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「あ、千寿郎くーん」
「紗雪さん!お久しぶりです」
「うん、千寿郎君も元気だったぁ?」
紗雪は煉獄の家を訪ねていた。門の前で掃き掃除をしていた千寿郎がパッと笑顔になる。
「今日はどうされたのですか?」
「しのぶちゃんから薬を預かってきたんだぁ。通り道だったしついでにねぇ」
持ってきた薬を千寿郎に手渡す。
「煉獄さんはいるのぉ?」
「それが…兄上は所用で出ておりまして」
引退をして時間ができたからか煉獄は近所付き合いと言うものを始めていた。今日も近くの御隠居を訪ねて行っている。
「そっかぁ、じゃあ渡して置いて…」
「千寿郎、上がってもらいなさい」
若干残念に思いながらも帰ろうとする紗雪を玄関から愼寿郎が呼び止めた。
「父上」
「鳥柱殿を立ち話で返すものではない」
「は、はい」
「いや、僕は別に…」
「少しお時間をいただきたいのだ」
言うだけ言うと奥に引っ込んでしまう愼寿郎に千寿郎と紗雪は顔を見合わせた。
「…何だろうねぇ?」
「わかりません…とにかくどうぞ」
少し不安そうな顔の千寿郎に促され紗雪は客間へと足を踏み入れた。すでに座って待ち構えていた愼寿郎の対面に紗雪が腰掛ける。
千寿郎がお茶を二人の前に置くと退室していった。
「お忙しい所を呼び止めて申し訳ない」
「いいえ。どのようなご用件でしょうかぁ」
愼寿郎はしばらく湯呑みを見つめていたが、やがて意を決すると紗雪を真っ直ぐに見た。その視線の強さに紗雪が姿勢を正す。
「ずっと家族を顧みなかった愚か者の言葉ですがお聞きいただきたい。鳥柱殿、杏寿郎の連れ合いになろうと思っていただけておりますか?」
「………」
紗雪はビックリして愼寿郎を見つめた。愼寿郎は真剣そのものの顔をしている。
廊下に控えていた千寿郎が息を飲んだ。
「息子は鬼殺隊士を引退いたしました。今は煉獄家の跡取りとして様々なことを覚えようとしております。そんな息子を支えていただけますか?」
「……」
紗雪は湯呑みに視線を落とすと緩く微笑んだ。
(愼寿郎さんは生真面目な人なんだなぁ)
だから妻の死に立ち上がれないほど傷ついてしまったのだろう。紗雪は湯呑みを両手で包んだ。
「わかりません」
紗雪は愼寿郎に顔を向けると困ったように笑った。愼寿郎が小さく息を飲む。
「おっしゃる通り僕は柱なのでまだまだ鬼狩りを続けます。いつ死ぬかも分からない。鬼に喰われて死体さえ残らないかも」
「…鬼のいなくなった後の世界。正直僕にはそれが想像出来ない。夜毎多くの鬼を斬っても斬ってもアイツらは居なくならない。どこからとも無く湧いてくる」
「だから、鬼殺隊士じゃ無くなった煉獄さんと鬼のいない世界を生きるって言うのがどんなものなのか…僕には全然分からない」
「分かりま、せんか」
(それはあまりに辛い)
日々命をかけて戦っている紗雪が後の平和を信じられずにいる。それは一度は炎柱として刀を握った愼寿郎だから分かる孤独だった。
「…あぁ、でも」
明るい日差しが差し込んできて、紗雪はそちらを見ると細い目を更に細めた。ゆるゆると口元に穏やかな笑みが浮かぶ。
「鬼のいない世界で煉獄さんと、愼寿郎さんと、千寿郎君が、何の心配もなく夜眠れる…そんなのは良いですねぇ」
「………」
愼寿郎は無性に泣きたくなって慌てて目を閉じた。廊下にいた千寿郎も小さく鼻を啜る。その後ろに人影がしゃがみ込んだ。
(兄上!)
(しっ)
振り返った千寿郎に煉獄は人差し指を口元に当てると合図をする。千寿郎は口に手を当てると頷いた。
「ありがとうございますぅ。愼寿郎さんが言って下さらなかったら僕、考えたこともなかった。その為なら今よりもっと頑張れます」
「失礼な事を伺いました。どうか許して欲しい」
「感謝してるのに謝られたら、僕はどうしたら良いやら…」
紗雪は困って頭をかいた。廊下の煉獄が立ち上がると声をかける。
「父上、ただいま戻りました」
「おぉ、帰ったか」
「千寿郎より紗雪が来ていると聞きました」
「入りなさい」
すっと戸を開け入ってくる煉獄に紗雪がパッと表情を明るくする。
「お帰りなさい煉獄さぁん。お邪魔してますぅ」
「あぁ、何かあったのか?紗雪」
「いいえー、しのぶちゃんに頼まれて薬を届けに来ただけですよぉ。千寿郎君にお茶入れてもらって、愼寿郎さんとお話ししてましたぁ」
紗雪は立ち上がると煉獄の前に立ち下から上までを眺めた。
「煉獄さんはお出かけ着ですねぇ。似合ってますよぉ」
「「……?」」
千寿郎と愼寿郎がん?と言う顔をする。煉獄がニヤリと笑った。
「紗雪」
「はぁい」
「ここにいる者は全員煉獄だが?」
「………」
紗雪は千寿郎を見て、愼寿郎を見た。二人にそれぞれ頷かれ煉獄を見る。
「あれぇ?」
「うむ」
ニヤニヤする煉獄が何を求めているのかに気が付いて紗雪は頬を赤くした。千寿郎にいい笑顔を返され、愼寿郎に苦笑され、もう一度煉獄に向き合う。
「椎名」
「…っ、き、杏寿、郎…さん」
「うむ!」
煉獄に心底嬉しそうにされて紗雪は両手で顔を覆った。
(なにこれ、恥ずかしすぎるぅ)
想い人の親兄弟の前で名前呼びを強要されるってどんな拷問なのか。頭を撫でてくる煉獄に何か言おうと顔を上げた時、鎹鴉の日向の声が響いた。
「任務ー!任務ー!!」
「「「「!!」」」」
縁側に走り出るとそれを見上げる。千寿郎が走って取りに行ってくれた草履を紗雪は急いで履いた。
「慌ただしくしてすいませぇん。僕行きますねぇ」
「お気をつけて!」
千寿郎の声を背中に宙へ舞う。煉獄が声を上げた。
「紗雪!猗窩座と戦った時君が言った事を覚えているか!!」
「?」
空中で器用に振り返ると紗雪が首を傾げる。
「誰も死なせないと言った俺に君は俺自身がその言葉の中に入っていないと言った!」
「今度は俺が言うぞ!鬼のいない世界には俺たちだけじゃ無く君もいてくれ!!」
紗雪は目を大きく見開いた。
「君と未来を生きさせてくれ!」
「………」
紗雪は満面の笑みを浮かべると大きく手を振った。
「はぁい!行ってきまぁす!!」
一度近場の屋根に降りるとすぐさま跳躍していく。手をかざし遠くなる紗雪の姿を見送っていた千寿郎の耳に煉獄の小さな呟きが聞こえた。
「俺は千寿郎にいつもこんな気持ちを味合わせていたのだな」
「兄上…」
千寿郎が兄を見上げるが、煉獄は紗雪の去った方を見たまま動かない。その手が強く握りしめられているのを見て、千寿郎はそっとその腕に触れた。
「僕たちに出来るのは紗雪さんが無事にお戻りになるのを信じて待つ事だけです」
「…そうだな」
漸く千寿郎の方を向いた煉獄は苦く笑うのだった。
「紗雪さん!お久しぶりです」
「うん、千寿郎君も元気だったぁ?」
紗雪は煉獄の家を訪ねていた。門の前で掃き掃除をしていた千寿郎がパッと笑顔になる。
「今日はどうされたのですか?」
「しのぶちゃんから薬を預かってきたんだぁ。通り道だったしついでにねぇ」
持ってきた薬を千寿郎に手渡す。
「煉獄さんはいるのぉ?」
「それが…兄上は所用で出ておりまして」
引退をして時間ができたからか煉獄は近所付き合いと言うものを始めていた。今日も近くの御隠居を訪ねて行っている。
「そっかぁ、じゃあ渡して置いて…」
「千寿郎、上がってもらいなさい」
若干残念に思いながらも帰ろうとする紗雪を玄関から愼寿郎が呼び止めた。
「父上」
「鳥柱殿を立ち話で返すものではない」
「は、はい」
「いや、僕は別に…」
「少しお時間をいただきたいのだ」
言うだけ言うと奥に引っ込んでしまう愼寿郎に千寿郎と紗雪は顔を見合わせた。
「…何だろうねぇ?」
「わかりません…とにかくどうぞ」
少し不安そうな顔の千寿郎に促され紗雪は客間へと足を踏み入れた。すでに座って待ち構えていた愼寿郎の対面に紗雪が腰掛ける。
千寿郎がお茶を二人の前に置くと退室していった。
「お忙しい所を呼び止めて申し訳ない」
「いいえ。どのようなご用件でしょうかぁ」
愼寿郎はしばらく湯呑みを見つめていたが、やがて意を決すると紗雪を真っ直ぐに見た。その視線の強さに紗雪が姿勢を正す。
「ずっと家族を顧みなかった愚か者の言葉ですがお聞きいただきたい。鳥柱殿、杏寿郎の連れ合いになろうと思っていただけておりますか?」
「………」
紗雪はビックリして愼寿郎を見つめた。愼寿郎は真剣そのものの顔をしている。
廊下に控えていた千寿郎が息を飲んだ。
「息子は鬼殺隊士を引退いたしました。今は煉獄家の跡取りとして様々なことを覚えようとしております。そんな息子を支えていただけますか?」
「……」
紗雪は湯呑みに視線を落とすと緩く微笑んだ。
(愼寿郎さんは生真面目な人なんだなぁ)
だから妻の死に立ち上がれないほど傷ついてしまったのだろう。紗雪は湯呑みを両手で包んだ。
「わかりません」
紗雪は愼寿郎に顔を向けると困ったように笑った。愼寿郎が小さく息を飲む。
「おっしゃる通り僕は柱なのでまだまだ鬼狩りを続けます。いつ死ぬかも分からない。鬼に喰われて死体さえ残らないかも」
「…鬼のいなくなった後の世界。正直僕にはそれが想像出来ない。夜毎多くの鬼を斬っても斬ってもアイツらは居なくならない。どこからとも無く湧いてくる」
「だから、鬼殺隊士じゃ無くなった煉獄さんと鬼のいない世界を生きるって言うのがどんなものなのか…僕には全然分からない」
「分かりま、せんか」
(それはあまりに辛い)
日々命をかけて戦っている紗雪が後の平和を信じられずにいる。それは一度は炎柱として刀を握った愼寿郎だから分かる孤独だった。
「…あぁ、でも」
明るい日差しが差し込んできて、紗雪はそちらを見ると細い目を更に細めた。ゆるゆると口元に穏やかな笑みが浮かぶ。
「鬼のいない世界で煉獄さんと、愼寿郎さんと、千寿郎君が、何の心配もなく夜眠れる…そんなのは良いですねぇ」
「………」
愼寿郎は無性に泣きたくなって慌てて目を閉じた。廊下にいた千寿郎も小さく鼻を啜る。その後ろに人影がしゃがみ込んだ。
(兄上!)
(しっ)
振り返った千寿郎に煉獄は人差し指を口元に当てると合図をする。千寿郎は口に手を当てると頷いた。
「ありがとうございますぅ。愼寿郎さんが言って下さらなかったら僕、考えたこともなかった。その為なら今よりもっと頑張れます」
「失礼な事を伺いました。どうか許して欲しい」
「感謝してるのに謝られたら、僕はどうしたら良いやら…」
紗雪は困って頭をかいた。廊下の煉獄が立ち上がると声をかける。
「父上、ただいま戻りました」
「おぉ、帰ったか」
「千寿郎より紗雪が来ていると聞きました」
「入りなさい」
すっと戸を開け入ってくる煉獄に紗雪がパッと表情を明るくする。
「お帰りなさい煉獄さぁん。お邪魔してますぅ」
「あぁ、何かあったのか?紗雪」
「いいえー、しのぶちゃんに頼まれて薬を届けに来ただけですよぉ。千寿郎君にお茶入れてもらって、愼寿郎さんとお話ししてましたぁ」
紗雪は立ち上がると煉獄の前に立ち下から上までを眺めた。
「煉獄さんはお出かけ着ですねぇ。似合ってますよぉ」
「「……?」」
千寿郎と愼寿郎がん?と言う顔をする。煉獄がニヤリと笑った。
「紗雪」
「はぁい」
「ここにいる者は全員煉獄だが?」
「………」
紗雪は千寿郎を見て、愼寿郎を見た。二人にそれぞれ頷かれ煉獄を見る。
「あれぇ?」
「うむ」
ニヤニヤする煉獄が何を求めているのかに気が付いて紗雪は頬を赤くした。千寿郎にいい笑顔を返され、愼寿郎に苦笑され、もう一度煉獄に向き合う。
「椎名」
「…っ、き、杏寿、郎…さん」
「うむ!」
煉獄に心底嬉しそうにされて紗雪は両手で顔を覆った。
(なにこれ、恥ずかしすぎるぅ)
想い人の親兄弟の前で名前呼びを強要されるってどんな拷問なのか。頭を撫でてくる煉獄に何か言おうと顔を上げた時、鎹鴉の日向の声が響いた。
「任務ー!任務ー!!」
「「「「!!」」」」
縁側に走り出るとそれを見上げる。千寿郎が走って取りに行ってくれた草履を紗雪は急いで履いた。
「慌ただしくしてすいませぇん。僕行きますねぇ」
「お気をつけて!」
千寿郎の声を背中に宙へ舞う。煉獄が声を上げた。
「紗雪!猗窩座と戦った時君が言った事を覚えているか!!」
「?」
空中で器用に振り返ると紗雪が首を傾げる。
「誰も死なせないと言った俺に君は俺自身がその言葉の中に入っていないと言った!」
「今度は俺が言うぞ!鬼のいない世界には俺たちだけじゃ無く君もいてくれ!!」
紗雪は目を大きく見開いた。
「君と未来を生きさせてくれ!」
「………」
紗雪は満面の笑みを浮かべると大きく手を振った。
「はぁい!行ってきまぁす!!」
一度近場の屋根に降りるとすぐさま跳躍していく。手をかざし遠くなる紗雪の姿を見送っていた千寿郎の耳に煉獄の小さな呟きが聞こえた。
「俺は千寿郎にいつもこんな気持ちを味合わせていたのだな」
「兄上…」
千寿郎が兄を見上げるが、煉獄は紗雪の去った方を見たまま動かない。その手が強く握りしめられているのを見て、千寿郎はそっとその腕に触れた。
「僕たちに出来るのは紗雪さんが無事にお戻りになるのを信じて待つ事だけです」
「…そうだな」
漸く千寿郎の方を向いた煉獄は苦く笑うのだった。