「お、いたいた。杏寿郎」
　久しぶりに聞く声に名を呼ばれ煉獄は振り返った。学園とは不釣り合いな華やかな男が手を振りながら歩いてくる。煉獄がパッと笑顔になった。
「雅人！フランスから帰ってきたのか！」
「ん、大きいのが終わったから少しの間休みなんだよ」
　驚くべき事に前世の記憶を持って生まれた今世。煉獄と雅人は生まれた時からの幼馴染と言う間柄だった。高校までは一緒に過ごしていたが、在学中に本格的にモデルになるとフランスに行ってしまった雅人は今ではプロのモデルとして活躍している。
「あー…湯豆腐食べたい。刺身、焼き魚、そば、うどん」
「君はあっさりした食べ物が好きなのに向こうでは何を食べて生きているんだ！」
「スープとかサラダとか…たまに高い金払って似非日本食食べたり」
「体に悪いからやめろ！」
　相変わらず掴み所のない雅人は今世は少し甘えたな性格をしている。脳天チョップする煉獄に雅人は拗ねた顔をした。
「仕方ないだろ？向こうの食事は味濃いしクドいんだよ」
「全く！ご実家は良いのか？」
　雅人の実家は洋食レストランを営んでいる。今世も妹の方が跡を継ぐ事に積極的らしい。
　もしかすると自分はこの友人を甘やかしているのかもしれない。そう思いつつ煉獄は尋ねた。パッと明るい顔で頷く雅人の頭をワシワシとかき混ぜる。
「では今夜は俺の家に来ると良い！母上に君の分も夕飯をお願いしておく！」
「瑠火さんの料理か。楽しみだなぁ」
　途端に分かりやすくご機嫌になった雅人に煉獄は呆れた顔で笑った。
「全く君は相変わらず手のかかる男だ！」
「あ、そう言えば今日は杏寿郎の誕生日だね。プレゼント代わりの報告をしておくよ。来年ぐらいから日本を拠点に活動する予定だから宜しく」
「よもや！！そうか！それは何よりの贈り物だ！」
　満面の笑みの煉獄に雅人の口元にも笑みが浮かぶ。のんびりと笑い合いながら歩いていく二人に命をかけて戦っていた頃の悲壮さは無かった。