四章
夢小説設定
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「おっせーぞ!煉獄!!」
知らされていた花見会場に着くと杏寿郎は早速大学の友人にそう声をかけられた。
「うむ!すまん!部活が長引いてしまってな!」
「うちの強豪剣道部は休みの日まで良くやるよなー」
輪の中に入ると渡された缶ビールの蓋を開ける。悲しいかな予算の関係上発泡酒だ。乾杯!カンパーイ!!と既に酔っている友人達が陽気に笑った。
風が吹くと満開の桜から花びらが雪のように降り注ぐ。見事なこぼれ桜だと杏寿郎は思った。
「…予定より人数が少ないようだな!」
聞いていた人数より片手ほどメンバーが足りない気がする。杏寿郎が指摘すれば一部の男子生徒がどんよりと暗くなった。
「どうした!」
「ほっといてやれぇ」
目を丸くする杏寿郎に返事をしたのは高校の時に再会を果たした実弥だった。呆れ顔で道の向こうを顎でしゃくる。
「ナンパしに行って玉砕してきただけだぁ。2人断られた段階でよしゃ良いのに順番に行っては律儀に振られてきやがる」
「迷惑行為だぞ!!」
「うるせー!煉獄や不死川に俺たちモブ要員の気持ちがわかってたまるか!」
「とにかくメチャメチャ美人なんだよ!」
「そうだ煉獄!お前が声かけてきてくれよ!」
「お前で駄目なら俺らも諦めるからさ」
「「「頼む煉獄!俺達にも夢ぐらい見させてくれよー!」」」
拝み倒されて杏寿郎は渋い顔をした。何の因果か前の人生の記憶を持って生まれてしまった自分にとって、傍にいて欲しい相手は記憶にある人物だけでどうしても他に目を向けられない。
「いや、俺は…」
「行ってきてやれよぉ」
実弥の予想外の台詞に杏寿郎は目を見開いた。同じく前世の記憶がある実弥とは思えない言葉だ。しかし実弥は酔っているのか機嫌良く笑っていた。
「たまには良いんじゃねぇの?友達付き合いも大事だぜぇ?」
「面白がっているな!不死川!!」
「よく言った不死川!行け煉獄!俺たちの夢を乗せて!!」
「俺は戦隊ロボじゃ無いぞ!」
杏寿郎は止むを得ず立ち上がった。ナンパ云々は置いておくにしても迷惑をかけた女性に謝ってこようと思う。
「道を曲がった向こうのベンチに座ってる子だぞー!メッチャ美人だからすぐに分かるから!」
陽気に手を振ってくる友人達に煉獄は呆れ顔で手を振り返すのだった。
「はぁ…目が眩みそう」
ベンチに腰掛けて桜を見上げていた椎名は視界に広がる満開の桜と青空に目を細めた。
(人の一生って何て短いのかと思っていたけど)
長い時を生きてきた前世の自分とは感じ方が何もかも違う。日本のことなどほとんど知るもののいない遠い国に生まれ、自分の中にある記憶の意味が理解できるようになってから椎名の目標はこの国に来ることだった。
幼い頃から絶対日本に行くと公言して回り、とにかくお金を貯め続け、日本でつける職について調べ…そこでようやく椎名が本気である事に気付いた両親をひたすら説得してやって来た日本。はっきり言って道のりは長かった。
(でもやっと来れた)
あの時、ついぞ果たされなかったこぼれ桜を見ようと言う約束。あの後も何度も季節は巡ったけれど桜を見る為だけに立ち止まることは無かった。今も隣に約束した相手はいないけれど、日本に来ることの出来た自分へのご褒美にしては上々だろう。
(あなたが生きた町に戻ってきたわ杏寿郎)
「一人で花見はさみしーでしょ?ねー、おねーさん」
(この小煩い連中がいなければもっと良いのに)
軽ーく声をかけてきた男に椎名は冷たい一瞥をくれた。にべもなく切り捨てるとしょんぼりと立ち去っていく背中を見送ることなくため息をつく。
(さっきから入れ替わり立ち替わり鬱陶しい)
人として生まれ直したとはいえ椎名の根っこは変わらない。自分の人生はただ一人に捧げたのだ。
それにしてもこうも立ち続けに邪魔が入っては落ち着かない。今日はこれから引っ越し荷物も届くことだしと、椎名はベンチから立ち上がると肩やスカートについた花弁を払った。
「椎名…?」
「………」
届いた声に椎名はそちらを振り返った。金の髪に赤い差し色、燃えるような瞳の持ち主に呆然とする。
ぐっと唇を引き結んだ杏寿郎はゆっくり歩いていくと椎名の前に立った。目を見開いたままの椎名に泣きそうな顔で微笑む。
「椎名」
「………」
そっと両手を伸ばすと椎名は杏寿郎の両頬を包んだ。その手を上から握り締めると杏寿郎が頰を擦り寄せる。
「君との約束をやっと果たせる」
「………」
「俺の名を呼んでくれ椎名」
「…杏寿郎」
名を呼んだ途端、椎名の目に水滴が落ちた。それは椎名の涙と混じり合い頰を滑り落ちていく。杏寿郎は椎名の背に腕を回すと力一杯抱き締めた。
「また、俺と生きて欲しい」
「…今度はシワシワになるまで一緒にいてくれなきゃ嫌よ?」
「うむ!勿論だ!」
「煉獄〜…」
太陽のように眩しい笑顔を浮かべる杏寿郎の後ろから暗く澱んだ声が聞こえた。振り返ると友人達が絶望した顔でこちらを見ている。
「さっきの迷惑な人達…え、知り合いなの?」
「すまん、大学の友人なんだ!椎名には迷惑をかけたな!」
「流石にお前でも振られるだろうと思ったのに俺たちの夢を返せー!」
「君たちの夢は歪んでいるな!!」
「チクショー!」
さめざめと泣く友人達に呆れた様子を隠さない杏寿郎。椎名は背伸びすると頰に口付けた。ギャース!と悲鳴を上げる友人達とポカンとする杏寿郎に小さく笑う。
「引越しの荷物が届くからもう行かなくちゃ」
「引越し…この町に住むのか!」
椎名が頷くとパァッと笑顔になる杏寿郎。
「俺も手伝う!部屋に行っても構わないだろうか!道中君の話を聞かせてくれ!!」
「はい!はい!俺達も手伝います!!」
「君達は待機命令だ!!」
こりない友人達をバッサリ切り捨てると手を繋いで歩き出す。
「大きな荷物はないのよ?」
家具や家電はこれからリサイクルショップを巡る予定だ。
杏寿郎は椎名を引き寄せると耳元に唇を寄せた。
「手伝わせてくれ。作業が夜までかかると尚嬉しい。明日目が覚めた時、夢だったなんて事にはなって欲しくないからな」
「夢…そうね、それは私も嫌だわ」
隣に大切な人がいる。桜並木を二人は夢心地で歩いていくのだった。
「不死川ー!煉獄が酷い!!」
(まぁ、そうなるわなぁ)
友人達の話から女性の正体に当たりをつけていた実弥は、泣きついてくる友人達をスルーしながら発泡酒を傾けた。
知らされていた花見会場に着くと杏寿郎は早速大学の友人にそう声をかけられた。
「うむ!すまん!部活が長引いてしまってな!」
「うちの強豪剣道部は休みの日まで良くやるよなー」
輪の中に入ると渡された缶ビールの蓋を開ける。悲しいかな予算の関係上発泡酒だ。乾杯!カンパーイ!!と既に酔っている友人達が陽気に笑った。
風が吹くと満開の桜から花びらが雪のように降り注ぐ。見事なこぼれ桜だと杏寿郎は思った。
「…予定より人数が少ないようだな!」
聞いていた人数より片手ほどメンバーが足りない気がする。杏寿郎が指摘すれば一部の男子生徒がどんよりと暗くなった。
「どうした!」
「ほっといてやれぇ」
目を丸くする杏寿郎に返事をしたのは高校の時に再会を果たした実弥だった。呆れ顔で道の向こうを顎でしゃくる。
「ナンパしに行って玉砕してきただけだぁ。2人断られた段階でよしゃ良いのに順番に行っては律儀に振られてきやがる」
「迷惑行為だぞ!!」
「うるせー!煉獄や不死川に俺たちモブ要員の気持ちがわかってたまるか!」
「とにかくメチャメチャ美人なんだよ!」
「そうだ煉獄!お前が声かけてきてくれよ!」
「お前で駄目なら俺らも諦めるからさ」
「「「頼む煉獄!俺達にも夢ぐらい見させてくれよー!」」」
拝み倒されて杏寿郎は渋い顔をした。何の因果か前の人生の記憶を持って生まれてしまった自分にとって、傍にいて欲しい相手は記憶にある人物だけでどうしても他に目を向けられない。
「いや、俺は…」
「行ってきてやれよぉ」
実弥の予想外の台詞に杏寿郎は目を見開いた。同じく前世の記憶がある実弥とは思えない言葉だ。しかし実弥は酔っているのか機嫌良く笑っていた。
「たまには良いんじゃねぇの?友達付き合いも大事だぜぇ?」
「面白がっているな!不死川!!」
「よく言った不死川!行け煉獄!俺たちの夢を乗せて!!」
「俺は戦隊ロボじゃ無いぞ!」
杏寿郎は止むを得ず立ち上がった。ナンパ云々は置いておくにしても迷惑をかけた女性に謝ってこようと思う。
「道を曲がった向こうのベンチに座ってる子だぞー!メッチャ美人だからすぐに分かるから!」
陽気に手を振ってくる友人達に煉獄は呆れ顔で手を振り返すのだった。
「はぁ…目が眩みそう」
ベンチに腰掛けて桜を見上げていた椎名は視界に広がる満開の桜と青空に目を細めた。
(人の一生って何て短いのかと思っていたけど)
長い時を生きてきた前世の自分とは感じ方が何もかも違う。日本のことなどほとんど知るもののいない遠い国に生まれ、自分の中にある記憶の意味が理解できるようになってから椎名の目標はこの国に来ることだった。
幼い頃から絶対日本に行くと公言して回り、とにかくお金を貯め続け、日本でつける職について調べ…そこでようやく椎名が本気である事に気付いた両親をひたすら説得してやって来た日本。はっきり言って道のりは長かった。
(でもやっと来れた)
あの時、ついぞ果たされなかったこぼれ桜を見ようと言う約束。あの後も何度も季節は巡ったけれど桜を見る為だけに立ち止まることは無かった。今も隣に約束した相手はいないけれど、日本に来ることの出来た自分へのご褒美にしては上々だろう。
(あなたが生きた町に戻ってきたわ杏寿郎)
「一人で花見はさみしーでしょ?ねー、おねーさん」
(この小煩い連中がいなければもっと良いのに)
軽ーく声をかけてきた男に椎名は冷たい一瞥をくれた。にべもなく切り捨てるとしょんぼりと立ち去っていく背中を見送ることなくため息をつく。
(さっきから入れ替わり立ち替わり鬱陶しい)
人として生まれ直したとはいえ椎名の根っこは変わらない。自分の人生はただ一人に捧げたのだ。
それにしてもこうも立ち続けに邪魔が入っては落ち着かない。今日はこれから引っ越し荷物も届くことだしと、椎名はベンチから立ち上がると肩やスカートについた花弁を払った。
「椎名…?」
「………」
届いた声に椎名はそちらを振り返った。金の髪に赤い差し色、燃えるような瞳の持ち主に呆然とする。
ぐっと唇を引き結んだ杏寿郎はゆっくり歩いていくと椎名の前に立った。目を見開いたままの椎名に泣きそうな顔で微笑む。
「椎名」
「………」
そっと両手を伸ばすと椎名は杏寿郎の両頬を包んだ。その手を上から握り締めると杏寿郎が頰を擦り寄せる。
「君との約束をやっと果たせる」
「………」
「俺の名を呼んでくれ椎名」
「…杏寿郎」
名を呼んだ途端、椎名の目に水滴が落ちた。それは椎名の涙と混じり合い頰を滑り落ちていく。杏寿郎は椎名の背に腕を回すと力一杯抱き締めた。
「また、俺と生きて欲しい」
「…今度はシワシワになるまで一緒にいてくれなきゃ嫌よ?」
「うむ!勿論だ!」
「煉獄〜…」
太陽のように眩しい笑顔を浮かべる杏寿郎の後ろから暗く澱んだ声が聞こえた。振り返ると友人達が絶望した顔でこちらを見ている。
「さっきの迷惑な人達…え、知り合いなの?」
「すまん、大学の友人なんだ!椎名には迷惑をかけたな!」
「流石にお前でも振られるだろうと思ったのに俺たちの夢を返せー!」
「君たちの夢は歪んでいるな!!」
「チクショー!」
さめざめと泣く友人達に呆れた様子を隠さない杏寿郎。椎名は背伸びすると頰に口付けた。ギャース!と悲鳴を上げる友人達とポカンとする杏寿郎に小さく笑う。
「引越しの荷物が届くからもう行かなくちゃ」
「引越し…この町に住むのか!」
椎名が頷くとパァッと笑顔になる杏寿郎。
「俺も手伝う!部屋に行っても構わないだろうか!道中君の話を聞かせてくれ!!」
「はい!はい!俺達も手伝います!!」
「君達は待機命令だ!!」
こりない友人達をバッサリ切り捨てると手を繋いで歩き出す。
「大きな荷物はないのよ?」
家具や家電はこれからリサイクルショップを巡る予定だ。
杏寿郎は椎名を引き寄せると耳元に唇を寄せた。
「手伝わせてくれ。作業が夜までかかると尚嬉しい。明日目が覚めた時、夢だったなんて事にはなって欲しくないからな」
「夢…そうね、それは私も嫌だわ」
隣に大切な人がいる。桜並木を二人は夢心地で歩いていくのだった。
「不死川ー!煉獄が酷い!!」
(まぁ、そうなるわなぁ)
友人達の話から女性の正体に当たりをつけていた実弥は、泣きついてくる友人達をスルーしながら発泡酒を傾けた。