短編
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私こと紗雪椎名は鬼殺隊で隠に所属している。隠には様々な部署があり、足の速かった私が所属しているのは隊士様達を運ぶ運搬係だ。怪我をした方、隠し里へ向かう方、本部へ向かう方…いろいろな方をお運びしている。
そんな中私には自分だけのひっそりとした楽しみがあった。それは隊士様の独り言に返事をする事だ。とはいえ隊士様は耳栓の上目隠しをされているので返事をしても聞こえない。それに独り言に返事を返されるのはお嫌だろうと思うので、自分の中だけでわかる返事をするのだ。
肯定の返事ならば人差し指を、否定の返事ならば中指を。ほんの僅か動かす。
けれど私のこれはなかなか出番のない楽しみだった。大抵の隊士様は運ばれている間なにも仰らないことが多い。耳栓に目隠しでは話すことなど何もないのが当たり前。仕方のない事だ。
だけどこの方は違った。
「ご苦労だった!君が次の隠だな!宜しく頼む!!」
炎柱・煉獄杏寿郎様。
この方だけはいつも運ばれている最中沢山の事を話してくれる方だった。季節の移ろいから弟君の話、食べ物の話。よく内容が無くならないなと感心するほどに沢山話してくれる。
正直、人を一人…しかも私より体の大きな男性を背負って走る身としては、ただ黙々と走るより辛くなくて有難い限りだ。
「最近は空気が冷えてきたな!秋もいよいよ終わりそうだ!」
(そうですね)
人差し指を動かす。
「秋が終わるまでにもう少しサツマイモを所望したい所だな!」
(お好きなんですね)
これも人差し指。
「冬の悪路を我々を抱えて走る君たちには頭が下がる!大変だろう!!」
(そんなことありませんよ)
中指。
最近煉獄様の事に詳しくなったような気がしてちょっぴり楽しい。勿論柱という大変なお立場の方なので態度に出したり口に出したりは決してしないけれど。
(…あれ?黙っちゃった)
珍しく沈黙された煉獄様に私は顔を上げた。と言っても背負っているのでお顔は見えないけれど。
(揺れたかしら…気を付けているつもりだったけれど)
もしかしたら煉獄様のお話に夢中になっていたのかもしれない。私は気を引き締めると走ることに集中した。次の瞬間。
「君だったか!俺の独り言にいつも返事をくれるのは!」
「!?」
ぎょっとして足を止めてしまった。え?ちょっと待って。君だったか?君だったか!?もしかしてこれまでも返事を返してたのバレてる!?
「すまないが先を急いでいる!」
「あ…はい!」
煉獄様に先を促され慌てて走り出す。思いもよらない煉獄様の言葉に私の心臓は早鐘を打ったようになっていた。
(絶対、絶対失礼な奴だって思われた!)
もしかすると別の部署に移動になるかもしれない。泣きそうになっていると煉獄様が口を開いた。
「すまん!驚かせるつもりではなかった!!だが運ばれている間というのはなかなか退屈な時間でな!独り言に返事をくれる君は貴重な存在なのだ!」
「………」
貴重…初めて言われた言葉に先ほどとは違う意味で目頭が熱くなった。良かった…私でも煉獄様の暇つぶしになっていたのなら嬉しい。
「君さえよければまた俺を運ぶ際には独り言に返事をくれると嬉しい!!」
(勿論です!)
人差し指を動かして返事をする私に煉獄様は声を上げて笑った。
今日は隊士様をここで出迎える予定だ。大体誰を運ぶかを前もって知らされる事はないし、向かう場所も自分が走る分だけしか知らされていない。
「確かこの辺に…」
指示された場所に隊士様の姿がない。私がキョロキョロしていると一陣の風が吹いて目を開けた時には正面に煉獄様が立っていた。
「待たせてすまない!では行こう!!」
「失礼致します」
耳栓と目隠しをしようとすると屈んで下さる。目を閉じ頭を預けてくる煉獄様は失礼ながらちょっと可愛らしかった。
「では頼む!」
背中に乗ってくる煉獄様を背負うとしっかり抱える。と、急に煉獄様が背中から降りてしまった。目隠しも耳栓も取り払ってしまう。
「あの…?」
「返事を返してくれるあの隠だな!」
「へっ!?」
どうしてわかったのだろう?私が目を丸くすると煉獄様は明るく笑ってとんでもない事を仰られた。
「骨格や体つきでわかった!」
「えぇぇ!?」
我ながら失礼な反応だとは思うが見逃してほしい。だって骨格って!柱の方ってそんな事まで分かるの!?
「俺は煉獄杏寿郎だ!」
「…えぇ、存じております」
私は思わず小さく笑ってしまった。だって鬼殺隊で柱の方を知らない者なんているはずが無いのだ。煉獄様が表情を明るくされる。
「君の名前は…聞けないんだったな!」
「申し訳ございません。案内役は名乗らない決まりでございますので」
どれだけ道を変えても何度もいろいろな道を走っていればどうしても隠し里や本部の位置が何となく把握できてしまう。それを狙うものから里や本部を守るためには必要な措置だ。
私が頭を下げれば煉獄様の大きな手が私の頭の上に乗った。
「謝る必要はない!君が案内役ではない時にまた聞こう!!」
良いのだろうかそれは。ちょっと疑問が残るけれど柱の方に異を唱えるようは事はできない。
「耳栓は自分でするので、すまないがもう一度目隠しを頼めるだろうか!!」
「はいっ」
もう一度屈んで下さる煉獄様に私は目隠しを巻いた。
そうして煉獄様に認識された私は、煉獄様を運ぶたびにたくさんの話を聞いた。煉獄様は強くて、明るくて、優しくて…そしてちょっとだけ寂しい方だった。
「君が相手だとつい話すぎるな!君も俺の家族の話など退屈だろう!」
(いえいえ、そんな事ありませんよ)
中指を動かす。
「そうか!ありがとう!!」
(どういたしまして)
人差し指。
「いつか君の話も聞いてみたいものだ!」
(それは素敵ですね)
私は人差し指を動かす。
けれど、無限列車での事件を境に私が煉獄様を背負う事は無くなった。
「久しぶりだな!紗雪!!」
「煉獄様。お久しぶりでございます」
無限列車での任務で重傷を負った煉獄様は鬼殺隊士を引退されていた。けれど鬼殺隊は宿敵無惨を打ち倒し解散したのだ!事後処理を宇髄様と共に請け負った煉獄様は毎日忙しくされている。そして隊士様達を運ぶ必要のなくなった私達は、そう言った方達の後方支援に当たっていた。
と言っても特別な事はしていない。ご本人に代わって家の事をしたり、事後処理のお手伝いをしたりだ。
「お互い忙しいな!」
「煉獄様に比べれば私なんて」
解散を機に隠の格好をやめた私に煉獄様は相変わらず優しく接してくださる。煉獄様の着流し姿にもようやく慣れた。
「また俺の話を聞いてもらえるだろうか?」
引退されて煉獄様は少し言葉から力が抜けたように思う。きっと柱である事は誇りであると同時に大変な重荷だったのだろう。少し遠慮がちな煉獄様の言葉に私は大きく頷いた。
「私で良ければいくらでも」
「有り難い!そこの茶屋で構わないか?」
「はい」
並んで縁台に腰掛けるとお団子とお茶をいただく。煉獄様のお話を沢山聞きながら私は幸せだなぁなんて思った。
ふと煉獄様が私の顔を見て話をやめてしまわれる。あら?どうしたのかしら?何故か煉獄様はため息をつくと手で顔を覆ってしまわれた。
「君は…そう言うところだぞ」
「?」
何か気に触ることをしてしまっただろうか?私がオロオロしていると、煉獄様は一つ頷き背筋を伸ばされた。
「紗雪!」
「はい!」
私もつられて背中を伸ばす。煉獄様が大変良い笑顔で口を開かれた。
「君と祝言をあげたいと思うのだが良いだろうか!?」
「!?」
私は…私は言葉が出て来なくって人差し指で煉獄様にお返事するのが精一杯だった。
そんな中私には自分だけのひっそりとした楽しみがあった。それは隊士様の独り言に返事をする事だ。とはいえ隊士様は耳栓の上目隠しをされているので返事をしても聞こえない。それに独り言に返事を返されるのはお嫌だろうと思うので、自分の中だけでわかる返事をするのだ。
肯定の返事ならば人差し指を、否定の返事ならば中指を。ほんの僅か動かす。
けれど私のこれはなかなか出番のない楽しみだった。大抵の隊士様は運ばれている間なにも仰らないことが多い。耳栓に目隠しでは話すことなど何もないのが当たり前。仕方のない事だ。
だけどこの方は違った。
「ご苦労だった!君が次の隠だな!宜しく頼む!!」
炎柱・煉獄杏寿郎様。
この方だけはいつも運ばれている最中沢山の事を話してくれる方だった。季節の移ろいから弟君の話、食べ物の話。よく内容が無くならないなと感心するほどに沢山話してくれる。
正直、人を一人…しかも私より体の大きな男性を背負って走る身としては、ただ黙々と走るより辛くなくて有難い限りだ。
「最近は空気が冷えてきたな!秋もいよいよ終わりそうだ!」
(そうですね)
人差し指を動かす。
「秋が終わるまでにもう少しサツマイモを所望したい所だな!」
(お好きなんですね)
これも人差し指。
「冬の悪路を我々を抱えて走る君たちには頭が下がる!大変だろう!!」
(そんなことありませんよ)
中指。
最近煉獄様の事に詳しくなったような気がしてちょっぴり楽しい。勿論柱という大変なお立場の方なので態度に出したり口に出したりは決してしないけれど。
(…あれ?黙っちゃった)
珍しく沈黙された煉獄様に私は顔を上げた。と言っても背負っているのでお顔は見えないけれど。
(揺れたかしら…気を付けているつもりだったけれど)
もしかしたら煉獄様のお話に夢中になっていたのかもしれない。私は気を引き締めると走ることに集中した。次の瞬間。
「君だったか!俺の独り言にいつも返事をくれるのは!」
「!?」
ぎょっとして足を止めてしまった。え?ちょっと待って。君だったか?君だったか!?もしかしてこれまでも返事を返してたのバレてる!?
「すまないが先を急いでいる!」
「あ…はい!」
煉獄様に先を促され慌てて走り出す。思いもよらない煉獄様の言葉に私の心臓は早鐘を打ったようになっていた。
(絶対、絶対失礼な奴だって思われた!)
もしかすると別の部署に移動になるかもしれない。泣きそうになっていると煉獄様が口を開いた。
「すまん!驚かせるつもりではなかった!!だが運ばれている間というのはなかなか退屈な時間でな!独り言に返事をくれる君は貴重な存在なのだ!」
「………」
貴重…初めて言われた言葉に先ほどとは違う意味で目頭が熱くなった。良かった…私でも煉獄様の暇つぶしになっていたのなら嬉しい。
「君さえよければまた俺を運ぶ際には独り言に返事をくれると嬉しい!!」
(勿論です!)
人差し指を動かして返事をする私に煉獄様は声を上げて笑った。
今日は隊士様をここで出迎える予定だ。大体誰を運ぶかを前もって知らされる事はないし、向かう場所も自分が走る分だけしか知らされていない。
「確かこの辺に…」
指示された場所に隊士様の姿がない。私がキョロキョロしていると一陣の風が吹いて目を開けた時には正面に煉獄様が立っていた。
「待たせてすまない!では行こう!!」
「失礼致します」
耳栓と目隠しをしようとすると屈んで下さる。目を閉じ頭を預けてくる煉獄様は失礼ながらちょっと可愛らしかった。
「では頼む!」
背中に乗ってくる煉獄様を背負うとしっかり抱える。と、急に煉獄様が背中から降りてしまった。目隠しも耳栓も取り払ってしまう。
「あの…?」
「返事を返してくれるあの隠だな!」
「へっ!?」
どうしてわかったのだろう?私が目を丸くすると煉獄様は明るく笑ってとんでもない事を仰られた。
「骨格や体つきでわかった!」
「えぇぇ!?」
我ながら失礼な反応だとは思うが見逃してほしい。だって骨格って!柱の方ってそんな事まで分かるの!?
「俺は煉獄杏寿郎だ!」
「…えぇ、存じております」
私は思わず小さく笑ってしまった。だって鬼殺隊で柱の方を知らない者なんているはずが無いのだ。煉獄様が表情を明るくされる。
「君の名前は…聞けないんだったな!」
「申し訳ございません。案内役は名乗らない決まりでございますので」
どれだけ道を変えても何度もいろいろな道を走っていればどうしても隠し里や本部の位置が何となく把握できてしまう。それを狙うものから里や本部を守るためには必要な措置だ。
私が頭を下げれば煉獄様の大きな手が私の頭の上に乗った。
「謝る必要はない!君が案内役ではない時にまた聞こう!!」
良いのだろうかそれは。ちょっと疑問が残るけれど柱の方に異を唱えるようは事はできない。
「耳栓は自分でするので、すまないがもう一度目隠しを頼めるだろうか!!」
「はいっ」
もう一度屈んで下さる煉獄様に私は目隠しを巻いた。
そうして煉獄様に認識された私は、煉獄様を運ぶたびにたくさんの話を聞いた。煉獄様は強くて、明るくて、優しくて…そしてちょっとだけ寂しい方だった。
「君が相手だとつい話すぎるな!君も俺の家族の話など退屈だろう!」
(いえいえ、そんな事ありませんよ)
中指を動かす。
「そうか!ありがとう!!」
(どういたしまして)
人差し指。
「いつか君の話も聞いてみたいものだ!」
(それは素敵ですね)
私は人差し指を動かす。
けれど、無限列車での事件を境に私が煉獄様を背負う事は無くなった。
「久しぶりだな!紗雪!!」
「煉獄様。お久しぶりでございます」
無限列車での任務で重傷を負った煉獄様は鬼殺隊士を引退されていた。けれど鬼殺隊は宿敵無惨を打ち倒し解散したのだ!事後処理を宇髄様と共に請け負った煉獄様は毎日忙しくされている。そして隊士様達を運ぶ必要のなくなった私達は、そう言った方達の後方支援に当たっていた。
と言っても特別な事はしていない。ご本人に代わって家の事をしたり、事後処理のお手伝いをしたりだ。
「お互い忙しいな!」
「煉獄様に比べれば私なんて」
解散を機に隠の格好をやめた私に煉獄様は相変わらず優しく接してくださる。煉獄様の着流し姿にもようやく慣れた。
「また俺の話を聞いてもらえるだろうか?」
引退されて煉獄様は少し言葉から力が抜けたように思う。きっと柱である事は誇りであると同時に大変な重荷だったのだろう。少し遠慮がちな煉獄様の言葉に私は大きく頷いた。
「私で良ければいくらでも」
「有り難い!そこの茶屋で構わないか?」
「はい」
並んで縁台に腰掛けるとお団子とお茶をいただく。煉獄様のお話を沢山聞きながら私は幸せだなぁなんて思った。
ふと煉獄様が私の顔を見て話をやめてしまわれる。あら?どうしたのかしら?何故か煉獄様はため息をつくと手で顔を覆ってしまわれた。
「君は…そう言うところだぞ」
「?」
何か気に触ることをしてしまっただろうか?私がオロオロしていると、煉獄様は一つ頷き背筋を伸ばされた。
「紗雪!」
「はい!」
私もつられて背中を伸ばす。煉獄様が大変良い笑顔で口を開かれた。
「君と祝言をあげたいと思うのだが良いだろうか!?」
「!?」
私は…私は言葉が出て来なくって人差し指で煉獄様にお返事するのが精一杯だった。
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