二章
夢小説設定
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「あー、もー」
街の中を人混みに紛れるように歩きながら、椎名は片手で顔を覆った。色々な感情が次々押し寄せてちっとも纏まらない。
「いやいや、ないでしょ。色んな意味でない。ないないない」
身も蓋もなく否定してみるが、油断すると杏寿郎の言葉に喜んでしまっている自分がいた。
「なにをしてるんだか」
長く生きてきただけあって口説いてくるような連中は勿論いた。中には真剣な想いもあったろう。しかし椎名はそういったものの一切を受け付けずに生きてきた。
理由は単純に生きる長さが違いすぎるからだ。それに700年も生きていればもう人間は全て孫のようにしか思えない。
(なのに…)
杏寿郎の想いが胸に刺さる。刹那のような短い時でも良いから、寄り添って生きてみたい。
「だからないって」
白金の森の一族は同族しか子を望めない。それさえ稀な出来事なのだ。血筋をたやさないことは人間にとって重要なこと。それを自分のせいで杏寿郎から奪えない。
「はぁー…」
「落とし物でもしましたか?」
「っ!!」
背後から響く凛とした声に椎名はビクッと震えると振り返った。アオイが風呂敷を手に立っている。どうやら薬問屋に行った帰りのようだ。
「脅かさないでよアオイ」
「椎名さんが私の気配に気が付かないなんて珍しいですね」
「はは…そう?」
椎名は曖昧に笑ってアオイに並んで歩き出した。
「なにかお悩みですか?」
「……アオイは鋭いなぁ」
しゃんと背筋を伸ばしきりっと前を向くアオイに椎名は苦笑した。このしっかり者は素知らぬふりでよく見ている。
「私如きがなんの助言も出来るとは思いませんが、悩んでいると言うことはそれを選びたいと思っていると言うことではないでしょうか」
「……選びたい」
(そう言えば、何で頭を冷やすなんて言ったんだろう?)
これまで相手に対して結論を先送りにしたことはない。バッサリ切って捨てたことだってあるのに。
「…アオイは本当に凄いね」
「……私は、別に…」
照れ臭そうにするアオイの頭を撫でようとした椎名は、しかし次の瞬間立ち止まると険しい顔を見せた。
「椎名さん?」
「アオイ、蝶屋敷まで走って」
「え?」
「神は我々を御導きくださっているのだ」
「!?」
見たことのない衣服を纏った南蛮人が椎名たちの前に立ち塞がった。
丈の短い白い西洋風の法衣を身に纏った屈強な男たちの中心に年嵩の長い法衣の男が立っている。
男は顔に温和な笑みを浮かべていた。
「見よ!あれが我ら教団が長きに渡って追っていた白き森の悪鬼なるぞ!!」
男は高らかにそう告げると椎名を指し示した。椎名は日輪刀に手をかけると、油断なく相手を見やる。アオイが戸惑ったように後ろへ下がった。
「あの化け物を捕らえ猊下に差し出すのだ!!」
「「「おぉーっ!!」」」
男たちの咆哮が轟く。椎名はアオイを横に突き飛ばすと刀を抜いた。じわりと手のひらに嫌な汗が滲む。
「まさか同郷の人間にこんなところで会うなんてね」
「椎名さん!」
「行きなさい!アオイ!!」
椎名はそう叫ぶと長槍を構えた男たちの方へ飛び込んでいった。
槍を掻い潜り懐へ飛び込むと、刀の刃を返し腰を峰打ちにする。
(人を殺すわけにはいかない。耀哉に迷惑をかけることになる)
男達は武僧なのだろう。槍の扱いが上手い。
巧みに椎名と距離をとり、長槍の射程を崩さない。
(こんな往来のある場所で…)
槍ならば柄が当たった程度大したことはないが、刀はそうはいかない。通行人は離れていっているが、野次馬がそこそこいる。
「このっ…!」
突き出てくる槍をかわすと腕を狙う。骨折で動けなくなるだけで良い。
キンッ!
「!?」
しかし椎名の刃は金属音とともに弾かれた。男達の法衣の下にアームプレートが見える。
(冗談でしょ!)
呼吸を使えば切れる。椎名はその考えを打ち払った。そんな事をすれば間違いなく殺してしまう。
(どうする…?)
取り囲まれたまま椎名は思考を巡らせた。だが、何かを決めるより先に長衣の法衣の男が懐より水晶を取り出す。
「悪しき者に神罰を!!」
(それはっ!)
「がっ…!!」
椎名の周囲を光の円が囲った瞬間、激しい痛みが体を突き抜けた。力が抜けていきその場に倒れる。
(そんなもの…どうし、て……)
そこで椎名の意識は途絶えた。
「それを運びなさい」
男達は動かなくなった椎名を箱のようなものの中に入れると運び去った。
人混みに紛れそれを見ていたアオイが真っ青になって走り出す。
(しのぶ様...しのぶ様に知らせなきゃ!)
アオイは胸に抱いた風呂敷を力一杯握り締めて走った。
街の中を人混みに紛れるように歩きながら、椎名は片手で顔を覆った。色々な感情が次々押し寄せてちっとも纏まらない。
「いやいや、ないでしょ。色んな意味でない。ないないない」
身も蓋もなく否定してみるが、油断すると杏寿郎の言葉に喜んでしまっている自分がいた。
「なにをしてるんだか」
長く生きてきただけあって口説いてくるような連中は勿論いた。中には真剣な想いもあったろう。しかし椎名はそういったものの一切を受け付けずに生きてきた。
理由は単純に生きる長さが違いすぎるからだ。それに700年も生きていればもう人間は全て孫のようにしか思えない。
(なのに…)
杏寿郎の想いが胸に刺さる。刹那のような短い時でも良いから、寄り添って生きてみたい。
「だからないって」
白金の森の一族は同族しか子を望めない。それさえ稀な出来事なのだ。血筋をたやさないことは人間にとって重要なこと。それを自分のせいで杏寿郎から奪えない。
「はぁー…」
「落とし物でもしましたか?」
「っ!!」
背後から響く凛とした声に椎名はビクッと震えると振り返った。アオイが風呂敷を手に立っている。どうやら薬問屋に行った帰りのようだ。
「脅かさないでよアオイ」
「椎名さんが私の気配に気が付かないなんて珍しいですね」
「はは…そう?」
椎名は曖昧に笑ってアオイに並んで歩き出した。
「なにかお悩みですか?」
「……アオイは鋭いなぁ」
しゃんと背筋を伸ばしきりっと前を向くアオイに椎名は苦笑した。このしっかり者は素知らぬふりでよく見ている。
「私如きがなんの助言も出来るとは思いませんが、悩んでいると言うことはそれを選びたいと思っていると言うことではないでしょうか」
「……選びたい」
(そう言えば、何で頭を冷やすなんて言ったんだろう?)
これまで相手に対して結論を先送りにしたことはない。バッサリ切って捨てたことだってあるのに。
「…アオイは本当に凄いね」
「……私は、別に…」
照れ臭そうにするアオイの頭を撫でようとした椎名は、しかし次の瞬間立ち止まると険しい顔を見せた。
「椎名さん?」
「アオイ、蝶屋敷まで走って」
「え?」
「神は我々を御導きくださっているのだ」
「!?」
見たことのない衣服を纏った南蛮人が椎名たちの前に立ち塞がった。
丈の短い白い西洋風の法衣を身に纏った屈強な男たちの中心に年嵩の長い法衣の男が立っている。
男は顔に温和な笑みを浮かべていた。
「見よ!あれが我ら教団が長きに渡って追っていた白き森の悪鬼なるぞ!!」
男は高らかにそう告げると椎名を指し示した。椎名は日輪刀に手をかけると、油断なく相手を見やる。アオイが戸惑ったように後ろへ下がった。
「あの化け物を捕らえ猊下に差し出すのだ!!」
「「「おぉーっ!!」」」
男たちの咆哮が轟く。椎名はアオイを横に突き飛ばすと刀を抜いた。じわりと手のひらに嫌な汗が滲む。
「まさか同郷の人間にこんなところで会うなんてね」
「椎名さん!」
「行きなさい!アオイ!!」
椎名はそう叫ぶと長槍を構えた男たちの方へ飛び込んでいった。
槍を掻い潜り懐へ飛び込むと、刀の刃を返し腰を峰打ちにする。
(人を殺すわけにはいかない。耀哉に迷惑をかけることになる)
男達は武僧なのだろう。槍の扱いが上手い。
巧みに椎名と距離をとり、長槍の射程を崩さない。
(こんな往来のある場所で…)
槍ならば柄が当たった程度大したことはないが、刀はそうはいかない。通行人は離れていっているが、野次馬がそこそこいる。
「このっ…!」
突き出てくる槍をかわすと腕を狙う。骨折で動けなくなるだけで良い。
キンッ!
「!?」
しかし椎名の刃は金属音とともに弾かれた。男達の法衣の下にアームプレートが見える。
(冗談でしょ!)
呼吸を使えば切れる。椎名はその考えを打ち払った。そんな事をすれば間違いなく殺してしまう。
(どうする…?)
取り囲まれたまま椎名は思考を巡らせた。だが、何かを決めるより先に長衣の法衣の男が懐より水晶を取り出す。
「悪しき者に神罰を!!」
(それはっ!)
「がっ…!!」
椎名の周囲を光の円が囲った瞬間、激しい痛みが体を突き抜けた。力が抜けていきその場に倒れる。
(そんなもの…どうし、て……)
そこで椎名の意識は途絶えた。
「それを運びなさい」
男達は動かなくなった椎名を箱のようなものの中に入れると運び去った。
人混みに紛れそれを見ていたアオイが真っ青になって走り出す。
(しのぶ様...しのぶ様に知らせなきゃ!)
アオイは胸に抱いた風呂敷を力一杯握り締めて走った。