君の災難2



 これは夢だ。
 恐怖にはちきれそうなほど心臓がバクバクと大きく鳴っている。
 どこまでも続く薄暗い世界を夢中で走っているために息が苦しい。
 そんな自分の乱れた息とは別の呼吸音が背後から迫ってきているのがわかり、迫りくる恐怖に悲鳴をあげて泣き叫びたくなる。
 小さな手足を必死に動かす。
 こわいこわいこわい。
 恐怖に心が染め上げられる。
 この幼子がどれだけ全力で走ったとしても大人の足が追いつけないはずがない。
 相手は嬲るように悪戯に距離を詰めたり離れたりしている。完全に遊んでいるのだ。
 「ひっ!」
 低い獣の唸り声が聞こえ、喉の奥で悲鳴が出る。
 歯がカチカチと鳴る。我武者羅に動かしている足が絶望と諦めに止まりそうになるのを必死に動かす。
 何かに足を取られて転んだ。
 派手に地面を転がり顔や手を擦りむいたのに痛みはなかった。
 やはりこれは夢だ。絶望的な悪夢だ。
 「ははっ」
  赤い血が滲む紅葉のような自分の掌を見て、リーマスは涙を流しながら乾いた笑い声をあげた。
 がさりと背後で草を踏む音がし、おそるおそる振り返ればそこには鋭い牙を剥く獣が大きな口ににたりと不気味な笑みを浮かべて立っていた。








 翌朝になってもセブルスは幼児の姿のままだった。
 小さなままの自分の姿を見てしょんぼりしている姿は、セブルスには悪いがとても可愛くてシドは内心の荒ぶる心を顔に出さないよう表情筋を維持するのに大変だった。
 自分の身支度をし、「ひとりでできゆ」と頑張って身支度をするセブルスのお手伝いをしてから、大広間に向かった。
 身支度に思ったより時間がかかったため、移動はシドが抱っこした。
 朝食を食べ損ねても困るので、セブルスは大人しく抱き上げられている。
 くるるるる
 大広間近くの通路でセブルスから異音が聞こえた。朝食の匂いに育ちざかりな胃が元気に反応したらしい。
 「もうすぐだから」
 「うるしゃい!」
 真っ赤な顔でそっぽを向かれた。
 自分とセブルスの分の朝食を準備し、セブルスを膝の上に載せて朝食をとる。
 セブルスは自分で食べるとオートミールをスプーンで食べている。
 「セブルス。はい、あーん」
 食べやすいように小さくカットしたベーコンをセブルスの口元に運ぶ。
  昨日ので慣れたのか、すでにヤケクソなのか、セブルスは素直に口を開けてベーコンを食べた。
 周囲の女生徒達が悲鳴をあげたがシドは気にしない。
 「おいしい?」
 口をもぐもぐさせながらセブルスは頷いた。
 「パンいる?」
 「ひとちゅ。あとオレンジジューチュほしい」
 「わかった」
 杖を振ってパンとオレンジジュースを取り寄せる。
 一生懸命食事をする幼児セブルスを微笑ましく思いながら食後の紅茶を飲む。
 シドが紅茶を飲み始めたことで、セブルスが焦った様子を見せた。
 「まだ時間はあるからゆっくりでいいよ。あと食べたいものある?」
 「もういい」
 「ミスター・セルウィン!」
 不意に校長の声が大広間に響き、騒がしかった大広間は途端に静まりかえった。
 「なにか?」
 「医務室に来なさい」
 「僕は怪我病気などしていません」
 行く理由がないとシドは校長の言葉を拒絶する。
 「昨日、君が魔法をかけたグリフィンドール生のことじゃ」
 「セブルスが元に戻ったら魔法を解きます。これに関して譲歩する気はありません」
 「彼らは一晩苦しんだ。もう充分じゃろう」
 痛ましげに校長は告げる。状況がよくわからない生徒達がざわめきはじめた。
 「その判断を下すのは校長ではなく僕です。もっとも、他人が魔法を解く分には文句は言いませんよ。魔法を解かれるのは僕の力不足ですから。偉大な魔法使いたる校長なら難しくはないでしょう」
 普通のエジプト魔法ならば、あるいは校長か教授陣の誰かが調べて解くことができるかも知れない。
 けれど兄ブライアンが復活させた古代エジプト魔法をシドが自分の使い勝手が良いように調整した魔法では、いくら偉大な魔法使いである校長でも手の施しようがないだろう。
 水色の瞳と睨みあっていたが、やがて鬱陶しいほどの悲壮な表情を浮かべた校長が
 「セルウィンの言い分はわかった。じゃがあれはあまりに惨い」と苦言を呈した。
 「知らぬ間に死にかけることは惨くないと? あの魔法は命の危険はありませんが?」
 校長の言葉をシドは一蹴した。
 兄ブライアンが復活させた古代エジプト魔法の中に、高貴な身分の者への尋問の為に生まれた魔法がある。
 相手の体に傷ひとつつけることなく、精神を疲弊させて追い詰める拷問魔法の一種だ。
 その魔法は簡単に言えば「悪夢を見る」魔法だ。人生の中で最も恐怖を感じた出来事の再体験や、親兄弟友人に手ひどく裏切られる夢。もしくは彼らに殺される夢。または彼らを自らが殺す夢。
 夢の中で逃げ回り、目覚めて起きたと思ってもそこで再び惨劇の場となり、いまだ夢の中にいると知る。それを何度も繰り返し、本当に目覚めた後もすぐに再び悪夢の世界に引きずり戻される。一週間続ければ発狂する拷問魔法である。
 今回、シドが四人に使った魔法は本来の威力の2割程度に調整している。
 本来のままの「悪夢」の魔法を使えば、子供なら数時間で発狂しているはずだ。
 悪夢の内容も人生の中で最も恐怖を感じた出来事の再体験や親兄弟友人に裏切られる程度のものだ。人を殺す内容はない。
 それでもまだ10代前半の子供には酷な悪夢らしく、彼らがひどくうなされている状況を見たグリフィンドール生の数人が「許してやってくれないか」とシドに言いに来たほどだ。
 もちろんシドはきっぱりと拒絶した。
 「そんにゃにひどいゆめをみゆのか?」
 「場合によって失禁する程度には」
 興味と不安が入り混じった顔のセブルスにシドはおどけるように答えた。
 拷問魔法であることをセブルスに教える気はなかった。これはさすがに刺激が強すぎるし、自分の人間性も疑われかねない。
 「それはみものだにゃ」
 セブルスは幼い顔に不似合いなにやりとした笑みを浮かべた。



 「エド、昨夜なにかあったのか?」
 朝の大広間のグリフィンドール席では、夜中に悲鳴やうめき声によって叩き起こされた男子生徒達によって、シド・セルウィンが彼らにかけた魔法についての憶測が色々語られている。
 そんな中で、あれほどの悲鳴に気付かずにぐっすり眠っていた親友は8枚目の厚切りのベーコンを食べながら不思議そうに聞いてきた。
 「例の四人が夜中に寝ながら悲鳴をあげて騒いだんだ」
 「よくわからないけど、噂を聞く限り医務室に運ばれてるらしいね」
 「上級生達が起こそうとしても起きずに魘されていたから寮監を呼ぶことになった。あとは知らないな。あいつら医務室送りになったのか」
 「セルウィンの魔法?」
 「そう考えるのが妥当だな」
 追加情報は朝食前に医務室に立ち寄った暇人によってもたらされた。
 医務室に運ばれた件の四人組は相変わらず魘されていて、起きている者も驚くほど顔色が悪く憔悴しているようだ。
 情報を持ってきた生徒の顔色も悪かった。
 よほど見るに堪えない凄惨な情景だったのだろう。
 朝食中に校長がシドを呼んだ。そして四人組がいるだろう医務室への同行拒否。
 四人にかけた魔法について、シドは一切の譲歩もなく、セルウィン家オリジナルだろう魔法に対して校長や教授達が解けば良いと挑発すらしていた。
 セブルス・スネイプが元の姿に戻ったのは昼食の時間だった。
 大広間で何の前触れもなくスネイプは元の姿に戻った。シドの膝に座ったままで。
 シドが制服に魔法をかけていたのだろう。元の体に戻った時に服が破れて醜態を晒すことはなかった。
 多くの女生徒達がとても残念そうな顔をしていたのは気のせいだと思いたい。
 同時に、シドの膝の上に乗っている事実に気付いて焦ったスネイプの様子に、姉を含む一部の女生徒達がにやにやと怪しい表情を浮かべていたのは見なかったことにした。
 グリフィンドールの情報通の暇人達によって、シドが件の四人組にかけられた魔法を解いたこと夕食の席で知ったが、四人組が皆の前に姿を現したのは三日後だった。
 ずっと眠っていたはずだが、極度の睡眠不足と過労と診断されて、医務室での絶対安静を言い渡されていたらしい。
 姿を現せた四人はいずれも憔悴した表情をしたままで、いつもの生意気な姿はなく、特に大人しい方の二人はゴースト達の方が生き生きしていると思わせるほど生気がなく、周囲を心配させていた。
 シドとの定期報告があり、四人組にかけた魔法が一体どのような物だったのか、好奇心から質問して、その内容に聞いたことを激しく後悔した。
 「リーマス・ルーピンが一番重症なのは意外でした。てっきりピーター・ペティグリューだと思っていましたから」
 あの四人の中で臆病なのはピーターだ。普通に考えれば悪夢の効果で一番怯えるのはピーターだと思うが、実際に一番憔悴しているのはリーマス・ルーピンだった。
 彼は今にでも発作的に自殺しそうなほど夢に怯えていて、一度医務室を出たものの、あまりの怯えように再び医務室行きになっている。
 エドモンはシドに一般人の子供相手にやりすぎだとは口にしない。
 彼らはセルウィン家の地雷を盛大に踏み抜いたのだ。
 セルウィンにとって一番の恐怖は大切な人を失うことだ。
 一族では愛する伴侶を失って跡を追うことも珍しくない。信頼を寄せた無二の親友が、もしくは愛する恋人が自分のせいで死んだ場合など、最悪発狂することもある。それほどにセルウィンの愛情は深く重い。
 そんな一族のシドが一瞬でも大切な親友を永遠に失う恐怖を覚えたのだ。その時、彼の心を襲った絶望は計り知れない。
 「ああ、あれは特殊な事情がある人物だからね。家の方から聞いていないかい?」
 「いいえ、なにも」
 「エド達が特に気にする相手じゃないが」
 そう言いながらシドはリーマス・ルーピンについて驚くべき内容を語った。
  シドの話しが事実だとすると、リーマス・ルーピンがあれほど憔悴して怯えた悪夢の内容も想像がついた。
 「発作的に自殺する可能性がありそうですね」
 「それは彼らの心の傷に関して記憶を消すと言う選択肢を思いつかない学校側の落ち度だ」
 「オブリビエイトで消えるんですか?」
 強力な魔法で見た夢だからこそ、忘却の魔法も聞かないとエドモンは思い込んでいた。
 恐らく学校側もそう考えているに違いない。シドはエドモンの質問にあっさりと頷いた。
 「魔法をかなり弱く調整していたから、記憶の忘却もまだ可能だ」
 「魔法が強かったらオブリビエイトは効かないんですか?」
 「発狂した相手の記憶を消すのは無理だろう。記憶を消したところですでに正気じゃないから無意味だ」
 シドは酷薄に微笑んで告げた。その様子はとても美麗だが、同時に背筋が震えるほどに恐ろしかった。






 事件があってから二週間後に姉シェリーがグリフィンドールの四人組をモデルにしたと一目でわかる小説を書き上げた。
 それは四人が何者かに浚われて、男に性的な調教を受ける内容で、人間としてのプライドをズタズタに引き裂くような屈辱的な行為が満載なハードな代物だった。
 姉に無理やり薄い本を読まされたエドモンは、クソ爆弾まみれにされたことと、目に入れても痛くないほど可愛いセブルス・スネイプの命を危険に晒した出来事に、姉が密かに盛大に怒り狂っていたことを理解した。
 この作品はハードなエロが好きな愛好会の人間には好評だったらしい。
 そして同じ頃に兄が出した新作も一部の者達の話題を浚った。
 姉の双子の片割れである兄は「女の子同士」と言うジャンルの書き手だ。
 兄の作品は男が創作する女の子同士の恋愛にありがちな性的な絡みは一切ない。ほのぼのとした可愛くももどかしい恋愛や切ない片思いの悲恋物が多い。
  そんな作風の為か、男が書く女の子同士の本でありながら、読み手のほとんどが女生徒だ。
 今回、兄が書いたのは今までの作風とまったく異なる男性向けの女の子同士の本だった。
 メインで出てくる二人の女の子がグリフィンドールの有名人二人を女性化させた人物だとすぐわかる外見をしている。
 そんな彼女達は仲の良い親友同士で、彼女達はとある弱味を握られて男子生徒達に凌辱されているという内容だ。
 この話も人間としての尊厳を無視した内容の代物だった。強姦輪姦は当たり前、衆人環視の中、粗相をさせるなど徹底的に二人を辱める。
 正直、エドモンは最後まで読むことができなかったが、一部の嗜好の合う生徒達からは喜ばれ、続編を希望する声すらあると言う。
  続編希望の彼らが性犯罪者にならないかエドモンは他人事ながら心配になった。
 もちろん、こんな過激な内容の本を書いた兄の人間性も疑われる。
 実際にこれを読んだ男子生徒達からは「なにか悩みがあるのか。相談に乗るぞ」と心配されたが、「妹がクソ爆弾まみれにされて腹の虫が治まらなかった」と理由を言えば、普段からあちこちに迷惑をかけてくる二人なだけに周囲は納得した。
 ただ「やりすぎだ。おまえも変態に思われるから気をつけろ」と忠告はされたらしい。
 この部数の少ない本はすべてに女性が開くと文字が消える魔法がかかっており、女性は読めない配慮がされている。
 いつもの兄の作品だと思って読んでしまったら、間違いなく不快な気分にさせてしまうからだ。
 兄は片割れである姉をクソ爆弾まみれにした件について激怒していたらしい。
 恐ろしい報復方法だとエドモンは震えた。
 ちなみに双子達は自作の本をモデルである四人もしくは二人に送り付けるの忘れなかった。
 元気で活動的な姉に寡黙で冷静沈着な兄。性格が正反対な二人は根の部分でまったく同じだと思い知った。









 朝の大広間でいつものように朝食を食べているとフクロウ達が一斉に手紙を運んで飛び交う。
 セブルスは降ってくる羽から食べかけのリンゴを守りつつ、忙しく飛んでいるフクロウを眺めた。
 やがて一匹のフクロウがセブルスとシドに小包を落として行った。
 「シドの家からだ」
 送り主にシドの父親の名前が書いてあって驚いた。
 同じような小包を受け取ったシドは既に杖で小包を真剣に調べていた。相変わらず実家からの届け物には警戒が必要なようだ。
 「セブルスのも調べて良い?」
 「ああ、頼む」
 「問題はないけど、お祖父様の盗難防止の強い魔法がかけてある。ここでは開けないほうがいいね」
 「わかった」
 朝食後に他に生徒のいない空き教室で小包を開けることにした。
 小包の中身は見覚えのあるバングルだった。
 数週間前の不運な人災による事故でこのバングルの魔法石は魔力を失った。綺麗な輝きを放っていた青い石は木炭のように黒ずんだ。
 このバングルが命を守ってくれたと知った時はバングルと贈ってくれたセルウィンの人達に感謝した。
 セブルスとしては黒ずんだ石でもバングルの使用を続けたかったが、「魔力を失った魔法石は良くない」とシドに止められた。
 魔力を失った魔法石は人の悪い感情を集めやすく、放っておくと呪いの石になり、持ち主にも悪い影響が出るとシドに説明された。
 結局、バングルはシドの祖父達が修理すると手紙を送ってきてくれたために、セルウィン家に預けることになった。
 そのバングルがセブルスの手元に戻ってきた。
 黒ずんだ魔法石は今は6放射の星型の輝きを持つ青色の石になっていた。その美しい魔法石を見て、セブルスは全身に冷や汗が滲んでくるのがわかった。
 この魔法石はとてもつなく高価な代物じゃないだろうか。
 もともと魔法石自体とても高価なものだが、魔法石としても、宝石としても、この石は自分のような庶民が持つには恐れ多いほど高価な品のような気がしてならない。
 泣き出したいような気持ちでシドを見れば、シドも驚いた表情でバングルを見ていた。
 「これは」
 「な、なんだ!?」
 「いや、なんでもないよ」
 にっこり笑顔で言うシドを睨みつけた。
 なんでもない表情じゃなかった。少なくともシドが驚くような代物なのだ。この魔法石は。
 「言え!」
 「……聞かなきゃよかったと思うだろうし、どちらにしろそのバングルは返品不可だよ?」
 「余計に気になる言い方をするな」
 「そんなつもりじゃないけど」
 「いいから答えろ!」
 目の前にある魔法石が価値が恐くて、半ば八つ当たりのようにシドに怒鳴りつける。
 「この魔法石、お祖母様の魔力封じに使っているレベルの魔法石だよ」
 それはつまり、値段もつけられないほど恐ろしく高価な魔法石であることを意味する。
 「う、受け取れないっ!」
 高価過ぎて身につけるのが恐い。
 「返品不可。経費はお祖父様の労力ぐらいだから気にしないでよ」
 「気になるにきまってる」
 「セブルスに突き返されるとそのバングルはゴミ箱行きだ」
 シドは涼しげな顔で無茶苦茶を言う。彼も小包を開けた。
 セブルスのバングルとシドのピアスには魔力を補助し合う魔法がかけられていた。自分のバングルの魔法石が魔力を失った時、同じくシドのピアスの石も魔力を使い果たし、黒ずんだ石に変化していた。
 シドにとても似合っていた青い石だっただけに、その変化は残念だった。
 小包からは蛇のピアスが出てきた。ただセブルスのバングル同様についている魔法石が以前とは違った。青い石の中に6放射の星型が輝いている。
 「補助連動の魔法の組み込みが強くなってる。だから力の強い魔法石にしたのか。セブルスと兄弟石じゃないのは残念だけど、こちらの方が効果は高いな」
 小さなピアスを見てシドがそんな感想を述べた。
 バングルとピアスに施された魔法は複雑すぎて、セブルスには理解できなかった。
 普通のイギリス魔法の理論と古代エジプト魔法の理論が融合してまったく新しい魔法、セルウィン家オリジナルの魔法になっているのだ。
 「セブルス。この前のようなことが二度とないとは言い切れない。あの四人組は一時期は静かになっていたけど、二週間たった今は復活した。
 再び悪質な悪戯をはじめて、うっかりその被害がセブルスに行く可能性だって高い。特に眼鏡はリリーと仲が良い異性であるセブルスを敵視してるしね。
 彼らは無駄に優秀だからこれから成長するに従って悪戯の質も威力も増すと思う」
 シドの言葉にセブルスは頷く。彼らの成績は悪くないがそれに比例するように性格に問題がある。
 きっと将来的に今よりももっと悪質な悪戯で皆を嫌な気分にさせるのだ。
 シドによって悪夢を見る魔法をかけられた四人組は、魔法を解かれた後も憔悴していたが、学校側がこのままでは生徒の健康に著しい影響を及ぼすと、見た悪夢の記憶を消すという手段を取った。
 そのため記憶を消されてからは四人組はケロリとしている。
 シドが彼らにかけた魔法を解く時、セブルスは一緒に医務室に同行した。
 シドは一人で後始末をしてくると言ったが、悪夢で失禁する彼らの姿が見えるかも知れないと無理を行って一緒に行った。
 わずか一日足らずでげっそりとやつれ、言葉にならない唸り声をあげて眠っている四人の姿にセブルスは驚いた。
 シドは悪夢の内容は教えてくれなかったが、傍若無人な二人組にさえもここまでやつれているのだから、セブルスの想像よりもずっと凄惨な悪夢なのだと予想できた。
 「それに、僕の関係でセブルスに迷惑がかかる可能性も高い。備えは万全にしておきたいんだ。お願いだ。セブルス。このバングルを受け取って。君を失ってしまう恐怖は僕には耐えられない」
 シドに縋るように請われ、否と言えるだけの気概はセブルスにはなかった。







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