四章
夢小説設定
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それはある梅雨時期のことだった。
「ひどい雨…もう5日も降り続いて」
産屋敷邸に雨宿りに来ていた椎名は窓の外を見ると呟いた。茶を飲んでいた輝利哉と愈史郎も顔を上げる。
「ここまでジメジメされちゃ珠世様の美しさを描く為の気力も湧かねーぜ」
「愈史郎はブレないのう」
ふふと笑った椎名の手元にあった湯呑みがカタカタ…と嫌な音を立て始める。
「え…」
それは誰の声だったのか次の瞬間三人は強い揺れに襲われた。咄嗟に輝利哉を庇った椎名を愈史郎が更に庇う。
「…っ!」
一分にも満たない激しい揺れは瞬く間に収まり、愈史郎が急いでテレビをつけた。
「かなりデカかったぞ」
「震源も近そうじゃ」
「………」
情報を集める2人を他所に椎名は外を見ていた。分厚い雨雲の所為で薄暗い山を見上げる。
「鉄砲水」
「あ?」
「何だって?椎名」
「大きいのが来る…この長雨で上流が崩れてる!」
言うなり椎名は外へと飛び出した。今はちょうど下校時間だ。桃寿郎の帰宅ルート沿いに川がある。
「おい椎名!馬鹿!戻ってこい!!」
愈史郎の止める声を背に椎名は走る速度を上げた。人差し指を横に流すと日輪刀を手にする。
(助けなきゃ!杏寿郎が、千寿郎達が生きたこの街の誰も死なせたくない!!)
突然の揺れにざわつく街を椎名は風のように駆け抜けた。
「凄い揺れたね」
「あぁ!家に被害が無いといいが!」
下校途中その場にしゃがみ込んでいた桃寿郎と炭彦はようやく立ち上がった。周囲を見渡せば何箇所か塀が崩れたりはしているが大きな被害は無さそうだ。
「とにかく家族と合流しよう!」
「うん、そうだね」
「オイコラ!そこの馬鹿ガキども!!」
土手の上から乱暴に呼びかけられて2人は驚いて顔を上げた。顔に傷のある警官が柵から身を乗り出し叫んでいる。
「そこから離れろ!今すぐこっちに登ってこい!!」
あまりの剣幕に顔を見合わせる。警官の隣にいたセキレイ女学園の生徒が声を張り上げた。
「水よ!川が溢れてくる!!」
「「!?」」
桃寿郎と炭彦が上流を振り返った時には水はすでに目の前に迫っていた。
ーー風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風(にのかた そうそう・しなとかぜ)ーー
手前で大きく跳ねた濁流は、しかし椎名の斬撃に押され勢いを失った。霧雨のように降り注ぐ飛沫を浴びながら炭彦が呆然と呟く。
「白銀様…」
「何してるの!はやく土手に上がりなさい!!」
ビリッとする声で叱られて桃寿郎と炭彦は慌てて土手を登った。警官に引っ張り上げられて柵を越える。
「白銀様!白銀様も早く!!」
柵に取りすがり叫ぶ桃寿郎に椎名は小さく微笑むと濁流を追う形で走り出した。スイミングスクール帰りの三人組を濁流が弾いた大岩から守り、ピンクのエプロンをした大柄な男性と園児達を増水した川の流れから救い出す。妹2人を背負って逃げられずにいた男子高校生の首根っこを掴むと椎名は背の高い建物の上に三人を引き上げた。
(もう少しで濁流が街を抜ける)
先回りをするべく椎名は建物から建物へと飛んだ。街の外れで子供の鳴き声が聞こえる。
「マーマー!パァパー!!」
幼い子供が泣きながら橋を渡っている。4人の子供を抱えていた黒髪の父親と三つ編みの母親が子の名前を叫びながら駆けてきた。濁流が橋にぶつかり鎌首を大きくもたげる。
(間に合え!)
ーー雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃ーー
ドン!と凄まじい音がして椎名が加速する。一瞬で子供を抱えた椎名に濁流が雪崩のように迫る。子の父と母が泣き叫んでいる。
「………」
椎名は口元に笑みを浮かべるとその勢いのまま子供を親の方へと放り投げた。
父親が子を受け取り、母親が目を見開きーー
ドォッ!!
椎名の意識は濁流に飲まれて消えた。
「ひどい雨…もう5日も降り続いて」
産屋敷邸に雨宿りに来ていた椎名は窓の外を見ると呟いた。茶を飲んでいた輝利哉と愈史郎も顔を上げる。
「ここまでジメジメされちゃ珠世様の美しさを描く為の気力も湧かねーぜ」
「愈史郎はブレないのう」
ふふと笑った椎名の手元にあった湯呑みがカタカタ…と嫌な音を立て始める。
「え…」
それは誰の声だったのか次の瞬間三人は強い揺れに襲われた。咄嗟に輝利哉を庇った椎名を愈史郎が更に庇う。
「…っ!」
一分にも満たない激しい揺れは瞬く間に収まり、愈史郎が急いでテレビをつけた。
「かなりデカかったぞ」
「震源も近そうじゃ」
「………」
情報を集める2人を他所に椎名は外を見ていた。分厚い雨雲の所為で薄暗い山を見上げる。
「鉄砲水」
「あ?」
「何だって?椎名」
「大きいのが来る…この長雨で上流が崩れてる!」
言うなり椎名は外へと飛び出した。今はちょうど下校時間だ。桃寿郎の帰宅ルート沿いに川がある。
「おい椎名!馬鹿!戻ってこい!!」
愈史郎の止める声を背に椎名は走る速度を上げた。人差し指を横に流すと日輪刀を手にする。
(助けなきゃ!杏寿郎が、千寿郎達が生きたこの街の誰も死なせたくない!!)
突然の揺れにざわつく街を椎名は風のように駆け抜けた。
「凄い揺れたね」
「あぁ!家に被害が無いといいが!」
下校途中その場にしゃがみ込んでいた桃寿郎と炭彦はようやく立ち上がった。周囲を見渡せば何箇所か塀が崩れたりはしているが大きな被害は無さそうだ。
「とにかく家族と合流しよう!」
「うん、そうだね」
「オイコラ!そこの馬鹿ガキども!!」
土手の上から乱暴に呼びかけられて2人は驚いて顔を上げた。顔に傷のある警官が柵から身を乗り出し叫んでいる。
「そこから離れろ!今すぐこっちに登ってこい!!」
あまりの剣幕に顔を見合わせる。警官の隣にいたセキレイ女学園の生徒が声を張り上げた。
「水よ!川が溢れてくる!!」
「「!?」」
桃寿郎と炭彦が上流を振り返った時には水はすでに目の前に迫っていた。
ーー風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風(にのかた そうそう・しなとかぜ)ーー
手前で大きく跳ねた濁流は、しかし椎名の斬撃に押され勢いを失った。霧雨のように降り注ぐ飛沫を浴びながら炭彦が呆然と呟く。
「白銀様…」
「何してるの!はやく土手に上がりなさい!!」
ビリッとする声で叱られて桃寿郎と炭彦は慌てて土手を登った。警官に引っ張り上げられて柵を越える。
「白銀様!白銀様も早く!!」
柵に取りすがり叫ぶ桃寿郎に椎名は小さく微笑むと濁流を追う形で走り出した。スイミングスクール帰りの三人組を濁流が弾いた大岩から守り、ピンクのエプロンをした大柄な男性と園児達を増水した川の流れから救い出す。妹2人を背負って逃げられずにいた男子高校生の首根っこを掴むと椎名は背の高い建物の上に三人を引き上げた。
(もう少しで濁流が街を抜ける)
先回りをするべく椎名は建物から建物へと飛んだ。街の外れで子供の鳴き声が聞こえる。
「マーマー!パァパー!!」
幼い子供が泣きながら橋を渡っている。4人の子供を抱えていた黒髪の父親と三つ編みの母親が子の名前を叫びながら駆けてきた。濁流が橋にぶつかり鎌首を大きくもたげる。
(間に合え!)
ーー雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃ーー
ドン!と凄まじい音がして椎名が加速する。一瞬で子供を抱えた椎名に濁流が雪崩のように迫る。子の父と母が泣き叫んでいる。
「………」
椎名は口元に笑みを浮かべるとその勢いのまま子供を親の方へと放り投げた。
父親が子を受け取り、母親が目を見開きーー
ドォッ!!
椎名の意識は濁流に飲まれて消えた。