敵に情けはいらない

  


 「それじゃあお願いするわ」
 「よろしくね」
 嬉しそうな笑顔で告げたのは各寮の五年生の女生徒達。
 朝食の席に届いた一通の手紙。それには昼にとある教室に来てほしいと書かれており、差出人の署名は寮の名前と個人の名前が四人分並んでいた。
 そして姉が作った愛好会の名前があり、朝からウンザリした気分にさせられた。
 しかし、よく考えてみれば、犬猿の仲であるスリザリンとグリフィンドールの生徒が同じ手紙に署名するのはすごいことだ。
 通じ合った趣味は寮の壁をも簡単に越えるものらしい。
 そうして昼に指定の教室に行けば、各寮の女生徒達が待ち構えていた。
 リリーの同室の友人達が言っていた件だろうと予想はついていた。
 実際に順番に名乗った彼女達は懇願するようにシドにこう言ってきたのだった。
 「ハーティ様の連絡先を教えて」と。
 彼女達は卒業以来ぱったりと連絡が取れなくなった「伝説の人」に手紙を送りたかったようだ。
  話を聞けば、姉の書いた作品は今でも愛好会の間では評価が高く、ぜひとも感想を送りたいと言う声が絶えないのだと言う。
 「ハーティ様が闇の陣営に狙われているために身を隠していると聞き及んでいます」
 闇に狙われているのは姉に限ったものではなかった。
 対闇の陣営と言われているセルウィン家の人間は当然ながら闇の陣営から敵視されている。
 スリザリンの女生徒が発言は間違ってはいないが正解でもなかった。だからと言って、事実を他人に話す気にはならないが。
 「姉様の住んでいる場所を教えるわけにはいかない」
 「せめて手紙を届けてもらないかしら?」
 「つまり君達の手紙をセルウィン家経由で届けろと言うわけか」
 「もちろん変な呪いがかかっていないか調べてくれてかまわないわ。こちらでもできるだけ調べるから。ハーティ様も手紙に関してはとても用心深かったと聞いてるもの」
 それは両親のせいだとはとても言えなかった。
 そうか、飄々としてつかみ所のなかった姉様もあの両親には苦労していたのか。
 遠い地にいる姉に妙な親近感を覚えた。
 「とりあえず姉様に手紙で確認してみる。姉様の返事次第だ」
 その返事だけで代表達は手に手を取り合って喜び、シドに何度も礼を言ってきた。
 ハーティはよほど尊敬されているようだ。
 嬉しげな笑顔の女生徒達に見送られて教室を出る。
 リリーや彼女の同室の子を含め、今の代表の五年生達も綺麗で可愛らしい子ばかりで、特殊な趣味に傾向しているのが残念でならない。
 「本当に娯楽少ないからな」
 学びの館に相応しく蔵書は悲鳴をあげたくなるほど充実しているが、その他の娯楽が極端に少ない。
 テレビやラジオもなく、外部との接触は新聞と手紙だけ。まして冬になって雪が積もり更に外界と閉ざされると閉塞感でストレスが溜まる。
 クィディッチのような危険で過激なスポーツが人気なのは、ストレスの発散の場として必要だからなのか。
 あのマクゴナガル教授でさえ熱狂していたのだから、生意気な子供相手の教師もストレスが存分に溜まっているのだろうとシドは勝手に推測する。
 でもだからとあの趣味に走らなくても良いんじゃないかと思わずにはいられない。
 十二月になったばかりのホグワーツはいつ雪が降ってもおかしくないぐらいに冷え込んできた。
 底冷えする石造りの通路を昼食を摂りに大広間に向かって歩いていく。
 ふと視界の先に薄暗いの通路にぼんやりと白く見えるものがあった。
 それが人の頭であり、美しいプラチナブロンドの髪であることに徐々に気づいた。
 向こうからやってきた人物はシドを見るなり立ち止まった。
 その顔色は面白いほど一気に青ざめていく。
 自分を凝視する男にシドは足を止めてそちらに視線をやり、そうしてうすく微笑んだ。
 とたんに男が跳ね上がるように一歩後ずさり、失礼な反応にずいぶんと怖がれたものだと内心で苦笑する。
 子供にや原作の人物は記憶に留めないシドだが、自分とセルウィン家の敵と定めた者は例え原作の人物であっても記憶に焼き付けていた。
 目の前の男がそれに該当する。
 怒声と悲鳴が響く中、絶え間なく呪文を唱えて攻撃してくる相手を倒していた記憶が脳裏に浮かんだ。
 逃げ行く闇の陣営の大人達の間から見えた場違いな十代前半の子供の姿。
 親に連れて来られただろうプラチナブロンドの少年と目が合い、その恐怖に染まった眼差しにシドは不敵に微笑んで見せた。
 それはシドが10歳になる前の記憶だ。
へたれ属性の愛妻家となる男は整った顔立ちを恐怖に引きつらせていた。
 あの時の少年には忘れられない記憶になってしまったらしい。
 自分よりはるかに小柄な人物相手に脅えを隠せずにいる。
 年上の威厳も名家の矜持もない。
 強すぎる恐怖心はそれらすべてを簡単にはぎ取ってしまう。
 「セルウィンやその親しい者に手を出さなければ、セルウィンは自ら手を出したりはしない。
 ミスター・マルフォイ。命が惜しければ愚かな真似はしないことだ」
 例えそれが闇の帝王の命令でも。
 「貴様達の一族は化け物だっ」
 押し殺した声はまるで叫び声のように聞こえた。
 「その一族の力を欲して闇の人間はセルウィンの子供を攫う」
 クッと喉でシドは笑った。
 「そしてこの子供に返り討ちに遭う」
 セルウィン家の血筋の人間は総じて大きな魔力を持つ者ばかりが生まれている。
 ゆえにその力を手に入れようとする闇の人間に子供のうちから狙われる。
 もちろん黙って誘拐される謂われもないので、対抗手段としてセルウィン家は子供に己の身を守るための厳しい訓練を行っているのだ。
 「ミスターの主が無謀な命令をしないことを祈るよ」
 そちらも以前のように館ひとつ失う惨事は経験したくないだろ。
 揶揄するように言えば、過去を思い出したのか男の顔色は更に悪くなる。
 『敵には容赦するな』が母親の教えであるために、シドは敵と見なした相手には一切の温情を持たない。
 原作の人物だろうが、自分に害があるようなら排除する気は満々だった。
 幸いにしてルシウス・マルフォイはシドに植え付けられたトラウマのせいか、シドに対して多大なる恐怖心を抱いており、とても自ら攻撃を仕掛けてくるとは思えなかった。
 闇の帝王や父親から命令があれば、このへたれ属性の男が根性を出してどんな頑張りを見せるかはわからないが。
 怯えを孕んだ双眸がシドを睨みつけながら通り過ぎて行った。文字通り逃げるように。
 輝くプラチナブロンドを見送り、そんなに脅えなくてもとシドは苦笑する。
 闇の陣営に誘拐されたのは二年前のことだ。
 子供ではない精神が攫われたのを怖いとは思わせなかった。むしろ来るべき時が来たのだと思った。
 闇の陣営の敷地内。魔法を選ぶ必要がなかった。だから知っている限りの魔法を使った。
 今まで己の身を守るために訓練で習ってきた成果を心置きなく発揮したら、気づいた時には建物が全壊していた。
 相手が殺す気で許されざる呪文を使ってきたので、こちらも容赦しなかった。
 死の呪文で人を殺したはずだ。
 身を守る正当防衛だと理論づけると人を殺した恐怖心もなかった。
 それにこれは兄も姉も通ってきた道だった。
 「でも館を全壊させた僕の被害が一番小さいはずだけど」
 兄はエジプト呪術でその場にいた人間を尽く錯乱させ、闇の人間達を仲間内で攻撃させて壊滅に追い込んだ。
 そして彼を助け出そうと一族が集まっていた屋敷に帰り、「今日パーティーの予定あった?」と疑問を口にして一族を驚かせた逸話を持っている。
 エジプト魔術に関することを抜かせば、あの両親から生まれたとは思えないほどのんびりと温厚で優しい兄が、実はとてもえげつない魔術を使うのだと話しを聞いた時に初めて知った。
 姉は闇の帝王と直接対峙し、なにがあったのか詳しく聞いていないが、無傷で帰還したのち「闇の帝王はすごい美形の受けだったわ」とシドに浮かれた様子で報告してきたので、それなりに楽しい誘拐生活をしてきたようだ。
 その一言で彼女を心配する気持ちが宇宙の彼方に飛んで行ったのは言うまでもないが。
 『死喰い人の連中がセルウィンの長女のせいで死喰い人の女達がおかしくなったって色々なところで愚痴言ってるらしいぞ。
 これってハーティの仕業だよな。あいつ容赦のない精神攻撃仕掛けるな。
 俺、部下の女達にホモのやられる側だと妄想されてる闇の帝王に少しだけ同情する』と現役の闇払いの親族の腹を抱えて笑いながらの言葉は、彼女が誘拐されている間に闇の陣営で布教活動をしていた事実を意味した。
 闇の陣営にとって、館ひとつ全壊され仲間が多少なりとも犠牲になったシドの件より、多くの仲間が錯乱状態になり、家族を含めた同士討ちしてをして全滅したブライアン、そして仲間の女達が闇の帝王に対して邪な妄想を垂れ流す世にも恐ろしい現象の元凶となったハーティの方が厄介だったに違いない。
ましてハーティの件は後々にも影響が残りそうだ。
 闇払いの親族の話では、ハーティを誘拐した闇の陣営の一族は怒り狂った闇の帝王に抹殺されたらしい。
 無理もない話だと当時は闇の帝王に少しだけ同情した記憶があった。
 ふとあることを思い出す。
 セブルスを闇の帝王に引き合わせたのはルシウス・マルフォイではなかっただろうか。
 『ツンデレのセブルスにへたれ貴族のルシウス、そして俺様受けの闇の帝王。彼らは聖なる受けだと思うの。そう思うでしょ! この三人が出会う瞬間に立ち会いたい。物陰からこっそりのぞくのでも良い! 
 でこっぱち殿下、セブルスを闇の帝王に引き合わせるなんて良い仕事するわ! きっと受け二人じゃあ淋しかったのね』
 情報源である前世の姉の言葉を思い出し、シドは深く息を吐く。
 原作映画ともにハリポタの内容を思い出そうとすると、姉の腐女子な言葉が一番最初に出てくるのが嫌だった。
 覚えていたくもないのに耳にタコができるほど聞かされたせいか、記憶に焼き付いている。
 軽く頭を振って前世の姉を思考から追い出す。
 セブルスの闇の魔術の才能を認めたルシウス・マルフォイがセブルスを死喰い人へと勧誘したはずだ。
 「セブルスをあいつに会わせないようにしないと」
 セブルスが死喰い人になれば、それは不幸な未来を意味する。
 苦しみ絶望するだけの、光のない真っ暗な未来だ。
 友人が不幸になるのを黙って見ている気はなかった。
 決意を胸に秘めながらも、胃が空腹を訴えたために大広間へ行く。
 昼食の時間は半分ほど過ぎていて、生徒達のピークも越えている時間のはずなのに、大広間には沢山の生徒達がいた。
 スリザリンのテーブル近くが特に騒がしかった。
 グリフィンドールならともかく、スリザリン席が賑やかなのは珍しい。
 スリザリンテーブルの奥の壁近くに生徒や教授達が集まっている。校長の姿も見えた。
 人が多すぎて何があるのか見えないし、それほど興味もなかったので、激しく空腹を訴えてくる育ち盛りな胃を宥めることを優先した。

 チキンステーキにポテトサラダ。ミートソースのパスタも皿に盛る。野菜がたっぷり入ったスープにパン。リンゴとオレンジのカットフルーツ。
 誰かがギャアギャア叫んでいるのを不快に思いながら、皿に盛った料理を胃に納めていく。
 チキンステーキの香辛料が多く、実家のしもべ妖精の料理を恋しく思っていると、こちらに向かってくる友人の姿が視界に入った。
 「シド!」
 「どうしたの、セブルス。そんなに慌てて?」
 セブルスが胸に抱きしめるように持っている物体に目が行った。見覚えのある包装紙にシドは表情を険しくする。
 「セルウィン家から届いた物?」
 「そうだ。なぜかカルロ・セルウィンという人から僕宛に届いた」
 「カルロは僕の父親の名前。このまえオイルの件でセブルスに迷惑かけてしまっただろ。そのお詫びの品だよ。奇人変人でもそれぐらいの礼儀は弁えてるから」
 「セルウィン家当主からか」
 セブルスは小包を不思議な物体を見るように眺めている。奇人変人の一族の当主たる者が贈って来た物だけに、警戒心と好奇心が垣間見えた。
 「ところでそれ開けた? 開ける時は気をつけてね。さすがに人に贈る詫びの品に変な仕掛けてはしてないと思うけど、絶対にしてないとは言えないから」
 「それか」
 急に納得した様子を見せ、セブルスの視線が人が沢山集まっている方へと向けられる。
 相変わらず誰かのうるさいわめき声が聞こえてくる。
 「あの叫び声なに? さっきからうるさくて不快だ」
 声からして男の子だ。しかも複数。
 「ポッター達だ」
 「眼鏡がどうしたの?」
 セブルスの説明によると、昼食の席にセブルス宛に小包が届き、それを見たジェームズとシリウスがちょっかいを出してきた。
 彼らは二人がかりにセブルスから小包を奪い取り、開けようとしたところ小包から黒い植物の蔓のようなものが出てきて、ジェームズ達にみるみるうちに絡みついて拘束してしまった。
 教授達が気づいてその黒い植物を取り外そうとしたが、何か魔法を使うたびにその植物はジェームズ達を締め上げている状態になり、現在どうすれば良いのか教授達が話し合っているところだと言う。
 「それ郵便盗難防止の呪いだ。変な仕掛けじゃない」
 「郵便盗難防止?」
 「そう。お祖父様のオリジナルの呪いだけど、受取人以外の人間が郵便物を開けようとすると発動する仕組みになってる」
 最後のオレンジを食べて、カップに紅茶を注ぐ。
 屋敷しもべ妖精が用意してくれる紅茶は不でもなく可でもなく、喉を潤すには問題ない程度の味だ。それを一口飲みホッと一息をついた。
 「セブルス。その小包貸してくれるかな。変な仕掛けがないか調べたい」
 「ああ。でも大丈夫なのか?」
 「開けないから平気だ」
 小包を杖でなぞっていく。
 「うん。変な仕掛け魔法はかけてないみたいだ。開けても大丈夫だよ」
 シドに促されるままにセブルスは小包を開けた。
 大きさの割にはずっしり重かった小包の中身は分厚い本だった。
 「『薬草から毒草まで 生かすも殺すも貴方次第』? 中を読んでも良いか?」
 「セブルスのだから好きにどうぞ」
 パラパラとページを捲って内容を確認していくセブルスの表情が次第に真剣になっていく。
 食い入るように文字を追っていく様を見れば、どうやら気に入ってくれたことがわかる。
 「………かなり質の良い本だ。本当に貰っていいのか?」
 「お詫びの品だから返されると困るな。あとセブルスが読み終わったら僕にも貸してくれると嬉しい」
 「わかった」
 詫びとして贈るにしては考えさせられる題名の本だが、セブルスが喜んでくれたので問題無しだと納得した。
 「うわっ」
 同封されていたカードを見ていたセブルスが、二つ折りのカードをテーブルの上に投げ出した。
 カードからキャンディーがボコボコと湧き出て来ている。
 「たぶんそれもお詫びの品だと思う」
 大皿一杯分のキャンディーが出て来たので、それをセブルスの鞄に拡張魔法をかけて詰め込んだ。
 セブルスに許しを得ていくつかのキャンディーを譲って貰い、自分が調べ終わるまで絶対にそのキャンディーは食べないでと頼むと、ハロウィンのキャンディーを思い出したのか、セブルスは呆れた顔をしながらも「わかった」と頷いた。
 「ミスター・セルウィン」
 女性の声にそちらを見れば、マクゴナガル教授が立っていた。
 「なにか?」
 「そちらのミスター・スネイプに送られてきた郵便物の件で聞きたいことがあります」
 「この騒々しい叫び声の原因ですか?」
 「そうです。セルウィン家からの郵便物だとミスター・スネイプに聞きました。なにか知っていますか?」
 「とりあえず現場を見ても構いませんか」
 立ち上がって人だかりの方を見れば、マクゴナガル教授も頷いた。
 彼女が先陣を切って歩くと人だかりが割れ、その後ろをシドとセブルスはついて行く。
 セブルスは嫌そうな顔をしたが、当事者だからという理由で一緒に来てもらった。
 石畳の床に黒い植物の蔓で全身ぐるぐる巻きにされたジェームズとシリウスが転がっていた。
 その場から動かせれないのは植物が床にしっかりと根付いてしまっているからだ。
 「切ろうとしても燃やそうとしてもビクともせん」
 「この蔓は物理的攻撃をすると逆に捕獲した物を締め付けますよ」
 校長の言葉にシドはさらりと告げ、校長は「その通りじゃ」と頷いた。
 しっかりと二人を見れば、かなり衣服に蔓が食い込んでいるのがわかった。
 「これは一体なんじゃ?」
 「セルウィン家オリジナルの郵便盗難防止の呪いです。受取人以外の者が郵便物を開けようとすると発動します。セブルスから話は聞きましたが、彼らは自業自得ですね」
 ジェームズとシリウスが睨んでくるが無視する。
 人の郵便物を奪うなんて、馬鹿のやることだ。同情の余地すらなかった。
 「この呪いの解除方法はあるかのう?」
 「簡単です。謝ればいい。誠心誠意、本当に自分が悪かったと悔いて謝罪すれば、蔓は消えてなくなります」
 途端に地面に転がっていたジェームズが「僕が悪かった」と叫んだ。しかし、蔓は消えるなかった。
 「消えないじゃないか。君は嘘つきだ!」
 批難がましい声を張り上げるジェームスを冷たく見下ろした。
 「君は馬鹿か。誠心誠意謝罪しろと言ったはずだ。これは子供の悪戯道具の呪いじゃない。
 セルウィンの郵便物を闇の陣営の者に奪われない為に考えられた盗難防止の呪いだ。口先だけの言葉で呪いが解けるわけがないだろ」
 謝罪の言葉だけで呪いが消えるなら意味がない。
 「そろそろ移動しないと午後の授業に間に合わなくなります。僕達はもう行っても良いでしょうか?」
 呪いの解除方法は教えた。これ以上、自分が付き合う理由もない。
 「彼がいないと謝罪もできないのではないかね」
 校長がセブルスを見る。
 「彼らを見るかぎり、そう簡単に心から謝罪などしないでしょう。謝るまでセブルスをこの場に拘束するなら時間の無駄になります。彼らが謝る気になったら呼んで下さい」
 「そうじゃのう」
 長い髭を撫でながら、校長はなにか考える仕草を見せた。
 「君は謝罪以外の解除方法を知らないのかね?」
 「知っていますが教える気はありません」
 きっぱりとシドは言い切る。
 「悪いことをすれば反省して謝るのが当然。小さな子供でも教えられていることです。当たり前のことをねじ曲げてまで彼らを救出する理由がない」
 「なるほどのお。わかった。授業へ行きなさい」
 校長の了承が得られたのでシドはその場を離れる。
 なぜかシリウスが罵倒してくる声が聞こえたが無視した。
 次は魔法薬学の時間だ。
 絶対に遅刻はしたくないが、さっきの大広間にスラグホーンが興味深げに呪いの蔓を見ていた気がする。
 教授はきちんと次の授業に来るだろうか。
 「シド」
 「なに?」
 地下への階段を下りながらセブルスがこちらを見てくる。
 「謝罪に僕が必要なのか? あの呪いは郵送途中で盗難にあった場合に発動したら、受取人に謝罪するのは不可能だ。解除方法がないことになるぞ」
 「ああ、セブルスは気づいたんだ。校長も気づいたと思うけど、謝罪に受取人は必要ないよ。ただ己の行為を悔いて本気で悪かったと思えば良いだけだ」
 パニックを起こしている捕らわれの少年達は気づいていないようだ。
 「なぜそれを言わなかった」
 「馬鹿なお子様にお仕置きだよ。これで無闇に人の郵便物を取り上げようなんて真似しなくなるだろ」
 「あいつら僕に謝らなければならないと思ってるから、しばらくはあのままだろうな。確かにシドの判断は正しいな。魔法薬学の授業が終わったら様子を見に行ってやろう」
 楽しげにセブルスは黒いことを言う。
 「セブルスは性格が悪いな」
 「シドほどじゃない」
 にやりと笑うセブルスにシドも笑みを返した。







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