きっと、雪のせいだ(神尾)
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「海端、お前まじかよ……」
放課後、神尾アキラは私の姿を見て信じられないような顔をして言った。
「こんな大雪の日に傘もマフラーも忘れるとか、普通ないだろ!」
「いや……それに関しては私も同感です……」
やってしまったのだ。朝、遅刻しそうになった私は、今日の夕方から雪の予報だったことを失念していた。
慌てて家の玄関を飛び出た時に、傘や防寒具を持っていかなきゃなんて余裕は当然無く。
頭に雪をこんもりと積もらせながら歩いている所を神尾に見られてしまった。
「それにしてもお前、んフッ……絵面がマヌケすぎるだろ!」
靴も当然、雪対策のないローファーのままだ。滑らないように、ペンギンのようにヨチヨチとしか歩けない私を見て、神尾は堪えきれず肩を震わせて笑った。
「もう好きなだけ笑ってくれよ……愚かな私を……」
神尾に笑われたことよりも、寒さの方が嫌だった。とにかく寒い。早く帰りたい。冷たい風に顔をしかめながら、足を早めたとき。
「うわ゛ッ!!」
「海端!!」
氷に足をとられ、後ろにひっくり帰った。一瞬頭が真っ白になる。痛みを覚悟し、目をつぶるが……あれ?痛くない。
「あっ……ぶねー」
神尾が咄嗟に私の腕を掴んでくれたおかげで、転倒をまぬがれた。
神尾に支えられるようにして身体を起こしてもらう。心臓がまだバクバクする。
「神尾、ありがと……びっくりした……」
「こっちのセリフだぜ、まったく!本当お前って……」
「バカだなって思った?」
「いや……本当に世話の焼けるやつだよな」
神尾は諦めたように笑った。そして、私の頭に積もった雪をさっと払いのけ、着けていたマフラーを外す。
「貸してやるよ」
「いやいや、さすがに申し訳ない」
「巻いとけって。寒さにやられて風邪でもひいたら辛いだろ」
「でも……」
「いいから着けとけって!」
そう言いながら、マフラーを私の首にぐるぐると巻いた。
温かさを感じると同時に、マフラーからふわりと神尾の匂いがする。
自分とは違う人の匂いに包まれると、心地いいような、ちょっとくすぐったいような気分になる。
神尾はマフラーでぐるぐる巻きになった私を見て、すこし黙った。
「……なに」
「いや。なんか……良いなと思って。こういうの」
急にそんなことを言われて、私は戸惑った。
「なんだそれ」
そんなの、恋人みたいじゃん。急に体温が高くなる。さっきまで凍るほど寒かったのが嘘みたい。
まずい。今の私の顔、たぶん赤くなってる。
「……悪い、変なこと言った」
少しの沈黙のあと、神尾は気まずそうに顔を逸らす。
「と、とにかく!それ明日返してくれればいいから!じゃーな!」
そう言うと、神尾は私を置いて走り出した。
「足元気をつけろよ!」と叫びながら駆け足で去っていく神尾を見送りながら、それはお前もだろと心の中でぼんやりと思ったけど。
こんなにも心臓がうるさいのは、神尾の後ろ姿がさっきよりも輝いて見えるのは、きっと雪のせいだ。
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