【リクトの日記】


俺は早速、街にある冒険者ギルドに通い始めた。
ここは、俺がずっと前から一度来てみたかった憧れの場所。
街の中心施設とだけあって、大勢の人で賑わっていた。
右も左も分からずにいた俺を、周りの冒険者たちや受付のお姉さんが新入りとして温かく迎え入れてくれた時は、凄く嬉しかったな。

そんな俺の初仕事は、街近辺での薬草採取だった。
それは、掲示板を見ていた時に隅っこに張られたまま、なぜか誰も手に取りたがらなかった一枚の依頼書。

これなら俺でも役に立てそうだと思ったし、街の近くなら危険は少ないはずだと、ふと脳裏によぎった心配性の幼馴染の顔を浮かべて苦笑いしつつ、俺は迷わずこの依頼を受けた。
街の外に出て薬草を採取する仕事だなんて、山で暮らしていた頃を思い出して、少しだけ懐かしくなった。


薬草を摘んだその帰り道のことだ。背後に気配。
振り返ると、小型の魔物――ウルフが三体いた。
すばしっこくて、噛みつかれたら痛いやつ……だったはず。

協会でやっていた手合わせとは違う、久しぶりの実戦。
不安がないわけじゃない。だけど――やるしかない。
俺は腰につけていたナイフを取り出し、小さく呟く。

「――大丈夫。俺ならやれる」


夕方。依頼者である母娘の元に薬草を届けると、思った以上に感謝された。
「ありがとう」って笑ってくれるのが、なんだか嬉しい。
……こんな気持ち、いつぶりだったかな。

その時、傍にいた女の子が俺の裾をくいっと引っ張った。
「お兄ちゃん。怪我、痛くないの?」って。

――あれ? 俺、怪我してたかな?
さっきの魔物に噛まれたり、引っ掻かれた感覚はない。
魔物の攻撃は全部避けたつもりなんだけど……。
どこで怪我をしたんだろうと、女の子の視線を辿ると――。
左腕に残る古い傷跡に向けられていたことに気づいた。

女の子はずっと心配そうに見上げるから、俺は安心させたくて女の子の目線に合わせて膝をついて、笑って答える。

「うん、大丈夫だよ」

今の俺にとって、小さな傷は日常茶飯事だ。
このくらいなら平気。大したことじゃない。

だけど、この腕の傷だけは――。
他の誰かが、自分のために傷つくことを忘れちゃいけないと教えてくれる「特別なもの」なんだ。
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