~一章~
「ダリル、ニーナは?」
「使用人室で休んでいます」
「む?何故?」
「少し疲れたようです、早めに休むように私から言いました」
「大丈夫なのか!?」
「ええ、一晩しっかり休めば」
「こっちのベッドで寝れば良いのに…」
一晩で落ち着くと良いのだが。
こちらも落ち着かない様子のライアスを見ながらダリルは心の中で思った。
「熱はないのか?ちょっと見てくる」
「大丈夫です、熱などもありません。もう眠ったようですので今夜は…」
扉を開けようとしたライアスが、ムッとした顔で立ち止まった。
何も言わずに踵を返し、着替えを始めたので、ダリルも無言で脱いだ服を受け取った。
今夜は城に泊まられる予定だったのだが、遅い時間でもこちらに戻られたのはニーナに会いたかったからなのだろう。
ライアスのベッドに休んでいれば、機嫌を損なう事はなかっただろうが、ニーナが今夜は一人になりたいと願い出た。
それでもライアスと離さない方が良かったかどうかは、今は分からない。
まだ眉間にシワが寄っているライアスを見て、試練ですぞ、と小さく呟く。
何か言ったか?というような顔でこちらを見、ライアスは息をついた。
「…そうだな、少し無理をさせているのかもしれん。時々はしっかり休ませよう」
「はい、明日には会えますよ」
迎えた朝、いつもの時間にニーナは身支度をして出てきていた。
「おはようございます、昨夜は申し訳ありませんでした」
ダリルに向かい頭を下げる。
上げた顔には、いつもの微笑みを浮かべていたが、なにか違和感があった。
おや…話がこじれそうな感じだ。
ニーナはいつも通りの行動をしていた。ダリルの手伝いをし、掃除、洗濯を始めている。
違うのは、この時間、いつもは目覚めたライアスと一緒に過ごしている事。
「ニーナ、区切りの良い所で主様を起こしてきなさい」
「…はい」
大方の掃除が終わった所で、ニーナはライアスの部屋に向かう。
内心、心配で仕方ないダリルはその背中を見送る。
ニーナは扉の前で立ち止まる事なく、ノックをして中に入っていった。
「ニーナ!」
部屋に入ってきたニーナを見て、ライアスは立ち上がり走り寄る。
「おはようございます。昨夜は失礼致しました」
「大丈夫なのか?無理はするな」
「はい、ありがとうございます」
にこっと笑ったニーナに、ライアスも違和感を覚えた。
「ニーナ?」
「はい」
「やっぱりまだ…具合が悪いのでは?」
「いいえ、大丈夫です。朝食の準備を致しますね」
頭を下げて立ち去ろうとするニーナの腕を、ライアスが掴む。
ニーナは驚いた様な表情を見せたがすぐに落ち着き、ライアスに向き直した。
「どうされました?」
「まて、ニーナはここに居ろ」
「しかし朝食を…」
「ニーナ!」
明らかにこれまでとは違う反応や仕草のニーナに、ライアスは焦り、たまらず抱き締めた。
「…殿下?」
……でんか。殿下と言ったか。
抱き締めたニーナの感触も、髪の甘い匂いも同じなのに。
昨日までのニーナじゃない。
「どうしたんだ、ニーナ…」
「殿下、身体をご所望なら…朝食は後になさいますか?」
「は…?」
「殿下のご希望に添うように致します」
ニーナは自分から、胸元の布を引っ張り乳房を表に出す。
そしてライアスの手を握り、その乳房に誘導した。
「どうぞ…」
「二……ナっ、やめろ、」
「も、申し訳ありません、何か失礼を…」
「違う、そうじゃない、こんな事をするなっ!」
「え、でも…」
「これじゃ、娼婦か奴隷みたいじゃないか…!」
ニーナが首を傾げる。
「私は…殿下のお相手係ですから」
ニーナが口にした言葉に、ライアスは理解が追い付かず、言葉を返す事が出来なかった。