本編
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その日、千寿郎は朝から大量の茶菓子を作っていた。桶に山盛りになって行く菓子に紗雪が恐る恐る尋ねる。
「あの…千寿郎さん?何か嫌なことでもありました?」
千寿郎なりのストレス発散なのかと紗雪は心配した。もしかすると自分で気づかないうちに何かやらかしたか。しかしそんな紗雪の心配は杞憂だったようで、千寿郎は明るく笑うと答えた。
「今日は蜜璃さんがお見えになるので支度をしているのです。蜜璃さんはたくさん召し上がりますから」
「…沢山?」
「はい、沢山」
にこやかに言い切られ紗雪は沈黙した。この量を沢山の一言で済ませてしまえる千寿郎が怖い。
「おはようございまーす!煉獄さんいらっしゃいますかー!!」
「いらっしゃいましたね。紗雪さん、蜜璃さんを庭の縁側にお通しして下さい。僕は兄上を呼んで参ります」
「わかりました」
紗雪は玄関に甘露寺を迎えに行った。ピンクから毛先にかけて黄緑の髪色が大変目に忙しい少女だ。甘露寺は出迎えに来た紗雪にキャッとはしゃいだ声を出した。
「椎名ちゃん本当に煉獄さんの継子になったのね!嬉しいわ!私は煉獄さんの炎の呼吸は継げなかったから!」
「そう言えば甘露寺さんは師範の継子だったって」
「私の事は蜜璃って呼んでね!そうなの!あ、これお土産!皆んなで頂きましょ!」
「ありがとうございます」
底抜けに明るい甘露寺に紗雪は笑顔を返した。煉獄とは違う形で人を元気にする人だ。甘露寺を庭に通すと既に煉獄が待っていた。
「来たか!甘露寺!!」
「お久しぶりです煉獄さん!」
「蜜璃さんからお土産をいただきました」
「うむ!皆んなで食べよう」
甘露寺のお土産に更に千寿郎が作った菓子も広げてお茶を飲む。甘露寺の近況を聞きながら紗雪は目を泳がせた。尋常では無い数の菓子が甘露寺の口の中に消えて行く。千寿郎と目が合えば苦笑が返ってきたので、これが甘露寺の普通なのだと紗雪は察した。
「甘露寺!久しぶりに手合わせをしよう!!」
「はい!煉獄さん!!」
煉獄は木刀を手にすると甘露寺と向かい合った。
「紗雪は見取り稽古だ!炎の呼吸の技をまだ見せたことがなかったろう!!よく見ておけ!」
「はい、わかりました」
紗雪は手にしていたお茶を脇に置くと背筋を正し両手を膝に置いた。見るのは得意だ。
(見る…視る……煉獄さんを『観察する 』)
「………」
雰囲気の変わった紗雪に千寿郎は息を飲んだ。痛いほどの集中に飲み込まれてしまいそうだ。
「来い!甘露寺!!」
「行きます!!」
掛け声と共に甘露寺が飛び込んだ。激しく打ち合うと煉獄に押され甘露寺が下がる。煉獄が素早く踏み込み木刀を横薙ぎに払った。
ーー炎の呼吸 壱ノ型 不知火ーー
ーー恋の呼吸 陸ノ型 猫足恋風ーー
「わっ」
技同士がぶつかり合い砂塵が巻き上がる。千寿郎は目を閉じ顔を庇ったが、紗雪は微動だにしなかった。
「技の切れが上がったな!」
「ありがとうございます!!」
それからもしばらく打ち合いが続いたが、最後は甘露寺のお腹の音で打ち切りとなった。パクパクと美味しそうに残りの菓子を食べる甘露寺を煉獄と千寿郎が笑いながら見守る。
(ーー視た。次は再現)
「?紗雪さん?」
紗雪は甘露寺が置いた木刀を手に取ると構えた。千寿郎の問いかけに反応しない紗雪を煉獄と甘露寺も見る。
(腕の角度、足の向き、小指、薬指、中指に力を込めて…)
ゆっくりゆっくりと目に焼きついた煉獄の動きを再現して行く。
(呼吸、喉の動き、視線はまっすぐに…水平に薙ぐ)
ヒュッと振られた木刀の軌跡に沿って小さな炎が生まれた。
「!?」
「!」
驚いて木刀を取り落とした紗雪に甘露寺が抱きついた。
「きゃあ!凄いわ!!凄いわ椎名ちゃん!!今日初めてなのよね!?なのに…なのに!!」
「えっ!?な、何ですか今のエフェクト!?って言うか刀から炎が出るのって師範の特殊仕様とかじゃ無かったんですか!!?」
「君の中で俺はどうなってるんだ!?」
特殊仕様とか人間に使っていい言葉では無い。煉獄は木刀を拾うと紗雪に握らせた。
「もう一度やってみろ。今のようにゆっくりで良い。刀を振る時の呼吸をもっと深くするんだ」
「はい」
もう一度同じ手順を繰り返す。先程よりはっきり見える炎に煉獄は心が震えた。
(紗雪を継子にしたのは間違いでは無かった)
「今日からはこれを繰り返すんだ。徐々に速度を上げて体に型を叩き込め。反射だけで技が出せるまで」
「はい」
紗雪に指導する煉獄の横顔に甘露寺は涙ぐんだ。
(良かった…本当に良かった!私が継子を辞めた時も煉獄さん、お祝いはしてくれたけどやっぱり寂しそうだったもの!!)
甘露寺の存在を忘れたかのように紗雪に熱心に指示を出す煉獄に、甘露寺は涙を拭くと千寿郎を振り向いた。
「私行くねっ。煉獄さんに宜しく言っておいて!」
「せっかく来ていただいたのにすいません蜜璃さん」
「ううん!とっても素敵なものが見られたわ!!」
甘露寺が帰った後も長く煉獄と紗雪の鍛錬は続いた。
「…私、観察するのが…特技なんです」
鍛錬のしすぎで動けなくなった紗雪は縁側に仰向けに寝転んでいた。だらしないとは思うがもう腕を上げるのも辛い。
(技を出すのって全集中の常中の何倍も辛い…)
呼吸法を間違えたら息が止まるかと思うほど苦しくなる。
「兄上、お水です」
「ありがとう千寿郎。紗雪、ほら水だ」
脱水を心配して煉獄は紗雪を抱え起すと湯呑みを口に持っていき水を飲ませた。自分の片足を立てて背をもたれさせると、人心地つく紗雪に尋ねる。
「観察が特技とは?」
「つまり…相手の癖とか、行動順序とか、可動域とか…そう言ったものを観察して先読みするんです。向こうの行動の先手を取る為に」
少し息が整ってきて紗雪は自力で座ろうとし…失敗して煉獄の方へ倒れ込んだ。煉獄がしっかり紗雪の体を支える。
「いいから俺にもたれていろ」
「すいません…それで、私はそれが部隊の他のみんなより速く正確に出来たんです」
「それは鬼の討伐にも役に立ちそうだな」
夕暮れが近づき千寿郎が腰を上げた。
「夕餉の支度をしてきます」
「あ…お手伝い…」
「「いや無理だろ」ですよ」
二人に揃って切り捨てられ紗雪は返す言葉がなかった。ただ…と千寿郎が遠慮がちに切り出す。
「紗雪さんお風呂に入ることできますか?着替えも…」
「「………」」
女性の隠が急遽呼び出されることとなった。
「あの…千寿郎さん?何か嫌なことでもありました?」
千寿郎なりのストレス発散なのかと紗雪は心配した。もしかすると自分で気づかないうちに何かやらかしたか。しかしそんな紗雪の心配は杞憂だったようで、千寿郎は明るく笑うと答えた。
「今日は蜜璃さんがお見えになるので支度をしているのです。蜜璃さんはたくさん召し上がりますから」
「…沢山?」
「はい、沢山」
にこやかに言い切られ紗雪は沈黙した。この量を沢山の一言で済ませてしまえる千寿郎が怖い。
「おはようございまーす!煉獄さんいらっしゃいますかー!!」
「いらっしゃいましたね。紗雪さん、蜜璃さんを庭の縁側にお通しして下さい。僕は兄上を呼んで参ります」
「わかりました」
紗雪は玄関に甘露寺を迎えに行った。ピンクから毛先にかけて黄緑の髪色が大変目に忙しい少女だ。甘露寺は出迎えに来た紗雪にキャッとはしゃいだ声を出した。
「椎名ちゃん本当に煉獄さんの継子になったのね!嬉しいわ!私は煉獄さんの炎の呼吸は継げなかったから!」
「そう言えば甘露寺さんは師範の継子だったって」
「私の事は蜜璃って呼んでね!そうなの!あ、これお土産!皆んなで頂きましょ!」
「ありがとうございます」
底抜けに明るい甘露寺に紗雪は笑顔を返した。煉獄とは違う形で人を元気にする人だ。甘露寺を庭に通すと既に煉獄が待っていた。
「来たか!甘露寺!!」
「お久しぶりです煉獄さん!」
「蜜璃さんからお土産をいただきました」
「うむ!皆んなで食べよう」
甘露寺のお土産に更に千寿郎が作った菓子も広げてお茶を飲む。甘露寺の近況を聞きながら紗雪は目を泳がせた。尋常では無い数の菓子が甘露寺の口の中に消えて行く。千寿郎と目が合えば苦笑が返ってきたので、これが甘露寺の普通なのだと紗雪は察した。
「甘露寺!久しぶりに手合わせをしよう!!」
「はい!煉獄さん!!」
煉獄は木刀を手にすると甘露寺と向かい合った。
「紗雪は見取り稽古だ!炎の呼吸の技をまだ見せたことがなかったろう!!よく見ておけ!」
「はい、わかりました」
紗雪は手にしていたお茶を脇に置くと背筋を正し両手を膝に置いた。見るのは得意だ。
(見る…視る……煉獄さんを『
「………」
雰囲気の変わった紗雪に千寿郎は息を飲んだ。痛いほどの集中に飲み込まれてしまいそうだ。
「来い!甘露寺!!」
「行きます!!」
掛け声と共に甘露寺が飛び込んだ。激しく打ち合うと煉獄に押され甘露寺が下がる。煉獄が素早く踏み込み木刀を横薙ぎに払った。
ーー炎の呼吸 壱ノ型 不知火ーー
ーー恋の呼吸 陸ノ型 猫足恋風ーー
「わっ」
技同士がぶつかり合い砂塵が巻き上がる。千寿郎は目を閉じ顔を庇ったが、紗雪は微動だにしなかった。
「技の切れが上がったな!」
「ありがとうございます!!」
それからもしばらく打ち合いが続いたが、最後は甘露寺のお腹の音で打ち切りとなった。パクパクと美味しそうに残りの菓子を食べる甘露寺を煉獄と千寿郎が笑いながら見守る。
(ーー視た。次は再現)
「?紗雪さん?」
紗雪は甘露寺が置いた木刀を手に取ると構えた。千寿郎の問いかけに反応しない紗雪を煉獄と甘露寺も見る。
(腕の角度、足の向き、小指、薬指、中指に力を込めて…)
ゆっくりゆっくりと目に焼きついた煉獄の動きを再現して行く。
(呼吸、喉の動き、視線はまっすぐに…水平に薙ぐ)
ヒュッと振られた木刀の軌跡に沿って小さな炎が生まれた。
「!?」
「!」
驚いて木刀を取り落とした紗雪に甘露寺が抱きついた。
「きゃあ!凄いわ!!凄いわ椎名ちゃん!!今日初めてなのよね!?なのに…なのに!!」
「えっ!?な、何ですか今のエフェクト!?って言うか刀から炎が出るのって師範の特殊仕様とかじゃ無かったんですか!!?」
「君の中で俺はどうなってるんだ!?」
特殊仕様とか人間に使っていい言葉では無い。煉獄は木刀を拾うと紗雪に握らせた。
「もう一度やってみろ。今のようにゆっくりで良い。刀を振る時の呼吸をもっと深くするんだ」
「はい」
もう一度同じ手順を繰り返す。先程よりはっきり見える炎に煉獄は心が震えた。
(紗雪を継子にしたのは間違いでは無かった)
「今日からはこれを繰り返すんだ。徐々に速度を上げて体に型を叩き込め。反射だけで技が出せるまで」
「はい」
紗雪に指導する煉獄の横顔に甘露寺は涙ぐんだ。
(良かった…本当に良かった!私が継子を辞めた時も煉獄さん、お祝いはしてくれたけどやっぱり寂しそうだったもの!!)
甘露寺の存在を忘れたかのように紗雪に熱心に指示を出す煉獄に、甘露寺は涙を拭くと千寿郎を振り向いた。
「私行くねっ。煉獄さんに宜しく言っておいて!」
「せっかく来ていただいたのにすいません蜜璃さん」
「ううん!とっても素敵なものが見られたわ!!」
甘露寺が帰った後も長く煉獄と紗雪の鍛錬は続いた。
「…私、観察するのが…特技なんです」
鍛錬のしすぎで動けなくなった紗雪は縁側に仰向けに寝転んでいた。だらしないとは思うがもう腕を上げるのも辛い。
(技を出すのって全集中の常中の何倍も辛い…)
呼吸法を間違えたら息が止まるかと思うほど苦しくなる。
「兄上、お水です」
「ありがとう千寿郎。紗雪、ほら水だ」
脱水を心配して煉獄は紗雪を抱え起すと湯呑みを口に持っていき水を飲ませた。自分の片足を立てて背をもたれさせると、人心地つく紗雪に尋ねる。
「観察が特技とは?」
「つまり…相手の癖とか、行動順序とか、可動域とか…そう言ったものを観察して先読みするんです。向こうの行動の先手を取る為に」
少し息が整ってきて紗雪は自力で座ろうとし…失敗して煉獄の方へ倒れ込んだ。煉獄がしっかり紗雪の体を支える。
「いいから俺にもたれていろ」
「すいません…それで、私はそれが部隊の他のみんなより速く正確に出来たんです」
「それは鬼の討伐にも役に立ちそうだな」
夕暮れが近づき千寿郎が腰を上げた。
「夕餉の支度をしてきます」
「あ…お手伝い…」
「「いや無理だろ」ですよ」
二人に揃って切り捨てられ紗雪は返す言葉がなかった。ただ…と千寿郎が遠慮がちに切り出す。
「紗雪さんお風呂に入ることできますか?着替えも…」
「「………」」
女性の隠が急遽呼び出されることとなった。