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「と、言うわけで此処では鬼ごっこが稽古だよぉ」
柱稽古が始まり、紗雪の所にも宇髄の許可が出た隊士達がやって来つつあった。数日遅れてやってきた炭治郎も加わる。
「鬼ごっこですか?」
蝶屋敷の機能回復訓練を思い出し、炭治郎は首を傾げた。
「そう。速さに慣れる訓練だよー。僕が逃げるからこの腰の紐を取れたらそこで終了」
紗雪は羽織を脱いで腰の剣帯に何本もの紙紐をつけていた。足元まであるそれが風にそよぐ。
「範囲はこの庭に限定するねぇ。上は屋根の高さまで。僕が跳んだら誰も捕まえられないだろうしね」
「一人ずつですか?」
炭治郎の疑問に紗雪は朗らかに笑った。
「まさか!全員でかかってきていいよぉ〜。一人ずつなんて時間の無駄無駄」
ピキキッと紗雪以外の顔が引き攣った。三十名はいる隊士相手に広い庭とはいえ可能なのだろうか。
「お、疑ったねぇ。じゃ、始めようか」
にっこり笑うと紗雪の姿が消えた。
「「「!!?」」」
タタン!
「岩の上!」
ダン!!
「池の方!!」
ガシャッ!
「屋根の上ぇっ!」
音のする方に隊士達が顔を向けるが、聞こえるのは音だけで姿がない。庭のそこかしこから聞こえる紗雪の足音に炭治郎達は青褪めた。
「こ、これ…まず目で追えないと話にならないのでは…?」
「「「………」」」
隊士達が一斉に庭にばらけた。音を頼りに、あるいは全くの勘で手当たり次第に手を伸ばす。
「うぉぉぉぉっ!」
「こっちかぁ!?」
「いでぇ!」
隊士同士が正面衝突して倒れ込むのに、その場に紗雪が現れた。
「周囲に気を配るのを忘れちゃ駄目だよぉ。同士討ちなんて無駄な事だからねぇ」
「そこだぁぁ!」
炭治郎が飛び込むが綺麗に手は空を切る。
「くそぉ!」
炭治郎は屋根の上に登ると全体を見渡せる位置に陣取った。
(とにかく紗雪さんの速さに目を慣らすんだ!見えないものは捕まえようがない!!)
集中していると、方向転換する一瞬、加速する一瞬に紗雪の黒い影が見えて炭治郎はハッとした。
(そうか、紗雪さんだってずっと早く動き続けてる訳じゃない。加速し直す必要があるんだ)
「…っ」
それでも紗雪が最高速度の時に見る事ができなければいけない。炭治郎は痛いぐらい見ることに集中した。
「おい!炭治郎!!」
「後ろ!後ろ!!」
「…へっ?」
下にいる隊士達にこぞって後ろを指さされ炭治郎はキョトンとした。つうぅ〜っと指先で背筋をたどられて鳥肌を立てる。
「ーーーあっ!」
止めにツンと突かれて炭治郎は屋根から転がり落ちた。ドボン!と池の中に落ちる。
紗雪が人差し指を立てたままニシシと屋根の上で笑った。
「炭治郎〜、周りを見ろって言ったばかりだよぉ」
「は、はい!」
炭治郎は池から這い出ると頬を叩き気合を入れたのだった。
「紗雪さんも良かったらどうぞ」
三日目の夜、隠が支度していってくれた夕飯を食べようとしていた紗雪に炭治郎は握り飯を差し出した。びっくり顔の紗雪に炭治郎が微笑む。
「お勝手を自由に使っていいとの事だったので、握り飯にしてみたんです。沢山作ったので良かったらどうぞ」
「炭治郎は元気だねぇ」
紗雪はのんびり笑うと握り飯を受け取った。御膳を挟んで座る炭治郎におかずを差し出す。
「食べなよぉ。他のみんなは食欲ないだろうけど、炭治郎は食べられるだろう?」
「良いんですか!?ありがとうございます!」
三日間庭を走り回り他の隊士は食欲さえないのだろう。炭治郎の握り飯はその為のものだ。だが炭治郎は基礎体力が違うようで、元気一杯の返事をするといただきますと手を合わせた。
それを眺めながら紗雪も握り飯を口にする。
「美味しい!」
一口食べて紗雪は声を上げた。ふんわりと米が潰れないようにぎられている上に塩加減が抜群だ。炭治郎がドヤァと胸を張った。
「俺、料理は自信あるんです。炭焼きの息子ですから」
料理は火加減!と力こぶを作る炭治郎に紗雪は声を上げて笑った。
「炭治郎は本当に楽しいねぇ。そういえば禰󠄀豆子ちゃんはどうしてるの?」
「蝶屋敷で預かって貰ってます。アオイさん達にも懐いてるし、今は怪我をしている隊士もいないし、胡蝶さんが薬の開発で柱稽古をしてないのでちょうど良いからって」
「あぁ、そう言えばそうだったねぇ」
柱稽古が決まってすぐ、いつもと違う様子だったしのぶを思い出し紗雪はそれ以上の言葉を飲み込んだ。
(顔を見に行きたいんだけどねぇ)
次々隊士がやって来る今の状況では屋敷を離れられない。美味しそうにおかずを食べる炭治郎の額の痣が目に入り紗雪は口を開いた。
「炭治郎、額の痣が現れた時ってどんな感じだった?蜜璃ちゃんの話ではよく分からなかったんだよねぇ」
時透の話はよく分かったが、心拍数はともかく体温を三十九度以上にすると言うのは人為的に可能なのだろうか。
もしかすると何か違う事が聞けるかと、紗雪は少し期待していた。
「うーん、前に鎹鴉経由で話した通りなんですけど、なんかこうグァーッてなってガーッて感じでお腹が熱くなってググーって感じでした!!」
「……そぉ」
(蜜璃ちゃん並に伝わるものがない…)
「にしても、体温を上げるかぁー。僕、刀を振る時常時力を込めてる訳じゃないしなぁ」
壱ノ型を20回ぐらい連発すれば違うのだろうか。
(上弦の鬼にそれは無理だねぇ)
通用しないにも程がある。紗雪は握り飯を食べ終わるとお茶を入れ、炭治郎の前にも置いた。
「ありがとうございます。あの…」
「なぁに?」
炭治郎はご馳走様でしたと手を合わせると、紗雪に向き直った。
「紗雪さんは刀を握る時そんなに力入ってないんですか?もちろん俺も力の緩急は気をつけてますけど」
「そうだねぇ」
紗雪は立ち上がると日輪刀を持ってきた。鞘をつけたまま柄を握ると炭治郎の前にかざす。
「だいたいこの程度の力。触ってごらん」
「えっ!こんな力で握ってるんですか!?すっぽ抜けません!?」
目を丸くする炭治郎に紗雪が笑う。
「流石に技を出すときはもう少し力入れるよぉ。これぐらい」
「無理です無理です。俺絶対刀飛ばします」
「僕は力が無いからねぇ」
「夕餉に間に合わなかったか!」
煉獄が庭から風呂敷包みを持って現れた。差し入れを持って来たのだ。まさか会いにきてくれると思ってなかった紗雪が目を丸くする。
「杏寿郎さん、いらっしゃぁい」
「…竈門少年と何をしてるんだ?」
二人で手を取り合っているように見えて煉獄が片眉を上げた。紗雪が笑って煉獄に日輪刀を差し出す。
「刀を握るときの力の入れ方を話してましたぁ。杏寿郎さんはどのぐらいの力をかけてましたかぁ?」
「む?俺か」
煉獄が紗雪の日輪刀を受け取ると、炭治郎が興味津々寄ってきた。揃って手元を覗き込まれ煉獄が苦笑する。
「俺はガッチリ握った方がやりやすかったからな」
グッと日輪刀を握ると紗雪と炭治郎がペタペタとその手に触る。奇妙な光景に煉獄の眉尻が下がった。
「椎名、何か意味あるのか?これ」
「いやぁ…話の流れでと言うか」
「四方山話みたいになっちゃいましたね」
(しっかりしろ!雑談なんてしている暇はないんだぞ俺)
炭治郎はあははと笑ってみせると御膳を持って立ち上がった。
「俺もう休みます。お休みなさい」
「…炭治郎」
紗雪は炭治郎を呼び止めると柔らかく微笑んだ。
「沢山知らなきゃいけない事も、やらなきゃいけない事もあるだろうけど、全部意味はあるから大丈夫だよぉ」
全ては君に繋がっている。そう言われて炭治郎は胸が暖かくなった。今自分に出来ることをやるしか無いのだ。
「ありがとうございます!紗雪さん!!」
「お休みぃ、炭治郎」
「よく休むんだぞ竈門少年!」
お勝手に膳を置き、部屋に戻りながら炭治郎ははたと気が付いた。
(紗雪さんと煉獄さん、お互い名前呼びになってた)
それにあの優しい信頼の匂い。炭治郎はなんだか嬉しくなると弾む足取りで部屋に戻ったのだった。
その二日後、炭治郎は紗雪の紙紐を奪うことに成功した。
柱稽古が始まり、紗雪の所にも宇髄の許可が出た隊士達がやって来つつあった。数日遅れてやってきた炭治郎も加わる。
「鬼ごっこですか?」
蝶屋敷の機能回復訓練を思い出し、炭治郎は首を傾げた。
「そう。速さに慣れる訓練だよー。僕が逃げるからこの腰の紐を取れたらそこで終了」
紗雪は羽織を脱いで腰の剣帯に何本もの紙紐をつけていた。足元まであるそれが風にそよぐ。
「範囲はこの庭に限定するねぇ。上は屋根の高さまで。僕が跳んだら誰も捕まえられないだろうしね」
「一人ずつですか?」
炭治郎の疑問に紗雪は朗らかに笑った。
「まさか!全員でかかってきていいよぉ〜。一人ずつなんて時間の無駄無駄」
ピキキッと紗雪以外の顔が引き攣った。三十名はいる隊士相手に広い庭とはいえ可能なのだろうか。
「お、疑ったねぇ。じゃ、始めようか」
にっこり笑うと紗雪の姿が消えた。
「「「!!?」」」
タタン!
「岩の上!」
ダン!!
「池の方!!」
ガシャッ!
「屋根の上ぇっ!」
音のする方に隊士達が顔を向けるが、聞こえるのは音だけで姿がない。庭のそこかしこから聞こえる紗雪の足音に炭治郎達は青褪めた。
「こ、これ…まず目で追えないと話にならないのでは…?」
「「「………」」」
隊士達が一斉に庭にばらけた。音を頼りに、あるいは全くの勘で手当たり次第に手を伸ばす。
「うぉぉぉぉっ!」
「こっちかぁ!?」
「いでぇ!」
隊士同士が正面衝突して倒れ込むのに、その場に紗雪が現れた。
「周囲に気を配るのを忘れちゃ駄目だよぉ。同士討ちなんて無駄な事だからねぇ」
「そこだぁぁ!」
炭治郎が飛び込むが綺麗に手は空を切る。
「くそぉ!」
炭治郎は屋根の上に登ると全体を見渡せる位置に陣取った。
(とにかく紗雪さんの速さに目を慣らすんだ!見えないものは捕まえようがない!!)
集中していると、方向転換する一瞬、加速する一瞬に紗雪の黒い影が見えて炭治郎はハッとした。
(そうか、紗雪さんだってずっと早く動き続けてる訳じゃない。加速し直す必要があるんだ)
「…っ」
それでも紗雪が最高速度の時に見る事ができなければいけない。炭治郎は痛いぐらい見ることに集中した。
「おい!炭治郎!!」
「後ろ!後ろ!!」
「…へっ?」
下にいる隊士達にこぞって後ろを指さされ炭治郎はキョトンとした。つうぅ〜っと指先で背筋をたどられて鳥肌を立てる。
「ーーーあっ!」
止めにツンと突かれて炭治郎は屋根から転がり落ちた。ドボン!と池の中に落ちる。
紗雪が人差し指を立てたままニシシと屋根の上で笑った。
「炭治郎〜、周りを見ろって言ったばかりだよぉ」
「は、はい!」
炭治郎は池から這い出ると頬を叩き気合を入れたのだった。
「紗雪さんも良かったらどうぞ」
三日目の夜、隠が支度していってくれた夕飯を食べようとしていた紗雪に炭治郎は握り飯を差し出した。びっくり顔の紗雪に炭治郎が微笑む。
「お勝手を自由に使っていいとの事だったので、握り飯にしてみたんです。沢山作ったので良かったらどうぞ」
「炭治郎は元気だねぇ」
紗雪はのんびり笑うと握り飯を受け取った。御膳を挟んで座る炭治郎におかずを差し出す。
「食べなよぉ。他のみんなは食欲ないだろうけど、炭治郎は食べられるだろう?」
「良いんですか!?ありがとうございます!」
三日間庭を走り回り他の隊士は食欲さえないのだろう。炭治郎の握り飯はその為のものだ。だが炭治郎は基礎体力が違うようで、元気一杯の返事をするといただきますと手を合わせた。
それを眺めながら紗雪も握り飯を口にする。
「美味しい!」
一口食べて紗雪は声を上げた。ふんわりと米が潰れないようにぎられている上に塩加減が抜群だ。炭治郎がドヤァと胸を張った。
「俺、料理は自信あるんです。炭焼きの息子ですから」
料理は火加減!と力こぶを作る炭治郎に紗雪は声を上げて笑った。
「炭治郎は本当に楽しいねぇ。そういえば禰󠄀豆子ちゃんはどうしてるの?」
「蝶屋敷で預かって貰ってます。アオイさん達にも懐いてるし、今は怪我をしている隊士もいないし、胡蝶さんが薬の開発で柱稽古をしてないのでちょうど良いからって」
「あぁ、そう言えばそうだったねぇ」
柱稽古が決まってすぐ、いつもと違う様子だったしのぶを思い出し紗雪はそれ以上の言葉を飲み込んだ。
(顔を見に行きたいんだけどねぇ)
次々隊士がやって来る今の状況では屋敷を離れられない。美味しそうにおかずを食べる炭治郎の額の痣が目に入り紗雪は口を開いた。
「炭治郎、額の痣が現れた時ってどんな感じだった?蜜璃ちゃんの話ではよく分からなかったんだよねぇ」
時透の話はよく分かったが、心拍数はともかく体温を三十九度以上にすると言うのは人為的に可能なのだろうか。
もしかすると何か違う事が聞けるかと、紗雪は少し期待していた。
「うーん、前に鎹鴉経由で話した通りなんですけど、なんかこうグァーッてなってガーッて感じでお腹が熱くなってググーって感じでした!!」
「……そぉ」
(蜜璃ちゃん並に伝わるものがない…)
「にしても、体温を上げるかぁー。僕、刀を振る時常時力を込めてる訳じゃないしなぁ」
壱ノ型を20回ぐらい連発すれば違うのだろうか。
(上弦の鬼にそれは無理だねぇ)
通用しないにも程がある。紗雪は握り飯を食べ終わるとお茶を入れ、炭治郎の前にも置いた。
「ありがとうございます。あの…」
「なぁに?」
炭治郎はご馳走様でしたと手を合わせると、紗雪に向き直った。
「紗雪さんは刀を握る時そんなに力入ってないんですか?もちろん俺も力の緩急は気をつけてますけど」
「そうだねぇ」
紗雪は立ち上がると日輪刀を持ってきた。鞘をつけたまま柄を握ると炭治郎の前にかざす。
「だいたいこの程度の力。触ってごらん」
「えっ!こんな力で握ってるんですか!?すっぽ抜けません!?」
目を丸くする炭治郎に紗雪が笑う。
「流石に技を出すときはもう少し力入れるよぉ。これぐらい」
「無理です無理です。俺絶対刀飛ばします」
「僕は力が無いからねぇ」
「夕餉に間に合わなかったか!」
煉獄が庭から風呂敷包みを持って現れた。差し入れを持って来たのだ。まさか会いにきてくれると思ってなかった紗雪が目を丸くする。
「杏寿郎さん、いらっしゃぁい」
「…竈門少年と何をしてるんだ?」
二人で手を取り合っているように見えて煉獄が片眉を上げた。紗雪が笑って煉獄に日輪刀を差し出す。
「刀を握るときの力の入れ方を話してましたぁ。杏寿郎さんはどのぐらいの力をかけてましたかぁ?」
「む?俺か」
煉獄が紗雪の日輪刀を受け取ると、炭治郎が興味津々寄ってきた。揃って手元を覗き込まれ煉獄が苦笑する。
「俺はガッチリ握った方がやりやすかったからな」
グッと日輪刀を握ると紗雪と炭治郎がペタペタとその手に触る。奇妙な光景に煉獄の眉尻が下がった。
「椎名、何か意味あるのか?これ」
「いやぁ…話の流れでと言うか」
「四方山話みたいになっちゃいましたね」
(しっかりしろ!雑談なんてしている暇はないんだぞ俺)
炭治郎はあははと笑ってみせると御膳を持って立ち上がった。
「俺もう休みます。お休みなさい」
「…炭治郎」
紗雪は炭治郎を呼び止めると柔らかく微笑んだ。
「沢山知らなきゃいけない事も、やらなきゃいけない事もあるだろうけど、全部意味はあるから大丈夫だよぉ」
全ては君に繋がっている。そう言われて炭治郎は胸が暖かくなった。今自分に出来ることをやるしか無いのだ。
「ありがとうございます!紗雪さん!!」
「お休みぃ、炭治郎」
「よく休むんだぞ竈門少年!」
お勝手に膳を置き、部屋に戻りながら炭治郎ははたと気が付いた。
(紗雪さんと煉獄さん、お互い名前呼びになってた)
それにあの優しい信頼の匂い。炭治郎はなんだか嬉しくなると弾む足取りで部屋に戻ったのだった。
その二日後、炭治郎は紗雪の紙紐を奪うことに成功した。