「煉獄」
　任務から帰る道中呼び止められて煉獄は足を止めた。冨岡がいつもの読めない表情で立っている。
「冨岡も任務帰りか！何か用だろうか！」
「…あの男は大丈夫なのか」
　そう問われて直ぐに雅人の事だと思い当たってしまった煉獄は眉を寄せた。また何かやらかしたのだろうか。
「雅人が何かしたのか！」
「いや…巡回先で相生を見かけた」
「うむ！それで？」
　相変わらず要領を得ない冨岡だが、何かを伝えようとしているのは良くわかる。煉獄は気長に冨岡の言葉の先を待った。
「鬼を…子供の鬼を斬っていた」
「！」
（雅人を心配しての言葉だったか）
　子供好きな雅人のことを思い煉獄は目を閉じた。しかしパッと笑顔を作るとしっかり冨岡を見つめる。
「雅人ならば大丈夫だ！あれでも鬼殺隊士としての責務はしっかりわかっている男だ！」
「…本音を仕舞い込むのは………俺と同じだ。よく、気をつけてやる事だ」
　言うだけ言うと気が済んだのか冨岡が立ち去る。煉獄は暫くその背中を見送った。冨岡の姿が人混みの中に見えなくなると煉獄は踵を返し歩き出した。
（雅人の事ならばよく分かっている。あれは俺に弱さを見せるような男ではない）
　時折愚痴混じりの弱音らしきものを吐くことはあるが、それもこちらの反応を楽しんでのものが多い。もどかしく感じることもあるがそれが雅人の人との距離感なのだろう。煉獄はそう思いこれまで踏み込んだことがない。
（…一度ぐらい雅人自身のことを尋ねてみても良いのかもしれないな）
　家族構成も、鬼殺隊に入る前は何をしていたのかも煉獄は何も知らない。
（そのうち顔を出しに来るだろう）
　千寿郎のご飯を強請りに来るかもしれない。その時は雅人の好物の湯豆腐を用意しよう。そんなことを思いつつ帰路に着く煉獄であった。