三章
夢小説設定
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椎名はまだ夢を見ている心地で座っていた。
何故自分は旅籠の一室で白無垢を着て紋付羽織姿の杏寿郎と並んで座っているのだろう。忙しいはずの柱がずらりと並び、ひなきとにちかが雌蝶として参加している。
(えっと…そう、蜜璃に頼まれたのよね)
自身も背の高い蜜璃が背の高い人の白無垢姿を見てみたいと頼んできたのだ。結婚の決まってない自分が着ると婚期が遅れるからと手を合わせられて、特に断る理由の無い椎名は首を縦に振った。
(という事は杏寿郎も似た感じで騙されたって事?)
綿帽子の陰からちらりと横を覗き見れば杏寿郎の戸惑ったような、でもどこか嬉しそうな微笑みとぶつかった。それだけで騙されたことがどうでも良くなり椎名は小さく笑った。
「では親族固めの杯…って訳にはいかねぇが鬼殺隊の仲間としての固めの杯と行こうぜ」
三々九度を終えひなきとにちかが下がった後、天元がそう口を開いた瞬間に鎹鴉の声が響いた。
「任務ー!任務ーっ!!東の森で複数の鬼の目撃情報あり!!急いで向かえー!」
「「「!!」」」
その声に全員が腰を上げた。しかし天元が杏寿郎と椎名を追い払うように手を振る。
「そんな恰好で行けるわけないだろ。お前らは祝言の続きでもあげとけ」
「しかし!」
反論する杏寿郎の言葉を、だが誰も聞いている様子はなかった。蜜璃が心底残念そうにため息をつく。
「鬼も空気読んで欲しいですよね。最後まで参列できない私達が可哀そうだわ!」
「あら、この後私達になますにされる鬼にこそ同情してあげて下さい」
ニッコリと作り笑いをするしのぶから祝言に最後まで参列できない怒りが滲み出ている。
「良き夫婦になりなさい。煉獄、椎名」
最後に部屋を出て行きながらそう伝える行冥に杏寿郎は深々と頭を下げた。皆が出て行き静かになった部屋に千寿郎が入ってくる。
「ご結婚おめでとうございます兄上、義姉上」
「千寿郎!」
「どうしてここに」
まさかそこまで根回しされていると思っていなかった杏寿郎と椎名は目を丸くした。千寿郎が嬉しそうににっこりと笑う。
「宇髄さんに教えて頂きました。僕も兄上達を驚かせたかったので来ていることは内緒にしてもらったんです」
顔を見合わせる二人に千寿郎は深く頭を下げた。
「僕が言うのもおかしな話ですが煉獄家を代表して義姉上にご挨拶させて頂きます。兄上は強くて頼りになって優しくて…自慢の兄です」
本当に嬉しそうに兄の事を語る千寿郎に杏寿郎が涙ぐんだ。椎名はそれに気づかない振りをして千寿郎の話に耳を傾ける。
「ですがそれ故に兄上はずっと煉獄家や僕を守る側でした。僕はそれが…」
千寿郎は僅かに顔を曇らせたが、頭を振るとパッと笑顔を見せた。
「兄上の事、どうか宜しくお願い致します」
「…ありがとう千寿郎。杏寿郎が泣いても拗ねても地団太踏んでも離れたりしないから安心して」
「君は…何を想像してるんだ」
ぐっと目頭を押さえると杏寿郎は小さく笑った。弱い所を見せられる相手がいると言うのはこんなに心強いのかと思う。椎名と千寿郎は顔を見合わせると声を上げて笑った。
「僕はこれで失礼致します。兄上、最後にこれを」
「これは?」
千寿郎は懐から手紙を取り出すと杏寿郎に渡した。首を傾げる杏寿郎に同じく首を傾げる。
「宇髄さんからお預かりしました。僕が帰ったら読むよう伝えて欲しいと」
「わかった!今日は本当にありがとう千寿郎!気を付けて帰るんだぞ!!」
大きく手を振り帰っていく千寿郎を見送ると煉獄は手紙を開いた。書いている内容に苦笑が漏れる。
『前略 本日はご結婚誠におめでとうございます。
と堅苦しいのは無しにして。
ま、何だ。この前のお前のお悩み相談への俺なりの手助けだと思ってくれ。
その旅籠の二階に部屋を取ってある。
任務の方は俺や不死川、冨岡に伊黒で分担しておくから今日だけは気にすんな。
新婚初夜だしな!
幸せになれよ 草々』
「酷い手紙だな宇髄」
それでも仲間の心遣いに心底感謝して杏寿郎は手紙を懐にしまった。
「それにしても椎名さん、本当に素敵だったわ!」
文字通りなますと刻まれた鬼が塵となって消えていくのに目もくれず蜜璃はうっとりしていた。
「鬼をおびき寄せるために紋付き袴に着替えろと言われて素直に着替えるとは馬鹿正直すぎないか煉獄め」
小芭内は呆れ気味だが、その口調はいつもよりずっと穏やかだ。行冥が涙しつつ両手を合わせた。
「辛く苦しい世でもめでたい事は良いものだ」
「ちっ、飲み足りねぇ」
「………」
実弥のボヤキに義勇は無言のまま頷いた。天元が町の方を指差す。
「いい店があるから派手に飲み直そうぜ!」
「飲みすぎはいけませんよー」
二日酔いになられては自分の仕事が増えるとしのぶがしっかり釘を刺す。歩き出した天元達の後ろをついて行きながら無一郎は自分の胸を押さえた。
(何だろう…また忘れてしまうだけなのに。でも胸のあたりが温かい)
不思議と忘れようにも忘れなさそうな予感に無一郎は星空を見上げるのだった。
何故自分は旅籠の一室で白無垢を着て紋付羽織姿の杏寿郎と並んで座っているのだろう。忙しいはずの柱がずらりと並び、ひなきとにちかが雌蝶として参加している。
(えっと…そう、蜜璃に頼まれたのよね)
自身も背の高い蜜璃が背の高い人の白無垢姿を見てみたいと頼んできたのだ。結婚の決まってない自分が着ると婚期が遅れるからと手を合わせられて、特に断る理由の無い椎名は首を縦に振った。
(という事は杏寿郎も似た感じで騙されたって事?)
綿帽子の陰からちらりと横を覗き見れば杏寿郎の戸惑ったような、でもどこか嬉しそうな微笑みとぶつかった。それだけで騙されたことがどうでも良くなり椎名は小さく笑った。
「では親族固めの杯…って訳にはいかねぇが鬼殺隊の仲間としての固めの杯と行こうぜ」
三々九度を終えひなきとにちかが下がった後、天元がそう口を開いた瞬間に鎹鴉の声が響いた。
「任務ー!任務ーっ!!東の森で複数の鬼の目撃情報あり!!急いで向かえー!」
「「「!!」」」
その声に全員が腰を上げた。しかし天元が杏寿郎と椎名を追い払うように手を振る。
「そんな恰好で行けるわけないだろ。お前らは祝言の続きでもあげとけ」
「しかし!」
反論する杏寿郎の言葉を、だが誰も聞いている様子はなかった。蜜璃が心底残念そうにため息をつく。
「鬼も空気読んで欲しいですよね。最後まで参列できない私達が可哀そうだわ!」
「あら、この後私達になますにされる鬼にこそ同情してあげて下さい」
ニッコリと作り笑いをするしのぶから祝言に最後まで参列できない怒りが滲み出ている。
「良き夫婦になりなさい。煉獄、椎名」
最後に部屋を出て行きながらそう伝える行冥に杏寿郎は深々と頭を下げた。皆が出て行き静かになった部屋に千寿郎が入ってくる。
「ご結婚おめでとうございます兄上、義姉上」
「千寿郎!」
「どうしてここに」
まさかそこまで根回しされていると思っていなかった杏寿郎と椎名は目を丸くした。千寿郎が嬉しそうににっこりと笑う。
「宇髄さんに教えて頂きました。僕も兄上達を驚かせたかったので来ていることは内緒にしてもらったんです」
顔を見合わせる二人に千寿郎は深く頭を下げた。
「僕が言うのもおかしな話ですが煉獄家を代表して義姉上にご挨拶させて頂きます。兄上は強くて頼りになって優しくて…自慢の兄です」
本当に嬉しそうに兄の事を語る千寿郎に杏寿郎が涙ぐんだ。椎名はそれに気づかない振りをして千寿郎の話に耳を傾ける。
「ですがそれ故に兄上はずっと煉獄家や僕を守る側でした。僕はそれが…」
千寿郎は僅かに顔を曇らせたが、頭を振るとパッと笑顔を見せた。
「兄上の事、どうか宜しくお願い致します」
「…ありがとう千寿郎。杏寿郎が泣いても拗ねても地団太踏んでも離れたりしないから安心して」
「君は…何を想像してるんだ」
ぐっと目頭を押さえると杏寿郎は小さく笑った。弱い所を見せられる相手がいると言うのはこんなに心強いのかと思う。椎名と千寿郎は顔を見合わせると声を上げて笑った。
「僕はこれで失礼致します。兄上、最後にこれを」
「これは?」
千寿郎は懐から手紙を取り出すと杏寿郎に渡した。首を傾げる杏寿郎に同じく首を傾げる。
「宇髄さんからお預かりしました。僕が帰ったら読むよう伝えて欲しいと」
「わかった!今日は本当にありがとう千寿郎!気を付けて帰るんだぞ!!」
大きく手を振り帰っていく千寿郎を見送ると煉獄は手紙を開いた。書いている内容に苦笑が漏れる。
『前略 本日はご結婚誠におめでとうございます。
と堅苦しいのは無しにして。
ま、何だ。この前のお前のお悩み相談への俺なりの手助けだと思ってくれ。
その旅籠の二階に部屋を取ってある。
任務の方は俺や不死川、冨岡に伊黒で分担しておくから今日だけは気にすんな。
新婚初夜だしな!
幸せになれよ 草々』
「酷い手紙だな宇髄」
それでも仲間の心遣いに心底感謝して杏寿郎は手紙を懐にしまった。
「それにしても椎名さん、本当に素敵だったわ!」
文字通りなますと刻まれた鬼が塵となって消えていくのに目もくれず蜜璃はうっとりしていた。
「鬼をおびき寄せるために紋付き袴に着替えろと言われて素直に着替えるとは馬鹿正直すぎないか煉獄め」
小芭内は呆れ気味だが、その口調はいつもよりずっと穏やかだ。行冥が涙しつつ両手を合わせた。
「辛く苦しい世でもめでたい事は良いものだ」
「ちっ、飲み足りねぇ」
「………」
実弥のボヤキに義勇は無言のまま頷いた。天元が町の方を指差す。
「いい店があるから派手に飲み直そうぜ!」
「飲みすぎはいけませんよー」
二日酔いになられては自分の仕事が増えるとしのぶがしっかり釘を刺す。歩き出した天元達の後ろをついて行きながら無一郎は自分の胸を押さえた。
(何だろう…また忘れてしまうだけなのに。でも胸のあたりが温かい)
不思議と忘れようにも忘れなさそうな予感に無一郎は星空を見上げるのだった。