うどんにそば、牛鍋、天麩羅、甘味や立ち食い。
「ねぇ、杏寿郎？」
「どうした？椎名！」
　二杯目のうどんを啜る杏寿郎の向かいで椎名は食べ終えた器を店員に返した。
　話し声は大きいが食べ方は綺麗な杏寿郎に感心する。
　ザクリ、とかき揚げがいい音を立てて杏寿郎の口に消えた。
「私に食事が必要とか…」
「思ってはいない！安心してくれ！！」
「……じゃあ、なんで？」
　別に杏寿郎の食事に付き合うのは苦では無い。美味しそうに食べるのを見ているのは楽しいものだ。量は凄いが。
「味はわかるのだろう？」
「そりゃあね」
「だからだ！」
　何がだ。
　喉の奥でツッコミを殺し考える。味がわかるから食べるとはどう言う事だろう？
（あ…）
　思い至った考えにチラリと杏寿郎を見る。杏寿郎は店の人がおまけしてくれた稲荷寿司を口に運んでいた。
（美味しい物を選んで食べさせてくれてる？）
　その結論は椎名にとって新鮮な驚きだった。食べる必要の無い椎名に儀礼的に食事を出す者はいても、美味しいかどうかまで気を回された事がない。椎名はほわりと胸が暖かくなった。
「それに！」
　杏寿郎はうどんのツユを飲み干すと続けて口を開く。
「君と一緒に食べるとより美味しいからな！」
「…そうね、本当にそう」
　嬉しくなって椎名が笑うと、杏寿郎の満面の笑みを浮かべたのだった。