第一部
夢小説設定
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「杏寿郎!任務!上弦ノ鬼、出ルカモ!」
「…お前も懲りないね夜明」
頭元で甲高い声を上げられて雅人は溜息をついた。寝転がっていた屋根の上でゆっくり身を起こす。夜明が肩の上に乗ってきたのにズボンのポケットから木の実を出してやった。
「まぁ、お前が来るのを見越して食べ物を用意してる僕も僕だけど」
「雅人ー?何処にいるの?」
屋敷の中から聞こえてきた佐和子の声に雅人は開いている窓からひらりと中に滑り込んだ。
雅人は佐和子の住む屋敷に身を寄せていた。行く先に佐和子の所を選んだのに特に理由はなかったが、ふらりと現れた雅人を佐和子は何も言わずに受け入れてくれた。そのまま居着いた雅人は佐和子の番犬のようなことをやっている。
ワイシャツやベスト、ズボンの埃を払うと雅人は声の方へ向かう。ひょいと顔を覗かせた雅人に佐和子が笑った。
「あらやだ、また屋根に登ってたの?」
「え…」
一瞬で看破されて雅人は服を見下ろした。佐和子が手を伸ばすと髪に触れる。
「こっちよ」
パッパと埃を払われて雅人は小さく笑った。次の瞬間ぬっと現れた大きな手に乱暴に頭を混ぜられる。
「いたいたい!」
慌てて頭を抱えると振り返る。洋装姿の壮年の男性が葉巻を加えて立っていた。
「悪ガキ、また喋る鴉が来てたのか?」
「あなた、お帰りなさい」
「痛いよ源道さん」
雅人が涙目で抗議すると源道はニヒルな笑いを口元に浮かべた。雅人が自分の妻の佐和子と関係を持っているのを知っているはずなのに、何故か源道は雅人を悪ガキと呼び可愛がっている。
「まぁ座れ」
佐和子と並んでソファに腰掛けると源道は椅子を指し示した。腰掛けた雅人にアタッシュケースを差し出す。
「おつかいに行ってきてくれ」
「僕、怪しいもの運ぶの嫌だよ?」
雅人は佐和子の番犬はしていたが、任侠団体の活動には一切関与していなかった。それをしてしまう事に雅人自身が抵抗があったし、佐和子が絶対に認めなかったからだ。
眉を寄せた雅人に源道は呆れた顔をした。
「馬鹿野郎。お前にそんな事させたら俺が佐和子に殺されるだろ。世話になったお偉いさんの所に返さなきゃならないもんだ。中に手紙を入れてあるからそれごと渡せば良い」
「ん、わかった」
頷いてアタッシュケースを引き受ければ佐和子がお札のぎっしり詰まった財布を手渡してきた。
「東京駅まで行ってそこから列車に乗りなさいね。終点までよ」
お小遣いだから道中好きにつかいなさいと言われて雅人は苦笑した。
「お小遣いって額じゃないよ」
この財布に入っている金だけで家が買えそうだ。雅人は財布を返そうとしたが佐和子は頑として受け取らなかった。
「あっても困るものじゃないから持って行きなさい」
「…佐和子さん?」
何かおかしい。雅人は眉を寄せて佐和子を見たが源道から追加のお金を渡されそうになり慌てて財布を懐にしまった。これ以上金額を増やされては叶わない。この夫婦は油断していると雅人を甘やかそうとするので油断大敵なのだ。
「そうだ、今夜無限列車が再運行するからそれに乗ってけ。なかなか良い列車らしいぞ」
「なんか怪しいけど、まぁ良いや。行ってきます」
「頼んだぞ」
「行ってらっしゃい」
源道と佐和子に見送られながら随分懐いちゃったなと自分で思う。緩々と甘やかされて心の中にあった棘が丸く削られた気がする。
(あぁ、嫌だな)
棘と一緒に取り繕った理由とか偽装が剥がれて見なきゃいけないものを見るしかなくなる。
ーーお兄ちゃんーー
長く思い出さなかった声を思い出した気がした。
「…お前も懲りないね夜明」
頭元で甲高い声を上げられて雅人は溜息をついた。寝転がっていた屋根の上でゆっくり身を起こす。夜明が肩の上に乗ってきたのにズボンのポケットから木の実を出してやった。
「まぁ、お前が来るのを見越して食べ物を用意してる僕も僕だけど」
「雅人ー?何処にいるの?」
屋敷の中から聞こえてきた佐和子の声に雅人は開いている窓からひらりと中に滑り込んだ。
雅人は佐和子の住む屋敷に身を寄せていた。行く先に佐和子の所を選んだのに特に理由はなかったが、ふらりと現れた雅人を佐和子は何も言わずに受け入れてくれた。そのまま居着いた雅人は佐和子の番犬のようなことをやっている。
ワイシャツやベスト、ズボンの埃を払うと雅人は声の方へ向かう。ひょいと顔を覗かせた雅人に佐和子が笑った。
「あらやだ、また屋根に登ってたの?」
「え…」
一瞬で看破されて雅人は服を見下ろした。佐和子が手を伸ばすと髪に触れる。
「こっちよ」
パッパと埃を払われて雅人は小さく笑った。次の瞬間ぬっと現れた大きな手に乱暴に頭を混ぜられる。
「いたいたい!」
慌てて頭を抱えると振り返る。洋装姿の壮年の男性が葉巻を加えて立っていた。
「悪ガキ、また喋る鴉が来てたのか?」
「あなた、お帰りなさい」
「痛いよ源道さん」
雅人が涙目で抗議すると源道はニヒルな笑いを口元に浮かべた。雅人が自分の妻の佐和子と関係を持っているのを知っているはずなのに、何故か源道は雅人を悪ガキと呼び可愛がっている。
「まぁ座れ」
佐和子と並んでソファに腰掛けると源道は椅子を指し示した。腰掛けた雅人にアタッシュケースを差し出す。
「おつかいに行ってきてくれ」
「僕、怪しいもの運ぶの嫌だよ?」
雅人は佐和子の番犬はしていたが、任侠団体の活動には一切関与していなかった。それをしてしまう事に雅人自身が抵抗があったし、佐和子が絶対に認めなかったからだ。
眉を寄せた雅人に源道は呆れた顔をした。
「馬鹿野郎。お前にそんな事させたら俺が佐和子に殺されるだろ。世話になったお偉いさんの所に返さなきゃならないもんだ。中に手紙を入れてあるからそれごと渡せば良い」
「ん、わかった」
頷いてアタッシュケースを引き受ければ佐和子がお札のぎっしり詰まった財布を手渡してきた。
「東京駅まで行ってそこから列車に乗りなさいね。終点までよ」
お小遣いだから道中好きにつかいなさいと言われて雅人は苦笑した。
「お小遣いって額じゃないよ」
この財布に入っている金だけで家が買えそうだ。雅人は財布を返そうとしたが佐和子は頑として受け取らなかった。
「あっても困るものじゃないから持って行きなさい」
「…佐和子さん?」
何かおかしい。雅人は眉を寄せて佐和子を見たが源道から追加のお金を渡されそうになり慌てて財布を懐にしまった。これ以上金額を増やされては叶わない。この夫婦は油断していると雅人を甘やかそうとするので油断大敵なのだ。
「そうだ、今夜無限列車が再運行するからそれに乗ってけ。なかなか良い列車らしいぞ」
「なんか怪しいけど、まぁ良いや。行ってきます」
「頼んだぞ」
「行ってらっしゃい」
源道と佐和子に見送られながら随分懐いちゃったなと自分で思う。緩々と甘やかされて心の中にあった棘が丸く削られた気がする。
(あぁ、嫌だな)
棘と一緒に取り繕った理由とか偽装が剥がれて見なきゃいけないものを見るしかなくなる。
ーーお兄ちゃんーー
長く思い出さなかった声を思い出した気がした。