていたつもりだったが本当はどうだったのだろうな」
ふ……と自嘲気味なため息が聞こえて紗雪はグリグリと額を煉獄の鎖骨に擦り付けた。余りの勢いに煉獄が抱き寄せていた手を離すと紗雪の真っ直ぐな視線が向けられた。
「師範は心底私を心配してくれてましたよ。そうでなければ私は師範のあの時の提案にすぐ頷いたりしていません」
あの時、軍人としての紗雪の能力を煉獄が買ってくれたから今ここにいられる。提案して来た当人にそこから覆されるのは納得がいかない。抗議の意思すら感じる紗雪の強い視線に煉獄はすまないと素直に謝った。
「君の決断を軽んじたわけではないが軽率だった」
「なら良いです。ちなみに隊士になったのもこの時代に残ったのも私の意思ですからね」
遡って懺悔でも始めそうな煉獄に紗雪は釘を刺した。煉獄が紗雪の額に顎を擦り付ける。
「あぁ。君は自らの強い意志でこちらに残ってくれた。俺がどれほど嬉しかったか。それまでは仮宿でもいい。君の落ち着ける場所に煉獄家がなればと思っていたが……あの頃からだ、ここが君の心安らげる場所であって欲しい。ここに帰ってくるのを当然だと思って欲しいと、願うようになったのは」
「……ここが帰る場所だと、ずっと思ってます。師範がいて、千寿郎さんが、愼寿郎さんもいるここが」
煉獄家の皆に向かって遺書を書こうと思えるほど、ここは紗雪にとって『家』だったのだ。
「あぁ、ここにいてくれ。煉獄家に……俺のそばに」
再び肩を抱き寄せられて煉獄の胸に頭を預けた紗雪は、やはり額をグリグリと擦り付けた。煉獄の想いは凄く嬉しいが、気恥ずかしくて上手く言葉にできない。
「話し合いって……言いますか?これ」
「ちゃんと言葉を使っているだろう?」
なんか違う気がする……とも言えず、紗雪はただ黙って煉獄の着物の袖を握った。
「は、ぃ」
話し合いってなんだっけ?紗雪は沸騰した頭で考えた。
蝶屋敷での慰労会の翌日、昼過ぎに煉獄家に戻った紗雪は『今夜話をしよう』と煉獄に告げられた通り夕飯の後に煉獄の自室を訪ねた。初めは対面して話していた筈なのに気付けば紗雪は後ろを文机に、前を煉獄に挟まれ身動きの取れない状況に陥っていた。ならば横に逃げるかと視線を走らせたが紗雪を囲うように文机に煉獄の腕が置かれていて時すでに遅しだ。
「俺の気持ちは写真撮影の時に伝えた通りだが、あの時はどさくさに紛れた形になってしまったからな。改めて言わせてくれ。君が好きだ。愛している」
「……っ」
顔が燃えそうに熱い。赤くなっているだろう顔を見られるのが恥ずかしくて紗雪は俯いたが、それでも煉獄の強い視線が容赦なく突き刺さってくる。俯いたせいで近くなった煉獄の着物から白檀の香りがして紗雪は慌てて体を後ろに逸らした。
「あの、ちか……」
「逃げないでくれ」
近いから少し離れて欲しい。たったそれだけの願いはますます詰め寄って来た煉獄に届く前に木っ端微塵となった。俯くだけの距離もなくなり紗雪が視線を彷徨わせる。煉獄の熱っぽい視線を見ることが出来ない。
「君と初めて会った時はただただ強い娘だと思った。自らの芯を持ち寄る辺無いこの時代でも腐ることなく自分の出来ることを成そうとする心の強い娘だと」
「…………」
初めて聞く自分への評価に紗雪は照れも忘れて顔を上げた。目の合った煉獄が嬉しそうに目を細めると指の背で紗雪の頬を撫でる。ピシリと固まった紗雪は、しかしもう一度顔を背けることも出来ず赤い顔のまま煉獄を見つめ返した。
「だが、君は強いだけの娘では無かった。その心に痛みや悲しみを抱えそれでも前を向き、そしてそれ故に優しさを持っていた」
「そ、れは……過剰な評価のような、気が……」
あんまり評価されると後から幻滅されそうで怖い。紗雪は眉を下げたが煉獄に取り下げる様子はさらさら無さそうだ。
「蝶屋敷の者が揃って君を好いているのが何よりの証拠だ。あそこは胡蝶を筆頭に人物の評定が厳しいからな」
幼い少女もいる女ばかりの所体では然もありなんと思う。煉獄がスリ……と紗雪の髪に頬擦りをした。顔が隠せたのは有難いが、煉獄の胸元に顔を寄せる形になって紗雪がますます固まる。
「思えば初めから惹かれていたのだと思う。甘露寺が恋の呼吸を生み出した後、俺は継子をとるのをやめていた。炎の呼吸が途絶えてしまうのは不甲斐ないが、新たな呼吸が生まれるのならば古い呼吸が廃れることもあるだろうと半ば諦めていたんだ。だが」
煉獄は紗雪の髪をそっと撫でると首に手を回し軽く抱き寄せた。上質な着物地が頬に当たり白檀だけではない香りが紗雪の鼻腔を満たす。
「お館様が君の身の振り方を案じられた時に、このまま目の届かぬ所にはやりたくないと思った。君の軍人としての技術は隊士に向いていると、あの時は本心思っていたつもりだったが本当はどうだったのだろうな」
ふ……と自嘲気味なため息が聞こえて紗雪はグリグリと額を煉獄の鎖骨に擦り付けた。余りの勢いに煉獄が抱き寄せていた手を離すと紗雪の真っ直ぐな視線が向けられた。
「師範は心底私を心配してくれてましたよ。そうでなければ私は師範のあの時の提案にすぐ頷いたりしていません」
あの時、軍人としての紗雪の能力を煉獄が買ってくれたから今ここにいられる。提案して来た当人にそこから覆されるのは納得がいかない。抗議の意思すら感じる紗雪の強い視線に煉獄はすまないと素直に謝った。
「君の決断を軽んじたわけではないが軽率だった」
「なら良いです。ちなみに隊士になったのもこの時代に残ったのも私の意思ですからね」
遡って懺悔でも始めそうな煉獄に紗雪は釘を刺した。煉獄が紗雪の額に顎を擦り付ける。
「あぁ。君は自らの強い意志でこちらに残ってくれた。俺がどれほど嬉しかったか。それまでは仮宿でもいい。君の落ち着ける場所に煉獄家がなればと思っていたが……あの頃からだ、ここが君の心安らげる場所であって欲しい。ここに帰ってくるのを当然だと思って欲しいと、願うようになったのは」
「……ここが帰る場所だと、ずっと思ってます。師範がいて、千寿郎さんが、愼寿郎さんもいるここが」
煉獄家の皆に向かって遺書を書こうと思えるほど、ここは紗雪にとって『家』だったのだ。
「あぁ、ここにいてくれ。煉獄家に……俺のそばに」
再び肩を抱き寄せられて煉獄の胸に頭を預けた紗雪は、やはり額をグリグリと擦り付けた。煉獄の想いは凄く嬉しいが、気恥ずかしくて上手く言葉にできない。
「話し合いって……言いますか?これ」
「ちゃんと言葉を使っているだろう?」
なんか違う気がする……とも言えず、紗雪はただ黙って煉獄の着物の袖を握った。