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第一章 木下・京本編

※会話多め


中間試験3日前。
その日は午前で早上がりだった。
ここ湯ノヶ原高校1年1組の生徒達は皆
月曜からの高校生活初めての中間試験に
挑む準備を着実に進めていた。

・・・

「ねぇ遥香遥香〜テス勉しに来ない?」

「ごめん今日バイト!」

「あやっぱ?入れちゃうよね
めっちゃわかるんだけど!」

「えそれなそれな?稼ぎ時じゃんテスト期間」

「ね!!」

・・・


「おーいサッカー部公民館行こうぜ」

「は?何でだよ」

「テス勉に決まってんだろ!」

「健太郎ん家でやりゃ良いじゃん!」

「何でだよ!兄貴今家居るわ!!」

「なんだよつまんねぇな」

「じゃあ彩スケん家はどうなんよ?
彩スケん家めちゃくちゃデケェし」

「あー、彩スケ今日も京本さん家行くってよ」

「今日も京本さん・・・ブフッ!」

「おい何笑ってんだよてめぇ」

「あいだっ!!!いってぇなおい!!」

「キノピオと京本さんに失礼だろうが」

「さーせん」



・・・



湯ノヶ原高校1年1組10番の木下彩と
同じく1年1組11番の京本紗耶花。

二人は赤子の頃からの幼馴染で、
ほぼ毎日と言っていい程二人は放課後に会っている。
幼馴染というよりかは、二人は既に交際関係にある。

紗耶花は地頭も良く、小学生時代には
英検と漢検、数検の3級に受かっていた。
勉強と運動も出来てクラスの人気者で、
毎日クラスメイトと楽しく過ごしていたのだが、
紗耶花の弟の魁翔が生まれてから、
紗耶花は学校に来ることが少なくなった。

だが、紗耶花が学校に来なくなった理由は、
弟が生まれたという理由だけでは無いという事を
彩だけが唯一知っていたのだ。


「よっ!」


「あっ!!あやにーちゃん!!!」


「あやにーちゃん!?」

「ねぇあやにーちゃんきょうはなにするの!?」

「サッカーやろうぜ!!サッカー!!」

「えー!!おにごっこやろうよ!!」

「えーおれどろけいがいい!!」

「どろけいきのうもやったじゃん!!」

「おれぶらんこおにやりたい!!」

「かくれんぼしようよ〜?」


学校から少し離れた公園に居たのは、
紗耶花と弟の魁翔、そして8人の男の子達だ。


「彩ごめんね、やっぱ魁翔だけじゃなくて
みんなも公園行きたいって言うもんだから・・・」

「ううん、良いんだよ。気にしないで。
紗耶花も一人でこんなに面倒見るの大変でしょ?」

「うん、まぁ・・・ね。」


「・・・ほんと親って残酷なモンだよな。
下に付きっきりで俺達兄姉には目もくれねぇし。」

「うん・・・・・・でも、やっぱり
大事な弟達が生きていてくれれば私はそれで良い。」

「うん。やっぱりそうだよな。
俺も羽生が居なかったらここまで髪伸ばしてねぇよ。」

「彩少し前まで野球部並に坊主頭だったもんね。」

「ははっ、やめろよ照れるじゃんか。」

「でも私どっちの彩も好きだよ。」

「・・・・・・っ、照れること言うなって」


彩は紗耶花からの言葉で顔を赤らめた。

その後彩と紗耶花は、
魁翔含めた9人の男の子達と一緒に
日が暮れる寸前まで遊んでいた。


「はー、楽しかった!
月曜からテストなのに何してんだろうな俺ら」

「ね!!でもみんな楽しかったみたいだし
どっこいどっこいなんじゃない?」

「ははっ、だな!」


すると、公園の前を通り過ぎる老人女性2人に
ジロジロと厄介者を見るような目で見られ、
ヒソヒソと話しながら睨まれた。

「(ね、あの子があの親不孝者理佐の娘達よ。理佐の仲間の子ども達預けられて学校にも行けないんですって。ホント可哀想にねぇ。)」

「(ねぇ。そういえばあの娘さん・・・すごく細くない?ご飯ちゃんと食べてるのかしら・・・??)」

「(いいえ、育児放棄されてるのよ。あの娘さんが弟と他の男の子達にご飯あげて自分は全然食べてないみたいなのよ・・・)」

「(まぁ・・・!!何か菓子パンでも分けてあげようかしら・・・)」

「(やめときなさいよ!あの親不孝者理佐に何されるか分からないわよ!可哀想だけどそっとしておくしか無いわよ・・・)」


彩にはその老人女性の話してる内容が
聞こえてきて、とても胸が苦しくなっていた。

恐らくその話が聞こえているであろう紗耶花は
口を噤んで下を向いて俯いていた。

彩はそんな紗耶花を見て耐えきれず、
紗耶花の後頭部と背中に手を回した。


「えっ・・・?!」

「・・・・・・ごめんね、俺・・・何も出来なくて。」

「そんなことないよ・・・!!だって彩は・・・!」



「あー!!あやにーちゃんがねーちゃんのこと
ぎゅーしてる!!!おれのねーちゃんとるなよー!」

「は?!ねーちゃんはかいとのものだから
ゆーすけのものじゃねーし!!」


彩が紗耶花を抱き締めている所を男の子達に
見られて、二人は照れ隠しですぐに離れた。


「あはは、まだお姉ちゃんは誰のものでもないよ。
もうすぐ暗くなるし、そろそろ帰ろっか!」

「「うん!!」」


紗耶花と彩、そして弟達は
しっかりと縦二列に並んで自宅に戻っていった。


紗耶花の自宅のアパートに戻ってきた。
だが、誰もいない筈の紗耶花の号室に
一つだけ明かりが付いていた。

紗耶花がゆっくりと扉を開けると、
そこには紗耶花の母が居た。


「ママ・・・?」

「おーなんだ紗耶か。公園行ってたん?」

「うん」

「土日帰れそうにないから飯代置いとくから
適当に買ってチビ達に食べさせといて。」

「・・・わかった」

「じゃ行ってくるから、洗濯掃除、
あとチビ達風呂に入れんの忘れんなよ
入れなかったら絵里達に怒られっからな。」

「・・・うん」

「行ってくる・・・おっ!彩クンじゃーん!
いつもこいつら世話かけさせちゃって申し訳ないね、さっき自販で買ってきたこれあげるからあとはチビ達が寝た後にお二人で楽しんでね♡じゃ!」


「あ・・・はぁ・・・・・・」


「あやにーちゃんりさになにもらったの?」

「ココアシガレットだよ!!だって
はこのおっきさがそうじゃん!!」

「えータバコじゃないの?」


「うーん・・・・・・食べ物でもタバコでもないんだよね。」

「なーんだ」

「・・・」


紗耶花達は、紗耶花の母の置いていった
お金を持って、近所のスーパーに
夕飯の買い出しに行った。

そして自宅に戻り夕飯を終えた後に、
すぐに弟達は布団に潜り眠りについてしまった。


夜もすっかり更けて、しとしとと雨が降り始めた。
紗耶花は窓際に座りサッシにもたれかかっていた。

すると、彩も反対側に座ってきた。


「・・・帰らなくていいの?」

「・・・うん、母さんも父さんも知ってるから。」

「・・・・・・・・・」


紗耶花は膝を抱え丸くなった。
そんな紗耶花の頬には一筋の雫が伝っていた。



「彩・・・私辛いよ・・・・・・弟達のこともそうだけど・・・
彩のことも・・・・・・私諦めきれないよ・・・・・・。」

「・・・俺も紗耶花と同じだよ・・・・・・紗耶花のこと、
諦めきれないよ。この関係・・・残酷だよな、ほんと。」


彩は紗耶花の涙を拭い、
紗耶花に顔を近づける。

やがて、重なった。



美しくも儚い二人の関係。
クラスメイトとしても、幼馴染としても、
そして愛し合う者同士としても
決して終わる事のできない関係。


禁忌を犯してまでも、
二人は愛し合う事を諦めきれなかった。






……To be continued
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