連載
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ただいまぁーっと」
退院の許可が出た紗雪は鳥屋敷に戻ってきた。静まり返った屋敷の中は春だと言うのにヒンヤリしている。
「…静かだなぁ」
炭治郎は隊士の墓の全てに花を添えたら帰るのだと言っていた。煉獄と宇髄は各々の一門の隊士の先々や、亡くなった者達の家族への挨拶周りで忙しくしているらしい。
鳥柱としての一門を持たない紗雪には想像のつかない苦労だろう。
「この先か…」
紗雪は暫く縁側に立ち尽くし外を眺めていたが、よし!と一つ頷くと文机に向かった。
「紗雪!…椎名!どこだ!!」
鳥屋敷にやってきた煉獄は声の限りに紗雪を呼んだ。戸を破らんばかりの勢いで屋敷の中を突き進む。その後ろを隠が数名慌ててついてきた。
「き、昨日まではいらっしゃったのですが…」
そうは言っても鳥屋敷は静まり返り、紗雪が出てくる様子はない。煉獄は激しく歯噛みした。
(何故だ椎名)
煉獄は不死川からの知らせで紗雪が逐電しようとしていると告げられた。慌てて所用の全てを父親に押し付け駆けつけたが、見ての通りの有様だ。
「椎名!」
一番日当たりのいい、紗雪が好んで使っていた部屋に入った煉獄は文机の上に置かれた一通の手紙に気が付きそれを手に取った。表に煉獄杏寿郎様と書かれたそれを広げる。中には紗雪に似合わぬ流麗な文字が綴られていた。
ーー煉獄杏寿郎様
手紙を書くのは難しいですね。なんて書けばいいのか、改めて紙に向かうと迷ってしまいます。
これを読んでいると言うことは僕がいない事に気が付いたんですね。
旅に出ようと思います。平和な世になって、夜する事のない日が続いたら僕の存在が曖昧になった気がして居ても立っても居られなくなりました。
いつ戻るかはわかりません。僕は死んだとでも思ってください。凄いこと書いてる自覚はあります。
煉獄さんは気立の良い奥さんを貰って煉獄家を繋いでいって下さい。遠くからですが応援しています。
すいませんが、鳥屋敷はお館様に返しておいて下さい。僕にあんな大きな屋敷は分不相応です。
それでは末筆ではありますが、煉獄さんの健康と幸せを祈っています。
紗雪椎名ーー
「………」
くしゃり…煉獄は手紙を握り締めていた。後ろの隠達が気遣わしそうにする。
「!」
「煉獄様!?」
煉獄は文机の横にある屑入れの中に手を突っ込んだ。書き仕損じた手紙が何枚も何枚も入っている。その中に渡り鳥という単語を見つけ煉獄はそれを広げた。
ーー貴方はいつか私を渡り鳥のようだと言ってくれましたね。
私と言う渡り鳥が一時貴方のそばで羽を休めていただけと思って下さい。
私は幸せでした。ーー
(幸せでした、だと?)
「…すまんが手を貸してくれるか」
煉獄はゆっくり立ち上がるとすぐ後ろの隠にそう言った。煉獄とは長い付き合いがある隠だ。
「いかがいたしましょう」
「椎名はもう跳べない。昨日までは居たのならまだ遠くへは行っていないはずだ。街から出る街道に人をやってくれ」
(何があろうと見つけ出す)
「承知いたしました」
頭を下げる隠の肩に手を置くと煉獄は部屋から縁側へと飛び出した。
「「……………」」
と、煉獄は唖然として立ち尽くした。縁側に上がろうとしていた紗雪と目が合う。縁側に片足を踏み入れた状態で紗雪も固まっていた。
「……かっ、確保ーっ!!!」
「うわぁ!?」
隠が総出で紗雪を取り押さえにかかる。これは予想外だったようで、紗雪は隠五人の下敷きになってしまった。
「…椎名」
煉獄の声が低い。ビクリと震えると紗雪は引き攣った顔で笑った。
「えへへ…来るの早すぎませんかねぇ?忘れ物取りに戻ってきただけなのに、ビックリですよぉ」
「言い残すことはそれだけか」
怒気を撒き散らす煉獄に紗雪は慌てて謝った。
「ごごごごご、ごめんなさい!だけど、でも!えっと…!」
紗雪は煉獄に腕を掴まれると引っ張り立たされた。そのまま強く抱き締められる。
「お前は俺を何だと思っているんだ!お前を迎え入れる支度も進めているんだぞ!!どこにも行かせはせん!」
「……会えば出て行けなくなるからぁ〜」
紗雪はボロボロ涙を流すと煉獄にしがみついた。子供のように大泣きする紗雪の額に煉獄が口付ける。煉獄は紗雪を肩に担ぎ上げると隠を振り返った。
「わぁぁっ!?」
「屋敷内にある椎名の荷物は全て煉獄家に運んでくれ!奥座敷の方にある書物も全てだ!!」
「畏まりました」
何故奥屋敷に書物があるのを知っているのか、なんて無粋なことを隠は突っ込まない。粛々と作業を開始する隠に紗雪は大慌てだ。
「ちょっとぉ!?っていうか煉獄家って何で…」
「お前という奴は繋いでおかなければ何をしでかすか分からんのがよく分かった!だからこのまま連れて行く!!」
「それ人攫いの台詞ぅぅぅ〜!」
紗雪はひっくり返った視界で隠達が楽しそうに荷造りし始めるのを見て、諦めて体の力を抜いたのだった。
退院の許可が出た紗雪は鳥屋敷に戻ってきた。静まり返った屋敷の中は春だと言うのにヒンヤリしている。
「…静かだなぁ」
炭治郎は隊士の墓の全てに花を添えたら帰るのだと言っていた。煉獄と宇髄は各々の一門の隊士の先々や、亡くなった者達の家族への挨拶周りで忙しくしているらしい。
鳥柱としての一門を持たない紗雪には想像のつかない苦労だろう。
「この先か…」
紗雪は暫く縁側に立ち尽くし外を眺めていたが、よし!と一つ頷くと文机に向かった。
「紗雪!…椎名!どこだ!!」
鳥屋敷にやってきた煉獄は声の限りに紗雪を呼んだ。戸を破らんばかりの勢いで屋敷の中を突き進む。その後ろを隠が数名慌ててついてきた。
「き、昨日まではいらっしゃったのですが…」
そうは言っても鳥屋敷は静まり返り、紗雪が出てくる様子はない。煉獄は激しく歯噛みした。
(何故だ椎名)
煉獄は不死川からの知らせで紗雪が逐電しようとしていると告げられた。慌てて所用の全てを父親に押し付け駆けつけたが、見ての通りの有様だ。
「椎名!」
一番日当たりのいい、紗雪が好んで使っていた部屋に入った煉獄は文机の上に置かれた一通の手紙に気が付きそれを手に取った。表に煉獄杏寿郎様と書かれたそれを広げる。中には紗雪に似合わぬ流麗な文字が綴られていた。
ーー煉獄杏寿郎様
手紙を書くのは難しいですね。なんて書けばいいのか、改めて紙に向かうと迷ってしまいます。
これを読んでいると言うことは僕がいない事に気が付いたんですね。
旅に出ようと思います。平和な世になって、夜する事のない日が続いたら僕の存在が曖昧になった気がして居ても立っても居られなくなりました。
いつ戻るかはわかりません。僕は死んだとでも思ってください。凄いこと書いてる自覚はあります。
煉獄さんは気立の良い奥さんを貰って煉獄家を繋いでいって下さい。遠くからですが応援しています。
すいませんが、鳥屋敷はお館様に返しておいて下さい。僕にあんな大きな屋敷は分不相応です。
それでは末筆ではありますが、煉獄さんの健康と幸せを祈っています。
紗雪椎名ーー
「………」
くしゃり…煉獄は手紙を握り締めていた。後ろの隠達が気遣わしそうにする。
「!」
「煉獄様!?」
煉獄は文机の横にある屑入れの中に手を突っ込んだ。書き仕損じた手紙が何枚も何枚も入っている。その中に渡り鳥という単語を見つけ煉獄はそれを広げた。
ーー貴方はいつか私を渡り鳥のようだと言ってくれましたね。
私と言う渡り鳥が一時貴方のそばで羽を休めていただけと思って下さい。
私は幸せでした。ーー
(幸せでした、だと?)
「…すまんが手を貸してくれるか」
煉獄はゆっくり立ち上がるとすぐ後ろの隠にそう言った。煉獄とは長い付き合いがある隠だ。
「いかがいたしましょう」
「椎名はもう跳べない。昨日までは居たのならまだ遠くへは行っていないはずだ。街から出る街道に人をやってくれ」
(何があろうと見つけ出す)
「承知いたしました」
頭を下げる隠の肩に手を置くと煉獄は部屋から縁側へと飛び出した。
「「……………」」
と、煉獄は唖然として立ち尽くした。縁側に上がろうとしていた紗雪と目が合う。縁側に片足を踏み入れた状態で紗雪も固まっていた。
「……かっ、確保ーっ!!!」
「うわぁ!?」
隠が総出で紗雪を取り押さえにかかる。これは予想外だったようで、紗雪は隠五人の下敷きになってしまった。
「…椎名」
煉獄の声が低い。ビクリと震えると紗雪は引き攣った顔で笑った。
「えへへ…来るの早すぎませんかねぇ?忘れ物取りに戻ってきただけなのに、ビックリですよぉ」
「言い残すことはそれだけか」
怒気を撒き散らす煉獄に紗雪は慌てて謝った。
「ごごごごご、ごめんなさい!だけど、でも!えっと…!」
紗雪は煉獄に腕を掴まれると引っ張り立たされた。そのまま強く抱き締められる。
「お前は俺を何だと思っているんだ!お前を迎え入れる支度も進めているんだぞ!!どこにも行かせはせん!」
「……会えば出て行けなくなるからぁ〜」
紗雪はボロボロ涙を流すと煉獄にしがみついた。子供のように大泣きする紗雪の額に煉獄が口付ける。煉獄は紗雪を肩に担ぎ上げると隠を振り返った。
「わぁぁっ!?」
「屋敷内にある椎名の荷物は全て煉獄家に運んでくれ!奥座敷の方にある書物も全てだ!!」
「畏まりました」
何故奥屋敷に書物があるのを知っているのか、なんて無粋なことを隠は突っ込まない。粛々と作業を開始する隠に紗雪は大慌てだ。
「ちょっとぉ!?っていうか煉獄家って何で…」
「お前という奴は繋いでおかなければ何をしでかすか分からんのがよく分かった!だからこのまま連れて行く!!」
「それ人攫いの台詞ぅぅぅ〜!」
紗雪はひっくり返った視界で隠達が楽しそうに荷造りし始めるのを見て、諦めて体の力を抜いたのだった。