連載
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「それは恋よ!恋だわ紗雪さん!!」
「………」
甘味処で甘露寺に力強く言い切られ紗雪は沈黙した。相手をぼかした上での自分の心情について話しただけなのだが、そんな言い切られるほど分かりやすかっただろうか?
紗雪が思わず伊黒の方を見ると、やれやれとこれ見よがしにため息をつかれた。
「自分の感情も把握できないとは柱として不甲斐ないやつだ。元々お前はふわふわフラフラしていて威厳が足りんのだから、自分自身のことぐらいきちんと把握しておけ」
「威厳がないのは認めますけどぉ」
紗雪はテーブルに顎を乗せるとグリグリと首を左右に回した。伊黒が容赦なくその額を小突く。
「痛いですぅ…」
「甘露寺の前でみっともない真似はやめろ」
(伊黒さん、キリッとしてて素敵)
甘露寺のキュンとした心の声が聞こえる気がして紗雪はお先にと店を辞すと通りに出た。バサバサと羽音が聞こえ、鴉が一話上空を飛んでいく。
「はいはいっと」
紗雪は人混みの中に紛れると、次の瞬間空中に跳躍していた。飛んでいた鴉に並ぶと、鴉が話し出す。
「任務!任務ー!!南南東の村で不明者多数!!」
「わかったよぉ、日向。案内よろしくねぇ」
飛んでいる日向の首をちょんと触ると降りていく。ふわっと屋根の上に着地した紗雪の肩に日向が止まった。
「じゃあ出発〜」
「オー!」
気の抜けた紗雪の掛け声に日向が絶妙な合いの手を返す。紗雪は元気良く南南東に走り出した。
「うわぁ!お袋!!」
「なんで…兄貴ぃぃぃ!!」
増援で先に到着していた隊士達が、霧の中でそれぞれの叫び声をあげる。闇雲に振り回される刀が相打ちになりそうで、霧の外側の隊士も近づけない。
(幻を見せる血気術かぁ〜)
紗雪は霧の外にいる隊士にもっと離れるよう指示を出した。
「霧の中の隊士を外に放り出すから、捕まえて猿轡と拘束宜しくぅ」
「了解しました!鳥柱様は…」
「霧の中に入るよぉ。鬼の気配もそっちからだしねぇ」
ぐっと体を伸ばすと紗雪は地面を踏み締めた。霧の中に飛び込むと、素早く暴れる隊士の襟首を掴み放り投げる。
(これで最後ぉ!)
「うわぁぁ!みよ!みよぉぉぉ!!」
宙を舞う隊士が泣きながら誰かの名を叫ぶ。紗雪はそれを見送ると日輪刀を抜いた。
(近いなぁ)
一等濃い霧の中に鬼の気配を感じる。紗雪はその中に飛び込むと、両手で刀を握った。霧の中から黒い影が湧き出る。
(来るか!)
紗雪が刀を振りかぶった時霧を割って煉獄が姿を表した。予想外の人物の出現に紗雪の足が止まる。
「!?」
「こんな所で会うとはよもやだな!紗雪!!」
笑顔の煉獄が刀を抜き横一線に薙ぐ。後ろに飛び退った紗雪の黒い羽織がはらりと切れた。
「煉獄さん!?」
「どうした紗雪!逃げることはないぞ!!」
ピクッと紗雪の眉が震えた。目が細く開かれ煉獄を冷たく見据える。刀を構え直すと紗雪は一気に煉獄の懐に潜り込んだ。
ーー鳥の呼吸 弍ノ型舞白鷺 ーー
煉獄の、いや鬼の首が高く舞う。ザァッと霧が晴れると共に煉獄の姿も消え、首を失った鬼の体が膝をつく。重い音を立てて落ちた首共々鬼は塵となって消えた。
(こんなに違うのかぁ)
本物の煉獄の笑顔を見た時とは違う、心の底まで冷えるような怒りに紗雪はため息をついた。血振りをすると納刀し隊士達の元へ戻る。
泣き崩れている隊士を見て、紗雪は無事な隊士に声をかけた。
「彼らはどんな幻を?」
「はい…家族や恋人、想い人などの幻を見たようです」
「そう」
合流してきた隠にその場を任せると行方不明者の遺品が少しでも無いかと周囲を探索する。
(大切な人の幻かぁ。斬るにせよ斬らないにせよ辛いよなぁ)
「…あれ?」
そこでふと立ち止まると紗雪は一気に赤面した。
(れ、煉獄さんの幻だったよね?僕が見たのって)
「…えぇぇ〜」
血気術で自覚する自分の気持ちって一体。紗雪は舞い上がって良いのか落ち込んで良いのか分からず両手で顔を覆った。
「紗雪!」
「うみゅぉあぁぁ!?」
突然名を呼ばれ紗雪は変な声を上げた。振り返ると煉獄が驚いた顔で固まっている。あれっ!?と紗雪は混乱した。
「え?えっ?煉獄さん?本物のですかぁ?」
「先程隠から話は聞いた!幻を見せる鬼だったそうだな!!」
近づいて来る煉獄の笑顔にほっとする自分を感じ、紗雪は胸元に手を当てた。
「よくここが…」
「うむ!俺の鎹鴉が…要と言うのだが、君の鴉から聞いて来てくれた!」
「そう、なんですねぇ」
(あぁ、そうなんだなぁ)
「被害者の遺品を探しているのか!?どれ、俺も…」
紗雪を手伝おうと横を向いた煉獄は、しかし羽織を引かれ立ち止まった。紗雪の手が遠慮がちに煉獄の羽織の端を掴んでいる。俯いて表情の見えない紗雪に煉獄は向き直った。
「如何した?紗雪」
(僕はこの人が好きだ)
笑いかけてくれると心がお日様に当たったようになる。紗雪は赤い顔を隠さず煉獄を見た。
「煉獄さんが好きです」
「………」
目を見張る煉獄に必死に続ける。
「あの鬼の血気術、大切な人の幻を見せるものでした」
「煉獄さんが…見えました」
「血気術で自覚するなんて間抜けと思われるかもしれませんけど」
「でも…っ」
感情が昂りじわりと涙が浮かぶ。次の瞬間紗雪は煉獄に抱き締められていた。
「煉獄さ…」
「よもや…こんなに早く保留の返事を聞けるとは思っていなかった」
「お待たせしてしまって…」
「いや、頂上至極だ」
(難しい言葉を知ってるなぁ)
煉獄の腕の中の暖かさに紗雪は呑気にそんな事を思った。上を向くよう顎を取られて、煉獄の顔を間近に見つめる。
(この人、こんな顔もするんだぁ)
赤らんだ目元にいつものような眼力は無い。フワリと微笑む煉獄に紗雪は見蕩れた。
(綺麗だなぁ)
「紗雪、こういう時は目を閉じるんだ」
「?はぁい」
言われるまま目を閉じると煉獄が唇を重ねる。ほんの僅かな接吻で離れていった煉獄の体温に紗雪は目を開けると両手で口を覆った。
「な…!な、な……」
「今度、胡蝶から教わったというお付き合いについてよくよく聞いておく必要がありそうだ」
口付け一つでここまで狼狽えるなら、この先を知ったら如何なることやら。耳まで赤くなって固まってしまった紗雪に煉獄は満足そうに笑ったのだった。
「………」
甘味処で甘露寺に力強く言い切られ紗雪は沈黙した。相手をぼかした上での自分の心情について話しただけなのだが、そんな言い切られるほど分かりやすかっただろうか?
紗雪が思わず伊黒の方を見ると、やれやれとこれ見よがしにため息をつかれた。
「自分の感情も把握できないとは柱として不甲斐ないやつだ。元々お前はふわふわフラフラしていて威厳が足りんのだから、自分自身のことぐらいきちんと把握しておけ」
「威厳がないのは認めますけどぉ」
紗雪はテーブルに顎を乗せるとグリグリと首を左右に回した。伊黒が容赦なくその額を小突く。
「痛いですぅ…」
「甘露寺の前でみっともない真似はやめろ」
(伊黒さん、キリッとしてて素敵)
甘露寺のキュンとした心の声が聞こえる気がして紗雪はお先にと店を辞すと通りに出た。バサバサと羽音が聞こえ、鴉が一話上空を飛んでいく。
「はいはいっと」
紗雪は人混みの中に紛れると、次の瞬間空中に跳躍していた。飛んでいた鴉に並ぶと、鴉が話し出す。
「任務!任務ー!!南南東の村で不明者多数!!」
「わかったよぉ、日向。案内よろしくねぇ」
飛んでいる日向の首をちょんと触ると降りていく。ふわっと屋根の上に着地した紗雪の肩に日向が止まった。
「じゃあ出発〜」
「オー!」
気の抜けた紗雪の掛け声に日向が絶妙な合いの手を返す。紗雪は元気良く南南東に走り出した。
「うわぁ!お袋!!」
「なんで…兄貴ぃぃぃ!!」
増援で先に到着していた隊士達が、霧の中でそれぞれの叫び声をあげる。闇雲に振り回される刀が相打ちになりそうで、霧の外側の隊士も近づけない。
(幻を見せる血気術かぁ〜)
紗雪は霧の外にいる隊士にもっと離れるよう指示を出した。
「霧の中の隊士を外に放り出すから、捕まえて猿轡と拘束宜しくぅ」
「了解しました!鳥柱様は…」
「霧の中に入るよぉ。鬼の気配もそっちからだしねぇ」
ぐっと体を伸ばすと紗雪は地面を踏み締めた。霧の中に飛び込むと、素早く暴れる隊士の襟首を掴み放り投げる。
(これで最後ぉ!)
「うわぁぁ!みよ!みよぉぉぉ!!」
宙を舞う隊士が泣きながら誰かの名を叫ぶ。紗雪はそれを見送ると日輪刀を抜いた。
(近いなぁ)
一等濃い霧の中に鬼の気配を感じる。紗雪はその中に飛び込むと、両手で刀を握った。霧の中から黒い影が湧き出る。
(来るか!)
紗雪が刀を振りかぶった時霧を割って煉獄が姿を表した。予想外の人物の出現に紗雪の足が止まる。
「!?」
「こんな所で会うとはよもやだな!紗雪!!」
笑顔の煉獄が刀を抜き横一線に薙ぐ。後ろに飛び退った紗雪の黒い羽織がはらりと切れた。
「煉獄さん!?」
「どうした紗雪!逃げることはないぞ!!」
ピクッと紗雪の眉が震えた。目が細く開かれ煉獄を冷たく見据える。刀を構え直すと紗雪は一気に煉獄の懐に潜り込んだ。
ーー鳥の呼吸 弍ノ型
煉獄の、いや鬼の首が高く舞う。ザァッと霧が晴れると共に煉獄の姿も消え、首を失った鬼の体が膝をつく。重い音を立てて落ちた首共々鬼は塵となって消えた。
(こんなに違うのかぁ)
本物の煉獄の笑顔を見た時とは違う、心の底まで冷えるような怒りに紗雪はため息をついた。血振りをすると納刀し隊士達の元へ戻る。
泣き崩れている隊士を見て、紗雪は無事な隊士に声をかけた。
「彼らはどんな幻を?」
「はい…家族や恋人、想い人などの幻を見たようです」
「そう」
合流してきた隠にその場を任せると行方不明者の遺品が少しでも無いかと周囲を探索する。
(大切な人の幻かぁ。斬るにせよ斬らないにせよ辛いよなぁ)
「…あれ?」
そこでふと立ち止まると紗雪は一気に赤面した。
(れ、煉獄さんの幻だったよね?僕が見たのって)
「…えぇぇ〜」
血気術で自覚する自分の気持ちって一体。紗雪は舞い上がって良いのか落ち込んで良いのか分からず両手で顔を覆った。
「紗雪!」
「うみゅぉあぁぁ!?」
突然名を呼ばれ紗雪は変な声を上げた。振り返ると煉獄が驚いた顔で固まっている。あれっ!?と紗雪は混乱した。
「え?えっ?煉獄さん?本物のですかぁ?」
「先程隠から話は聞いた!幻を見せる鬼だったそうだな!!」
近づいて来る煉獄の笑顔にほっとする自分を感じ、紗雪は胸元に手を当てた。
「よくここが…」
「うむ!俺の鎹鴉が…要と言うのだが、君の鴉から聞いて来てくれた!」
「そう、なんですねぇ」
(あぁ、そうなんだなぁ)
「被害者の遺品を探しているのか!?どれ、俺も…」
紗雪を手伝おうと横を向いた煉獄は、しかし羽織を引かれ立ち止まった。紗雪の手が遠慮がちに煉獄の羽織の端を掴んでいる。俯いて表情の見えない紗雪に煉獄は向き直った。
「如何した?紗雪」
(僕はこの人が好きだ)
笑いかけてくれると心がお日様に当たったようになる。紗雪は赤い顔を隠さず煉獄を見た。
「煉獄さんが好きです」
「………」
目を見張る煉獄に必死に続ける。
「あの鬼の血気術、大切な人の幻を見せるものでした」
「煉獄さんが…見えました」
「血気術で自覚するなんて間抜けと思われるかもしれませんけど」
「でも…っ」
感情が昂りじわりと涙が浮かぶ。次の瞬間紗雪は煉獄に抱き締められていた。
「煉獄さ…」
「よもや…こんなに早く保留の返事を聞けるとは思っていなかった」
「お待たせしてしまって…」
「いや、頂上至極だ」
(難しい言葉を知ってるなぁ)
煉獄の腕の中の暖かさに紗雪は呑気にそんな事を思った。上を向くよう顎を取られて、煉獄の顔を間近に見つめる。
(この人、こんな顔もするんだぁ)
赤らんだ目元にいつものような眼力は無い。フワリと微笑む煉獄に紗雪は見蕩れた。
(綺麗だなぁ)
「紗雪、こういう時は目を閉じるんだ」
「?はぁい」
言われるまま目を閉じると煉獄が唇を重ねる。ほんの僅かな接吻で離れていった煉獄の体温に紗雪は目を開けると両手で口を覆った。
「な…!な、な……」
「今度、胡蝶から教わったというお付き合いについてよくよく聞いておく必要がありそうだ」
口付け一つでここまで狼狽えるなら、この先を知ったら如何なることやら。耳まで赤くなって固まってしまった紗雪に煉獄は満足そうに笑ったのだった。