四章
夢小説設定
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「………」
怪我人の収容や治療が一段落したある夜、椎名は蝶屋敷を静かに後にした。月明かりに浮かぶ蝶屋敷を振り返るとその姿を目に焼き付ける。
(こんな別れ方でごめんね)
しかしどうしても言葉で別れを告げる気にはなれなかった。椎名は未練を振り払うように軽く首を振ると蝶屋敷に背を向けた。
「こんな夜更けに地味にどこ行く気だ?」
「………」
突然の呼びかけに振り返るとガス灯の下に天元が立っていた。椎名は僅かに目を見張ったが、それをすぐに覆い隠す。
「少し眠れないだけよ」
「そうかい。それじゃあ少しこの方のお喋りに付き合ってもらおうかね」
天元が横にずれると後ろから現れたのは輝利哉だった。椎名を睨むように見つめながら前に進み出る。
「どこへ行くつもりだったの?」
「だから眠れなかったから散歩に…」
「日輪刀も隠が作った服も全部置いて?」
「………」
執着を残したく無くて椎名はこの国で手に入れたものの全てを蝶屋敷に置いてきていた。まさかこんなに早く気取られるとは思っていなくて言葉に詰まる。
「椎名は僕達を馬鹿にしてる!」
輝利哉は拳を握り締めた。椎名が何も告げずに居なくなろうとした事が悔しい。
「僕達は恩人である椎名にそんな事をさせるような恩知らずじゃない」
「輝利哉…」
椎名は微笑むと深々と頭を下げた。輝利哉と天元が驚きに目を見張る。
「まだ一度もお祝いを伝えていなかったわね。産屋敷家の長年の悲願達成本当におめでとう」
勿論多くの隊士が亡くなっている以上嬉しいばかりではないことは分かっているが、それでもこれからはこんな辛い思いをせずに生きていけるのだ。まさに新しい世の始まりだ。
「時代もどんどん変わって行っている。暗闇と曖昧なものは姿を消し、光と新しい技術が世の中を照らしていく。私のようなものには生きにくい世界だわ」
これ以上ここにいれば椎名の存在は輝利哉達の足枷になる。人の理の外の生き物は畏怖の対象だ。
「だからいなくなろうと言うの?」
「…輝利哉は私を恩人と言ってくれるけれど、行く当てのない私を拾ってくれたのは産屋敷だから。私が恩を返しているだけなのよ」
けれどそれも無惨を倒したことで一つの区切りがついた。
「私の役割ももう終わり」
これ以上産屋敷の為に出来ることは何もない。そう言う椎名に輝利哉は歯噛みした。
「それが間違ってるんだ!椎名はいつも理由を探してたけど、そんなものは無くたって良かったんだ!!ずっとずっと…父上が呼んだからとか、僕達にお土産があるからとか理由が無いと屋敷に近寄りもしなかったけど、そんなの関係なく僕達は椎名に会いたかったよ!」
「この国を出て…行った先でどうするつもり!?また理由を探すの!?生きにくくなっていく世界で今度の場所が椎名にとって安心できる場所かなんて分からないんだよ!?」
「椎名が本当に僕達の事を心配しているんだったら目の届く所にいて!幾らでも場所なんて用意するから!!どうしても理由が欲しいならその場所を理由にして良いから!!」
ボロボロと涙を流しながら輝利哉は椎名の手を掴んだ。目を見開いたまま何も言えない椎名を見上げる。
「こんな言い方好きじゃ無いけど、曖昧なままいられる場所を用意できる人間はそう多く無い。でも産屋敷にはそれが出来る。椎名が本心でこの国を出て行きたいなら止めないけど…そうじゃ無いならここに居て」
僕達は本当に椎名が好きなんだよ。輝利哉の言葉に椎名の目から涙がこぼれ落ちた。次から次へと流れるそれに輝利哉が手拭いを差し出す。
「椎名にとっていい思い出ばかりじゃ無いことは分かってる。でも、僕達と一緒にこの国の行く末を見守って欲しい」
ーー煉獄家の子孫を見守ってほしい!!ーー
(そう、そうだったわね杏寿郎)
見失いかけていた約束を思い出し椎名は胸に手を当てた。輝利哉を真っ直ぐに見つめると小さく微笑む。
「嫌な事、沢山言わせてごめんね輝利哉」
「僕の方こそ泣いたりしてごめん。椎名のことも泣かせちゃったし」
「みんなが気付いて騒ぎになる前に戻ろ」
椎名の台詞に天元が呆れた顔で月を見上げた。
(不死川も冨岡も栗花落や神崎もみんな待ち構えてんだけどなー)
輝利哉と手を繋ぎ歩き出した椎名は長い長い旅が漸く終わったと感じていた。
怪我人の収容や治療が一段落したある夜、椎名は蝶屋敷を静かに後にした。月明かりに浮かぶ蝶屋敷を振り返るとその姿を目に焼き付ける。
(こんな別れ方でごめんね)
しかしどうしても言葉で別れを告げる気にはなれなかった。椎名は未練を振り払うように軽く首を振ると蝶屋敷に背を向けた。
「こんな夜更けに地味にどこ行く気だ?」
「………」
突然の呼びかけに振り返るとガス灯の下に天元が立っていた。椎名は僅かに目を見張ったが、それをすぐに覆い隠す。
「少し眠れないだけよ」
「そうかい。それじゃあ少しこの方のお喋りに付き合ってもらおうかね」
天元が横にずれると後ろから現れたのは輝利哉だった。椎名を睨むように見つめながら前に進み出る。
「どこへ行くつもりだったの?」
「だから眠れなかったから散歩に…」
「日輪刀も隠が作った服も全部置いて?」
「………」
執着を残したく無くて椎名はこの国で手に入れたものの全てを蝶屋敷に置いてきていた。まさかこんなに早く気取られるとは思っていなくて言葉に詰まる。
「椎名は僕達を馬鹿にしてる!」
輝利哉は拳を握り締めた。椎名が何も告げずに居なくなろうとした事が悔しい。
「僕達は恩人である椎名にそんな事をさせるような恩知らずじゃない」
「輝利哉…」
椎名は微笑むと深々と頭を下げた。輝利哉と天元が驚きに目を見張る。
「まだ一度もお祝いを伝えていなかったわね。産屋敷家の長年の悲願達成本当におめでとう」
勿論多くの隊士が亡くなっている以上嬉しいばかりではないことは分かっているが、それでもこれからはこんな辛い思いをせずに生きていけるのだ。まさに新しい世の始まりだ。
「時代もどんどん変わって行っている。暗闇と曖昧なものは姿を消し、光と新しい技術が世の中を照らしていく。私のようなものには生きにくい世界だわ」
これ以上ここにいれば椎名の存在は輝利哉達の足枷になる。人の理の外の生き物は畏怖の対象だ。
「だからいなくなろうと言うの?」
「…輝利哉は私を恩人と言ってくれるけれど、行く当てのない私を拾ってくれたのは産屋敷だから。私が恩を返しているだけなのよ」
けれどそれも無惨を倒したことで一つの区切りがついた。
「私の役割ももう終わり」
これ以上産屋敷の為に出来ることは何もない。そう言う椎名に輝利哉は歯噛みした。
「それが間違ってるんだ!椎名はいつも理由を探してたけど、そんなものは無くたって良かったんだ!!ずっとずっと…父上が呼んだからとか、僕達にお土産があるからとか理由が無いと屋敷に近寄りもしなかったけど、そんなの関係なく僕達は椎名に会いたかったよ!」
「この国を出て…行った先でどうするつもり!?また理由を探すの!?生きにくくなっていく世界で今度の場所が椎名にとって安心できる場所かなんて分からないんだよ!?」
「椎名が本当に僕達の事を心配しているんだったら目の届く所にいて!幾らでも場所なんて用意するから!!どうしても理由が欲しいならその場所を理由にして良いから!!」
ボロボロと涙を流しながら輝利哉は椎名の手を掴んだ。目を見開いたまま何も言えない椎名を見上げる。
「こんな言い方好きじゃ無いけど、曖昧なままいられる場所を用意できる人間はそう多く無い。でも産屋敷にはそれが出来る。椎名が本心でこの国を出て行きたいなら止めないけど…そうじゃ無いならここに居て」
僕達は本当に椎名が好きなんだよ。輝利哉の言葉に椎名の目から涙がこぼれ落ちた。次から次へと流れるそれに輝利哉が手拭いを差し出す。
「椎名にとっていい思い出ばかりじゃ無いことは分かってる。でも、僕達と一緒にこの国の行く末を見守って欲しい」
ーー煉獄家の子孫を見守ってほしい!!ーー
(そう、そうだったわね杏寿郎)
見失いかけていた約束を思い出し椎名は胸に手を当てた。輝利哉を真っ直ぐに見つめると小さく微笑む。
「嫌な事、沢山言わせてごめんね輝利哉」
「僕の方こそ泣いたりしてごめん。椎名のことも泣かせちゃったし」
「みんなが気付いて騒ぎになる前に戻ろ」
椎名の台詞に天元が呆れた顔で月を見上げた。
(不死川も冨岡も栗花落や神崎もみんな待ち構えてんだけどなー)
輝利哉と手を繋ぎ歩き出した椎名は長い長い旅が漸く終わったと感じていた。