第一部
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(煉獄さん、煉獄さん…煉獄さん!)
地面に倒れ動けないまま炭治郎は拳を握り締めた。今すぐ立って助けに行きたいのに力が入らない。煉獄は左目が潰れ、肋骨骨折に内臓損傷で立っているのが不思議なぐらいだ。
「鬼になれ杏寿郎。どう足掻いても人間では鬼に勝てない」
猗窩座の台詞に煉獄の周囲を炎が取り囲む。ゴオッ!と言う凄まじい音の隙間からザリ…と土を踏む音がして炭治郎は後ろを振り返った。
柔らかな笑みを浮かべた雅人に目を丸くする。
「やぁ」
「………え」
「ちょっと借りるよ」
「!!」
いつの間にか雅人の手には炭治郎の日輪刀が握られていた。雅人がその刃の色に小さく笑う。
「黒か。うん、良いね」
「ま、待って!危険です!!下がって」
一般人を危険に晒すまいとする炭治郎の頭を雅人はポンポンと叩いた。ビックリ顔の炭治郎にもう一度微笑みかけると雅人は玖ノ型を繰り出した煉獄の後ろを駆け出した。猗窩座の破壊殺で刀を弾かれた煉獄の腹に迫る腕を斬り飛ばす。返す刀で首を狙った一撃は猗窩座が後ろに下がった為に空を切った。
「嘘だろ…」
「……凄い…」
伊之助と炭治郎が呆然と呟いた。腕を再生させた猗窩座が眉を寄せる。煉獄は目の前の光景をなかなか飲み込めなかった。
「何だお前は」
「通りすがりの元鬼殺隊だよ。まぁ…」
雅人はまだ唖然としている煉獄をチラリと見ると笑って見せた。
「杏寿郎が許してくれるなら、この炎柱様のオトモダチでもあるんだけどな」
「…雅人」
煉獄はふらりと雅人に歩み寄るとその肩を掴んだ。横目に自分を見てくる雅人に懐かしさが込み上げる。
「友と、呼んでくれるのか」
「いやそれ僕の台詞」
間髪入れず突っ込んでくる雅人に煉獄は小さく笑うと猗窩座へと向き直った。黙って二人のやり取りを見ていた猗窩座が雅人を指差す。
「柱ではないようだが俺には分かる。お前も強き者だな」
「そう?僕、自分の弱さを痛感したばかりなんだけどな」
向き合って来なかった心の弱さ、誤魔化し続けて来た狡さ。腹が立つほど弱い。
「鬼になればそんな下らない感傷から解き放たれるぞ。雅人、鬼になろう」
「えー、こんな腹立つ勧誘受けてたの?杏寿郎」
「うむ!最初から断りっぱなしだがな!!」
煉獄が猗窩座に正面から飛び込んだ。打ち込みを拳でいなす猗窩座に炎の影から雅人が斬り込む。腕を斬られ、耳を削がれ、頰から鼻にかけて傷をつけられた猗窩座が勢いに押し負け一歩下がるのを見逃さず、雅人が首に刃を振り下ろした。
ガキン!!
「!!」
途中で止まった刃に雅人は刀から手を離すと後ろに下がった。煉獄が一拍遅れて猗窩座から距離を取る。怒りに青筋を立てる猗窩座だったが、山の稜線が明るくなって来たのに顔色を変えた。森の中に駆け込んでいく猗窩座を煉獄が追いかけようとする。
「待て!」
「駄目だよ杏寿郎」
「雅人!」
煉獄を制止すると雅人は両手を広げて見せた。丸腰の雅人に煉獄がハッとする。
「自分の刀じゃないから上手く使えない。アイツの首から日輪刀を引き抜くのは無理だ」
「そうか…そうだな」
煉獄はふーっと長く息を吐くとその場に座り込んだ。横に膝をついた雅人が覗き込む。
「杏寿郎」
「大丈夫だ。酷い有様だがな」
微笑む煉獄に雅人も笑って返す。駆け寄って来た炭治郎がボロボロ涙を流した。
「煉獄さん!よ、良かった!良かった!!」
「案ずるな!竈門少年!俺は大丈夫だ!!」
「肋骨折ってる人は大声出すべきじゃないよ」
雅人は立ち上がると指笛を鳴らした。どこからか夜明が飛んでくる。
「要もその辺にいるんだろう?隠をこの場所まで先導頼むよ。胡蝶さんの所に怪我人の受け入れ要請も。四人ね」
「了解!!」
一声鳴くと飛んでいく。雅人が煉獄の方を振り返ると、炭治郎と視線がかち合った。
「あっ、えっと…あの!助けて頂いてありがとうございます!!」
「お礼なんていらないよ。あー、でも僕の方はゴメンね、かな」
雅人は炭治郎の横にしゃがむと眉を下げた。キョトンとする炭治郎に苦笑する。
「日輪刀、アイツに持っていかれちゃった」
「あ」
脳内で鋼鐵塚が出刃包丁を持って現れて炭治郎は顔色を変えた。煉獄が声を上げて笑う。
「心配するな竈門少年!俺からも口添えをしよう!任務で日輪刀を破損紛失するのはままある事だ!」
「は、はい…」
シュン…としてしまった炭治郎に申し訳なさが沸いて雅人はその頭を撫でた。それに炭治郎より煉獄が目を見開く。
「人が変わったようだな雅人!」
「んー、鬼殺隊を離れている間に色々考えたからね」
「雅人」
煉獄は姿勢を正すと雅人に向き直った。地面に手をつくと深く頭を下げる。雅人どころか炭治郎や伊之助も息を呑んだ。
「すまなかった。あの後、宇髄が報告書を再調査した。怪我をした隊士と目撃者の隠、報告書を作成した隠は繋がっていたんだ。彼らが子供を誘拐し南蛮へ売っていたことも分かった。調査不足だった俺たちの責任だ」
そこで言葉を切ると煉獄は顔を上げた。グッと一度目を閉じると続ける。
「何より君を信じ切ることの出来なかった俺が悪…」
「間違えたのは僕も同じだよ」
雅人は煉獄の言葉を遮ると胡座をかいて地面に座った。
「一人で解決するようなことじゃなかった。君に一言言えば済んだ話だった。意固地を拗らせてたんだ」
「君、本当に雅人だろうな」
もはや中身別人かと問いたくなるような変貌ぶりである。煉獄の言葉に雅人は嫌そうに顔を歪めた。あぁ雅人だと煉獄が安心する。
「おーい!炭治郎ー!伊之助ー!!」
「善逸!!」
「遅えぞ!紋逸!!」
背負い箱を背負って駆けてくる善逸に炭治郎が手を振った。そっと背負い箱をおろす。
「禰󠄀豆子ちゃん、炭治郎だよ」
「禰󠄀豆子!よく頑張ったな!」
箱の中から返事の代わりにカリカリと音がした。ホッと表情を緩めた炭治郎だったが、ハッとすると箱を抱き締め雅人を振り返る。
「あのっ、俺の妹なんです!禰󠄀豆子は鬼だけど!人を襲ってなくて…っ」
「炭治郎、その人なら禰󠄀豆子ちゃんの事はじめから知ってたみたい」
炭治郎は善逸の言葉に目を瞬いた。雅人が薄く微笑むと煉獄を横目に見る。
「誰かの差し金で夜明が一生懸命情報漏洩に勤しんでいたからね。よーく知ってるよ」
「けしからん者がいたものだな!」
笑顔でそう言う煉獄の肩を小突く。炭治郎達が明るい笑い声を上げた。
「鬼殺隊に戻って来てくれ雅人!」
「是非、と言いたいところだけど納得しない人もいるだろうね」
不死川とか伊黒とか不死川とか不死川とか。不死川の名を三度も上げる雅人に煉獄が頷いた。
「否定はしない!だが、君が冤罪だったことは皆理解している!反対はしないだろう!」
「不死川さんが怒ってるのはそこじゃ無いよ」
産屋敷への雅人の態度に大激怒なのだ。煉獄は暫く顎に手を当て考えるとポンと手を打った。
「雅人!俺の継子になろう!!」
「はぁっ!?」
「こら!」
嫌そうな顔をする雅人の脳天に煉獄は手刀を落とした。そこまで嫌がられるのは納得がいかない。頭を抱えて蹲った雅人に炭治郎達も頭を押さえて震え上がった。柱、怖い。
「俺の継子という体で鬼殺隊への復帰を願うのだ!君がやらかせば俺も君も切腹だ!」
「杏寿郎と心中?こんな大柄な男二人で?キッツ」
「君がやらかさなければいい話だ!」
一文字ずつ区切るように言いながら雅人の頭を拳骨でグリグリする。禿げる!と叫ぶ雅人に禿げろ!と返す煉獄は楽しげだ。
「炎柱様!」
駆け寄ってくる隠の姿に雅人は立ち上がった。
「乗客の救護を手伝ってくるよ。君達は全員蝶屋敷行きね」
「救護が済んだら顔を出してくれ!お館様には文を書いておく!」
「ん、お大事にね。君達も」
雅人の鬼殺隊復帰が決まったのはそれから三日後の事だった。
地面に倒れ動けないまま炭治郎は拳を握り締めた。今すぐ立って助けに行きたいのに力が入らない。煉獄は左目が潰れ、肋骨骨折に内臓損傷で立っているのが不思議なぐらいだ。
「鬼になれ杏寿郎。どう足掻いても人間では鬼に勝てない」
猗窩座の台詞に煉獄の周囲を炎が取り囲む。ゴオッ!と言う凄まじい音の隙間からザリ…と土を踏む音がして炭治郎は後ろを振り返った。
柔らかな笑みを浮かべた雅人に目を丸くする。
「やぁ」
「………え」
「ちょっと借りるよ」
「!!」
いつの間にか雅人の手には炭治郎の日輪刀が握られていた。雅人がその刃の色に小さく笑う。
「黒か。うん、良いね」
「ま、待って!危険です!!下がって」
一般人を危険に晒すまいとする炭治郎の頭を雅人はポンポンと叩いた。ビックリ顔の炭治郎にもう一度微笑みかけると雅人は玖ノ型を繰り出した煉獄の後ろを駆け出した。猗窩座の破壊殺で刀を弾かれた煉獄の腹に迫る腕を斬り飛ばす。返す刀で首を狙った一撃は猗窩座が後ろに下がった為に空を切った。
「嘘だろ…」
「……凄い…」
伊之助と炭治郎が呆然と呟いた。腕を再生させた猗窩座が眉を寄せる。煉獄は目の前の光景をなかなか飲み込めなかった。
「何だお前は」
「通りすがりの元鬼殺隊だよ。まぁ…」
雅人はまだ唖然としている煉獄をチラリと見ると笑って見せた。
「杏寿郎が許してくれるなら、この炎柱様のオトモダチでもあるんだけどな」
「…雅人」
煉獄はふらりと雅人に歩み寄るとその肩を掴んだ。横目に自分を見てくる雅人に懐かしさが込み上げる。
「友と、呼んでくれるのか」
「いやそれ僕の台詞」
間髪入れず突っ込んでくる雅人に煉獄は小さく笑うと猗窩座へと向き直った。黙って二人のやり取りを見ていた猗窩座が雅人を指差す。
「柱ではないようだが俺には分かる。お前も強き者だな」
「そう?僕、自分の弱さを痛感したばかりなんだけどな」
向き合って来なかった心の弱さ、誤魔化し続けて来た狡さ。腹が立つほど弱い。
「鬼になればそんな下らない感傷から解き放たれるぞ。雅人、鬼になろう」
「えー、こんな腹立つ勧誘受けてたの?杏寿郎」
「うむ!最初から断りっぱなしだがな!!」
煉獄が猗窩座に正面から飛び込んだ。打ち込みを拳でいなす猗窩座に炎の影から雅人が斬り込む。腕を斬られ、耳を削がれ、頰から鼻にかけて傷をつけられた猗窩座が勢いに押し負け一歩下がるのを見逃さず、雅人が首に刃を振り下ろした。
ガキン!!
「!!」
途中で止まった刃に雅人は刀から手を離すと後ろに下がった。煉獄が一拍遅れて猗窩座から距離を取る。怒りに青筋を立てる猗窩座だったが、山の稜線が明るくなって来たのに顔色を変えた。森の中に駆け込んでいく猗窩座を煉獄が追いかけようとする。
「待て!」
「駄目だよ杏寿郎」
「雅人!」
煉獄を制止すると雅人は両手を広げて見せた。丸腰の雅人に煉獄がハッとする。
「自分の刀じゃないから上手く使えない。アイツの首から日輪刀を引き抜くのは無理だ」
「そうか…そうだな」
煉獄はふーっと長く息を吐くとその場に座り込んだ。横に膝をついた雅人が覗き込む。
「杏寿郎」
「大丈夫だ。酷い有様だがな」
微笑む煉獄に雅人も笑って返す。駆け寄って来た炭治郎がボロボロ涙を流した。
「煉獄さん!よ、良かった!良かった!!」
「案ずるな!竈門少年!俺は大丈夫だ!!」
「肋骨折ってる人は大声出すべきじゃないよ」
雅人は立ち上がると指笛を鳴らした。どこからか夜明が飛んでくる。
「要もその辺にいるんだろう?隠をこの場所まで先導頼むよ。胡蝶さんの所に怪我人の受け入れ要請も。四人ね」
「了解!!」
一声鳴くと飛んでいく。雅人が煉獄の方を振り返ると、炭治郎と視線がかち合った。
「あっ、えっと…あの!助けて頂いてありがとうございます!!」
「お礼なんていらないよ。あー、でも僕の方はゴメンね、かな」
雅人は炭治郎の横にしゃがむと眉を下げた。キョトンとする炭治郎に苦笑する。
「日輪刀、アイツに持っていかれちゃった」
「あ」
脳内で鋼鐵塚が出刃包丁を持って現れて炭治郎は顔色を変えた。煉獄が声を上げて笑う。
「心配するな竈門少年!俺からも口添えをしよう!任務で日輪刀を破損紛失するのはままある事だ!」
「は、はい…」
シュン…としてしまった炭治郎に申し訳なさが沸いて雅人はその頭を撫でた。それに炭治郎より煉獄が目を見開く。
「人が変わったようだな雅人!」
「んー、鬼殺隊を離れている間に色々考えたからね」
「雅人」
煉獄は姿勢を正すと雅人に向き直った。地面に手をつくと深く頭を下げる。雅人どころか炭治郎や伊之助も息を呑んだ。
「すまなかった。あの後、宇髄が報告書を再調査した。怪我をした隊士と目撃者の隠、報告書を作成した隠は繋がっていたんだ。彼らが子供を誘拐し南蛮へ売っていたことも分かった。調査不足だった俺たちの責任だ」
そこで言葉を切ると煉獄は顔を上げた。グッと一度目を閉じると続ける。
「何より君を信じ切ることの出来なかった俺が悪…」
「間違えたのは僕も同じだよ」
雅人は煉獄の言葉を遮ると胡座をかいて地面に座った。
「一人で解決するようなことじゃなかった。君に一言言えば済んだ話だった。意固地を拗らせてたんだ」
「君、本当に雅人だろうな」
もはや中身別人かと問いたくなるような変貌ぶりである。煉獄の言葉に雅人は嫌そうに顔を歪めた。あぁ雅人だと煉獄が安心する。
「おーい!炭治郎ー!伊之助ー!!」
「善逸!!」
「遅えぞ!紋逸!!」
背負い箱を背負って駆けてくる善逸に炭治郎が手を振った。そっと背負い箱をおろす。
「禰󠄀豆子ちゃん、炭治郎だよ」
「禰󠄀豆子!よく頑張ったな!」
箱の中から返事の代わりにカリカリと音がした。ホッと表情を緩めた炭治郎だったが、ハッとすると箱を抱き締め雅人を振り返る。
「あのっ、俺の妹なんです!禰󠄀豆子は鬼だけど!人を襲ってなくて…っ」
「炭治郎、その人なら禰󠄀豆子ちゃんの事はじめから知ってたみたい」
炭治郎は善逸の言葉に目を瞬いた。雅人が薄く微笑むと煉獄を横目に見る。
「誰かの差し金で夜明が一生懸命情報漏洩に勤しんでいたからね。よーく知ってるよ」
「けしからん者がいたものだな!」
笑顔でそう言う煉獄の肩を小突く。炭治郎達が明るい笑い声を上げた。
「鬼殺隊に戻って来てくれ雅人!」
「是非、と言いたいところだけど納得しない人もいるだろうね」
不死川とか伊黒とか不死川とか不死川とか。不死川の名を三度も上げる雅人に煉獄が頷いた。
「否定はしない!だが、君が冤罪だったことは皆理解している!反対はしないだろう!」
「不死川さんが怒ってるのはそこじゃ無いよ」
産屋敷への雅人の態度に大激怒なのだ。煉獄は暫く顎に手を当て考えるとポンと手を打った。
「雅人!俺の継子になろう!!」
「はぁっ!?」
「こら!」
嫌そうな顔をする雅人の脳天に煉獄は手刀を落とした。そこまで嫌がられるのは納得がいかない。頭を抱えて蹲った雅人に炭治郎達も頭を押さえて震え上がった。柱、怖い。
「俺の継子という体で鬼殺隊への復帰を願うのだ!君がやらかせば俺も君も切腹だ!」
「杏寿郎と心中?こんな大柄な男二人で?キッツ」
「君がやらかさなければいい話だ!」
一文字ずつ区切るように言いながら雅人の頭を拳骨でグリグリする。禿げる!と叫ぶ雅人に禿げろ!と返す煉獄は楽しげだ。
「炎柱様!」
駆け寄ってくる隠の姿に雅人は立ち上がった。
「乗客の救護を手伝ってくるよ。君達は全員蝶屋敷行きね」
「救護が済んだら顔を出してくれ!お館様には文を書いておく!」
「ん、お大事にね。君達も」
雅人の鬼殺隊復帰が決まったのはそれから三日後の事だった。