短編
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「お館様!!」
その隠が飛び込んできたのは父がまさに黄泉への旅路に向かおうかと言う頃の事だった。握り締めた布地を隠が父の手に握らせる。
「完成いたしました!破れにくく、燃えにくく、速く乾き、柔らかい…まさにあの布地と同じ物でございます!!」
平伏して叫ぶ隠の声が震える。あぁ…と父は満足そうなため息を漏らすとそのまま亡くなった。
グスッと隠が鼻を啜る音が聞こえるが余韻に浸らせてあげる事ができない。
「すぐに隊士の服より順に製作に取り掛かろう。柱を最優先に」
「は、ははっ!畏まりましてございます!!」
隠が転がるように走っていく。私は父の葬儀を済ませると、椎名の元へ向かった。
「椎名」
「峰弥哉(ふみや)、どうしたの?」
葬儀には出ないと言い切った椎名は人気のない奥の間にいた。泣いていたのだろう、目が赤い。私はその前に座るとずっとあたためていた考えを口にした。
「私が幼い頃、よく話してくれていたよね?椎名の国には様々な形の武器があると。それを鬼殺隊の刀鍛冶に提供してもらえないだろうか?」
「…いいよ」
椎名の顔は少し悲しそうだった。父の死を悲しむ間のない私を哀れんでいるのかもしれない。けれど、私も父もずっとずっとの先祖達も想いは一つだ。
必ず鬼舞辻無惨を倒す。
私は早速刀鍛冶の里から数名の職人を呼び寄せると椎名を紹介した。細かな武器の機微は私には分からない。勿論職人達には椎名の事を口外しないよう釘を刺す。
何も同じ物を作ろうと言うのではない。刀だけでは無い日輪刀の可能性を広げたいのだ。
椎名は本当に沢山の形の武器を惜しげもなく提供してくれた。ただ一振り、愛用していたと言う《レイピア》と言う細身の剣を除いて。
すると武器を次々手放す椎名に思うところがあったのか、職人の一人が椎名に一振りの日輪刀を打った。いつの間に猩々緋鉱石(しょうじょうひこうせき)を選んだのだろう?
椎名が日輪刀を鞘から抜くと、その色は深い青のような緑のような不思議な色味を帯びていた。
「綺麗ね、ありがとう」
そっけなくも聞こえる礼だったが、椎名は丁寧に日輪刀を鞘に収めると深々と一礼した。
それ以来、椎名はフラリと出かける事が増えた。初めは二、三日空ける程度だったのが数週間、数ヶ月。
呼び出さねば半年来ない事もあった。後に隊士からの報告が上がってきて気づいたが、椎名は地方の山々を回っては小物の鬼を征伐して回っていたらしい。
子供達は椎名を好いていたので少々寂しそうだったが、時折土産を持って帰ってきてくれるのを楽しみに待つようになった。
彼女には感謝しても仕切れない。漸く隊士の死亡率が下がってきた。自らの技にあった日輪刀を持つ者も多い。
私は今日のこれが最後の日誌となるだろう。
ありがとう椎名。
中心より感謝をーー。
そうして季節は流れ
代が変わり
激動の時代は過ぎ
明治維新
大正――
私こと産屋敷家耀哉がここに記録する。
椎名が産屋敷家に来ておよそ200年の時が過ぎた。彼女は代々の産屋敷の子供を可愛がり、様々な品を惜しげもなく我々に提供してきてくれた。
今や鬼殺隊は盤石な地盤を持った組織だ。柱も九人。これまでに無い人数と言えるだろう。
最近椎名には微笑ましい話題が多くて楽しくなる。
あの時、椎名を表舞台に出すと決めたのは間違いではなかった。彼女には幸せになってもらいたい。
――予感がする。
きっと近いうちに何かが動き出す。
無惨を追い詰めるための沢山の欠片がピタリとはまっていくような感覚。
願わくば鬼が全て滅んだその先で、彼女と彼女の愛する者が幸せである事を願う。
今日は柱合会議の日だ。鬼の妹を連れた竈門炭治郎がやってくる。
人を一度も食っていない鬼。
そんなものが果たして実在するのか。
私が確かめなければ。
ぱたん。
私は読んでいた古い日誌を閉じた。老いた目には夕暮れが迫る今、文字が追い難い。最後の方に認められていた父の懐かしい文字に目尻に浮かんだ涙を拭った。
「歳を取ると涙もろくていかん」
「輝利哉ひいじいちゃん?」
「ここじゃよ」
呼びかけに答えればひ孫が顔を出した。
「晩御飯だよ。お風呂も沸いてるって」
「ありがとう。手を貸してくれるかい?」
「うん」
ひ孫の手を借り書斎を後にする。無惨を倒した後は後始末に忙しく、私はあまり細かく日誌を書いていなかった。この歳になり、手は多少おぼつかないがその後を書いておくのも悪く無いのかもしれない。
目を閉じれば今でもありありと浮かぶ、家族、椎名、逝ってしまった隊士達と生き残った者たちの顔。
「すまないが明日、紙と筆を用意しておいてくれるか」
「?構わないよ」
渡り廊下の外には蝶屋敷より植え替えられた《必勝》が満開の花を讃えていた。
その隠が飛び込んできたのは父がまさに黄泉への旅路に向かおうかと言う頃の事だった。握り締めた布地を隠が父の手に握らせる。
「完成いたしました!破れにくく、燃えにくく、速く乾き、柔らかい…まさにあの布地と同じ物でございます!!」
平伏して叫ぶ隠の声が震える。あぁ…と父は満足そうなため息を漏らすとそのまま亡くなった。
グスッと隠が鼻を啜る音が聞こえるが余韻に浸らせてあげる事ができない。
「すぐに隊士の服より順に製作に取り掛かろう。柱を最優先に」
「は、ははっ!畏まりましてございます!!」
隠が転がるように走っていく。私は父の葬儀を済ませると、椎名の元へ向かった。
「椎名」
「峰弥哉(ふみや)、どうしたの?」
葬儀には出ないと言い切った椎名は人気のない奥の間にいた。泣いていたのだろう、目が赤い。私はその前に座るとずっとあたためていた考えを口にした。
「私が幼い頃、よく話してくれていたよね?椎名の国には様々な形の武器があると。それを鬼殺隊の刀鍛冶に提供してもらえないだろうか?」
「…いいよ」
椎名の顔は少し悲しそうだった。父の死を悲しむ間のない私を哀れんでいるのかもしれない。けれど、私も父もずっとずっとの先祖達も想いは一つだ。
必ず鬼舞辻無惨を倒す。
私は早速刀鍛冶の里から数名の職人を呼び寄せると椎名を紹介した。細かな武器の機微は私には分からない。勿論職人達には椎名の事を口外しないよう釘を刺す。
何も同じ物を作ろうと言うのではない。刀だけでは無い日輪刀の可能性を広げたいのだ。
椎名は本当に沢山の形の武器を惜しげもなく提供してくれた。ただ一振り、愛用していたと言う《レイピア》と言う細身の剣を除いて。
すると武器を次々手放す椎名に思うところがあったのか、職人の一人が椎名に一振りの日輪刀を打った。いつの間に猩々緋鉱石(しょうじょうひこうせき)を選んだのだろう?
椎名が日輪刀を鞘から抜くと、その色は深い青のような緑のような不思議な色味を帯びていた。
「綺麗ね、ありがとう」
そっけなくも聞こえる礼だったが、椎名は丁寧に日輪刀を鞘に収めると深々と一礼した。
それ以来、椎名はフラリと出かける事が増えた。初めは二、三日空ける程度だったのが数週間、数ヶ月。
呼び出さねば半年来ない事もあった。後に隊士からの報告が上がってきて気づいたが、椎名は地方の山々を回っては小物の鬼を征伐して回っていたらしい。
子供達は椎名を好いていたので少々寂しそうだったが、時折土産を持って帰ってきてくれるのを楽しみに待つようになった。
彼女には感謝しても仕切れない。漸く隊士の死亡率が下がってきた。自らの技にあった日輪刀を持つ者も多い。
私は今日のこれが最後の日誌となるだろう。
ありがとう椎名。
中心より感謝をーー。
そうして季節は流れ
代が変わり
激動の時代は過ぎ
明治維新
大正――
私こと産屋敷家耀哉がここに記録する。
椎名が産屋敷家に来ておよそ200年の時が過ぎた。彼女は代々の産屋敷の子供を可愛がり、様々な品を惜しげもなく我々に提供してきてくれた。
今や鬼殺隊は盤石な地盤を持った組織だ。柱も九人。これまでに無い人数と言えるだろう。
最近椎名には微笑ましい話題が多くて楽しくなる。
あの時、椎名を表舞台に出すと決めたのは間違いではなかった。彼女には幸せになってもらいたい。
――予感がする。
きっと近いうちに何かが動き出す。
無惨を追い詰めるための沢山の欠片がピタリとはまっていくような感覚。
願わくば鬼が全て滅んだその先で、彼女と彼女の愛する者が幸せである事を願う。
今日は柱合会議の日だ。鬼の妹を連れた竈門炭治郎がやってくる。
人を一度も食っていない鬼。
そんなものが果たして実在するのか。
私が確かめなければ。
ぱたん。
私は読んでいた古い日誌を閉じた。老いた目には夕暮れが迫る今、文字が追い難い。最後の方に認められていた父の懐かしい文字に目尻に浮かんだ涙を拭った。
「歳を取ると涙もろくていかん」
「輝利哉ひいじいちゃん?」
「ここじゃよ」
呼びかけに答えればひ孫が顔を出した。
「晩御飯だよ。お風呂も沸いてるって」
「ありがとう。手を貸してくれるかい?」
「うん」
ひ孫の手を借り書斎を後にする。無惨を倒した後は後始末に忙しく、私はあまり細かく日誌を書いていなかった。この歳になり、手は多少おぼつかないがその後を書いておくのも悪く無いのかもしれない。
目を閉じれば今でもありありと浮かぶ、家族、椎名、逝ってしまった隊士達と生き残った者たちの顔。
「すまないが明日、紙と筆を用意しておいてくれるか」
「?構わないよ」
渡り廊下の外には蝶屋敷より植え替えられた《必勝》が満開の花を讃えていた。