喫茶店の女給になった元婚約者
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「それではありがとうございました。お気をつけていってらっしゃいませ」
折目正しく深々と頭を下げると椎名は俺を一顧だにせず住まいへと帰っていった。それを呆然と見送っていると小さな箱が乱雑に手元に落ちてきた。
「!?」
椎名が作ったと言う一口大の猪口令糖だ。甘い匂いは本来ならば美味しそうと感じるのだろうが、今の俺にはひたすらに甘ったるく重い匂いだ。
「へっぽこ」
「ぐっ……」
宇髄に呆れた視線を向けられて反論出来ずに歯を食いしばる。椎名が入っていった建物を眺めながら宇髄が肩をすくめた。
「ありゃあ完全にお前に見切りをつけてるな。お前の姿を見た時、驚いた音はしたが愛しい恋しいの音もなけりゃ嫌い憎いの音も何にもなかった。心底お前のことはどうでも良いって感じだな」
「……あれは、本当に椎名なのだろうか」
以前の彼女は自制的な性格で自分のなすべき事を淡々とこなしていくような女性だった。俺が言葉や行動に表さずとも全てを理解してくれているような……それが、あんな……洋装に身を包んだ彼女は生き生きとしておりまるで別人だ。
「藤の家が実家じゃ柱に婚約破棄されたからって帰るわけにはいかなかったんだろ。女が一人で生きていこうと思えば強くなるしかねぇわな」
俺がそこまで追い込んでしまったということだ。俺は……そんなつもりは……。
「そんなつもりは無かったとか言うなよ?婚約を破棄する!って派手にやらかしたのはお前なんだからな」
「……分かっている」
容赦無い宇髄の言葉に頷くことしか出来ない。
だが本当に……違うのだ。そんなつもりは無かった。
初め隠の本田少女に被害を訴えられたときにはそんな馬鹿なと退けた。椎名は藤の家の娘で鬼殺隊を支えてくれていた娘だ。煉獄家に嫁入りの準備で入った後は鬼殺隊との関わりは薄くなったが良く家の事をこなし、千寿郎ともあの父上とさえも良い関係を築いていた。それに俺に用があれば供をし任務に向かう俺が煩わされないよう荷を引き受けてくれてもいた。そんな献身的な婚約者が隠の一人でしか無い本田少女を虐げる理由がない。
しかし本田少女の訴えはそれから何度も続いた。やれ足を引っ掛けられたと言う小さなものから荷を奪われた、やってないことの濡れ衣を着せられた、水を頭からかけられたとどんどん大きくなっていく話に俺はいつの間にか本田少女の言葉が事実であると思うようになっていた。
椎名に素っ気なく接していたのは、そんな性根の女が婚約者なのかと言う苛立ちと、悪い行いには悪い結果が返ってくるのだと言う事を少しでも感じて欲しかったからだ。
自分のことながら何故あんな遠回りの方法を取ってしまったのか。ただ真っ直ぐ椎名を叱責していれば……いや、本田少女に止められていたのだったな。告げ口がバレればもっと酷い目に遭う。黙っていて欲しいと。
だがそれでも俺は椎名と真正面から話し合うべきだったのだ。それを隠と言う鬼殺隊の仲間だからと本田少女に重きを置いてしまった。
そしてある日、本田少女が腕に傷を負って現れた。椎名に突き飛ばされ怪我をしたと。俺は頭に完全に血が昇った。そのまま本田少女を連れて家に帰りそして……。
『本日この時、君との婚約を破棄する!』
「……っ」
何度思い返しても胸を掻きむしりたくなる愚かな行いだ。出来ることなら今すぐあの時に舞い戻って俺自身を斬り捨てたい。
「ド派手に一人反省会をしてるとこなんだけどよ。今日はもう帰ってそれ食って寝ろ。お前は今日は見回りだけだろ。俺が回っといてやるよ」
「いや!そんな訳には……」
「そんなブレブレの音出しまくってる奴に何が出来るんだっつーの!邪魔!足手纏い!!柱失格!」
「っ、………………すまん」
素直に頷けば宇髄の空気が僅かに柔らかくなった。肩をポンポンと軽く叩かれる。
「椎名は他の柱にも人気があったからな。飯も美味いし人当たりも良いしそつなく何でもこなすしな。だからついお前への当たりが強くなっちまう。まぁ、悲鳴嶼さんが聞いてきた話がトドメを刺したってのもあるけどな」
「……そうだな」
悲鳴嶼さんが椎名から聞いてきた話は、俺の話と思わず聞けば腹立たしいものだった。憤慨し話を聞いていれば悲鳴嶼さんが話の最後にこれはお前の話だとこちらを向いて……自身の行いに顔から火が出る思いだった。
「だけどお前さぁ、鬼殺隊士や隠にはそんなんじゃねぇだろ?千寿郎にだってそんな事してねぇじゃん。なんでだ?」
「何故……鬼殺隊は共に命をかけて戦う大事な仲間だ。千寿郎だって俺に取ってはたった一人の大事な弟……」
「生涯を共にする嫁は大事じゃねぇの?椎名はお前が大事だからそんだけ尽くしてたんだろ?」
「そ、れは……ぃっ!?」
返事に詰まった俺の額を宇髄が容赦なく指で弾いた。待て!脳が揺れたぞ!!俺の抗議の視線を物ともせず宇髄は背を向けるとひらりと手を振った。
「とにかく帰ってそれ食いながら一人反省会の続きでもするんだな。んで、良い加減反省し終わったらまた椎名に派手に惚れ直してもらえるよう精々頑張れよ!」
「……宇髄」
肩越しに振り返った宇髄はニッと人を食ったような笑みを浮かべていた。
「諦めらんねーんだろ?じゃあやれる所までやってみろよ!煉獄杏寿郎ともあろう者がいつまでもウジウジしてんじゃねぇよ!」
「……感謝する!宇髄!!」
任務に向かうために姿を消した宇髄を見送ると俺は椎名の住まいをもう一度振り返った。彼女にもう一度俺を見てもらうのだ。そのための努力を惜しむつもりはない。今度こそ大事なものを間違えるつもりはない。
猪口令糖の甘い香りが鼻をくすぐる。俺はそれを大事に抱えると家路を急ぐのだった。
折目正しく深々と頭を下げると椎名は俺を一顧だにせず住まいへと帰っていった。それを呆然と見送っていると小さな箱が乱雑に手元に落ちてきた。
「!?」
椎名が作ったと言う一口大の猪口令糖だ。甘い匂いは本来ならば美味しそうと感じるのだろうが、今の俺にはひたすらに甘ったるく重い匂いだ。
「へっぽこ」
「ぐっ……」
宇髄に呆れた視線を向けられて反論出来ずに歯を食いしばる。椎名が入っていった建物を眺めながら宇髄が肩をすくめた。
「ありゃあ完全にお前に見切りをつけてるな。お前の姿を見た時、驚いた音はしたが愛しい恋しいの音もなけりゃ嫌い憎いの音も何にもなかった。心底お前のことはどうでも良いって感じだな」
「……あれは、本当に椎名なのだろうか」
以前の彼女は自制的な性格で自分のなすべき事を淡々とこなしていくような女性だった。俺が言葉や行動に表さずとも全てを理解してくれているような……それが、あんな……洋装に身を包んだ彼女は生き生きとしておりまるで別人だ。
「藤の家が実家じゃ柱に婚約破棄されたからって帰るわけにはいかなかったんだろ。女が一人で生きていこうと思えば強くなるしかねぇわな」
俺がそこまで追い込んでしまったということだ。俺は……そんなつもりは……。
「そんなつもりは無かったとか言うなよ?婚約を破棄する!って派手にやらかしたのはお前なんだからな」
「……分かっている」
容赦無い宇髄の言葉に頷くことしか出来ない。
だが本当に……違うのだ。そんなつもりは無かった。
初め隠の本田少女に被害を訴えられたときにはそんな馬鹿なと退けた。椎名は藤の家の娘で鬼殺隊を支えてくれていた娘だ。煉獄家に嫁入りの準備で入った後は鬼殺隊との関わりは薄くなったが良く家の事をこなし、千寿郎ともあの父上とさえも良い関係を築いていた。それに俺に用があれば供をし任務に向かう俺が煩わされないよう荷を引き受けてくれてもいた。そんな献身的な婚約者が隠の一人でしか無い本田少女を虐げる理由がない。
しかし本田少女の訴えはそれから何度も続いた。やれ足を引っ掛けられたと言う小さなものから荷を奪われた、やってないことの濡れ衣を着せられた、水を頭からかけられたとどんどん大きくなっていく話に俺はいつの間にか本田少女の言葉が事実であると思うようになっていた。
椎名に素っ気なく接していたのは、そんな性根の女が婚約者なのかと言う苛立ちと、悪い行いには悪い結果が返ってくるのだと言う事を少しでも感じて欲しかったからだ。
自分のことながら何故あんな遠回りの方法を取ってしまったのか。ただ真っ直ぐ椎名を叱責していれば……いや、本田少女に止められていたのだったな。告げ口がバレればもっと酷い目に遭う。黙っていて欲しいと。
だがそれでも俺は椎名と真正面から話し合うべきだったのだ。それを隠と言う鬼殺隊の仲間だからと本田少女に重きを置いてしまった。
そしてある日、本田少女が腕に傷を負って現れた。椎名に突き飛ばされ怪我をしたと。俺は頭に完全に血が昇った。そのまま本田少女を連れて家に帰りそして……。
『本日この時、君との婚約を破棄する!』
「……っ」
何度思い返しても胸を掻きむしりたくなる愚かな行いだ。出来ることなら今すぐあの時に舞い戻って俺自身を斬り捨てたい。
「ド派手に一人反省会をしてるとこなんだけどよ。今日はもう帰ってそれ食って寝ろ。お前は今日は見回りだけだろ。俺が回っといてやるよ」
「いや!そんな訳には……」
「そんなブレブレの音出しまくってる奴に何が出来るんだっつーの!邪魔!足手纏い!!柱失格!」
「っ、………………すまん」
素直に頷けば宇髄の空気が僅かに柔らかくなった。肩をポンポンと軽く叩かれる。
「椎名は他の柱にも人気があったからな。飯も美味いし人当たりも良いしそつなく何でもこなすしな。だからついお前への当たりが強くなっちまう。まぁ、悲鳴嶼さんが聞いてきた話がトドメを刺したってのもあるけどな」
「……そうだな」
悲鳴嶼さんが椎名から聞いてきた話は、俺の話と思わず聞けば腹立たしいものだった。憤慨し話を聞いていれば悲鳴嶼さんが話の最後にこれはお前の話だとこちらを向いて……自身の行いに顔から火が出る思いだった。
「だけどお前さぁ、鬼殺隊士や隠にはそんなんじゃねぇだろ?千寿郎にだってそんな事してねぇじゃん。なんでだ?」
「何故……鬼殺隊は共に命をかけて戦う大事な仲間だ。千寿郎だって俺に取ってはたった一人の大事な弟……」
「生涯を共にする嫁は大事じゃねぇの?椎名はお前が大事だからそんだけ尽くしてたんだろ?」
「そ、れは……ぃっ!?」
返事に詰まった俺の額を宇髄が容赦なく指で弾いた。待て!脳が揺れたぞ!!俺の抗議の視線を物ともせず宇髄は背を向けるとひらりと手を振った。
「とにかく帰ってそれ食いながら一人反省会の続きでもするんだな。んで、良い加減反省し終わったらまた椎名に派手に惚れ直してもらえるよう精々頑張れよ!」
「……宇髄」
肩越しに振り返った宇髄はニッと人を食ったような笑みを浮かべていた。
「諦めらんねーんだろ?じゃあやれる所までやってみろよ!煉獄杏寿郎ともあろう者がいつまでもウジウジしてんじゃねぇよ!」
「……感謝する!宇髄!!」
任務に向かうために姿を消した宇髄を見送ると俺は椎名の住まいをもう一度振り返った。彼女にもう一度俺を見てもらうのだ。そのための努力を惜しむつもりはない。今度こそ大事なものを間違えるつもりはない。
猪口令糖の甘い香りが鼻をくすぐる。俺はそれを大事に抱えると家路を急ぐのだった。