子犬は未来を見据える
生まれ変わりなんて信じていなかった。いや、気にしたことがなかったというのが正しい。少なくとも中学男子が真剣に考える問題ではなかったからだ。
自分には関係のない話。そんなことを本気で考えるのは宗教家か信心深い年寄り達だと、以前のならそう考えていただろう。死んで生まれ変わるまでは。
温かな場所から狭く苦しい場所に追いやられ、世界はいきなり光りに溢れて眩しくなり、呼吸のしかたを忘れたように苦しくなった。
それがこの世界に産まれた時の最初の記憶だった。
目が見えず体は思うように動かない。その苛立ちに声を上げれば、耳障りな赤ん坊の泣き声。
自分に置かれている状況がわからずにただただ混乱して泣き叫んだ。力尽きるまで泣いたらしく、眠ったよりは気絶した赤ん坊に周囲の大人達は慌てふためいたという。
のちに成長したおりに機嫌の良かった母親がそんな昔話しをして知った事実だった。
生まれた時から自我と生まれる前の人生の記憶があった。
自分は日本と言う国で平和に学生をやっていた。優しい両親と、年の離れた頼りになる兄が自分の家族だった。隣に住む幼馴染みといつも一緒に行動していた。
とりわけ特筆することもない平凡な人生はわずか14年でその幕を閉じた。帰宅途中の交通事故だった。
最後に見たのは驚愕に染まった幼馴染みの顔。幼馴染みに向かって突っ込んでくる車に気づいて、頭で考えるより先に体が動いた結果だ。
あっけなく死んだのは残念だが、己の行動に後悔はなかった。幼馴染みを助けられただけで充分に満足だった。
既に十四歳の精神年齢を持っているのに赤ん坊からやり直すのは精神的に色々辛かった。自分は赤ん坊だと言い聞かせて乗り越えた。
新しい人生の場が今までと違う世界だと気づいたのはしもべ妖精をはじめて見た時だった。
目が覚めて目の前にETの親戚がいたら驚いて当然だと思う。
大泣きしてクリーチャを困らせたのは反省しているが、泣いた自分を責める気にはなれなかった。
クリーチャと「レギュラス」と呼ばれる自分の名前。決定打は母親が杖を使って物を浮かせた時だった。
幼馴染みが夢中になっていた児童書と映画がある。自分は興味なかったが、毎日のように力強くその内容と魅力を語り、児童書を読むように渡されて感想を強請られ、あきるほどDVDの観賞に付き合わされたおかげで内容は熟知していた。
自分はなぜか児童書の中のレギュラス・ブラックとして生まれ変わってしまった。それを理解したときの絶望感は忘れられない。
自分は若くして死ぬのだ。闇の帝王と呼ばれる恥ずかしい厨二病患者のせいで。
赤ん坊の体で引き付けを起こしたように大泣きし、高熱を出して寝込んだ。現実逃避して看病をしているクリーチャの顔を見る度に失神した。
思えばずっと看病してくれたのはクリーチャで、母親の顔を見た覚えがなかった。
当時の自分は体の弱い子供と認識されて、母親は育たない子として早々と見切りをつけていたらしい。
幸い、『純血主義にならなければ死亡フラグ折れるじゃん。つうか、未来を知ってるんだから、わざわざ死に行くことないだろ』と思い至ったため、現実逃避をやめて前向きに生きていくことを決めた。この時、生後一ヶ月だった。
現実逃避をやめた体はすくすくと健康体で成長した。時間だけはたっぷりあったので、前世では苦手だった英語もしっかりと覚え直した。
レギュラス・ブラックには兄がいる。
癖のある黒髪に灰の瞳。まだ幼児の姿は前世の幼馴染みが「天使!」と絶叫しそうなほど可愛らしい兄はシリウス・ブラックと言う。
「レギュ」
弟を呼ぶ声は優しく、前世の兄を思い出させた。レギュラスは幼い頃は頼りになる兄が好きだった。
兄に苛立ちを覚えはじめたのは母親の命令で習い事が多くなってきた頃だ。
レギュラスは飲み込みが早く、普通の子供より遥かに器用だった。
精神年齢が14歳なのだ、幼い子供より出来て当然だが、そんな事情を知るわけもない母親や家庭教師はレギュラスを褒めた。
母親は兄弟に競争意識を芽生えさせようとしたのか、過剰にレギュラスを褒めて、弟にできることができない兄シリウスを叱った。
ここで兄の立場を考えて手を抜くことに気づいていれば、のちのち兄に敵意を持たれなかったが、レギュラスもバイオリンや乗馬、
立ち振る舞いの練習など前世では習った経験のない授業が面白くて母の思惑と兄の心情に気づかなかった。
なにより、兄という存在が弟に劣等感を抱くなど夢にも思わなかったのだ。
前世の兄がそうだったように、どんなことがあっても頼れて甘えられる存在だと考えていた。
その幻想は年々冷たくなる兄の態度で次第に薄れていった。
ホグワーツに入学するまでの期間でレギュラスは両親と兄に見切りをつけていた。
自分の未来のためにどうにかして二人の仲を取り持とうと頑張った時期もあった。
けれど兄は次第に母親側だとレギュラスを邪険するようになり、母親は兄の顔を見ればヒステリックに喚き散らし、兄の話をしようものなら、『おまえはシリウスのようになってはいけません。おまえまで私に逆らうのなら殺してやるわ』と血走った目で脅され、そして延々と純血主義の素晴らしさを語った。
父親は名門ブラック家の当主として人前では威厳たっぷりのくせに、母親の前だと威厳は消え失せた。子供の目からでも一目でわかる恐妻家は自宅では肩身が狭そうだった。
前世で明るくおちゃめな父親と温和な母親、年の離れた頼りになる優しい兄を家族に持った平凡で幸せな家庭で生きてきたレギュラスにとって、このブラック家の家庭環境は最悪の一言に尽きた。
ストレスで胃を痛めた。もともと口に合わなかったイギリス料理がさらにまずく感じて食事をするのが苦痛だった。
体調不良になれば自己管理が悪いと文句を言われる。
『ブラック家の男ともあろう者が体が弱いなど情けない。おまえは小さな頃からそうでした。こんなことで育つのかしら?』
原因はあんたと馬鹿兄のヒステリーだ!とレギュラスは心の中で盛大に罵った。
家族よりも家族らしくレギュラスの体調を気遣ってくれたのはクリーチャーだった。彼はレギュラスのために胃に優しい料理やお菓子を用意してくれた。
原作のレギュラスがクリーチャーを可愛がり、クリーチャーのために闇の帝王に逆らった気持がよくわかった。
家族愛に恵まれないレギュラス・ブラックにとって、本当の家族よりもクリーチャーが心を許せる存在だったのだ。
ホグワーツ入学までに沢山の決意を持った。
まずは死喰人にはならないこと。16歳で犯罪者の仲間入りなんて冗談じゃなかった。
闇の帝王なんて恥ずかしい名前を持っている人物にはかかわらないこと。もちろん母親がそれを許すわけがないから、16歳になるまでに魔法界から失踪することにした。
自分は兄のように素行不良の勘当は期待できない。兄に続いて弟まで自分の言いなりにならないと知った母親がどう爆発暴走するかわからないのだ。
最悪、ヒステリーを起こした母親に殺される可能性が非常に高い。
死喰人にならず、かつ母親に殺されないためには、ホグワーツ入学から16歳になるまでのわずか数年間で魔法界から逃げ出す術を探さなければならなかった。
魔法界から離れ、イギリスの地も出るつもりだ。できるならイギリスから一番遠いところ、懐かしい日本に逃げたい。あの安全で平和な国で魔法に関わらずに生きて行きたい。
そんな人生をかけた決意を秘めて入学したホグワーツでは、さっそく組分けの結果に文句を言ってきた兄に失望することになった。
スリザリン以外の寮を選ぶことが何を意味するのか、考えることをしない兄は理解できていなかったらしい。あれは言外に死ねと言っているようなものだ。
スリザリン以外の寮を選んだ兄が非難されながらもブラックを名乗っていられるのは、兄がブラック家の嫡子だからだ。次男のレギュラスはシリウスのようにはいかない。
いくら兄より出来が良いと思われていてもレギュラスは次男だ。嫡子ほど甘い対応は望めない。その事実を兄は理解することはないのだろう。
そう考えると今まで以上に冷ややかな目で兄を見るようになった。同時に今までの仕返しにと兄を馬鹿にすることを覚えた。
頭に可憐な花を咲かす兄を見れば馬鹿にもしたくなる。
兄を愉快な姿にしてくれたのはシド・セルウィン。兄の初恋の相手である。
大きなパーティ会場にいた幼いシドは人形のように整った顔立ちをしていた。
服装こそ男の子の正装だったが、その美しい顔立ちから男装の少女だと周囲に思われていた。レギュラスも人形みたいにきれいな女の子だと思っていた。
レギュラスはシリウスがシドに呆然と見とれ、そして顔を真っ赤にして恋に落ちる瞬間を目撃した。そのあとすぐに兄は初対面の少女にプロポーズし、見事に無視されたのだ。
セルウィン家は魔法界では有名な一族だ。魔法界でも一二を争う魔力を秘め、広い人脈と得体の知れない組織力を持ち、昔から数年に一度あると言われる『闇の魔法使い狩り』はこの一族が行っていると言われている。
『闇の帝王』も一目置いている死喰人の天敵だ。
原作にこんな一族がいたのかと疑問に思った。ここまで有名で、闇の帝王に対抗できる一族なら原作に出てきていても不思議じゃないのに。
当初、そう考えていたが、セルウィン家のことクリーチャーに教えてもらって行くうちに、彼らが原作に出てこない理由がなんとなく理解できた。
『キャラが濃すぎる。これハリーの出番いらないだろ』が正直な感想だった。
占いに長けた『先見の水鏡』と男を虜にして命すら捧げさせる『破滅のヴィーラ』を筆頭に、『グリフィンドールの帝王』『古代魔術使い』に『ホグワーツの女帝』など、現在のセルウィン家直系一族は二つ名を持っている。
そのどれもが闇の帝王さえ直接対決を避け、逃げに徹する相手らしい。ある意味、闇の陣営よりよほど怖い最強無双集団だった。
彼らが原作に出てきたら、『生き残った少年』も『不死鳥の騎士団』もホグワーツの校長もいらない。物語はそこで終了してしまうだろう。もちろん闇の帝王の死によって。
そんな一族の直系次男、シド・セルウィンはスリザリン寮にいた。
対闇の陣営と呼ばれる一族がスリザリン寮と驚いたが、セルウィン一族は身内以外の人間に対する関心が著しく薄いことで有名であり、寮に対するこだわりもない。その証拠にシドとその兄姉達の寮はバラバラだった。
入学してから知ったのはシドが魔法薬学に傾向する学生であること。そしてその傍らには親友であるセブルス・スネイプがいることだった。
初めてスネイプを見た時は二度見どころか五度見した。その姿があまりに原作とかけ離れすぎていて、同姓同名の別人かと本気で疑った。
顔色が悪くて痩せた、ねっとり頭の陰気な子供。それがレギュラスが想像していたスネイプ少年だった。
実際に目にしたのは、小柄で痩せ型だが血色の良い健康的な顔色の少年。ねっとりどころか艶のあるきれいな黒髪は天使の輪が見える。
普段は不機嫌そうな表情をしているが、シドや女生徒達と話す時は表情が緩み、その笑顔は普段の不機嫌顔とのギャップもあってか、とても可愛く見える。
あの人誰? あれが将来の魔法薬学教授? あの大人げない大人?
スネイプを見た時の驚きは初めてクリーチャーを見た時と同等の衝撃があった。予想外にもほどがある。
スネイプは原作通りにジェームズ・ポッターと仲が悪かった。彼らと睨みあう時だけ原作のセブルス・スネイプの表情を見せてくれて、彼がセブルス・スネイプだと納得した。
レギュラスはホグワーツに入学する前、両親に『セルウィン家の者に近づき、信頼を得るほどに親しい間柄になるように』という自分達でさえまったく成功できなかった無理難題を押しつけられた。
シドは一族の中でも特に他人に関心が薄い人物だと噂されており、こちらは闇の陣営と言われているブラック家の人間だ。
下手に近づいて警戒されたうえに機嫌を損ねるのは危険だ。それに彼の兄への徹底した無関心ぶりも両親は知っている。
兄はセルウィン家が出席するパーティなどでシドの姿を見かければ声を掛けに行き、無視されて落ち込んで帰ってくるのだ。
そしてレギュラスもまた兄と同じく、何度挨拶してもシドに名前と顔を覚えてもらえないのだ。
あれを見ていれば、レギュラスがいくら頑張っても無視されて終わる可能性が高いと予想できる。
排他的なセルウィンに近づこうとして失敗する名家の子供たちは多い。自分がその一人になったとしても不思議ではないのだ。
むしろ圧倒的にその可能性が高い。そう考えて適当に会話して、そして彼にしつこく付きまとうブラックの弟だと知って無視してくれれば良い。そう思っていた。
両親も命令はしたものの、セルウィン家に関しては期待していないはずだ。なにせ今までブラックを名乗る者でセルウィンと近しい関係になれた者はいないのだから。
レギュラスは個人的にセルウィン家は面白い一族だと思ったし、原作とまったく違うスネイプの存在も興味があった。けれど下手な好奇心で近づくのは危険だった。
こちらが好意的に近づいたとしても、シドから見ればブラック家は闇の陣営、敵にしか見えないはずだ。
ハロウィンの夜に初めてまともに会話をした。
シドは恐ろしく美しい少女に仮装していて、男だとわかっていても胸がうるさく高鳴った。同時に兄の股間を容赦なく蹴り上げた姿には拍手喝采を送りたくなった。
おかげで兄の無様な姿の良い写真が沢山撮れ、兄を馬鹿にするネタとしては最高の一枚となった。
シドの隣にいた女装したスネイプは可憐な少女になっていた。文句なしに可愛らしく、本当に彼があのスネイプなのかと疑問が尽きなかった。
シドとの二度目の邂逅はホグワーツの厨房でだった。
ホグワーツの食事は実家の料理よりレギュラスの口にあった。けれど大半が油や調味料が多すぎて食べることができない。
レギュラスは入学してすぐに厨房に通って味付けの薄い料理を作ってもらっていた。
そんな折だった。テーブルの上に輝く白米と豆腐のみそ汁、色鮮やかな黄色の沢庵、美味しそうな鯖の味噌煮を見つけたのは。
頭で考える間もなく、箸を取って夢中で食べていた。白米を食べてみそ汁を飲んだら、懐かしい味に自然と涙があふれてきた。脂の乗った鯖と濃い味噌の味がとても合い、白米がいくらべも食べれそうだった。
不意にテーブルの上に鶏肉の唐揚げと肉じゃがの皿が置かれた。驚いて顔を上げれば、そこにはシドがいた。
彼の存在に驚いたが、レギュラスの意識は彼よりもテーブルの上の美味しそうな唐揚げと肉じゃがに向けられていた。
『いただきます』と日本語で食前の挨拶をし、きれいに箸を使うシド・セルウィンに驚いたが、それよりもやっぱり意識はテーブルの上の料理に向いてしまう。
自分の前に置いたということは食べてもいいのだろうか。戸惑いながらも唐揚げを一口食べたら、それから先は躊躇うことも忘れて夢中で唐揚げを頬張った。
この世界に生まれてから、この時ほど料理が美味しいと思ったことはなかった。
食事が終わってからシドと話をした。イギリス魔法界屈指の名門一族の次男が作った美味しい日本食。はっきり言ってあり得ない現実だ。だから期待した。もしかすると彼も自分と同じなのではないかと。
期待は裏切られることなく、彼は前世の記憶を持っていること、この世界が本の中の世界であることをあっさりと認めた。
仲間を見つけたうれしさと、生まれてからずっと張りつめていた物が緩んだせいか、心の中に溜まっていた不安と家族に対する不満を彼にぶちまけていた。
後で冷静になってみれば、突然泣き出し、家族に対する愚痴を延々としゃべり出した自分は、シドには迷惑だっただろう。
彼に促されるままに今までの人生を語った。
「同じ転生者で同郷の縁だ。君の運命を変えるのに協力しよう」
そう言われた時は再び泣きだしてしまい、子供にように頭を撫でられて慰められた。
シドは懐に淹れた相手には優しい男だった。
スネイプ少年が原作と劇的に変貌したのも彼の仕業だった。
『虐待されている子供を見過ごすことはできないよ。それが大切なルームメイトならなおさらね』
今のセブルスは可愛いだろう。僕の自慢の友人だからね。
親友を語るシドの表情はこちらが恥ずかしくなるほど優しかった。
『セブルスは原作と違う道を進むよ。死喰い人にはさせない。セブルスに後悔と孤独だけの人生なんて許さない。セブルスは絶対に幸せになってもらう。セブルスの人生は僕と関わった時点で変化しているからね。
もちろんそれは君にも当て嵌まるよ。レギュラス。だから君も幸せになる権利がある。その方法を一緒に考えようか』
彼はレギュラスを泣かせる天才でもあった。
将来的に魔法界を出たいと言ったレギュラスにシドは快く協力を申し出てくれ、そのための対策を色々と考え出した。
彼はまずセブルス・スネイプに事情を話そうと言い出した。
『僕に君が近づくとセブルスが警戒するからだよ。セブルスは優しいから僕に害がある相手が近づくと心配してくれる。彼を心配させるわけにはいかないから、セブルスには事情を話させてもらう』
もちろん前世の記憶やここが本の世界であることは省き、ブラック家とセルウィン家の確執、レギュラスの性格や、将来は外国に出たいことなど正直に話すように言われた。
レギュラスが純血主義ではない辻褄を合せるために、偽の初恋話も設定された。
『そんな小説のような話を信じてくれますか?』
『君がそれらしい態度をとれば問題ないよ。話に合わせて焦ったり赤くなったりして。セブルスは悲しい初恋を興味本位から根掘り葉掘り聞く子じゃないし、彼自身が恋する男だから好きな子のために純血主義を捨てたレギュラスをロマンチックだと感心するかも知れない。一応、駄目押しとして僕が君に開心術を使ったことにしようか』
とんとん拍子に話はまとまって、内心逃げ出したいような気持でセブルス・スネイプと対面した。
結果的にセブルスの協力を得ることに成功した。開心術で記憶を見られた上に、悲しい初恋の過去を暴露されたレギュラスにセブルスは同情したようだった。
セブルスは無愛想だが、面倒見の良い人物でもあった。彼が教えてくれる魔法薬学の説明はとてもわかりやすい。
彼は混血のスリザリン生だ。普通ならば純血主義が幅を利かせているスリザリンでは肩身が狭いはずだが、彼はその優秀な頭脳でもって己の実力を知らしめて、純血の血筋と家柄だけが取り柄の子供達を黙らせている。完全な実力主義者だ。
もちろん彼がそうやってスリザリンで生きていける理由の一つに親友のシドの存在は大きいが、それでもうるさい連中を実力で排除するだけの実力は持ち合わせているようだ。
彼を見ていると未来は変わるのだと希望が持てた。
将来の為にシドに色々指導をしてもらっているが、その内容は驚きの連続だった。
浮遊術の魔法が完璧な物理攻撃になってる。
シドの浮遊術の魔法によって、無数の小石がマシンガンの弾のように木の幹に穴を開けるのを見た時は、これはもう浮遊術の魔法ではなくまったく別の魔法だと突っ込みを入れてしまった。
セブルスは「それが普通の考え方だな」と乾いた笑いをこぼした。
浮遊術はハリーポッターでは初歩的な魔法だった。レギュラスも羽を浮かすぐらいなら簡単にできる。だが重い物を浮かせて、緩急をつけて自在に操るのは難しかった。
将来的に絶対必要となるポリジュースの完璧な調合の為に、学園でも一二を争う魔法薬学の成績優秀者達がレギュラスに基礎からみっちり薬学を叩き込んでくれるようで、その授業は薬学の教授の授業よりはるかに厳しかった。
だが調合が終わったあとに良かった点をしっかり褒めてくれ、さらにとても美味しいお茶とお菓子を食べさせてくれるアメと鞭の巧みな使い分けのおかげで、どんなに厳しくてもやる気が次々と湧いてくる。
憂鬱な気持ちで生きるための未来を漠然と模索しようとした入学当初からは考えられないぐらい、未来を生きるために学ぶことが、不安で仕方なかった未来を夢見ることが楽しかった。
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