二章
夢小説設定
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ーー父さま、母さま、好きってなぁに?ーー
ーーとても大切と言うことだよーー
ーーあなたはどんな人を好きになるのかしらね?ーー
ーー可愛い可愛い私の娘よーー
ーーいつどんな時でも人を愛することだけはやめないでーー
ガチィン!!
岩を切りつけたような不快な音とともに鬼の首が宙に舞った。塵となるその首に見向きもせず杏寿郎は倒れている隊士に駆け寄った。
「しっかりしろ!」
「…ぁ………」
何かを言おうとして手を持ち上げるが、力尽き動かなくなる。杏寿郎はその目に光がないことを確認すると、瞑目した。目を閉じさせると両手を胸に置く。
鬼を追いかけ、偶然居合わせた椎名も離れた場所で黙祷を捧げた。
「うっ…うぅ…」
「わぁぁっ!」
一緒に行動していた隊士達が泣き崩れる。一人が杏寿郎の脚絆に縋りついた。
椎名が小さく息を呑む。
「なんで…なんでもっと…!」
「おい、止めろ!」
「っ!!…畜生!畜生!!」
「………」
杏寿郎は立ち上がると隊士達を振り返った。平静な表情のまま話す。
「もうじき隠が来る!君達は治療を受けるといい!!」
「……はぃ」
「………」
座り込んだ隊士達の返事を確認すると歩き出す。杏寿郎は人目につかない場所まで来ると立ち止まった。固く目を閉じる。
(もっと早く来ていれば…)
血に塗れた隊士の物言いたげな目が蘇る。ギリっと奥歯が嫌な音を立てた。
トン。
「………」
背中に軽い衝撃を感じて杏寿郎は目を開いた。そっと振り返ると銀の髪が自分の背中に張り付いている。
椎名が自分に背を向ける形で立っていた。
(…温かい)
何も言わずにいる椎名の温かさに杏寿郎の体から力が抜ける。言葉を尽くし励まされるより、それはずっと杏寿郎の心に染みた。
「…彼は俺が柱になる前からの付き合いだったんだ」
言うつもりのなかった言葉が溢れる。
「決して強い隊士では無かったが、観察力に優れ、仲間からの信頼も厚かった」
「唯一の肉親である姉がこの前嫁いだばかりと…っ」
言葉が続かなくなり杏寿郎は振り返ると椎名の肩に額を押し当てた。
「…すまない、情けない男だ俺は」
「…泣けばいいし、悲しい苦しい寂しいを我慢する事はないわ」
椎名はほんの少しだけ肩に乗る杏寿郎の髪に頬を寄せた。自分には理解しきれないであろう苦しみを、それでも少しで良いから分かち合いたい。
「人に見られたくないなら、私も今は見てないから」
椎名の言葉に杏寿郎の目に涙が一粒伝った。自分の視界をまっすぐ下に落ちていき地面に消える。
(大丈夫だ、俺はなすべき事を成すだけだ)
杏寿郎は体を起こすと椎名に背中を向けた。
「もう夜が明ける。君も戻って休むといい」
「っ!」
炎柱の証である羽織を翻し歩き出す。椎名は思わず振り返りその手を掴もうとして…そんな自分に驚いて手を下げた。
(引き止めてどうするの)
自分の問いかけに胸の中に生まれた感情が返事を返す。椎名は後退りすると座り込んだ。
(抱きしめてあげたかった)
(彼に笑っていて欲しい)
(彼が辛いと胸が張り裂けそう)
(幸せであって欲しい)
(私は彼が…)
「うそ、でしょう…?」
ズキリと胸が痛んで椎名は自分を抱きしめた。涙が溢れる。
椎名は首を横に振った。
この想いに結論は一つしかない。
(…諦めなければ)
人間の一生は短い。ましてや鬼殺隊の炎柱である杏寿郎は更に。煉獄家の長男である以上、跡を継ぐ子が彼には絶対必要なのだ。
そんな杏寿郎をただ長く生きるだけの、人間とは絶対に子を産めない自分が望む事はできない。
(杏寿郎は人間の妻を娶る)
(子をなして次へ繋いでいくの)
(それが正しいの)
森の奥へ消えて行く杏寿郎の背中を見えなくなるまで見つめると椎名は膝を抱えて顔を伏せた。
(父さま母さまごめんなさい。私は誰かを好きになっちゃいけないのよ…もっと早く気付くべきだったわ)
日が高く上がるまで椎名はその場を動けなかった。
ーーとても大切と言うことだよーー
ーーあなたはどんな人を好きになるのかしらね?ーー
ーー可愛い可愛い私の娘よーー
ーーいつどんな時でも人を愛することだけはやめないでーー
ガチィン!!
岩を切りつけたような不快な音とともに鬼の首が宙に舞った。塵となるその首に見向きもせず杏寿郎は倒れている隊士に駆け寄った。
「しっかりしろ!」
「…ぁ………」
何かを言おうとして手を持ち上げるが、力尽き動かなくなる。杏寿郎はその目に光がないことを確認すると、瞑目した。目を閉じさせると両手を胸に置く。
鬼を追いかけ、偶然居合わせた椎名も離れた場所で黙祷を捧げた。
「うっ…うぅ…」
「わぁぁっ!」
一緒に行動していた隊士達が泣き崩れる。一人が杏寿郎の脚絆に縋りついた。
椎名が小さく息を呑む。
「なんで…なんでもっと…!」
「おい、止めろ!」
「っ!!…畜生!畜生!!」
「………」
杏寿郎は立ち上がると隊士達を振り返った。平静な表情のまま話す。
「もうじき隠が来る!君達は治療を受けるといい!!」
「……はぃ」
「………」
座り込んだ隊士達の返事を確認すると歩き出す。杏寿郎は人目につかない場所まで来ると立ち止まった。固く目を閉じる。
(もっと早く来ていれば…)
血に塗れた隊士の物言いたげな目が蘇る。ギリっと奥歯が嫌な音を立てた。
トン。
「………」
背中に軽い衝撃を感じて杏寿郎は目を開いた。そっと振り返ると銀の髪が自分の背中に張り付いている。
椎名が自分に背を向ける形で立っていた。
(…温かい)
何も言わずにいる椎名の温かさに杏寿郎の体から力が抜ける。言葉を尽くし励まされるより、それはずっと杏寿郎の心に染みた。
「…彼は俺が柱になる前からの付き合いだったんだ」
言うつもりのなかった言葉が溢れる。
「決して強い隊士では無かったが、観察力に優れ、仲間からの信頼も厚かった」
「唯一の肉親である姉がこの前嫁いだばかりと…っ」
言葉が続かなくなり杏寿郎は振り返ると椎名の肩に額を押し当てた。
「…すまない、情けない男だ俺は」
「…泣けばいいし、悲しい苦しい寂しいを我慢する事はないわ」
椎名はほんの少しだけ肩に乗る杏寿郎の髪に頬を寄せた。自分には理解しきれないであろう苦しみを、それでも少しで良いから分かち合いたい。
「人に見られたくないなら、私も今は見てないから」
椎名の言葉に杏寿郎の目に涙が一粒伝った。自分の視界をまっすぐ下に落ちていき地面に消える。
(大丈夫だ、俺はなすべき事を成すだけだ)
杏寿郎は体を起こすと椎名に背中を向けた。
「もう夜が明ける。君も戻って休むといい」
「っ!」
炎柱の証である羽織を翻し歩き出す。椎名は思わず振り返りその手を掴もうとして…そんな自分に驚いて手を下げた。
(引き止めてどうするの)
自分の問いかけに胸の中に生まれた感情が返事を返す。椎名は後退りすると座り込んだ。
(抱きしめてあげたかった)
(彼に笑っていて欲しい)
(彼が辛いと胸が張り裂けそう)
(幸せであって欲しい)
(私は彼が…)
「うそ、でしょう…?」
ズキリと胸が痛んで椎名は自分を抱きしめた。涙が溢れる。
椎名は首を横に振った。
この想いに結論は一つしかない。
(…諦めなければ)
人間の一生は短い。ましてや鬼殺隊の炎柱である杏寿郎は更に。煉獄家の長男である以上、跡を継ぐ子が彼には絶対必要なのだ。
そんな杏寿郎をただ長く生きるだけの、人間とは絶対に子を産めない自分が望む事はできない。
(杏寿郎は人間の妻を娶る)
(子をなして次へ繋いでいくの)
(それが正しいの)
森の奥へ消えて行く杏寿郎の背中を見えなくなるまで見つめると椎名は膝を抱えて顔を伏せた。
(父さま母さまごめんなさい。私は誰かを好きになっちゃいけないのよ…もっと早く気付くべきだったわ)
日が高く上がるまで椎名はその場を動けなかった。