短編
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にゃーん
「胡蝶!」
杏寿郎は蝶屋敷へと飛び込んだ。しのぶの鎹鴉が椎名の一大事を知らせてきたからだ。
「速かったですね煉獄さん」
鴉を飛ばしてから小一時間しかたっていない。しのぶは呆れ顔をして見せた。
「椎名の一大事とはどう言うことだ!何があった!?」
杏寿郎は額に大粒の汗をかいていた。どれだけ急いできたと言うのか。しのぶはため息をつくと猫じゃらしを取り出した。
「胡蝶、何をふざけて…」
「にゃっ」
物陰から飛び出してきたものに杏寿郎の思考が停止した。それは良く見知った姿のままで、しかし頭の上とお尻からあるはずの無いものを生やしていた。
「こちらご都合血気術の被害にあった椎名さんです」
「……猫の耳と尻尾に見えるのだが」
「頭も目も正常ですよ。よかったですね煉獄さん」
「にゃーん」
しのぶから奪った猫じゃらしを手に満足そうに鳴き声を上げる椎名。どう見ても最高に異常事態だった。
「この状態になったのは今朝、夜明け直前ですね」
杏寿郎に背中を向け、カルテを見ながら喋り出したしのぶがもう遊んでくれないことを察した椎名の目が杏寿郎を捉える。
「どうやら今回の鬼は猫に執着していたようで」
すすっと杏寿郎に近寄ると椎名は手の甲から背中、うなじ、耳元に鼻を寄せて匂いを嗅いだ。
「人間を一定期間かけて猫にした後、喰っていたようです」
杏寿郎の顔を覗き込むと肩に手を置き、こてんと首を傾げる。
「鬼は討伐したので猫化は止まりましたが、完治まではもう少し時間が…」
ビュン!と自分の後ろを凄い勢いで通り過ぎる音がして、しのぶはため息をついて振り返った。しかしもうそこには杏寿郎も椎名の姿もない。
「…まぁ、良いですけど。私もこんな馬鹿馬鹿しいこと口で説明したくありませんし」
苛立ちのあまり額に青筋が浮かぶ。しのぶは文を書くための筆を取ると、やや乱雑にそれを認めた。
「艶、これを煉獄さんに。どうせその辺の連れ込み宿にいるでしょうから」
「…かぁー」
しのぶの鎹鴉は気の抜けるような返事をするとそれを加え飛び去った。
「にゃっ」
ころん、と布団の上に転がされ椎名は不服そうに鳴いた。すぐさま体制を立て直すと杏寿郎を警戒するように距離を取る。
「あぁ、すまない。驚かせたか」
杏寿郎はなるべく平静を装い声をかけた。それ以上は近寄らずにその場に座る。
(思わず衝動的に連れ出してしまった)
こんな危険で愛い生き物を他の者の目に晒したくない。椎名は見たことのない室内をグルリと見回すと、再び杏寿郎に近づいて来た。耳に鼻先を寄せるとフンフンと匂いを嗅ぐ。杏寿郎は拳を握りしめた。
(我慢だ俺!)
今の椎名を組み伏せるなんてそんな事…しても良いような気はするけれど、いやしかし椎名は血気術の被害者なのだと自分に言い聞かせる。
そんな杏寿郎の目の前をゆらゆらと揺れる椎名が何度も通り過ぎる。
(そう言えば猫は尻尾の付け根を触られるのが好きだったか)
杏寿郎は自分の胸に顔を擦り付けている椎名の頭にある耳の裏側を撫でた。
嬉しそうに喉を鳴らす椎名に少し気が緩む。杏寿郎の膝の上に座り込んだ椎名の背中をゆっくり撫で下ろすと、尻尾の付け根、尾骶骨のあたりを撫でた。
ピクン!と震えた椎名がうっとり目を閉じる。
「んにゃ…ん……」
「!!」
効いた。会心の一撃である。いっぺんに自制心が焼き切れた杏寿郎はがぶりと椎名の首に噛み付くと服の中に手を突っ込み弄った。丹念に尻尾の付け根を撫で回す。
「ん、ん…にっ…ぁ、あっ」
「椎名…」
「カァーッ!」
ベチン!と良い音がして杏寿郎の顔面に手紙が叩きつけられた。窓を見ればしのぶの鎹鴉が飛び去っていく。やや乱雑な文字にしのぶの怒りを感じながら杏寿郎は文面をあらためた。
「…わざとか?わざとなのか?」
しのぶからの手紙にはこの血気術の他の被害者について書かれていた。殆どがゆっくり回復している中、特段速く回復したものがいる事。調べた所、漏れなく他人の体液を摂取していた事が書かれている。
(体液、か)
「にゃ…」
杏寿郎の腕に尻尾を絡め、甘えて擦り寄ってくる椎名に杏寿郎は思考を放棄した。
「そんなもので良いなら幾らでも」
翌日、目を覚ました椎名に耳と尻尾がなかったことは当然の結末だった。
「あ」
任務明け、いつもより凶悪な顔をしたしのぶは足を止めた。疲れて回ってない頭で必死に考える。
(煉獄さんに副作用の話をするの忘れた気がする)
あの血気術にかかった者の体液を摂取しすぎると、自分にも猫耳が生えるとか言う血管ぶち切れしそうな副作用のことを思い出し、しのぶはこめかみを揉んだ。
(まぁ、意識まで猫化はしないし良いわよね)
と言うか、そんなもんはもう知らん。
「はぁー、本当に早く鬼が全滅すれば良いのに」
いろんな感情を含んでの台詞は朝焼けの中に溶けて消えた。
「胡蝶!」
杏寿郎は蝶屋敷へと飛び込んだ。しのぶの鎹鴉が椎名の一大事を知らせてきたからだ。
「速かったですね煉獄さん」
鴉を飛ばしてから小一時間しかたっていない。しのぶは呆れ顔をして見せた。
「椎名の一大事とはどう言うことだ!何があった!?」
杏寿郎は額に大粒の汗をかいていた。どれだけ急いできたと言うのか。しのぶはため息をつくと猫じゃらしを取り出した。
「胡蝶、何をふざけて…」
「にゃっ」
物陰から飛び出してきたものに杏寿郎の思考が停止した。それは良く見知った姿のままで、しかし頭の上とお尻からあるはずの無いものを生やしていた。
「こちらご都合血気術の被害にあった椎名さんです」
「……猫の耳と尻尾に見えるのだが」
「頭も目も正常ですよ。よかったですね煉獄さん」
「にゃーん」
しのぶから奪った猫じゃらしを手に満足そうに鳴き声を上げる椎名。どう見ても最高に異常事態だった。
「この状態になったのは今朝、夜明け直前ですね」
杏寿郎に背中を向け、カルテを見ながら喋り出したしのぶがもう遊んでくれないことを察した椎名の目が杏寿郎を捉える。
「どうやら今回の鬼は猫に執着していたようで」
すすっと杏寿郎に近寄ると椎名は手の甲から背中、うなじ、耳元に鼻を寄せて匂いを嗅いだ。
「人間を一定期間かけて猫にした後、喰っていたようです」
杏寿郎の顔を覗き込むと肩に手を置き、こてんと首を傾げる。
「鬼は討伐したので猫化は止まりましたが、完治まではもう少し時間が…」
ビュン!と自分の後ろを凄い勢いで通り過ぎる音がして、しのぶはため息をついて振り返った。しかしもうそこには杏寿郎も椎名の姿もない。
「…まぁ、良いですけど。私もこんな馬鹿馬鹿しいこと口で説明したくありませんし」
苛立ちのあまり額に青筋が浮かぶ。しのぶは文を書くための筆を取ると、やや乱雑にそれを認めた。
「艶、これを煉獄さんに。どうせその辺の連れ込み宿にいるでしょうから」
「…かぁー」
しのぶの鎹鴉は気の抜けるような返事をするとそれを加え飛び去った。
「にゃっ」
ころん、と布団の上に転がされ椎名は不服そうに鳴いた。すぐさま体制を立て直すと杏寿郎を警戒するように距離を取る。
「あぁ、すまない。驚かせたか」
杏寿郎はなるべく平静を装い声をかけた。それ以上は近寄らずにその場に座る。
(思わず衝動的に連れ出してしまった)
こんな危険で愛い生き物を他の者の目に晒したくない。椎名は見たことのない室内をグルリと見回すと、再び杏寿郎に近づいて来た。耳に鼻先を寄せるとフンフンと匂いを嗅ぐ。杏寿郎は拳を握りしめた。
(我慢だ俺!)
今の椎名を組み伏せるなんてそんな事…しても良いような気はするけれど、いやしかし椎名は血気術の被害者なのだと自分に言い聞かせる。
そんな杏寿郎の目の前をゆらゆらと揺れる椎名が何度も通り過ぎる。
(そう言えば猫は尻尾の付け根を触られるのが好きだったか)
杏寿郎は自分の胸に顔を擦り付けている椎名の頭にある耳の裏側を撫でた。
嬉しそうに喉を鳴らす椎名に少し気が緩む。杏寿郎の膝の上に座り込んだ椎名の背中をゆっくり撫で下ろすと、尻尾の付け根、尾骶骨のあたりを撫でた。
ピクン!と震えた椎名がうっとり目を閉じる。
「んにゃ…ん……」
「!!」
効いた。会心の一撃である。いっぺんに自制心が焼き切れた杏寿郎はがぶりと椎名の首に噛み付くと服の中に手を突っ込み弄った。丹念に尻尾の付け根を撫で回す。
「ん、ん…にっ…ぁ、あっ」
「椎名…」
「カァーッ!」
ベチン!と良い音がして杏寿郎の顔面に手紙が叩きつけられた。窓を見ればしのぶの鎹鴉が飛び去っていく。やや乱雑な文字にしのぶの怒りを感じながら杏寿郎は文面をあらためた。
「…わざとか?わざとなのか?」
しのぶからの手紙にはこの血気術の他の被害者について書かれていた。殆どがゆっくり回復している中、特段速く回復したものがいる事。調べた所、漏れなく他人の体液を摂取していた事が書かれている。
(体液、か)
「にゃ…」
杏寿郎の腕に尻尾を絡め、甘えて擦り寄ってくる椎名に杏寿郎は思考を放棄した。
「そんなもので良いなら幾らでも」
翌日、目を覚ました椎名に耳と尻尾がなかったことは当然の結末だった。
「あ」
任務明け、いつもより凶悪な顔をしたしのぶは足を止めた。疲れて回ってない頭で必死に考える。
(煉獄さんに副作用の話をするの忘れた気がする)
あの血気術にかかった者の体液を摂取しすぎると、自分にも猫耳が生えるとか言う血管ぶち切れしそうな副作用のことを思い出し、しのぶはこめかみを揉んだ。
(まぁ、意識まで猫化はしないし良いわよね)
と言うか、そんなもんはもう知らん。
「はぁー、本当に早く鬼が全滅すれば良いのに」
いろんな感情を含んでの台詞は朝焼けの中に溶けて消えた。