第一部
夢小説設定
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トントントン。
窓ガラスを叩く音に眠っていた源道と佐和子は飛び上がった。源道が枕の下に手を入れる。
「物騒すぎない?源道さん」
「悪ガキか」
「驚かさないで頂戴」
暗い室内を照らす月上がりの中、窓枠に軽く寄りかかり隊服姿の雅人が立っていた。ホッと肩の力を抜く二人に雅人が小さく笑った。
「こんばんは」
「…古巣に戻ったんだな」
「うん。源道さんのお陰でね」
あの後直ぐに産屋敷に呼ばれた雅人は丁寧な謝罪をされて恐縮しきりだった。その時に源道が産屋敷宛に出した手紙を見せられたのだ。
「酷くない?犬は帰巣本能が強いとか、初めの飼い主を忘れてないとかさ」
「本当の事だろうが」
否定はしないが肯定もしたくない気分で雅人は軽く肩を竦めた。源道が渋い顔をする。
「古巣に戻ったならこんな所に来るんじゃねえ」
「あなた」
「お前の古巣はこんな所とは違う立派な所だ」
佐和子の制止を無視して源道が言い切る。雅人は暫く沈黙していたが、やがて口を開いた。
「今日はこれを返しに来たんだ」
お使いの時に渡された分厚い財布をテーブルの上に置く。佐和子がギュッと胸の前で手を握り締めた。
「それは貴方にあげたのよ」
「受け取れないよ。僕は鬼殺隊だ」
「………」
佐和子は一度目を閉じると静かに雅人を見た。もうそこには途方に暮れた子供はいない。過酷な鬼との戦いに身を置く男がいるだけだ。佐和子は泣きそうになるのを堪えると微笑んで見せた。
「元気で」
「うん。ありがとう。あ、一つだけお願いがあるんだけど良いかな?」
「なんだ」
佐和子の肩を抱くと源道が尋ねる。雅人が腕を上げると鴉が音もなく舞い降りた。
「夜明って言うんだ。見かけたら食べ物やってあげて」
ポケットから木の実を一つ取り出すと夜明の口に運ぶ。こぼさないよう食べる夜明に佐和子が笑った。
「お喋りする鴉ね。えぇ、分かったわ」
「じゃあ行くね…ありがとう、ここは居心地が良かった」
ほんの僅かな間だったけど、傷を癒すには十分過ぎた。また刀を持って戦える。
雅人は窓枠に足をかけると、ふと思いついて源道を振り返った。
「窓の鍵、もう少し複雑なのに変えた方が良いよ」
ちょっとの振動で簡単に開いてしまっては困る。源道が呆れた声を出した。
「三階の窓から忍び込んでくる奴なんざお前だけだ」
「はは…そうかもね」
ヘラッと笑うと雅人は姿を消した。佐和子がベッドから出ると窓を閉める。
「行っちゃったわね」
「若い燕を見つけるのは良いが、今度は俺の稼業にも興味のある奴にしてくれ」
源道はベッドに戻ってきた佐和子の肩を抱いた。頭を預けてくるのに髪を撫でる。
「そんなこと言って、あの子の事凄く気に入ってたじゃない」
これまで佐和子が連れてきた男で源道があそこまで甘やかしたのはいない。佐和子の言葉に源道が咳払いした。
「私の人を見る目は確かよ。信用して頂戴」
「そりゃあ心配になる台詞だな」
源道はニヤリと笑うと佐和子の額に唇を落とした。
「なんせ俺みたいなろくでなしに捕まったんだからよ」
「あら、だから自信があるのに」
ウフフと笑う佐和子を源道がベッドに横たえる。
「明日、お前の着物でも買いに行くか」
「素敵ね。夏の着物が一枚欲しいわ」
「何枚でも買え」
この日を最後に源道と佐和子は二度と雅人に会うことは無かった。
窓ガラスを叩く音に眠っていた源道と佐和子は飛び上がった。源道が枕の下に手を入れる。
「物騒すぎない?源道さん」
「悪ガキか」
「驚かさないで頂戴」
暗い室内を照らす月上がりの中、窓枠に軽く寄りかかり隊服姿の雅人が立っていた。ホッと肩の力を抜く二人に雅人が小さく笑った。
「こんばんは」
「…古巣に戻ったんだな」
「うん。源道さんのお陰でね」
あの後直ぐに産屋敷に呼ばれた雅人は丁寧な謝罪をされて恐縮しきりだった。その時に源道が産屋敷宛に出した手紙を見せられたのだ。
「酷くない?犬は帰巣本能が強いとか、初めの飼い主を忘れてないとかさ」
「本当の事だろうが」
否定はしないが肯定もしたくない気分で雅人は軽く肩を竦めた。源道が渋い顔をする。
「古巣に戻ったならこんな所に来るんじゃねえ」
「あなた」
「お前の古巣はこんな所とは違う立派な所だ」
佐和子の制止を無視して源道が言い切る。雅人は暫く沈黙していたが、やがて口を開いた。
「今日はこれを返しに来たんだ」
お使いの時に渡された分厚い財布をテーブルの上に置く。佐和子がギュッと胸の前で手を握り締めた。
「それは貴方にあげたのよ」
「受け取れないよ。僕は鬼殺隊だ」
「………」
佐和子は一度目を閉じると静かに雅人を見た。もうそこには途方に暮れた子供はいない。過酷な鬼との戦いに身を置く男がいるだけだ。佐和子は泣きそうになるのを堪えると微笑んで見せた。
「元気で」
「うん。ありがとう。あ、一つだけお願いがあるんだけど良いかな?」
「なんだ」
佐和子の肩を抱くと源道が尋ねる。雅人が腕を上げると鴉が音もなく舞い降りた。
「夜明って言うんだ。見かけたら食べ物やってあげて」
ポケットから木の実を一つ取り出すと夜明の口に運ぶ。こぼさないよう食べる夜明に佐和子が笑った。
「お喋りする鴉ね。えぇ、分かったわ」
「じゃあ行くね…ありがとう、ここは居心地が良かった」
ほんの僅かな間だったけど、傷を癒すには十分過ぎた。また刀を持って戦える。
雅人は窓枠に足をかけると、ふと思いついて源道を振り返った。
「窓の鍵、もう少し複雑なのに変えた方が良いよ」
ちょっとの振動で簡単に開いてしまっては困る。源道が呆れた声を出した。
「三階の窓から忍び込んでくる奴なんざお前だけだ」
「はは…そうかもね」
ヘラッと笑うと雅人は姿を消した。佐和子がベッドから出ると窓を閉める。
「行っちゃったわね」
「若い燕を見つけるのは良いが、今度は俺の稼業にも興味のある奴にしてくれ」
源道はベッドに戻ってきた佐和子の肩を抱いた。頭を預けてくるのに髪を撫でる。
「そんなこと言って、あの子の事凄く気に入ってたじゃない」
これまで佐和子が連れてきた男で源道があそこまで甘やかしたのはいない。佐和子の言葉に源道が咳払いした。
「私の人を見る目は確かよ。信用して頂戴」
「そりゃあ心配になる台詞だな」
源道はニヤリと笑うと佐和子の額に唇を落とした。
「なんせ俺みたいなろくでなしに捕まったんだからよ」
「あら、だから自信があるのに」
ウフフと笑う佐和子を源道がベッドに横たえる。
「明日、お前の着物でも買いに行くか」
「素敵ね。夏の着物が一枚欲しいわ」
「何枚でも買え」
この日を最後に源道と佐和子は二度と雅人に会うことは無かった。