第二部
夢小説設定
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『生き物って長く生きると初めましてより経験済みの方が多くなって感覚が磨耗するんだってね。
人は生まれれば死ぬものだ。
新しいものが産まれれば古いものは滅びるものだ。
人間はそうやって巡っていく。繋がって行く。
けれど僕は無駄に長く生きて摩耗するつもりはないんだよ』
目の前に置かれた小太刀を前に煉獄は雅人のそんな言葉を思い出していた。最終決戦が終わった後、蝶屋敷で療養している時透から差し出されたものだ。
「相生さん、俺を庇って…これしか持ってこれなくて」
「いや、君が生き残ったことを知れば雅人も喜んでいるだろう。その上雅人の日輪刀まで…礼を言う」
手にした小太刀をじっと見つめる。刃には刃こぼれ一つ無かったが鞘は傷だらけで漆を何度も塗り直した後があった。
「…鬼殺隊で使われている呼吸は鬼を討伐するため必殺の威力を求められる。だが、雅人の呼吸はどちらかと言えば他の隊士を援護するような技だったと俺は思う」
長刀と小太刀を使い分け、傍で刀を振るわれても煉獄は一度も恐怖も不安も感じたことはなかった。人の剣技の足りない部分を助け、時には鬼を撹乱する雅人の技は本人の技量が大きかった故に単独で戦う為の技と思われがちだったが実際はそうでは無かった。
「だから人を守って逝ったと言うならば、それは本当に雅人らしかったのだろう」
煉獄は時透の頭をわしわしと撫でると明るく笑った。
「だから気に病まずにいてやってくれ!」
「…うん、そうだね」
何とか微笑んでみせる時透と別れると煉獄は雅人の小太刀を手に蝶屋敷を出た。まだまだ怪我人も多く後処理に時間はかかるがやがて穏やかな日常がやってくるだろう。
(落ち着いたら相生家の墓を建ててやろう)
骨を入れることはできないが両親と妹、それに雅人の名を刻もうと思う。小太刀まで墓に入れてやるべきかどうか悩みながら帰宅した煉獄は、要と共に塀に止まっている鴉に気が付いた。
「夜明」
名を呼べばスイっと滑らかな動きで縁側に舞い降りる。その嘴には手紙が咥えられていた。
『煉獄杏寿郎様』
雅人の字でそう認められたそれを煉獄はそっと受け取った。
「ありがとう夜明。そうか…きちんと書いていたんだな」
煉獄は懸紙 を外すと丁寧に折り畳まれた手紙を広げた。
時候の挨拶は省略させてもらうよ
僕が死んだ後に杏寿郎が読む手紙だから、まごう事なき本音を書こうと思う。
最初に君に会った時、御しやすそうな男だなと思った。けれど君は人当たりがいい割には頑固で融通が利かず、人の話も半分しか聞かない奴だった。正直僕にとっては面倒な部類の人間で、早い段階で離れておこうと思ってたんだよ。
だけどどう言う訳か君は気付けば僕の唯一の友人になっていた。駄目な時は叱り、共に食べて笑い、鬼に対して肩を並べて戦う。
君は僕にとって気の置けないかけがえの無い友だった。
君の幸せを願う。
いつか君が話してくれたように妻を迎え子を成し、煉獄家がこれからも幾久しく続いていくよう。
そうそう、君に子供が生まれたら名前を付けさせてくれるんだったよね。
折角だからここで決めておこうかな。
さて、なんて名前にしようか。
うん。賢く聡く、様々な縁に恵まれるよう惠寿郎にしよう。
気に入ったら君の子供に付けてやってくれ。
君の家系は男ばかりが生まれるそうだけど、もし女の子が生まれたら僕の妹の名前をあげるよ。
最後に妹の名が書かれたその手紙を煉獄は握り潰さないようにするのでやっとだった。視界が滲み息が詰まる。
「雅人…っ、雅人!」
笑っていてもどこか消えてしまいそうな儚い男だと思っていた。強く聡く強かではあるがどこか死に急いでいる。そんな男が自分に残してくれたものに煉獄はまっすぐ背を伸ばした。
(見守ってくれ雅人!君が残してくれたものを俺が繋いでいく!)
青く抜けるような空を夜明が何処かへか飛び去って行った。
庭でお茶を楽しんでいた佐和子はテーブルに舞い降りた鴉に目を丸くした。テーブルに置かれた菓子に悪戯するわけでもなく口に小さな袋を咥えている。
「…夜明、ね?それにその袋…」
自分の元を巣立って行った男の顔を思い出す。それと同時にあの夜の頼まれごとも思い出して佐和子は震える手でその袋を受け取った。
「相生雅人!死亡!!雅人!死亡!!鬼殺隊ハ本懐ヲ遂ゲタリ!」
「………」
ボロボロと涙が溢れ佐和子は口を手で覆った。夜明の声にやってきた源道が深々と頭を下げる。
「悲願成就、誠におめでとうございます。隊士であらせられる相生殿も本望でございましょう」
「…約束だから、たまに遊びに来て頂戴ね」
袋の中から取り出した木の実を掌に乗せて差し出すと夜明が器用に啄む。そのつぶらな瞳が揺れて小さな滴が佐和子の手に落ちた。
「良い子ね。これから宜しくね夜明」
微笑んでみせる佐和子に夜明けは大きく一鳴きした。
人は生まれれば死ぬものだ。
新しいものが産まれれば古いものは滅びるものだ。
人間はそうやって巡っていく。繋がって行く。
けれど僕は無駄に長く生きて摩耗するつもりはないんだよ』
目の前に置かれた小太刀を前に煉獄は雅人のそんな言葉を思い出していた。最終決戦が終わった後、蝶屋敷で療養している時透から差し出されたものだ。
「相生さん、俺を庇って…これしか持ってこれなくて」
「いや、君が生き残ったことを知れば雅人も喜んでいるだろう。その上雅人の日輪刀まで…礼を言う」
手にした小太刀をじっと見つめる。刃には刃こぼれ一つ無かったが鞘は傷だらけで漆を何度も塗り直した後があった。
「…鬼殺隊で使われている呼吸は鬼を討伐するため必殺の威力を求められる。だが、雅人の呼吸はどちらかと言えば他の隊士を援護するような技だったと俺は思う」
長刀と小太刀を使い分け、傍で刀を振るわれても煉獄は一度も恐怖も不安も感じたことはなかった。人の剣技の足りない部分を助け、時には鬼を撹乱する雅人の技は本人の技量が大きかった故に単独で戦う為の技と思われがちだったが実際はそうでは無かった。
「だから人を守って逝ったと言うならば、それは本当に雅人らしかったのだろう」
煉獄は時透の頭をわしわしと撫でると明るく笑った。
「だから気に病まずにいてやってくれ!」
「…うん、そうだね」
何とか微笑んでみせる時透と別れると煉獄は雅人の小太刀を手に蝶屋敷を出た。まだまだ怪我人も多く後処理に時間はかかるがやがて穏やかな日常がやってくるだろう。
(落ち着いたら相生家の墓を建ててやろう)
骨を入れることはできないが両親と妹、それに雅人の名を刻もうと思う。小太刀まで墓に入れてやるべきかどうか悩みながら帰宅した煉獄は、要と共に塀に止まっている鴉に気が付いた。
「夜明」
名を呼べばスイっと滑らかな動きで縁側に舞い降りる。その嘴には手紙が咥えられていた。
『煉獄杏寿郎様』
雅人の字でそう認められたそれを煉獄はそっと受け取った。
「ありがとう夜明。そうか…きちんと書いていたんだな」
煉獄は
時候の挨拶は省略させてもらうよ
僕が死んだ後に杏寿郎が読む手紙だから、まごう事なき本音を書こうと思う。
最初に君に会った時、御しやすそうな男だなと思った。けれど君は人当たりがいい割には頑固で融通が利かず、人の話も半分しか聞かない奴だった。正直僕にとっては面倒な部類の人間で、早い段階で離れておこうと思ってたんだよ。
だけどどう言う訳か君は気付けば僕の唯一の友人になっていた。駄目な時は叱り、共に食べて笑い、鬼に対して肩を並べて戦う。
君は僕にとって気の置けないかけがえの無い友だった。
君の幸せを願う。
いつか君が話してくれたように妻を迎え子を成し、煉獄家がこれからも幾久しく続いていくよう。
そうそう、君に子供が生まれたら名前を付けさせてくれるんだったよね。
折角だからここで決めておこうかな。
さて、なんて名前にしようか。
うん。賢く聡く、様々な縁に恵まれるよう惠寿郎にしよう。
気に入ったら君の子供に付けてやってくれ。
君の家系は男ばかりが生まれるそうだけど、もし女の子が生まれたら僕の妹の名前をあげるよ。
最後に妹の名が書かれたその手紙を煉獄は握り潰さないようにするのでやっとだった。視界が滲み息が詰まる。
「雅人…っ、雅人!」
笑っていてもどこか消えてしまいそうな儚い男だと思っていた。強く聡く強かではあるがどこか死に急いでいる。そんな男が自分に残してくれたものに煉獄はまっすぐ背を伸ばした。
(見守ってくれ雅人!君が残してくれたものを俺が繋いでいく!)
青く抜けるような空を夜明が何処かへか飛び去って行った。
庭でお茶を楽しんでいた佐和子はテーブルに舞い降りた鴉に目を丸くした。テーブルに置かれた菓子に悪戯するわけでもなく口に小さな袋を咥えている。
「…夜明、ね?それにその袋…」
自分の元を巣立って行った男の顔を思い出す。それと同時にあの夜の頼まれごとも思い出して佐和子は震える手でその袋を受け取った。
「相生雅人!死亡!!雅人!死亡!!鬼殺隊ハ本懐ヲ遂ゲタリ!」
「………」
ボロボロと涙が溢れ佐和子は口を手で覆った。夜明の声にやってきた源道が深々と頭を下げる。
「悲願成就、誠におめでとうございます。隊士であらせられる相生殿も本望でございましょう」
「…約束だから、たまに遊びに来て頂戴ね」
袋の中から取り出した木の実を掌に乗せて差し出すと夜明が器用に啄む。そのつぶらな瞳が揺れて小さな滴が佐和子の手に落ちた。
「良い子ね。これから宜しくね夜明」
微笑んでみせる佐和子に夜明けは大きく一鳴きした。
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