本編
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(腕の角度、呼吸、剣の振り)
(呼吸、剣の振り)
(呼吸)
木刀を握り技を出すまでの間隔を徐々に狭めていく。紗雪が壱ノ型の鍛錬を始めて6日が経とうとしていた。
「…っ!」
姿勢が崩れると炎が弱々しく揺らぐ。紗雪は木刀を下ろすと汗を拭った。
(師範のアドバイスが欲しい…)
そう思ってはみるが煉獄は3日前から任務に行っていてまだ帰ってくる知らせは来ていない。紗雪は木刀を握り直した。
(反射的に技が出せるように…考えずともこの呼吸を…)
そうは思うがなかなか上手くいかない。軍にいた時は反射を鍛えるための模擬訓練があったがここでは相手がいない。
(刀を握りすぐっ!)
ゴォッと炎が翻る。手本のような壱ノ型だったが、何か違うと紗雪は頭を抱えた。
(こんな壱ノ型を出すぞと思いながら振ってる刀に何か意味ある!?)
相手の攻撃を交わしながら戦略を立て打ち負かさなければならない時に、初めから戦略ありきで相手の特性を無視するわけにはいかない。
(うぅ〜ん…)
紗雪はしゃがみ込むと丸くなってしまった。
「何をやっとるんだあの娘は」
愼寿郎は廊下から紗雪の様子を見ていた。刀を振っては頭を抱え、立ち上がってはまた振って丸くなる。
(まぁ分からんことはないが)
紗雪が今感じている葛藤は刀での実戦を知らないものなら誰でも通る道だ。
(俺には関係ないがな)
愼寿郎は紗雪に背を向けると自室へと戻って行った。
「どうした紗雪!反応が遅れているぞ!!」
「…っ!」
2日後、帰ってきて早々の煉獄との手合わせに紗雪は一方的に打ち込まれていた。壱ノ型について考えすぎて体が思うように動かない。
(このっ)
煉獄の木刀の勢いを下へと受け流すとギュッと刀を握りなおす。
「遅い!考えながら技を出すな!!」
「あっ!」
下からの掬うような一撃に木刀を弾かれ、紗雪は手を上げた。
「参りました…」
「うむ!技を出すまでの速さがかなり短くなったな!だがまだ考えてから技を出しているぞ!!」
「やっぱりそうですよね」
紗雪は木刀を拾うと正眼に構えた。隙のない綺麗な構えだがそれだけとも言える。行き詰まっている様子の紗雪に煉獄が木刀を取り上げた。
「師範?」
「君は軍人だったな!徒手空拳で戦うこともあるとか!たまには目先を変えてみよう!!」
そう言うと自分の木刀も手放し構える。紗雪は緩く拳を握ると僅かに腰を落とした。
「来い!紗雪!!」
「ふっ!」
鋭く息を吐くと煉獄の喉を目掛けて掌底を突き出す。腕で弾かれた勢いそのままに紗雪の低い蹴りが足元を狙う。
体を引いて避けた煉獄の前で紗雪の体がくるりと周り、後ろ回し蹴りがこめかみに飛んできた。
「!」
腕でガードし蹴りを弾いた煉獄が紗雪の襟を掴んだ。
「ぐっ!」
しかし鈍い痛みに呻いたのは煉獄の方だった。見えない位置からの紗雪の拳が煉獄の脇腹にクリーンヒットしていた。ギュルン!と紗雪が体を捻り襟を掴んでいた煉獄の腕から自由になる。紗雪が慌てて距離を取ると、煉獄の手刀が頬をかすった。
「師範は近接戦闘術をご存知なんですか」
「いや!全ては剣術と同じだ!!刀は自分の手足だし、手足も刀たり得る!」
(なんて豪快な理論!!)
自信満々に言い切られ紗雪はちょっぴり感動してしまった。剣道や柔道の選手が泣いて怒りそうな理屈だ。煉獄が構えを解くのに倣い紗雪も手を下ろした。
「刀の切先まで神経を通わせるんだ。刀は君の手足の延長だ」
「はい、ありがとうございます師範」
「兄上、風呂の支度が整いました」
千寿郎がひょっこり顔を覗かせるとそう言った。煉獄が千寿郎に礼を言う。
「ありがとう千寿郎!紗雪!すまないが俺は風呂に入って少し仮眠を取る!!」
「はい師範。お休みなさい」
紗雪は煉獄を見送ると木刀を構えた。
(手足の延長…)
特殊部隊の教官の言葉を紗雪は懐かしく思い出していた。
『ナイフを構えーっ!お前達にはこいつで走る俺の髭あたれるぐらい器用になって貰うぞ!!ナイフをお前達の指同然にしろ!』
当時はそんな無茶なと思いもしたが、人間やれば出来るものである。風が吹いて舞った落ち葉に紗雪が木刀を振るった。
(一、ニ、三、四、五…)
炎の軌跡を描きながら紗雪が落ち葉を切っていく。
(二八、二九、三十、三一…)
不思議な程息が乱れない。無心で木刀を振り続けていると、右下から脇に向け鋭い影が走った。
「っ!!」
反射的に体を捻ると上から打ち込む。紗雪の壱ノ型は木刀を吹き飛ばしていた。
「……やれば出来るではないか」
愼寿郎が酒瓶を片手に立っていた。目を丸くする紗雪にフイと背を向ける。
「何より大事なのは呼吸だ。型は多少崩れても応用が効く」
「…ありがとうございます」
紗雪の礼に愼寿郎はうんざりと言った。
「一日一回しじみ汁を出すのは止めろ」
「わかりました。では次は酒瓶に麦茶を入れておきますね」
「お前は俺を何だと思ってるんだ!?」
「ん?」
揶揄いがいのある相手だと思っている。紗雪がとぼけると愼寿郎はため息をついて行ってしまった。紗雪が木刀を握った自分の手を見つめる。
(出来た。今の感覚。やっと掴んだ)
思わず顔がにやける。忘れないうちにと紗雪は鍛錬へと戻った。
「あの娘、壱ノ型を掴んだな」
風呂から上がった煉獄に離れた廊下から愼寿郎が声をかけた。思いもよらない言葉に煉獄が驚く。
「おはようございます父上!紗雪に御助言頂けたのですね!!ありがとうございます!」
「あまり基礎の型ばかりやらせるな。偏るぞ」
立ち去ろうとする愼寿郎の言葉に煉獄は何とも言えない気分を抱いた。言葉が口をついて出る。
「紗雪は俺の継子です。御助言頂けるのは有り難いですが、そう言ったものは俺に言っていただけますか」
「……」
頭を下げると父親の横を通り過ぎる。その背中を見送ると愼寿郎は呆れたように呟いた。
「お前の中であの娘はどう言う立ち位置なんだ」
変な所で息子の成長を感じた愼寿郎だった。
(呼吸、剣の振り)
(呼吸)
木刀を握り技を出すまでの間隔を徐々に狭めていく。紗雪が壱ノ型の鍛錬を始めて6日が経とうとしていた。
「…っ!」
姿勢が崩れると炎が弱々しく揺らぐ。紗雪は木刀を下ろすと汗を拭った。
(師範のアドバイスが欲しい…)
そう思ってはみるが煉獄は3日前から任務に行っていてまだ帰ってくる知らせは来ていない。紗雪は木刀を握り直した。
(反射的に技が出せるように…考えずともこの呼吸を…)
そうは思うがなかなか上手くいかない。軍にいた時は反射を鍛えるための模擬訓練があったがここでは相手がいない。
(刀を握りすぐっ!)
ゴォッと炎が翻る。手本のような壱ノ型だったが、何か違うと紗雪は頭を抱えた。
(こんな壱ノ型を出すぞと思いながら振ってる刀に何か意味ある!?)
相手の攻撃を交わしながら戦略を立て打ち負かさなければならない時に、初めから戦略ありきで相手の特性を無視するわけにはいかない。
(うぅ〜ん…)
紗雪はしゃがみ込むと丸くなってしまった。
「何をやっとるんだあの娘は」
愼寿郎は廊下から紗雪の様子を見ていた。刀を振っては頭を抱え、立ち上がってはまた振って丸くなる。
(まぁ分からんことはないが)
紗雪が今感じている葛藤は刀での実戦を知らないものなら誰でも通る道だ。
(俺には関係ないがな)
愼寿郎は紗雪に背を向けると自室へと戻って行った。
「どうした紗雪!反応が遅れているぞ!!」
「…っ!」
2日後、帰ってきて早々の煉獄との手合わせに紗雪は一方的に打ち込まれていた。壱ノ型について考えすぎて体が思うように動かない。
(このっ)
煉獄の木刀の勢いを下へと受け流すとギュッと刀を握りなおす。
「遅い!考えながら技を出すな!!」
「あっ!」
下からの掬うような一撃に木刀を弾かれ、紗雪は手を上げた。
「参りました…」
「うむ!技を出すまでの速さがかなり短くなったな!だがまだ考えてから技を出しているぞ!!」
「やっぱりそうですよね」
紗雪は木刀を拾うと正眼に構えた。隙のない綺麗な構えだがそれだけとも言える。行き詰まっている様子の紗雪に煉獄が木刀を取り上げた。
「師範?」
「君は軍人だったな!徒手空拳で戦うこともあるとか!たまには目先を変えてみよう!!」
そう言うと自分の木刀も手放し構える。紗雪は緩く拳を握ると僅かに腰を落とした。
「来い!紗雪!!」
「ふっ!」
鋭く息を吐くと煉獄の喉を目掛けて掌底を突き出す。腕で弾かれた勢いそのままに紗雪の低い蹴りが足元を狙う。
体を引いて避けた煉獄の前で紗雪の体がくるりと周り、後ろ回し蹴りがこめかみに飛んできた。
「!」
腕でガードし蹴りを弾いた煉獄が紗雪の襟を掴んだ。
「ぐっ!」
しかし鈍い痛みに呻いたのは煉獄の方だった。見えない位置からの紗雪の拳が煉獄の脇腹にクリーンヒットしていた。ギュルン!と紗雪が体を捻り襟を掴んでいた煉獄の腕から自由になる。紗雪が慌てて距離を取ると、煉獄の手刀が頬をかすった。
「師範は近接戦闘術をご存知なんですか」
「いや!全ては剣術と同じだ!!刀は自分の手足だし、手足も刀たり得る!」
(なんて豪快な理論!!)
自信満々に言い切られ紗雪はちょっぴり感動してしまった。剣道や柔道の選手が泣いて怒りそうな理屈だ。煉獄が構えを解くのに倣い紗雪も手を下ろした。
「刀の切先まで神経を通わせるんだ。刀は君の手足の延長だ」
「はい、ありがとうございます師範」
「兄上、風呂の支度が整いました」
千寿郎がひょっこり顔を覗かせるとそう言った。煉獄が千寿郎に礼を言う。
「ありがとう千寿郎!紗雪!すまないが俺は風呂に入って少し仮眠を取る!!」
「はい師範。お休みなさい」
紗雪は煉獄を見送ると木刀を構えた。
(手足の延長…)
特殊部隊の教官の言葉を紗雪は懐かしく思い出していた。
『ナイフを構えーっ!お前達にはこいつで走る俺の髭あたれるぐらい器用になって貰うぞ!!ナイフをお前達の指同然にしろ!』
当時はそんな無茶なと思いもしたが、人間やれば出来るものである。風が吹いて舞った落ち葉に紗雪が木刀を振るった。
(一、ニ、三、四、五…)
炎の軌跡を描きながら紗雪が落ち葉を切っていく。
(二八、二九、三十、三一…)
不思議な程息が乱れない。無心で木刀を振り続けていると、右下から脇に向け鋭い影が走った。
「っ!!」
反射的に体を捻ると上から打ち込む。紗雪の壱ノ型は木刀を吹き飛ばしていた。
「……やれば出来るではないか」
愼寿郎が酒瓶を片手に立っていた。目を丸くする紗雪にフイと背を向ける。
「何より大事なのは呼吸だ。型は多少崩れても応用が効く」
「…ありがとうございます」
紗雪の礼に愼寿郎はうんざりと言った。
「一日一回しじみ汁を出すのは止めろ」
「わかりました。では次は酒瓶に麦茶を入れておきますね」
「お前は俺を何だと思ってるんだ!?」
「ん?」
揶揄いがいのある相手だと思っている。紗雪がとぼけると愼寿郎はため息をついて行ってしまった。紗雪が木刀を握った自分の手を見つめる。
(出来た。今の感覚。やっと掴んだ)
思わず顔がにやける。忘れないうちにと紗雪は鍛錬へと戻った。
「あの娘、壱ノ型を掴んだな」
風呂から上がった煉獄に離れた廊下から愼寿郎が声をかけた。思いもよらない言葉に煉獄が驚く。
「おはようございます父上!紗雪に御助言頂けたのですね!!ありがとうございます!」
「あまり基礎の型ばかりやらせるな。偏るぞ」
立ち去ろうとする愼寿郎の言葉に煉獄は何とも言えない気分を抱いた。言葉が口をついて出る。
「紗雪は俺の継子です。御助言頂けるのは有り難いですが、そう言ったものは俺に言っていただけますか」
「……」
頭を下げると父親の横を通り過ぎる。その背中を見送ると愼寿郎は呆れたように呟いた。
「お前の中であの娘はどう言う立ち位置なんだ」
変な所で息子の成長を感じた愼寿郎だった。