四章
夢小説設定
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「待って」
担架に寝かせられた杏寿郎に隠が白い布を広げた。それがふわりと杏寿郎にかけられる寸前で、椎名が声をかけた。
炭治郎達は他の隠が既に運んでいき、人の姿も疎らになりつつある。
「………」
布をかける手を止めると二人の隠は一つ頭を下げ、後ろへと下がった。
椎名は落ち着いた足取りで杏寿郎の横に膝をつくとその顔を見つめた。
額から頬にかけての血は綺麗に拭い去られ、ただ、穏やかな顔の杏寿郎に一つ息を吐く。
(炭治郎とたくさん泣いたから大丈夫。私は今、落ち着いている…はず)
「杏寿郎…」
しかし杏寿郎に触れようとした手は激しく震えていた。
ひやり
「………っ」
杏寿郎の冷たい手に椎名はびくりと震えた。どうしてだろう?触れる一瞬前まで椎名はこの手が暖かいと信じて疑っていなかった。
「杏寿郎っ」
視界が滲む。椎名は自分の温もりを分け与えるように杏寿郎の指に自分の指を絡め合わせた。
いつかの朝のように。
そうすれば杏寿郎が目を開けて、おはよう、と笑いかけてくれる気がする。
「……っ」
息をするのが苦しくて、椎名は浅い呼吸を繰り返した。
「杏寿郎…」
椎名は両手で杏寿郎の左手を握りしめると身を屈めてそこに自分の額を押し当てた。
【杏寿郎…愛しい人…】
「………」
聞いたことのない言葉に隠達は一瞬戸惑った。しかしお互い顔を見合わせただけで押し黙る。
(そう言えばこの人、異国の人だった)
流暢にこの国の言葉を話し、誰にでも違和感なく打ち解ける事ができる。そんな椎名に自分も何度か話しかけられた事がある。
(あんまりです炎柱様)
そんな椎名が悲しみの底に沈んでいく。その様を目の前に見せつけられるのはとても辛いことだった。
【私の光…私の命…私の未来………】
【貴方が私の愛で、私は貴方がいるから形作られていたの…】
【杏寿郎…】
(だから行かないで)
(戻ってきて)
(傍にいて)
どんなに願っても、祈っても決して戻ってはこない。
椎名はもうどうやって立ち上がればいいのかわからなかった。
(貴方がいない…)
(どんなに長く生きたってもう…もう……)
椎名の手が無意識に日輪刀に伸びた。
――椎名はうんと永く生きてくれ!!――
「………」
ピクッと椎名の指が震えた。蘇るのは力強い笑みを浮かべた杏寿郎の姿。
――そして煉獄家の子孫を見守ってほしい!!――
――煉獄家の子孫達が平和な時代に、何を思い、何を成し得ていくのか――
――つぶさに見ていつか俺に教えてくれ!――
「…っ」
ギリッと椎名は唇を噛んだ。血が涙と共に滴り落ちる杏寿郎の手に落ちる。椎名は杏寿郎の胸に縋ると泣き叫んだ。
「ズルい!杏寿郎!!どうして!?どうして今そんなことを思い出させるの!!」
「そんな…そんなこと言われたら、私…私……」
生きていかなければいけなくなる。辛くて、苦しくて、終わりが見えない未来を。
「椎名さん…」
「………」
隠の一人が椎名の名を呼ぶ。そちらを見てしゃくり上げるだけの椎名にそっと手拭を渡す。
「申し訳ありません。炎柱様を煉獄家へお連れしなければ…」
「………」
力を無くした両腕が杏寿郎の体から落ち、椎名はぺたりと座り込んだ。
「…失礼致します」
隠は小さく会釈をすると再び白い布を杏寿郎の上へと広げた。
椎名はそれが杏寿郎を全て覆い隠すまで目を逸らさなかった。
担架に寝かせられた杏寿郎に隠が白い布を広げた。それがふわりと杏寿郎にかけられる寸前で、椎名が声をかけた。
炭治郎達は他の隠が既に運んでいき、人の姿も疎らになりつつある。
「………」
布をかける手を止めると二人の隠は一つ頭を下げ、後ろへと下がった。
椎名は落ち着いた足取りで杏寿郎の横に膝をつくとその顔を見つめた。
額から頬にかけての血は綺麗に拭い去られ、ただ、穏やかな顔の杏寿郎に一つ息を吐く。
(炭治郎とたくさん泣いたから大丈夫。私は今、落ち着いている…はず)
「杏寿郎…」
しかし杏寿郎に触れようとした手は激しく震えていた。
ひやり
「………っ」
杏寿郎の冷たい手に椎名はびくりと震えた。どうしてだろう?触れる一瞬前まで椎名はこの手が暖かいと信じて疑っていなかった。
「杏寿郎っ」
視界が滲む。椎名は自分の温もりを分け与えるように杏寿郎の指に自分の指を絡め合わせた。
いつかの朝のように。
そうすれば杏寿郎が目を開けて、おはよう、と笑いかけてくれる気がする。
「……っ」
息をするのが苦しくて、椎名は浅い呼吸を繰り返した。
「杏寿郎…」
椎名は両手で杏寿郎の左手を握りしめると身を屈めてそこに自分の額を押し当てた。
【杏寿郎…愛しい人…】
「………」
聞いたことのない言葉に隠達は一瞬戸惑った。しかしお互い顔を見合わせただけで押し黙る。
(そう言えばこの人、異国の人だった)
流暢にこの国の言葉を話し、誰にでも違和感なく打ち解ける事ができる。そんな椎名に自分も何度か話しかけられた事がある。
(あんまりです炎柱様)
そんな椎名が悲しみの底に沈んでいく。その様を目の前に見せつけられるのはとても辛いことだった。
【私の光…私の命…私の未来………】
【貴方が私の愛で、私は貴方がいるから形作られていたの…】
【杏寿郎…】
(だから行かないで)
(戻ってきて)
(傍にいて)
どんなに願っても、祈っても決して戻ってはこない。
椎名はもうどうやって立ち上がればいいのかわからなかった。
(貴方がいない…)
(どんなに長く生きたってもう…もう……)
椎名の手が無意識に日輪刀に伸びた。
――椎名はうんと永く生きてくれ!!――
「………」
ピクッと椎名の指が震えた。蘇るのは力強い笑みを浮かべた杏寿郎の姿。
――そして煉獄家の子孫を見守ってほしい!!――
――煉獄家の子孫達が平和な時代に、何を思い、何を成し得ていくのか――
――つぶさに見ていつか俺に教えてくれ!――
「…っ」
ギリッと椎名は唇を噛んだ。血が涙と共に滴り落ちる杏寿郎の手に落ちる。椎名は杏寿郎の胸に縋ると泣き叫んだ。
「ズルい!杏寿郎!!どうして!?どうして今そんなことを思い出させるの!!」
「そんな…そんなこと言われたら、私…私……」
生きていかなければいけなくなる。辛くて、苦しくて、終わりが見えない未来を。
「椎名さん…」
「………」
隠の一人が椎名の名を呼ぶ。そちらを見てしゃくり上げるだけの椎名にそっと手拭を渡す。
「申し訳ありません。炎柱様を煉獄家へお連れしなければ…」
「………」
力を無くした両腕が杏寿郎の体から落ち、椎名はぺたりと座り込んだ。
「…失礼致します」
隠は小さく会釈をすると再び白い布を杏寿郎の上へと広げた。
椎名はそれが杏寿郎を全て覆い隠すまで目を逸らさなかった。