君と彼女と僕



 セブルスは話して見ると趣味があって話し易い人物だった。
 リリーしか心を許せる人がいなかった為に人付き合いに不慣れなのか、話し方が素っ気なかったり無愛想だったりもするが、それはシドもあまり人のことを言えた義理ではなかったので気にならなかった。
 「セブルス、そろそろ大広間に行かないと朝食食べ損ねるよ」
 朝の身支度が終わったセブルスは机に張り付いてシドが貸した本を読んでいた。
 「もうそんな時間か」
 慌てて席を立ちながらも本は丁寧に両手で持つと本棚に大切そうに置く。
 貴重な本なので万が一なくすのが怖くて部屋から持ち出せないらしい。
 そしてセブルスは本を見た翌朝に部屋に鍵をかけるように忠告してきた。盗まれたら一大事だと考えたようだ。
 もちろん大切な本の為にシドはその忠告を受け入れた。
 学校がはじまって一週間、シドはセブルスと行動を共にしていた。
 原作の人物に関わらないつもりだったが、同じ年齢でここまで魔法薬学や闇の魔術に対して話しができる人物はなかなかいないし、なにより彼と話すのは楽しかった。
 なので同室では関わらない方が無理だと、すでに当初の決意はなかったことにした。
 朝食にパンと野菜のスープ。ベーコンエッグとサラダ。フルーツの入ったヨーグルトを食べていると騒々しい羽音が響いてきた。
 頭上を何百羽ものふくろうが飛び交っている。
 「………衛生問題で誰も文句を言わないのか」
 羽根は舞い散るし埃は立つ、なかには粗相をするふくろうだっているだろう。ここは食事を採っている場所だと言うのに。
 思わず何度も疑問に思ったことを口にすれば、隣に座っていたセブルスが「同感だ」と頷いた。
 テーブルに黒いふくろうが降りてきた。ふくろうはシドの前に手紙を置いた。
 「アリシアか。ご苦労様」
 濡れたような黒の羽根艶が美しいふくろうはセルウィン家のふくろうだ。
 ベーコンを切り分け、ゴブレットに水を注いでアリシアの前に置く。アリシアは美味しそうにそれらを啄むと飛んで行った。
 手紙はクローディアからだった。

 『シドへ
ホグワーツに入学して一週間がたつが元気にしているか。おまえのことだから図太く元気だろう。
 寮の報告ご苦労だった。こちらでおこなっていた寮の賭けはクライドの一人勝ちだ』

 クライドは父方の祖父の名である。祖父は蛙チョコが大好きなので大喜びだろう。
 
 『私はシドの勤勉さから見てレイブンクローだと予想していたぞ。おまえは良くも悪くも予想を裏切ってくれるから退屈しないな。
 スリザリンは私の母寮でもある。何かと問題ある性格の者が多い寮だが、シドならば問題なく7年間を過ごせるだろう。
 例え問題が起きても遅れを取るようなシドではあるまい。気が向いたならスリザリン寮を掌握するつもりで暴れてみてはどうだろうか。
 現在のスリザリン寮にはマルフォイ家やブラック家の人間がいて、彼らを屈服させるのは楽しいと思うぞ』

 楽しげに物騒な言葉が綴られていた。
 基本、母親は闇の陣営に関する人間には好戦的だ。
 本と魔法薬学と愛する平和主義な息子を巻き込まないで欲しいと半眼になりつつ、続きの文字を追っていく。

 『屋敷内に子供がいなくなってカルロが非常に寂しがっている。もしかするとシドがクリスマス休暇に戻るころには新たな家族の報告をするやも知れない』

 「…………」
 「どうした? 疲れ切った顔をしてるぞ」
 「うん。疲れたよ」
 あとは元気でやれの旨が書かれていて、手紙は終わっている。
 「まさか呪いでもかかっていたのか?」
 セブルスは訝しげに手紙を凝視する。
 「違うよ。呪い並の威力はあるけど魔術は関係ないからね」
 主に精神的なダメージが大きい。
 いくら自分の息子が大人びているからと言って、子作り宣言などするだろうか普通。いや、セルウィンの家は基本、普通じゃない奇人変人の集まりではあるが。
 「意味がわからないぞ」
 「こちらの問題だから気にしないで」
 呪文を唱え杖を振る。手紙は一気に燃えあがり灰となって消えた。
 「そろそろ教室行こうか。『魔法薬学』の授業だから遅刻したくないしね」
 「そうだな」
 セブルスも授業は楽しみなようで、心なし足取りが軽く見える。
 ホグワーツはうんざりするほどレポート課題が多かった。
 難しいとは思わないが数が多いと面倒だ。
 しかもレポートの為に図書室に行くと麗しい蔵書達の誘惑が待っていて、おかげでせっかく部屋に調合器具を出したものの、まだ一度も使っていない状態だ。
 前を歩いていたセブルスが足を止めた。
 「忘れていた」
 苦々しい呟きが聞こえ、彼の視線を先を見ればグリフィンドールのネクタイをした生徒達がいる。
  「ああ、『魔法薬学』はグリフィンドールと合同だったね」
 グリフィンドールカラーを見た瞬間、シドもさきほどまでの高揚した気持ちが嘘のように気分が沈むのがわかった。
 原作にある通りに、ジェームズ・ポッターをはじめとする数人が派手な悪戯をやりはじめていた。
 入学してわずかな期間にすでに何度か騒ぎがおこっており、うるさくて仕方ないのだ。
 うるさい子供が大嫌いなシドにすれば悪戯仕掛人と一緒の授業は憂鬱だ。
 「やあ、おはよう。リリー! 今日もきれいだね」
 そして関わりたくない人物の筆頭にあたる男が極上の笑顔で赤毛の少女に駆け寄って行き、「近づかないでちょうだい、ポッター!」と少女に拳で容赦なく殴られていた。
 「いい右ストレートだ」
 思わず感想が口をつくと、それが聞こえたようでリリーがこちらを見た。
 「セブ! ミスター・セルウィン! おはよう。組分けの時以来ね」
 「お、おはよう」
 輝くようなリリーの笑顔にセブルスは眩しそうに目を細める。うっすらと頬が赤い。
 精神年齢三十路過ぎには見ていて恥ずかしくなるような純粋さだ。
 「おはよう。ミス・エバンズ。君の災難は続いているようだね」
 床に倒れて悶絶している男を一瞥する。
 「ええ、本当に」
 「さきほどのはすばらしいパンチだった」
 「やだ。見てたの? だって毎日あんまりしつこいからつい」
 「でも殴り慣れていないと指や手首を痛めるから気をつけて。右腕見せて」
 言いながら少女の右腕を取る。途端に少女は表情を歪めた。手首がうっすらと腫れつつある。
 「やっぱりね。セブルス、ごめん。ちょっと荷物持ってて貰えるかな」
 「ああ、わかった」
 ローブから丸い小さなケースを出し、中身の水色のクリームを手首に塗った。
 「痛みが消えたわ!」
 リリーは驚きの声をあげて腫れのひいていく手首を大きな瞳で見つめる。
 「痛み止めの応急処置。あとで医務室で診てもらって」
 「そうするわ。ありがとう」
 「女性が変態を撃退する時は素手ではなく武器を使うことをお勧めするよ。 せっかく身近に教科書という鈍器かあるのだから、それを有効に活用しないと」
 「その手があったわね」
 リリーは納得したように頷いた。次からジェームズの顔面をとらえるのは分厚い教科書になるようだ。
 二人のやりとりに焦ったのは呆然と成り行きを見ていたセブルスだった。
 「お、おい。シド。リリーに物騒なことを教えるな!」
 「女性の身の守り方は大切だよ。ミス・エバンズは可愛らしいから現れる変態がそこの一人だけとは限らないだろう」
 至極真面目にシドが答えるが、セブルスは苦々しい表情をしていた。気のせいではなくセブルスに睨まれている。
 「セブルス?」
 「ちょっと、リリー! そいつはスリザリンだよ! 危険だから近づいちゃダメだ!」
 やっとリリーの一撃から立ち直ったジェームズがリリーを背に庇い、シドに敵意に満ちた眼差しで睨み付けてきた。
 「おまえ以上に危険な男はいないだろ」
 慌てて言い募るジェームズにセブルスが鼻で笑った。
 「ああ、なんだいたの。スニベルス? 地味すぎて見えなかったよ」
 「貴様っ……!」
 「ねえ、セブルス。教室行こうか。そろそろ行かないと遅刻になる。初日から遅刻は嫌だよ」
 セブルスに持ってもらっていた荷物を受け取り、肩を抱いて歩き出す。
 「ミス・エバンズ。医務室には行くこと。いいね?」
 「わかったわ」
 念を押して言えば、ジェームズを押しのけて彼女は頷いた。
 「おい、放せ!」
 教室の後ろの席に着くと、セブルスがシドの腕を振り払った。
 「なぜ邪魔をした!」
 「あの眼鏡変態との対決かい?」
 「めが……そうだ。馬鹿にされっぱなしなんて冗談じゃない」
 「だって本当に魔法薬学が遅刻になるし、あの手のタイプは相手にしないのが一番なんだよ。セブルスはあの眼鏡に見えなかったって嫌味を言われて腹が立っただろう? 
 目の前にいるのに無視されるのは屈辱的だからね。だから僕は眼鏡を無視させてもらった」
 その事実にセブルスは思い当たったようだ。
 「相手は悪戯をして目立ちたがる子供だ。相手にされないのが一番屈辱的なはずだよ。ねえ、セブルス。うるさい集団が入ってきたのが聞こえるけど、眼鏡の彼は僕を睨んでいないかい?」
 シドは出入り口に背を向けて立っていた。
 リリーの怒鳴り声とそれを追いかけるジェームズの声、二人をとりまく他の声があったが、教室に入るなりジェームズの声がピタリと止んだのだ。
 「……シドを睨んでいるように見える」
 「だろう? 彼はきっと自分の言葉で相手が激昂すればするほど楽しくなるタイプだ。つまり人を馬鹿にして相手が怒ればそれが楽しくて仕方のない子供だ。
 そんな相手は無視するのが一番なんだよ。相手にされないことが一番ダメージになる」
 シドがそこまで言い終わると魔法薬学の先生が入ってきた。
 予想していた通りにスリザリンとグリフィンドールは仲が悪かった。席は左右真っ二つに割れていた。
 騒がしい一団は後ろの席しか空いていなかったようで、迷惑なことにシド達の近くの席に来てしまった。
 スリザリンの寮監でもあるスラグホーンは長々と自分の卒業した教え子達の優秀さを語ったあと、やっと教科書の内容に入った。
 「それでは二人づつ組になって黒板に書いた薬の調合を初めてなさい」
 黒板にはおできを治す簡単な薬の調合方法が書いてある。教科書にもまったく同じ手順が載っていた。
 「一緒にやろう」と誘うまでもなく、自然と隣の席のセブルスと組むことになった。
 「僕が干イラクサを計りとヘビの牙を砕くから、角ナメクジを茹でてくれ」
 「わかったよ」
 セブルスはこの年齢からすでに魔法薬学の才能があったようだ。慣れてた手付きで薬草の分量を計り、材料を砕いていく。
 シドも同じだが、ろくに黒板も教科書も見ていなかった。
 スラグホーンは前の席に女の友人と調合していたリリーの優秀さに目をつけ、彼女につきっきりになって話をしている。
 初授業で真剣に調合中のリリーからすれば迷惑だろう。
 「本当に魔法薬学が好きなんだな」
 大鍋をまぜていたセブルスが言った。
 「調合に慣れているし、今までの授業にないぐらいに楽しそうだ」
 「好きな分野だからね。そろそろ角ナメクジ入れる頃合いだね」
 「あと右に二回混ぜたら入れてくれ」
 角ナメクジを入れると濁った緑色の液体が透き通った緑色へと変化していく。
 「あとは大鍋を火から降ろして山嵐の針だね」
 「そうだ」
 セブルスが山嵐の針を用意し、シドが大鍋を火から降ろした。
 ふとグリフィンドールの席の様子が目に入った。ジェームズとシリウスと行動を共にしている二人だ。
 背が低く小太りな少年があらゆる手順を無視して火のかかった大鍋に山嵐の針を入れようとしているのが見えた。
 「ピーターそれ違うぞっ!」
 シリウスが気づいて怒鳴り、ビクリと萎縮して飛び上がったピーターの手から山嵐の針が滑り落ち、大鍋に吸い込まれて行った。
 「伏せろっ! 大鍋が爆発する!」
 咄嗟にシドは大声で叫んでいた。グリフィンドール側にいたセブルスを引き寄せ、ローブの中に匿いながらシドも床に伏せる。
 大鍋は予想通りに爆発した。作りかけの熱い薬が床や天井に飛び散り、生徒達が悲鳴をあげる。
 ジェームズとシリウスはシドの声に反応できたらしい。
 状況もすぐに理解して、近くの友人達を押し倒して床に伏せていた。
 大鍋近くの小太りな少年だけは助けらず、薬を浴びてた少年は全身おできだらけになって大泣きしていた。
 シドはすぐに立ち上がるとローブを脱ぎ捨てた。床に座ったままのセブルスの腕を引き、立ち上がらせる。
 「薬が床を伝って広がるから立って」
 「あ、ああ。シドは大丈夫なのか?」
 「ローブが焦げたぐらいかな。セブルスは大丈夫? 薬はかかっていないかい?」
 「シドが助けてくれたから」
 前方にいたスラグホーンがやっとこちらにやってきた。
 「ほっほう。どうやら大鍋を火から降ろさずに山嵐の針を入れたみたいだね」
 飛び散った薬と大鍋を一瞬にして消し去った。
 「おできの症状がひどい子は医務室に行きなさい」
 後方にいた生徒達はシドとセブルス以外は医務室に行くことになった。
 咄嗟に伏せたジェームズ達だが、それでも飛び散る薬の被害を受け、顔に大きなおできが出来ていた。
 スラグホーンはシドが脱ぎ捨てたローブを杖で浮かせた。
 「防水と防護魔法が施してある。すばらしい。これなら普通のローブより丈夫だ。だから君は無傷なんだね」
 「数秒もっただけです」
 防水と弱い防護魔法は本当にわずかな時間しか効果がなかった。現在ローブは焼け焦げて穴だらけになっている。
 「その数秒の間に君はローブを脱ぎ捨て、自分に薬の影響が及ばないようにした。見事な判断力だよ。君の名前は?」
 「シド・セルウィンです」
 スラグホーンは大きく目を見開いた。
 「ほっほう。君がセルウィン家の次男か! いやあ、君のお兄さんやお姉さんは実に優秀だった。
 もちろんご両親のことも知っているよ。とてもクィディッチの才能に溢れた二人だった。良きシーカー同士のライバルであった彼らが在学中に結婚した時は驚いたものだ!」
 このクソ爺と言葉汚く罵ってやりたい衝動を必死に抑えつける。
 別段、家族がこのホグワーツでおこした騒ぎを隠そうとは思わないが、あまり声高に公言される謂われもない。
 シーカーのライバル同士が在学中に結婚の言葉に、ロマンスが好きな女の子達が歓声をあげてうるさかった。
 ベラベラとしゃべりそうなスラグホーンをどうやって黙らせようと考えていると、タイミング良く授業の終わりを告げるベルが鳴った。
 おできの薬はセブルスが山嵐の針を入れていたので完成していた。容器に入れて教卓に提出して地下牢を出る。
 「次は薬草学か」
 城の裏にある温室はこの地下牢から遠い。はやめに移動していた方が無難だ。
 『魔法薬学』には欠かせない材料を作る『薬草学』は好きな教科の一つだった。
 植物やきのこの育て方やその効能を学ぶのはとても楽しい。
 スプラウト先生の専門家の薬草に関する経験談も聞いていて興味深かった。
 ただ薬草学の授業は毎回泥だらけになるという問題がついてきて、いちいちシャワーを浴びなければならないのは面倒だった。
 「薬草学」の授業が終わり、昼食を摂りに大広間へ行く。
 「きちんと髪を乾かさないとダメだよ。セブルス」
 彼の顔色の悪さは病弱なイメージがある。
 だからついついお節介な心配をして、セブルスに鬱陶しがられたことが何回かあった。
 杖を振って半乾きだったセブルスの黒髪が乾かす。
 「……おまえは色々な魔法を知っているな」
 「知ってると便利な魔法だ。あとで教えてあげるよ?」
 「ああ」
 半乾きは不快だったらしい。セブルスは素直に頷いた。
 「ミスター・セルウィン」
 大広間の入口で赤毛の少女に声を掛けられた。
 「ミス・エバンズ」
 「朝は薬をありがとう。魔法薬学のあとに医務室に行ってちゃんと診てもらったわ。応急処置の薬がとても性能の良い物だったから治りもはやいってマダム・ポンフリーが仰ってたの。
 ミスター・セルウィンが処置してくれたおかげよ」
 「それは良かった」
 「セブもミスター・セルウィンも魔法薬学の時間大丈夫だったの?
 セブ平気? 爆発した大鍋の近くにいたんでしょう?」
 「平気だ。その……シドが助けてくれたから」
 「まあ、素敵な友達ができたのね。セブ!」
 「と、友達……?」
 笑顔のリリーに呆然と口調でセブルスが呟いた。セブルスはひどく驚いた顔でシドを見てきた。
 まるで信じられない物を見るような目つきだ。
 「僕は君の友達だと思っていたけど、セブルスは違うのかい?」
 息を飲む音が聞こえた。一瞬にして青白い彼の顔が朱色に染まる。
 「……シドは僕の友達だ」
 照れながらも必死に告げる様が可愛らしく微笑ましい。
 思わずわしゃわしゃと頭を撫でてやりたくなったが、セブルスが怒るのは目に見えていたので我慢した。
 「良かった。実を言うと僕は友達を作るのは初めてなんだよ」
 「おまえは人の顔と名前を覚えないのだったな」
 「そう。だからセブルスは僕の初めての友達だ。これからよろしくね」
 差し出した右手にセブルスの右手が躊躇いがちに触れる。
 小さな手に改めて彼がまだスネイプ教授ではなく11歳の子供なのだと思い知る。
 彼はこれから苦悩の人生を歩んでいく。
 絶望し後悔にさいなまれ、みずから死を望むような希望のない真っ暗な道を一人で歩むことになるのだ。
 そう考えると胸がむかつくような気持ちの悪さが込み上げてきた。
 この小さな手の持ち主が苦しむ姿も泣く姿も見たくなかった。
 好きな闇の魔術や魔法薬学の話をする時のように笑っていて欲しいと思ってしまう。
 「シド?」
 「ミスター・セルウィン?」
 握手をしたまま固まってしまったシドに、セブルスとリリーは不思議そうにシドの顔をのぞき込んできた。
 「なんでもないよ。そうだ。ミス・エバンズ」
 「なに?」
 「僕の二人目の友達になってほしい」
 「ええ、もちろんよ。リリーと呼んで」
 「僕はシドでいいよ」
 リリーを握手をしている手で強い衝撃で弾かれた。
 「僕のリリーに触れるな。スリザリン!」
 再びジェームズのお出ましにシドは内心ため息を吐く。
 そういえば彼はストーカーだったのだ。リリーのいる場所にストーカージェームズ有りと認識した。
 「ちょっとポッター! なんてことするのよ!」 
 友好のための握手を邪魔されてリリーはジェームズを怒鳴りつけた。
 「ああ、怒った君もすごく魅力的だ。ゾクゾクするよ。でもリリー、こいつは狡猾なスリザリンだよ。握手なんてしちゃいけない。なにをされるかわかったものじゃないんだ」
 「顔を赤くして変態発言するなよ。近くにいたくねぇ」
 あきれた声でジェームズに文句を言ったシリウスはシドを見るなり露骨に表情をしかめた。
 「スニベルスとエバンスの顔と名前は覚えたのか、セルウィンの次男?」
 明らかな喧嘩腰な口調に、シリウス・ブラックには嫌われていることがわかった。
 何度も何度も顔を名前を忘れ去れていれば当然のことだ。これに関してはシドに非がある。
 「君の顔と名前は覚えたよ。シリウス・ブラック」
 「やっとその小さな脳みそに入ったのか」
 小馬鹿にしたように鼻で笑うが、11歳の子供相手にムキになる気はなかった。
 「あれほど熱烈に自分を覚えておけと宣言されれば、興味がなくとも嫌でも記憶にすり込まれるよ」
 「なっ!」 
 カッと音がしそうなほど鮮やかに少年の顔が朱に染まった。
 「誰が……熱烈っ……!」
 単語だけを怒鳴るように吐き出すと、それきり少年は言葉を失って固まってしまった。
 リリーはジェームズに文句を言い、頬を染めたジェームズは嬉しそうにリリーに怒られている。少女のキンキン声はうるさく感じる。
 「昼食とりに行こうか」
 側らのセブルスに告げる。
 「リリーはグリフィンドール席だから一緒に食事はできないよ」
 こっそりと耳元で囁けば、耳まで赤く染めたセブルスに「当たり前だ」と睨まれた。
 純情な反応が可愛くて笑みが込み上げてきて、さらにセブルスに睨まれてしまった。
















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