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(ちょっと楽になって来たなぁ)
夕日の差し込む部屋で、椎名はのそりと起き上がるとベッドに腰掛けた。熱を測ると平熱になっておりホッとする。
(受験近いのに2日も寝ちゃったぁ)
ポテポテと居間に行くと、玄弥の置き手紙が置いてあった。
『部活の打ち合わせで遅くなるから。姉ちゃんのとこ、煉獄さんが心配してたよ』
(煉獄さん…)
椎名は胸がきゅっとして、誰もいないのに周りを見回してしまった。
(元気になったらまた本屋さん行こうっとぉ)
椎名は兄の友人である杏寿郎に淡い思いを抱いていた。来る度自分にも声をかけてくれる明るい杏寿郎を好きになるなという方が無理だ。
(高嶺の花だけどねぇ)
椎名は杏寿郎がモテる事も、自分の顔が兄に似ず十人並みなのもよく分かっている。不死川家の集まりではどこの先祖返りかとよく言われる。そんな時、誰よりも先にブチ切れるのが兄の実弥だ。そして次が玄弥。
(お粥だ…あ、岩海苔ある!)
実弥が置いていってくれたのだろう岩海苔に椎名はやったー!と素直に喜んだ。どうしてもお粥だけだと味が薄くて飲み込むのに苦労するのだが、これがあるなら食べられる。
(でもうちは白粥か卵粥ばっかりなのに珍しいなぁ)
そう思いつつお粥を食べて終えると椎名はシャワーを浴びた。サッパリすると、ついやらなくて良いことをやろうかと思ってしまう。
(本屋さん行ってみようかなぁ)
運が良ければ杏寿郎がバイトしているかもしれない。心配してくれていたと言うし、お礼を言えるかもしれない。
(ついでにお勧めの参考書を聞けたら嬉しいなぁ)
首尾良く受かれば同じ大学でのキャンパスライフが送れるのだ。椎名はちょっと浮かれ気味に身支度を整えると、本屋に足を向けた。
(いたぁ)
「いらっしゃいませ!む!何か御用ですか!!」
本屋に着くなり店中に響き渡っている杏寿郎の声に椎名は嬉しくなった。杏寿郎の声はいつも自分に元気をくれる。椎名が声の方へ近づいていくと杏寿郎が気付いて寄って来た。
「椎名!具合はもう良いのか!?」
「えへへ…心配頂きありがとうございますぅ」
椎名がへらっと笑って答えると杏寿郎のいつも快活な眉が顰められた。
「どうやらまだ本調子ではないようだな。寝ていなければ駄目だろう」
「え…」
一発で言い当てられ、椎名は言葉を失った。今のたった一言の何処で判別したのだろう。
「もう上がる時間だから送って行く。入り口のベンチに座っているんだ。10分で行く」
「えっ、いや、そんなの悪いから…煉獄さぁん!?」
椎名の言葉を一つも聞かず杏寿郎は奥に引っ込んでしまった。困惑しつつも言われた通り入り口のベンチに腰掛ける。
(怒られちゃったぁ)
上手くいかないなぁと椎名は思った。ただ杏寿郎の顔を見られれば良かっただけなのに。
(…来ないなぁ)
15分を過ぎた頃、椎名は立ち上がるとキョロキョロした。杏寿郎が10分と言って10分を過ぎた事はないのに如何したのだろう。
(裏口回ってみよう)
ここは玄弥のバイト先でもあり、従業員用ドアの位置は椎名でも知っている。椎名は建物の角を曲がろうとして、慌てて足を止めると身を隠した。
「煉獄君のこと好きなの…お願い煉獄君」
(あわわ…とんでもない所にぃ)
椎名は口を両手で塞ぐと固まった。立ち聞きなんて良くない。立ち去らなければと思うが体が動かない。
「すまないが小井戸さん!君の気持ちには応えられない!!」
「煉獄君、今は付き合ってる人いないんでしょう?ね?」
「何が『ね』なのか分からない!それに付き合っている人が居ないのは事実だが、好きな相手ならばいる!!」
「!!」
椎名はびくりと震えると息を飲んだ。
(そうだよね…そりゃあ、そうだよねぇ)
頭では納得するが胸が痛い。椎名はようやく動くようになった足でそろりとその場を離れた。逃げるように走って帰路につく。
(いいなぁ)
周囲はすっかり暗く、車のライトがいくつも椎名を追い越していった。
(煉獄さんに好きになってもらった人、良いなぁ)
ボロボロと涙が溢れる。椎名は涙を拭いながら走った。
(煉獄さんの好きな人……)
「っ!」
カーブを曲がって来た車のライトが椎名の目に強く入った。あまりの眩しさに椎名が目を瞑る。
「…っ!!」
途端流れ込んできた記憶と感情に椎名は立ち尽くした。見た事もした事もない服装の自分が、知らない家族と暮らし、失い、新たに得た場所で鬼を斬っていく。
(何これ何これ何コレェ!!?)
その膨大な情報に飲み込まれて呼吸が上手くできない。
(呼吸…そう呼吸、集中して…全集中の常中を…いや!知らない!!そんなの知らない!)
ガタガタと震える体を椎名は自分で抱きしめた。
「椎名!」
「っ!!」
杏寿郎は道で立ち尽くし震える椎名に慌てて駆け寄った。涙を流し、歯の根が合わない様子の椎名に目を見開く。
「椎名如何した!具合が悪いのか!?」
「煉、獄…さぁんっ」
杏寿郎の顔を見た途端湧き上がった感情に椎名は杏寿郎から後ずさった。
(愛しい人。大切な人。自分の命より。生きて欲しい。笑って欲しい。幸せであって欲しい。私が生きてはいなくとも)
椎名の知らない姿をした杏寿郎が見える。黒い詰襟の服。炎を模した白い羽織。炎の鍔の日輪刀。
(こんな気持ち…知らない!)
「椎名っ!?」
椎名は杏寿郎に背を向けると走った。今までの淡い気持ちなど吹き飛ぶような激しく強い想いに胸が締め付けられる。
(どうしてぇ!どうしてこれが自分の気持ちだとわかるの!?)
知らないはずの感情と記憶が自分のものだと確信が持てる。それが怖くて椎名は益々走った。
(私が私じゃ無くなるっ)
「っ!?」
「止まるんだ椎名!!」
杏寿郎は椎名の腕を掴むと引き寄せた。青い顔で息を切らせる椎名を見る。
「一体如何した!」
「…杏寿、郎…さぁ、ん……」
「っ!おい!!」
ぐらりと椎名の体が傾がり杏寿郎は慌ててその体を抱きとめた。かくりと椎名の首が力なく項垂れる。
「気を失っただけか」
杏寿郎はほっと息をつくと椎名を大切に腕に抱えた。
「…杏寿郎と、呼んでくれたのか椎名」
煉獄は椎名の額に口付けを落とすと、不死川の家へと足を向けた。
夕日の差し込む部屋で、椎名はのそりと起き上がるとベッドに腰掛けた。熱を測ると平熱になっておりホッとする。
(受験近いのに2日も寝ちゃったぁ)
ポテポテと居間に行くと、玄弥の置き手紙が置いてあった。
『部活の打ち合わせで遅くなるから。姉ちゃんのとこ、煉獄さんが心配してたよ』
(煉獄さん…)
椎名は胸がきゅっとして、誰もいないのに周りを見回してしまった。
(元気になったらまた本屋さん行こうっとぉ)
椎名は兄の友人である杏寿郎に淡い思いを抱いていた。来る度自分にも声をかけてくれる明るい杏寿郎を好きになるなという方が無理だ。
(高嶺の花だけどねぇ)
椎名は杏寿郎がモテる事も、自分の顔が兄に似ず十人並みなのもよく分かっている。不死川家の集まりではどこの先祖返りかとよく言われる。そんな時、誰よりも先にブチ切れるのが兄の実弥だ。そして次が玄弥。
(お粥だ…あ、岩海苔ある!)
実弥が置いていってくれたのだろう岩海苔に椎名はやったー!と素直に喜んだ。どうしてもお粥だけだと味が薄くて飲み込むのに苦労するのだが、これがあるなら食べられる。
(でもうちは白粥か卵粥ばっかりなのに珍しいなぁ)
そう思いつつお粥を食べて終えると椎名はシャワーを浴びた。サッパリすると、ついやらなくて良いことをやろうかと思ってしまう。
(本屋さん行ってみようかなぁ)
運が良ければ杏寿郎がバイトしているかもしれない。心配してくれていたと言うし、お礼を言えるかもしれない。
(ついでにお勧めの参考書を聞けたら嬉しいなぁ)
首尾良く受かれば同じ大学でのキャンパスライフが送れるのだ。椎名はちょっと浮かれ気味に身支度を整えると、本屋に足を向けた。
(いたぁ)
「いらっしゃいませ!む!何か御用ですか!!」
本屋に着くなり店中に響き渡っている杏寿郎の声に椎名は嬉しくなった。杏寿郎の声はいつも自分に元気をくれる。椎名が声の方へ近づいていくと杏寿郎が気付いて寄って来た。
「椎名!具合はもう良いのか!?」
「えへへ…心配頂きありがとうございますぅ」
椎名がへらっと笑って答えると杏寿郎のいつも快活な眉が顰められた。
「どうやらまだ本調子ではないようだな。寝ていなければ駄目だろう」
「え…」
一発で言い当てられ、椎名は言葉を失った。今のたった一言の何処で判別したのだろう。
「もう上がる時間だから送って行く。入り口のベンチに座っているんだ。10分で行く」
「えっ、いや、そんなの悪いから…煉獄さぁん!?」
椎名の言葉を一つも聞かず杏寿郎は奥に引っ込んでしまった。困惑しつつも言われた通り入り口のベンチに腰掛ける。
(怒られちゃったぁ)
上手くいかないなぁと椎名は思った。ただ杏寿郎の顔を見られれば良かっただけなのに。
(…来ないなぁ)
15分を過ぎた頃、椎名は立ち上がるとキョロキョロした。杏寿郎が10分と言って10分を過ぎた事はないのに如何したのだろう。
(裏口回ってみよう)
ここは玄弥のバイト先でもあり、従業員用ドアの位置は椎名でも知っている。椎名は建物の角を曲がろうとして、慌てて足を止めると身を隠した。
「煉獄君のこと好きなの…お願い煉獄君」
(あわわ…とんでもない所にぃ)
椎名は口を両手で塞ぐと固まった。立ち聞きなんて良くない。立ち去らなければと思うが体が動かない。
「すまないが小井戸さん!君の気持ちには応えられない!!」
「煉獄君、今は付き合ってる人いないんでしょう?ね?」
「何が『ね』なのか分からない!それに付き合っている人が居ないのは事実だが、好きな相手ならばいる!!」
「!!」
椎名はびくりと震えると息を飲んだ。
(そうだよね…そりゃあ、そうだよねぇ)
頭では納得するが胸が痛い。椎名はようやく動くようになった足でそろりとその場を離れた。逃げるように走って帰路につく。
(いいなぁ)
周囲はすっかり暗く、車のライトがいくつも椎名を追い越していった。
(煉獄さんに好きになってもらった人、良いなぁ)
ボロボロと涙が溢れる。椎名は涙を拭いながら走った。
(煉獄さんの好きな人……)
「っ!」
カーブを曲がって来た車のライトが椎名の目に強く入った。あまりの眩しさに椎名が目を瞑る。
「…っ!!」
途端流れ込んできた記憶と感情に椎名は立ち尽くした。見た事もした事もない服装の自分が、知らない家族と暮らし、失い、新たに得た場所で鬼を斬っていく。
(何これ何これ何コレェ!!?)
その膨大な情報に飲み込まれて呼吸が上手くできない。
(呼吸…そう呼吸、集中して…全集中の常中を…いや!知らない!!そんなの知らない!)
ガタガタと震える体を椎名は自分で抱きしめた。
「椎名!」
「っ!!」
杏寿郎は道で立ち尽くし震える椎名に慌てて駆け寄った。涙を流し、歯の根が合わない様子の椎名に目を見開く。
「椎名如何した!具合が悪いのか!?」
「煉、獄…さぁんっ」
杏寿郎の顔を見た途端湧き上がった感情に椎名は杏寿郎から後ずさった。
(愛しい人。大切な人。自分の命より。生きて欲しい。笑って欲しい。幸せであって欲しい。私が生きてはいなくとも)
椎名の知らない姿をした杏寿郎が見える。黒い詰襟の服。炎を模した白い羽織。炎の鍔の日輪刀。
(こんな気持ち…知らない!)
「椎名っ!?」
椎名は杏寿郎に背を向けると走った。今までの淡い気持ちなど吹き飛ぶような激しく強い想いに胸が締め付けられる。
(どうしてぇ!どうしてこれが自分の気持ちだとわかるの!?)
知らないはずの感情と記憶が自分のものだと確信が持てる。それが怖くて椎名は益々走った。
(私が私じゃ無くなるっ)
「っ!?」
「止まるんだ椎名!!」
杏寿郎は椎名の腕を掴むと引き寄せた。青い顔で息を切らせる椎名を見る。
「一体如何した!」
「…杏寿、郎…さぁ、ん……」
「っ!おい!!」
ぐらりと椎名の体が傾がり杏寿郎は慌ててその体を抱きとめた。かくりと椎名の首が力なく項垂れる。
「気を失っただけか」
杏寿郎はほっと息をつくと椎名を大切に腕に抱えた。
「…杏寿郎と、呼んでくれたのか椎名」
煉獄は椎名の額に口付けを落とすと、不死川の家へと足を向けた。