連載
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「しのぶちゃーん」
禰󠄀豆子を無事蝶屋敷に送り届け、報告の諸々を済ませてきた紗雪は蝶屋敷へと戻ってきた。廊下でしのぶを見つけ後ろから抱きつく。
「お疲れ様でした紗雪さん。煉獄さんの事、間に合って本当によかったです」
「ありがとうしのぶちゃん。でも上弦の鬼を逃したって不死川さんに滅茶苦茶怒られた〜」
もはや鬼よりも怖い気がする。紗雪が泣きべそをかくとしのぶが頭を撫でてくれた。
「現場での判断はその場にいなければ分からないものです。紗雪さんはとても頑張ったと思いますよ」
「しのぶちゃん、優しい〜」
紗雪は一通りしのぶに甘えると、声を小さくして尋ねた。
「それで、煉獄さんの容態はどうかなぁ?傷、思ったより深いよねぇ?」
腹の傷ばかりでは無い筈だ。すっかり元通りと思えるほど紗雪も呑気では無い。しのぶが表情を引き締めた。
「今、ご本人に話をしに行く所です。紗雪さんもお聞きになりますか?」
「煉獄さんが良いなら聞きたい所だねぇ」
紗雪はしのぶと連れ立って煉獄の病室へ向かった。左目を包帯で覆った煉獄がベットに体を起こしている。煉獄は紗雪を見ると笑顔を浮かべた。
「紗雪!報告は済んだのか?」
「さっき終わった所ですぅ。煉獄さんは気分いかがですかぁ?」
「うむ!凄ぶる良いぞ!!」
笑顔でペロッと嘘をつく煉獄にしのぶの額に青筋が浮かんだ。たかだか2日で良くなる体調では無い。
「では煉獄さんの薬湯はもう少し濃くしても良さそうですね」
「すまん!それは勘弁してくれ!!」
あっさり撤回する煉獄にため息をつくとしのぶは脇にある椅子に腰掛けた。
「煉獄さんの今後についてお話ししたいのですけど、紗雪さんが同席しても構いませんか?」
「無論だ。紗雪に隠し事をする気はない」
煉獄は紗雪の方を見ると一つ頷いた。しのぶが口を開く。
「左目は完全に潰れてしまっていますので、回復の見込みはありません。肋骨は問題なくつきますが、内臓…特に肺が傷付いています」
「つまり?」
「これまでのように全集中の常中は不可能だと思ってください」
しのぶの告知に煉獄は固く目を閉じた。覚悟していたこととは言えやはり事実が重い。
「腹筋も断裂しています。これに関しては安静第一です。痛みがなくなり違和感が消えるまで無理をしてはいけません」
「どのぐらいかかる?」
「全集中ができないことを考えると4ヶ月から半年ほどかと」
聞いているだけで辛くて紗雪は隊服の胸の部分を掴んだ。長い沈黙の後、煉獄が息を吐き出す。
「引退だな。呼吸が使えない上に視界も半分では足手まといにしかならない」
「…お館様には私の方からお話しします」
「頼む」
しのぶは頭を下げると部屋を出ていった。紗雪がそっと煉獄の頭を抱え込む。
「君と共に戦えなくなるのは辛いな」
「あとは任せてください…」
「…あぁ、君を信じている」
煉獄は紗雪の腰に腕を回すとしがみついた。その暖かな体に顔を埋めると腕に力を込める。
「紗雪…椎名……こんな情けない男でもまだ好いていてくれるか」
「煉獄さんは情けなくなんか無いですよぉ。どんな煉獄さんでも、それが煉獄さんなら僕は好きです」
「椎名」
紗雪の頬に手を添えると煉獄がそっと引き寄せる。紗雪が目を閉じ…。
コンコン。
「「!?」」
慌てて離れる。ドアが開いて顔を出したのは千寿郎だった。
「兄上、失礼致します」
「千寿郎か!よく来たな!!」
(おぉ、煉獄さんの弟さんかぁ。よく似てるなぁ)
煉獄の子供の頃もこんなだったのだろうか。紗雪は微笑ましい気持ちになった。
「……さぁ…往生際が悪いですよ……ほら!」
「「?」」
千寿郎が廊下で誰かを叱咤するのに煉獄と紗雪は顔を見合わせた。千寿郎に手を引かれおずおずと愼寿郎が入ってくる。煉獄が驚いて腰を浮かせた。
「父上!?…っ!」
傷に響いて煉獄が顔を顰める。愼寿郎が慌てて近寄ってきた。
「無理をするな」
「申し訳…ありません」
ふぅ…と長い息を吐き出す煉獄に愼寿郎が眉を下げる。
「いや、謝らなければならないのは俺だ。お前が死にかけたと聞いてようやく目が覚めた」
「………」
煉獄は目を見開いて父親を見た。愼寿郎が深々と頭を下げた。
「すまなかった杏寿郎。瑠火が死んでから俺は腑抜けていた。現実から目を逸らし、お前達にも酷いことをしたと思っている。不甲斐のない父親で本当にすまない」
「…父上、俺は父上を不甲斐ないなどと一度も思ったことはありません」
煉獄は心穏やかに愼寿郎の謝罪を受け入れることが出来た。頭を上げこちらを見る父に笑いかける。
「父上が教えて下さった剣術の基礎があったからこそ俺は炎の呼吸を極めることが出来ました。こちらこそ父上にご心配をおかけするような不甲斐ない息子で申し訳ありません」
煉獄が頭を下げると愼寿郎の目にみるみるうちに涙が溜まった。腕で目を隠すと声を震わせる。
「馬鹿者…お前が不甲斐ないわけがあるか…!お前は、お前は自慢の息子だ」
「ありがとう…ございます」
声を震わせる煉獄の背中を見ながら失敗したなと紗雪は思った。
(病室を出て行く機会をすっかり逃しちゃったねぇ。家族だけの空気なのに申し訳ない)
今からでも遅くないかと紗雪は気配を消すとそぉっと煉獄から離れた。千寿郎がぱっと紗雪に気が付く。
(ぎゃぁ!流石煉獄さんの弟!鋭いなぁ)
「兄上、そちらの方は?」
「紗雪、どこへ行く?」
全員の視線がこちらを向いて紗雪は慌てて手を振った。
「どこも何も…僕は失礼しますのでご家族でごゆっくりぃ」
「まぁ待て」
「わぁっ」
煉獄は紗雪の手を摑まえると引き寄せた。完全に無防備だった紗雪が煉獄の膝の上に座る。驚く3人を余所に紗雪の肩を抱くと煉獄はいい笑顔を見せた。
「父上、千寿郎!紹介します!俺の恋人で紗雪椎名と言います」
「えっ!?」
「何!?」
「ちょ…煉獄さぁん!?」
分りやすい紹介だが色々と誤解を生んだ気がする。紗雪は大急ぎで煉獄の上からどけると未だ唖然としている愼寿郎と千寿郎に頭を下げた。
「初めましてぇ。柱を務めさせて頂いております、紗雪椎名と申しますぅ」
「あっ、初めまして!千寿郎と申します。この度は兄を助けて頂きありがとうございます」
兄の唐突さに慣れているのだろう、いち早く復活した千寿郎が挨拶する。愼寿郎が震える手で紗雪を指差した。
「失礼だが…男じゃ、ないのか?」
煉獄家の長男が男色とは跡継ぎを考えるうえで由々しき問題である。煉獄は紗雪の手を握るとよく通る声ではきはきと答えた。
「紗雪は女人です!!」
「声がでかい!」
別に隠し立てしているわけではないが、知らぬ者も多い内容をわざわざ喧伝する事もない。紗雪は思わず煉獄の頭をスパァン!と叩いた。怒りながら病室のドアへと向かう。
「何でも勢いで押し切れば良いってもんじゃないんですよぉ!!僕はもう巡回行きますから、お父さんや弟君とよくよく話し合ってください!!」
積り過ぎて埋もれてしまうほどの話がきっとあるだろう。紗雪は音を立てて戸を閉めると去っていった。愼寿郎が呟く。
「…気の強い女が好きなのは遺伝かもな」
「そうですね」
叩かれた頭をさすりながら煉獄は晴れやかに笑った。
禰󠄀豆子を無事蝶屋敷に送り届け、報告の諸々を済ませてきた紗雪は蝶屋敷へと戻ってきた。廊下でしのぶを見つけ後ろから抱きつく。
「お疲れ様でした紗雪さん。煉獄さんの事、間に合って本当によかったです」
「ありがとうしのぶちゃん。でも上弦の鬼を逃したって不死川さんに滅茶苦茶怒られた〜」
もはや鬼よりも怖い気がする。紗雪が泣きべそをかくとしのぶが頭を撫でてくれた。
「現場での判断はその場にいなければ分からないものです。紗雪さんはとても頑張ったと思いますよ」
「しのぶちゃん、優しい〜」
紗雪は一通りしのぶに甘えると、声を小さくして尋ねた。
「それで、煉獄さんの容態はどうかなぁ?傷、思ったより深いよねぇ?」
腹の傷ばかりでは無い筈だ。すっかり元通りと思えるほど紗雪も呑気では無い。しのぶが表情を引き締めた。
「今、ご本人に話をしに行く所です。紗雪さんもお聞きになりますか?」
「煉獄さんが良いなら聞きたい所だねぇ」
紗雪はしのぶと連れ立って煉獄の病室へ向かった。左目を包帯で覆った煉獄がベットに体を起こしている。煉獄は紗雪を見ると笑顔を浮かべた。
「紗雪!報告は済んだのか?」
「さっき終わった所ですぅ。煉獄さんは気分いかがですかぁ?」
「うむ!凄ぶる良いぞ!!」
笑顔でペロッと嘘をつく煉獄にしのぶの額に青筋が浮かんだ。たかだか2日で良くなる体調では無い。
「では煉獄さんの薬湯はもう少し濃くしても良さそうですね」
「すまん!それは勘弁してくれ!!」
あっさり撤回する煉獄にため息をつくとしのぶは脇にある椅子に腰掛けた。
「煉獄さんの今後についてお話ししたいのですけど、紗雪さんが同席しても構いませんか?」
「無論だ。紗雪に隠し事をする気はない」
煉獄は紗雪の方を見ると一つ頷いた。しのぶが口を開く。
「左目は完全に潰れてしまっていますので、回復の見込みはありません。肋骨は問題なくつきますが、内臓…特に肺が傷付いています」
「つまり?」
「これまでのように全集中の常中は不可能だと思ってください」
しのぶの告知に煉獄は固く目を閉じた。覚悟していたこととは言えやはり事実が重い。
「腹筋も断裂しています。これに関しては安静第一です。痛みがなくなり違和感が消えるまで無理をしてはいけません」
「どのぐらいかかる?」
「全集中ができないことを考えると4ヶ月から半年ほどかと」
聞いているだけで辛くて紗雪は隊服の胸の部分を掴んだ。長い沈黙の後、煉獄が息を吐き出す。
「引退だな。呼吸が使えない上に視界も半分では足手まといにしかならない」
「…お館様には私の方からお話しします」
「頼む」
しのぶは頭を下げると部屋を出ていった。紗雪がそっと煉獄の頭を抱え込む。
「君と共に戦えなくなるのは辛いな」
「あとは任せてください…」
「…あぁ、君を信じている」
煉獄は紗雪の腰に腕を回すとしがみついた。その暖かな体に顔を埋めると腕に力を込める。
「紗雪…椎名……こんな情けない男でもまだ好いていてくれるか」
「煉獄さんは情けなくなんか無いですよぉ。どんな煉獄さんでも、それが煉獄さんなら僕は好きです」
「椎名」
紗雪の頬に手を添えると煉獄がそっと引き寄せる。紗雪が目を閉じ…。
コンコン。
「「!?」」
慌てて離れる。ドアが開いて顔を出したのは千寿郎だった。
「兄上、失礼致します」
「千寿郎か!よく来たな!!」
(おぉ、煉獄さんの弟さんかぁ。よく似てるなぁ)
煉獄の子供の頃もこんなだったのだろうか。紗雪は微笑ましい気持ちになった。
「……さぁ…往生際が悪いですよ……ほら!」
「「?」」
千寿郎が廊下で誰かを叱咤するのに煉獄と紗雪は顔を見合わせた。千寿郎に手を引かれおずおずと愼寿郎が入ってくる。煉獄が驚いて腰を浮かせた。
「父上!?…っ!」
傷に響いて煉獄が顔を顰める。愼寿郎が慌てて近寄ってきた。
「無理をするな」
「申し訳…ありません」
ふぅ…と長い息を吐き出す煉獄に愼寿郎が眉を下げる。
「いや、謝らなければならないのは俺だ。お前が死にかけたと聞いてようやく目が覚めた」
「………」
煉獄は目を見開いて父親を見た。愼寿郎が深々と頭を下げた。
「すまなかった杏寿郎。瑠火が死んでから俺は腑抜けていた。現実から目を逸らし、お前達にも酷いことをしたと思っている。不甲斐のない父親で本当にすまない」
「…父上、俺は父上を不甲斐ないなどと一度も思ったことはありません」
煉獄は心穏やかに愼寿郎の謝罪を受け入れることが出来た。頭を上げこちらを見る父に笑いかける。
「父上が教えて下さった剣術の基礎があったからこそ俺は炎の呼吸を極めることが出来ました。こちらこそ父上にご心配をおかけするような不甲斐ない息子で申し訳ありません」
煉獄が頭を下げると愼寿郎の目にみるみるうちに涙が溜まった。腕で目を隠すと声を震わせる。
「馬鹿者…お前が不甲斐ないわけがあるか…!お前は、お前は自慢の息子だ」
「ありがとう…ございます」
声を震わせる煉獄の背中を見ながら失敗したなと紗雪は思った。
(病室を出て行く機会をすっかり逃しちゃったねぇ。家族だけの空気なのに申し訳ない)
今からでも遅くないかと紗雪は気配を消すとそぉっと煉獄から離れた。千寿郎がぱっと紗雪に気が付く。
(ぎゃぁ!流石煉獄さんの弟!鋭いなぁ)
「兄上、そちらの方は?」
「紗雪、どこへ行く?」
全員の視線がこちらを向いて紗雪は慌てて手を振った。
「どこも何も…僕は失礼しますのでご家族でごゆっくりぃ」
「まぁ待て」
「わぁっ」
煉獄は紗雪の手を摑まえると引き寄せた。完全に無防備だった紗雪が煉獄の膝の上に座る。驚く3人を余所に紗雪の肩を抱くと煉獄はいい笑顔を見せた。
「父上、千寿郎!紹介します!俺の恋人で紗雪椎名と言います」
「えっ!?」
「何!?」
「ちょ…煉獄さぁん!?」
分りやすい紹介だが色々と誤解を生んだ気がする。紗雪は大急ぎで煉獄の上からどけると未だ唖然としている愼寿郎と千寿郎に頭を下げた。
「初めましてぇ。柱を務めさせて頂いております、紗雪椎名と申しますぅ」
「あっ、初めまして!千寿郎と申します。この度は兄を助けて頂きありがとうございます」
兄の唐突さに慣れているのだろう、いち早く復活した千寿郎が挨拶する。愼寿郎が震える手で紗雪を指差した。
「失礼だが…男じゃ、ないのか?」
煉獄家の長男が男色とは跡継ぎを考えるうえで由々しき問題である。煉獄は紗雪の手を握るとよく通る声ではきはきと答えた。
「紗雪は女人です!!」
「声がでかい!」
別に隠し立てしているわけではないが、知らぬ者も多い内容をわざわざ喧伝する事もない。紗雪は思わず煉獄の頭をスパァン!と叩いた。怒りながら病室のドアへと向かう。
「何でも勢いで押し切れば良いってもんじゃないんですよぉ!!僕はもう巡回行きますから、お父さんや弟君とよくよく話し合ってください!!」
積り過ぎて埋もれてしまうほどの話がきっとあるだろう。紗雪は音を立てて戸を閉めると去っていった。愼寿郎が呟く。
「…気の強い女が好きなのは遺伝かもな」
「そうですね」
叩かれた頭をさすりながら煉獄は晴れやかに笑った。