四章
夢小説設定
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「足元に気をつけて」
千寿郎は妻である十和にそう声をかけると手を差し出した。お腹の膨らみが目立つ十和が恥ずかしそうにその手を取る。
鬼殺隊が解散してから7年の歳月が過ぎようとしていた。
「もう少しでうちのお墓だよ。気分は大丈夫かい?」
「悪阻も治りましたし平気ですよ千寿郎様」
千寿郎と十和は墓参りに来ていた。もうじき兄の命日なのだが天候の穏やかな日を選び早目にやって来たのだ。足を止め満開の桜の向こうに墓を探した千寿郎は目的の墓の前に立つ人物に目を見張った。
「父上…それに…」
千寿郎の声に振り向いた人物の銀髪が太陽の光できらめく。7年ぶりのその姿に千寿郎は立ち尽くした。
「義姉、上…」
「…愼寿郎どう言うこと?」
椎名は自分の隣に立つ愼寿郎を横目に睨んだ。愼寿郎が悪びれもせず答える。
「俺が今日の墓参りを千寿郎達に勧めた。お前にとって7年は短いかもしれんが、千寿郎にとっては嫁を娶り子を成し家督を継ぐだけの時間がたった」
椎名は意図的に千寿郎に会わないよう気を配っていた。それは愼寿郎も承知しており、納得した上での協力だと思っていたのに裏切られた気分だ。
「義姉上!」
駆け寄ろうとした千寿郎は椎名が腕を組み目を細めたのを見てハッと立ち止まった。
(兄上が私に注意する事がある時の仕草だ)
懐かしい記憶に千寿郎は口を引き結んだ。杏寿郎の穏やかだが厳しい指導を思い出す。
「千寿郎様?」
後ろから戸惑った十和に声をかけられ千寿郎は我に返った。身重の妻の腕を引いたまま走ろうとしていた自分に慌てる。
「あ…すまないね十和。急に走ろうとしたりして驚いたろう」
「いいえ、大丈夫です。それより千寿郎様、もしかしてあの方は…?」
「うん」
千寿郎はしっかりと十和の手を握るとゆっくり椎名と愼寿郎の前まで歩いた。杏寿郎より背が伸びすっかり大人になった千寿郎に椎名が目を細める。
「お久しぶりです義姉上」
「久しぶりね千寿郎。奥さんを紹介してくれる?」
「妻の十和です」
千寿郎に促され十和はゆっくり頭を下げた。仲睦まじい様子に椎名の笑みが柔らかくなる。
「結婚と懐妊おめでとう。杏寿郎も喜んでいるでしょうね」
煉獄家の墓を見つめる椎名の目は穏やかだ。千寿郎と十和が墓を掃除し花や線香を供えるのを椎名と愼寿郎は少し離れた場所で見ていた。
「お前には感謝している」
愼寿郎の呟きに椎名は視線だけをそちらへ向けた。愼寿郎は千寿郎達を見つめており椎名の方を見る様子はない。
「お前が千寿郎と距離を取ったのは千寿郎の為なのだろう」
「…さぁ、どうかしらね」
図星をつかれ椎名は返事を濁した。それに半分は自分の為だ。椎名は千寿郎に杏寿郎を重ねてしまいそうで恐ろしかった。一度重ねてしまえば歪んだ執着を抱いてしまいそうで距離を取った。千寿郎にとっても兄との思い出を共有出来る椎名は依存しやすい相手だった。お互いにとって碌なことにならないのは目に見えていたのだ。
「千寿郎の嫁は素直な娘なのに何で杏寿郎の嫁はこう捻くれとるんだ」
心底嫌そうにため息をつく愼寿郎に椎名は小さく笑った。愼寿郎に杏寿郎の嫁と言われたのは初めてだ。
墓前に手を合わせると振り返り、揃ってこちらに手を振ってくる若夫婦に椎名は手を振り返した。
「千寿郎は人に教えるのは上手いが、剣術を教えるには優しすぎてな。煉獄家の炎の如き生き方を伝えていけるかどうか」
墓へと向かいながらボヤく愼寿郎に椎名はクスリと笑った。
「灯火」
「ん?」
「灯火でいいじゃない」
炎のような激しさも強さも無くていい。けれど千寿郎の赤子はこの先の世を照らす柔らかで穏やかな灯火なのだ。
「ちゃーんとあの子が大きくなるまで見守ってあげるわよ。おじーちゃん」
「…俺の十倍以上生きてる奴に言われたく無い」
心底嫌そうな愼寿郎に椎名な声を上げて笑った。
満開の桜がよく映える晴れ渡った青空の日だった。
千寿郎は妻である十和にそう声をかけると手を差し出した。お腹の膨らみが目立つ十和が恥ずかしそうにその手を取る。
鬼殺隊が解散してから7年の歳月が過ぎようとしていた。
「もう少しでうちのお墓だよ。気分は大丈夫かい?」
「悪阻も治りましたし平気ですよ千寿郎様」
千寿郎と十和は墓参りに来ていた。もうじき兄の命日なのだが天候の穏やかな日を選び早目にやって来たのだ。足を止め満開の桜の向こうに墓を探した千寿郎は目的の墓の前に立つ人物に目を見張った。
「父上…それに…」
千寿郎の声に振り向いた人物の銀髪が太陽の光できらめく。7年ぶりのその姿に千寿郎は立ち尽くした。
「義姉、上…」
「…愼寿郎どう言うこと?」
椎名は自分の隣に立つ愼寿郎を横目に睨んだ。愼寿郎が悪びれもせず答える。
「俺が今日の墓参りを千寿郎達に勧めた。お前にとって7年は短いかもしれんが、千寿郎にとっては嫁を娶り子を成し家督を継ぐだけの時間がたった」
椎名は意図的に千寿郎に会わないよう気を配っていた。それは愼寿郎も承知しており、納得した上での協力だと思っていたのに裏切られた気分だ。
「義姉上!」
駆け寄ろうとした千寿郎は椎名が腕を組み目を細めたのを見てハッと立ち止まった。
(兄上が私に注意する事がある時の仕草だ)
懐かしい記憶に千寿郎は口を引き結んだ。杏寿郎の穏やかだが厳しい指導を思い出す。
「千寿郎様?」
後ろから戸惑った十和に声をかけられ千寿郎は我に返った。身重の妻の腕を引いたまま走ろうとしていた自分に慌てる。
「あ…すまないね十和。急に走ろうとしたりして驚いたろう」
「いいえ、大丈夫です。それより千寿郎様、もしかしてあの方は…?」
「うん」
千寿郎はしっかりと十和の手を握るとゆっくり椎名と愼寿郎の前まで歩いた。杏寿郎より背が伸びすっかり大人になった千寿郎に椎名が目を細める。
「お久しぶりです義姉上」
「久しぶりね千寿郎。奥さんを紹介してくれる?」
「妻の十和です」
千寿郎に促され十和はゆっくり頭を下げた。仲睦まじい様子に椎名の笑みが柔らかくなる。
「結婚と懐妊おめでとう。杏寿郎も喜んでいるでしょうね」
煉獄家の墓を見つめる椎名の目は穏やかだ。千寿郎と十和が墓を掃除し花や線香を供えるのを椎名と愼寿郎は少し離れた場所で見ていた。
「お前には感謝している」
愼寿郎の呟きに椎名は視線だけをそちらへ向けた。愼寿郎は千寿郎達を見つめており椎名の方を見る様子はない。
「お前が千寿郎と距離を取ったのは千寿郎の為なのだろう」
「…さぁ、どうかしらね」
図星をつかれ椎名は返事を濁した。それに半分は自分の為だ。椎名は千寿郎に杏寿郎を重ねてしまいそうで恐ろしかった。一度重ねてしまえば歪んだ執着を抱いてしまいそうで距離を取った。千寿郎にとっても兄との思い出を共有出来る椎名は依存しやすい相手だった。お互いにとって碌なことにならないのは目に見えていたのだ。
「千寿郎の嫁は素直な娘なのに何で杏寿郎の嫁はこう捻くれとるんだ」
心底嫌そうにため息をつく愼寿郎に椎名は小さく笑った。愼寿郎に杏寿郎の嫁と言われたのは初めてだ。
墓前に手を合わせると振り返り、揃ってこちらに手を振ってくる若夫婦に椎名は手を振り返した。
「千寿郎は人に教えるのは上手いが、剣術を教えるには優しすぎてな。煉獄家の炎の如き生き方を伝えていけるかどうか」
墓へと向かいながらボヤく愼寿郎に椎名はクスリと笑った。
「灯火」
「ん?」
「灯火でいいじゃない」
炎のような激しさも強さも無くていい。けれど千寿郎の赤子はこの先の世を照らす柔らかで穏やかな灯火なのだ。
「ちゃーんとあの子が大きくなるまで見守ってあげるわよ。おじーちゃん」
「…俺の十倍以上生きてる奴に言われたく無い」
心底嫌そうな愼寿郎に椎名な声を上げて笑った。
満開の桜がよく映える晴れ渡った青空の日だった。