第一部
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「おい、しっかりしろ」
「あの、野郎…絶対殺す気だったぞ」
藤の家で療養していた隊士は見舞いに来た隠に忌々しげに呟いた。隠がニヤリとしたのが目元で分かった。
「だがこれまでのは奴の仕業に出来た。これで嗅ぎ回る奴は居なくなる」
目撃者を用意し、子供の服に雅人の血を擦り付けておいた。もし血液の持ち主を調べるような技術があっても心配ない。
「前の任務でアイツが怪我してくれて助かった」
たまたま手当てを担当できたから血のついた包帯を手に入れることが出来た。一般人に手を出した雅人の言うことを信じるものはいない。
「お館様が最後の情けで裁判を開くそうだ。アイツにどんな処罰が降るか楽しみにしていよう」
はは…と暗い笑いが部屋に満ちた。
「………」
産屋敷邸にて今回の事件のあらましを聞いた煉獄は信じられない思いだった。雅人が子供を誘拐していたばかりかそれを止めようとした隊士と一般人に重傷を負わせたと言うのだ。
「まさか!雅人は子供に危害を加えるような男ではない!!」
「だが行方不明になっている子供がいるのは確かだ。相生は報告書を度々握りつぶしていた前例もある。子供を攫う際の足取りを掴まれたく無かったからではないのか」
「小芭内!」
煉獄が叱責の声を上げるが伊黒は前言を撤回する素振りは見せなかった。歯噛みする煉獄に宇髄が溜息をつく。
「だがなぁ煉獄、隠が子供を小脇に抱えた相生を派手に目撃している。怪我をした隊士達が口裏を合わせたとしても隠の目撃情報は動かしようが無いだろ」
「しかし…!」
「止めろぉ、お館様がいらっしゃるぞ」
不死川の声に煉獄は膝をつくと頭を垂れた。襖を開く音がして産屋敷が静かに歩いてくる。
「皆、忙しいのにすまないね。今回は正式な柱合会議ではない。来れるものだけに来て貰ったよ」
「「「ははっ!」」」
煉獄に並び頭を下げるのは不死川と宇髄、伊黒に冨岡、そして悲鳴嶼だ。産屋敷は煉獄の方を暫く向いていたが、ゆっくりと口を開いた。
「事の顛末は聞いていると思う。今日は本人の話を聞いてみようと思ってね」
離れた場所に控える隠に雅人を連れてくるよう合図を送る。しかし隠はオズオズと尋ねた。
「畏れながら…連れてきて本当に大丈夫でしょうか?捉える時も手が付けられない程暴れたそうなのですが」
駆けつけた悲鳴嶼に抑えられなければもっと大勢が怪我をしたと言う隠に煉獄は強く手を握りしめた。
(何をしているんだお前は)
煉獄の信じた雅人の鬼殺への責任感。それが裏切られて怒りが生まれる。産屋敷はニッコリ微笑んで頷いた。
「大丈夫だよ。連れてきておくれ」
「では…」
隠二名に連れられて後ろ手に縛られた雅人が歩いてくる。頬に殴られた痕が痛々しい。離れた場所で膝をつくよう促されると、雅人は大人しくそれに従った。静かな瞳は無感情で何を考えているのかわからない。
「雅人、何か言いたい事があるんじゃないかい?」
「………」
産屋敷の問いかけに雅人はなんの反応も見せなかった。ただ、じっと産屋敷を見つめる。不死川が立ち上がると雅人の胸ぐらを掴んだ。
「お館様が尋ねていらっしゃるんだ!お答えしねぇか!!」
「僕は聞き取りに必要なことは答えている。その上で出た結論がこれなら言う事はない」
「テメェ…!」
不死川の殺気がビリビリと肌に刺さる。しかし雅人は表情を変えることさえなかった。
「実弥」
産屋敷の呼びかけに不死川の殺気が霧散した。雅人を突き放すとその場に膝をつく。産屋敷が雅人の方へ顔を向けた。
「雅人。君は確かに何度か隊律違反をしているけれど、それはどれも何某かの理由があっての事だった。今回の事も理由があるなら教えてほしい。杏寿郎も心配しているよ」
産屋敷の呼びかけに雅人が横目に煉獄を見た。胸の内に沸いた怒りを押し殺そうと一瞬喉を詰めた煉獄は、雅人の自分に対する感情がその瞬間に閉じてしまったことを感じた。フイと視線が逸らされ煉獄が声を上げる。
「雅人!!」
ブチブチッと縄の引きちぎられる音に隠が慌てて後ずさった。腰を浮かせる柱達を産屋敷が手を上げて制する。
シン…と静まり返った中、雅人は隊服に手をかけると乱雑にそれを脱ぎ捨てた。踵を返すと立ち去っていく。
「雅人待て!」
「お館様!裁定を!!」
不死川が刀に手をかけ叫ぶが産屋敷はじっと何かを考えているようだった。雅人の姿が完全になくなると口を開く。
「天元」
「はっ!」
畏まる宇髄に産屋敷は思いがけないことを言った。
「報告書に上がった隊士全員と、目撃者の隠、それと報告書を書いた者を洗い直してくれるかい?」
「御意」
頭を下げるとその姿がかき消える。煉獄は呆然としながら雅人が脱ぎ捨てていった隊服を掴んだ。
(心底信じてやれなかった)
雅人はあの一瞬で煉獄の感情を読み取り、そして失望した。友人としての煉獄を見限ったのだ。
(何が友人だ!俺は…)
キツく目を閉じる煉獄に誰も声をかけられない。産屋敷は静かに目を伏せた。
その後、煉獄は雅人の姿を一度も見る事なく月日だけが流れていった。
「あの、野郎…絶対殺す気だったぞ」
藤の家で療養していた隊士は見舞いに来た隠に忌々しげに呟いた。隠がニヤリとしたのが目元で分かった。
「だがこれまでのは奴の仕業に出来た。これで嗅ぎ回る奴は居なくなる」
目撃者を用意し、子供の服に雅人の血を擦り付けておいた。もし血液の持ち主を調べるような技術があっても心配ない。
「前の任務でアイツが怪我してくれて助かった」
たまたま手当てを担当できたから血のついた包帯を手に入れることが出来た。一般人に手を出した雅人の言うことを信じるものはいない。
「お館様が最後の情けで裁判を開くそうだ。アイツにどんな処罰が降るか楽しみにしていよう」
はは…と暗い笑いが部屋に満ちた。
「………」
産屋敷邸にて今回の事件のあらましを聞いた煉獄は信じられない思いだった。雅人が子供を誘拐していたばかりかそれを止めようとした隊士と一般人に重傷を負わせたと言うのだ。
「まさか!雅人は子供に危害を加えるような男ではない!!」
「だが行方不明になっている子供がいるのは確かだ。相生は報告書を度々握りつぶしていた前例もある。子供を攫う際の足取りを掴まれたく無かったからではないのか」
「小芭内!」
煉獄が叱責の声を上げるが伊黒は前言を撤回する素振りは見せなかった。歯噛みする煉獄に宇髄が溜息をつく。
「だがなぁ煉獄、隠が子供を小脇に抱えた相生を派手に目撃している。怪我をした隊士達が口裏を合わせたとしても隠の目撃情報は動かしようが無いだろ」
「しかし…!」
「止めろぉ、お館様がいらっしゃるぞ」
不死川の声に煉獄は膝をつくと頭を垂れた。襖を開く音がして産屋敷が静かに歩いてくる。
「皆、忙しいのにすまないね。今回は正式な柱合会議ではない。来れるものだけに来て貰ったよ」
「「「ははっ!」」」
煉獄に並び頭を下げるのは不死川と宇髄、伊黒に冨岡、そして悲鳴嶼だ。産屋敷は煉獄の方を暫く向いていたが、ゆっくりと口を開いた。
「事の顛末は聞いていると思う。今日は本人の話を聞いてみようと思ってね」
離れた場所に控える隠に雅人を連れてくるよう合図を送る。しかし隠はオズオズと尋ねた。
「畏れながら…連れてきて本当に大丈夫でしょうか?捉える時も手が付けられない程暴れたそうなのですが」
駆けつけた悲鳴嶼に抑えられなければもっと大勢が怪我をしたと言う隠に煉獄は強く手を握りしめた。
(何をしているんだお前は)
煉獄の信じた雅人の鬼殺への責任感。それが裏切られて怒りが生まれる。産屋敷はニッコリ微笑んで頷いた。
「大丈夫だよ。連れてきておくれ」
「では…」
隠二名に連れられて後ろ手に縛られた雅人が歩いてくる。頬に殴られた痕が痛々しい。離れた場所で膝をつくよう促されると、雅人は大人しくそれに従った。静かな瞳は無感情で何を考えているのかわからない。
「雅人、何か言いたい事があるんじゃないかい?」
「………」
産屋敷の問いかけに雅人はなんの反応も見せなかった。ただ、じっと産屋敷を見つめる。不死川が立ち上がると雅人の胸ぐらを掴んだ。
「お館様が尋ねていらっしゃるんだ!お答えしねぇか!!」
「僕は聞き取りに必要なことは答えている。その上で出た結論がこれなら言う事はない」
「テメェ…!」
不死川の殺気がビリビリと肌に刺さる。しかし雅人は表情を変えることさえなかった。
「実弥」
産屋敷の呼びかけに不死川の殺気が霧散した。雅人を突き放すとその場に膝をつく。産屋敷が雅人の方へ顔を向けた。
「雅人。君は確かに何度か隊律違反をしているけれど、それはどれも何某かの理由があっての事だった。今回の事も理由があるなら教えてほしい。杏寿郎も心配しているよ」
産屋敷の呼びかけに雅人が横目に煉獄を見た。胸の内に沸いた怒りを押し殺そうと一瞬喉を詰めた煉獄は、雅人の自分に対する感情がその瞬間に閉じてしまったことを感じた。フイと視線が逸らされ煉獄が声を上げる。
「雅人!!」
ブチブチッと縄の引きちぎられる音に隠が慌てて後ずさった。腰を浮かせる柱達を産屋敷が手を上げて制する。
シン…と静まり返った中、雅人は隊服に手をかけると乱雑にそれを脱ぎ捨てた。踵を返すと立ち去っていく。
「雅人待て!」
「お館様!裁定を!!」
不死川が刀に手をかけ叫ぶが産屋敷はじっと何かを考えているようだった。雅人の姿が完全になくなると口を開く。
「天元」
「はっ!」
畏まる宇髄に産屋敷は思いがけないことを言った。
「報告書に上がった隊士全員と、目撃者の隠、それと報告書を書いた者を洗い直してくれるかい?」
「御意」
頭を下げるとその姿がかき消える。煉獄は呆然としながら雅人が脱ぎ捨てていった隊服を掴んだ。
(心底信じてやれなかった)
雅人はあの一瞬で煉獄の感情を読み取り、そして失望した。友人としての煉獄を見限ったのだ。
(何が友人だ!俺は…)
キツく目を閉じる煉獄に誰も声をかけられない。産屋敷は静かに目を伏せた。
その後、煉獄は雅人の姿を一度も見る事なく月日だけが流れていった。