短編
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初めにそれを聞いた時は、面妖な話が来たなとしか思わなかった。
「異国の女?」
「はい」
ほど近い漁村の長が面倒な手続きを経てまで面会に来た。聞けば数日前に浜に打ち上がった異国の女が周辺を彷徨いて困っていると言うのだ。
特に乱暴なことをするでもなくただ居るだけとの事だったが、異人を見慣れていない村の者には相当気味悪がられているらしい。
「産屋敷のお館様なら見識も広くてらっしゃる。なにか解決方法はないかと相談にあがった次第です」
「ふむ…」
本来ならば代官所に持っていけばそれで終わりの話だ。しかし私の所に話が来たのも何かの縁なのだろう。なにより会うべしと私の勘が告げている。
「とにかく会ってみることにしよう。その者はどこに居るかわかるのかな?」
「それが…」
村長が言い淀む。どこに居るのか分からないのだろうか?
「若いモンが短気起こしまして、納屋の中に…」
「すぐに向かおう」
私は腰を上げると人を呼んだのだった。
ガタタッ。
立て付けの悪い戸を開けると暗がりの中に人影が見えた。
「お館様、私が」
単身出掛けようとした私に大反対して付いてきた水柱が前に出る。同じ理由でついてきた炎柱が光取りの窓を開けた。
眩しさに目を細める異人の姿がはっきり見える。銀の髪に緑の瞳。背は私より高そうだ。
「これは、酷いね」
手を後ろに縛られて猿ぐつわをかまされたまま納屋に放り込まれたのだろう。頬の切り傷が痛々しい。水柱の静止を抑えて前に進み出ると、私は地面に膝をついた。
「今から君の縄を解こうと思うのだが、近づいても良いかい?」
《……?》
「……」
首を傾げる姿に私はそこで初めて言葉が通じていないと言うことに気がついた。ならば村の者に捕まった時は相当恐ろしかったろう。私は村長を振り返った。
「彼女を捕らえた時、村の者は怪我をしたかな?」
「い、いえ…大した抵抗はなかったと」
「なるほど」
私は懐から手拭いを取り出すと細く捻った上で自分の口元に当てた。それを解くフリをして、自分と彼女を交互に指さす。
《……》
どう受け取ったかはわからなかったが、私が近づいても彼女は身じろぎ一つしなかった。水柱と炎柱の警戒があったからかもしれない。
とにかく私は彼女の猿ぐつわと手の縄を外すと少し下がった。
自由になった両手首をさすり彼女がため息をつく。
《ありがとう》
やはり言葉が違う。伝わっていないことは彼女も重々承知しているようで、それ以上何かを喋る様子はなかった。
(これは長丁場になりそうだ)
「このまま村にいるのは難しい。私のところへ来ないかい?」
「お館様!」
「なにを…」
2人が声を上げるが、私は口元に人差し指を立てると静かにするよう示した。先程から私以外が喋ると彼女がひどく緊張しているのだ。
「君の国に帰る方法を探すにしても言葉がわからなければ手助けもできないからね。一時の逗留と思ってくれれば良いよ」
わからないのを承知で話し続ける。ほとんどは後ろの者たちへの説明のようなものだ。
「それで君は…あぁ、まだ名前も聞いていなかったね」
私は自分を指さすと名前を名乗った。
「觜芽哉(しがや)。觜芽哉、だ」
《…椎名》
彼女――椎名は自分の胸に手を置くとそう名乗った。理性的で状況判断が速い。私は立ち上がると椎名に手を差し出した。
「さぁ、行こうか」
《……》
水柱と炎柱の様子を伺いながら私の手を取ろうとした椎名は、しかしピタリと止まるとクンと自分の匂いを嗅いだ。
《くっさい》
嫌そうに顔を顰めている。何だろう?遠慮のように見えるけれど…?
「…納屋に閉じ込めてから何日たっているのかな?」
「へ、へぇ…確か四日だったと」
なるほど、風呂に入っていないことを気にしたのか。女性は気になるところだろうね。
「さて困ったね。屋敷に戻れば風呂があるけど、そこまで待てないようだし」
私に触るのも躊躇するほどならよほど嫌なのだろう。うーん、と首を捻る私に椎名が海を指さした。
《海でいいから入りたいわ》
「いや、海はやめておこうね。潮水でベトベトになってしまうよ」
首を横に振れば椎名は困り顔で黙ってしまった。
「お館様」
ずっと黙っていた水柱が口を開いた。私が振り返ると山の方を指し示す。
「帰りの途中、少し道からは逸れますが湖があります。あそこの水は清浄です」
「道を逸れるのか?日が暮れるぞ」
炎柱が反対をするけれど、ここは椎名からの信頼を手にするためにも少しの無茶はしておきたい所だ。
「二人には手間をかけるけれど、何とかしてやりたいんだ。頼むよ」
「お館様の御命令とあらば」
了承を取り付けると私たちは納屋の入り口まで下がった。判断をつけられずに動かない椎名を手招きする。
「おいで」
《……》
それでもしばらく躊躇した後、漸く椎名は立ち上がった。何かを覚悟した顔で私達の3歩後ろをついて来る。
「逃げませんでしょうか?」
村長が心配そうに尋ねてくるが私には確心があった。椎名はきっと鬼殺隊の助けになってくれる。
「彼女の事はこの産屋敷が預かる。他言は無用だよ」
「それは勿論!ありがたい事でございます」
こうして私は椎名を連れ帰ることになった。
「異国の女?」
「はい」
ほど近い漁村の長が面倒な手続きを経てまで面会に来た。聞けば数日前に浜に打ち上がった異国の女が周辺を彷徨いて困っていると言うのだ。
特に乱暴なことをするでもなくただ居るだけとの事だったが、異人を見慣れていない村の者には相当気味悪がられているらしい。
「産屋敷のお館様なら見識も広くてらっしゃる。なにか解決方法はないかと相談にあがった次第です」
「ふむ…」
本来ならば代官所に持っていけばそれで終わりの話だ。しかし私の所に話が来たのも何かの縁なのだろう。なにより会うべしと私の勘が告げている。
「とにかく会ってみることにしよう。その者はどこに居るかわかるのかな?」
「それが…」
村長が言い淀む。どこに居るのか分からないのだろうか?
「若いモンが短気起こしまして、納屋の中に…」
「すぐに向かおう」
私は腰を上げると人を呼んだのだった。
ガタタッ。
立て付けの悪い戸を開けると暗がりの中に人影が見えた。
「お館様、私が」
単身出掛けようとした私に大反対して付いてきた水柱が前に出る。同じ理由でついてきた炎柱が光取りの窓を開けた。
眩しさに目を細める異人の姿がはっきり見える。銀の髪に緑の瞳。背は私より高そうだ。
「これは、酷いね」
手を後ろに縛られて猿ぐつわをかまされたまま納屋に放り込まれたのだろう。頬の切り傷が痛々しい。水柱の静止を抑えて前に進み出ると、私は地面に膝をついた。
「今から君の縄を解こうと思うのだが、近づいても良いかい?」
《……?》
「……」
首を傾げる姿に私はそこで初めて言葉が通じていないと言うことに気がついた。ならば村の者に捕まった時は相当恐ろしかったろう。私は村長を振り返った。
「彼女を捕らえた時、村の者は怪我をしたかな?」
「い、いえ…大した抵抗はなかったと」
「なるほど」
私は懐から手拭いを取り出すと細く捻った上で自分の口元に当てた。それを解くフリをして、自分と彼女を交互に指さす。
《……》
どう受け取ったかはわからなかったが、私が近づいても彼女は身じろぎ一つしなかった。水柱と炎柱の警戒があったからかもしれない。
とにかく私は彼女の猿ぐつわと手の縄を外すと少し下がった。
自由になった両手首をさすり彼女がため息をつく。
《ありがとう》
やはり言葉が違う。伝わっていないことは彼女も重々承知しているようで、それ以上何かを喋る様子はなかった。
(これは長丁場になりそうだ)
「このまま村にいるのは難しい。私のところへ来ないかい?」
「お館様!」
「なにを…」
2人が声を上げるが、私は口元に人差し指を立てると静かにするよう示した。先程から私以外が喋ると彼女がひどく緊張しているのだ。
「君の国に帰る方法を探すにしても言葉がわからなければ手助けもできないからね。一時の逗留と思ってくれれば良いよ」
わからないのを承知で話し続ける。ほとんどは後ろの者たちへの説明のようなものだ。
「それで君は…あぁ、まだ名前も聞いていなかったね」
私は自分を指さすと名前を名乗った。
「觜芽哉(しがや)。觜芽哉、だ」
《…椎名》
彼女――椎名は自分の胸に手を置くとそう名乗った。理性的で状況判断が速い。私は立ち上がると椎名に手を差し出した。
「さぁ、行こうか」
《……》
水柱と炎柱の様子を伺いながら私の手を取ろうとした椎名は、しかしピタリと止まるとクンと自分の匂いを嗅いだ。
《くっさい》
嫌そうに顔を顰めている。何だろう?遠慮のように見えるけれど…?
「…納屋に閉じ込めてから何日たっているのかな?」
「へ、へぇ…確か四日だったと」
なるほど、風呂に入っていないことを気にしたのか。女性は気になるところだろうね。
「さて困ったね。屋敷に戻れば風呂があるけど、そこまで待てないようだし」
私に触るのも躊躇するほどならよほど嫌なのだろう。うーん、と首を捻る私に椎名が海を指さした。
《海でいいから入りたいわ》
「いや、海はやめておこうね。潮水でベトベトになってしまうよ」
首を横に振れば椎名は困り顔で黙ってしまった。
「お館様」
ずっと黙っていた水柱が口を開いた。私が振り返ると山の方を指し示す。
「帰りの途中、少し道からは逸れますが湖があります。あそこの水は清浄です」
「道を逸れるのか?日が暮れるぞ」
炎柱が反対をするけれど、ここは椎名からの信頼を手にするためにも少しの無茶はしておきたい所だ。
「二人には手間をかけるけれど、何とかしてやりたいんだ。頼むよ」
「お館様の御命令とあらば」
了承を取り付けると私たちは納屋の入り口まで下がった。判断をつけられずに動かない椎名を手招きする。
「おいで」
《……》
それでもしばらく躊躇した後、漸く椎名は立ち上がった。何かを覚悟した顔で私達の3歩後ろをついて来る。
「逃げませんでしょうか?」
村長が心配そうに尋ねてくるが私には確心があった。椎名はきっと鬼殺隊の助けになってくれる。
「彼女の事はこの産屋敷が預かる。他言は無用だよ」
「それは勿論!ありがたい事でございます」
こうして私は椎名を連れ帰ることになった。