一章
夢小説設定
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くしゃり。
頭を撫でられて無一郎は困惑した。兄の有一郎を亡くし、産屋敷家で治療を受けていたある日の事だ。
見た事のない銀髪が珍しくて無一郎は指に触れた一筋を握りしめた。
「ん?」
「あ、ごめん」
微笑む椎名に無一郎は慌てて手を離した。くしゃくしゃに頭を撫でられて困惑する。
「あの…」
「何かしら?」
「…何で撫でてるの?」
「何となく」
「何それ」
流石にムッとする。しかし椎名は無一郎の髪を整えるとまた笑った。
「随分元気になったね。ここに運び込まれてきた時は肝が冷えたけど」
「…会ったことあったっけ?」
思い出せない。無一郎は眉を顰めたが、椎名は気にする風もなかった。
「ここに運ばれてからこっち、ほとんど意識がなかったからね」
怪我自体はそう酷くなかったが、極限状態で持てる以上の力を出してしまった無一郎の体はボロボロになっていた。最近ようやく体を起こせるようになったのだ。
「意識があったって忘れたんじゃ意味ないよ。思い出せないなら、知らないのと一緒だし」
「そう。じゃあ会うたび頭を撫でることにするわね」
「…は?」
無一郎が顔を上げると椎名は悪戯な顔で笑っていた。
「体が覚えたことは裏切らない。筋肉や感覚が覚えてる。私も無一郎のことずっと撫でてれば感覚を覚えてもらえるかもしれないしね」
「それもすぐ…」
「それに」
椎名は無一郎の言葉を遮った。
「覚えていないものは思い出せないけど、忘れただけのものはいつか思い出せるよ」
「…屁理屈って言われない?」
「どうかしらね」
椎名は最後にもう一度無一郎の頭にポンポンと手を置くと、立ち上がった。
「またね、無一郎」
音もなく障子が閉じられ、静かになった室内で無一郎はぽつりと呟いた。
「全部忘れるわけじゃないんだけどな」
倒れる前の事ならともかく、最近の事なら覚えていることも多い。
「………」
無一郎は自分の頭に手を置くと、自分で撫でてみた。
(なんか違う)
不思議な気分を持て余しながら無一郎は布団に潜り込んだ。
頭を撫でられて無一郎は困惑した。兄の有一郎を亡くし、産屋敷家で治療を受けていたある日の事だ。
見た事のない銀髪が珍しくて無一郎は指に触れた一筋を握りしめた。
「ん?」
「あ、ごめん」
微笑む椎名に無一郎は慌てて手を離した。くしゃくしゃに頭を撫でられて困惑する。
「あの…」
「何かしら?」
「…何で撫でてるの?」
「何となく」
「何それ」
流石にムッとする。しかし椎名は無一郎の髪を整えるとまた笑った。
「随分元気になったね。ここに運び込まれてきた時は肝が冷えたけど」
「…会ったことあったっけ?」
思い出せない。無一郎は眉を顰めたが、椎名は気にする風もなかった。
「ここに運ばれてからこっち、ほとんど意識がなかったからね」
怪我自体はそう酷くなかったが、極限状態で持てる以上の力を出してしまった無一郎の体はボロボロになっていた。最近ようやく体を起こせるようになったのだ。
「意識があったって忘れたんじゃ意味ないよ。思い出せないなら、知らないのと一緒だし」
「そう。じゃあ会うたび頭を撫でることにするわね」
「…は?」
無一郎が顔を上げると椎名は悪戯な顔で笑っていた。
「体が覚えたことは裏切らない。筋肉や感覚が覚えてる。私も無一郎のことずっと撫でてれば感覚を覚えてもらえるかもしれないしね」
「それもすぐ…」
「それに」
椎名は無一郎の言葉を遮った。
「覚えていないものは思い出せないけど、忘れただけのものはいつか思い出せるよ」
「…屁理屈って言われない?」
「どうかしらね」
椎名は最後にもう一度無一郎の頭にポンポンと手を置くと、立ち上がった。
「またね、無一郎」
音もなく障子が閉じられ、静かになった室内で無一郎はぽつりと呟いた。
「全部忘れるわけじゃないんだけどな」
倒れる前の事ならともかく、最近の事なら覚えていることも多い。
「………」
無一郎は自分の頭に手を置くと、自分で撫でてみた。
(なんか違う)
不思議な気分を持て余しながら無一郎は布団に潜り込んだ。