【リクトの日記】


18歳になった俺は、協会の重い門の前に立つ。
この日は、俺にとって特別な日。
初めて、街への外出許可が下りた日だった。

見送りに来たのは、勿論ミカゲだった。
いつにも増して心配そうな顔で、じっと俺を見つめてくる。
忘れ物はないか、怪我をしないかと今にも言いたげな顔だ。
そんな親友に「俺は大丈夫だから」って、いつものように笑ってみせた。

ミカゲは一瞬だけ、辛そうな顔をしたけど、すぐに目を伏せて、手を胸に当てて祈るような仕草をしてから、優しく――「いってらっしゃい」と送り出してくれた。
その時に、少しだけ笑いかけてくれたような気がした。


ミカゲに背を向けて門の外に一歩出ると、景色は一変した。
俺の目の前に広がったのは、キラキラと色鮮やかに輝く新鮮な世界だった。
街に響く喧騒や、いくつも立ち並ぶ屋台から風に乗って漂う美味しそうな食べ物の匂い、道を行き交う沢山の人たち。
これは夢なんじゃないかって、俺は目を疑ったものだ。

俺が今まで知っていたのは、故郷の澄んだ景色と、その後暮らした協会の白くて冷たい石壁ばかりだった。
だから、外の世界ってこんなにも沢山の色があって、音があって、賑やかで楽しい場所だったんだって胸が高鳴った。

だけど、街での暮らしは俺が思っている以上に大変だった。
買い物の仕方。宿の取り方。仕事の受け方。お金の使い方。
道を歩けば、角を曲がった瞬間に誰かとぶつかりそうになって怪我をしたり、油断してスリに遭いそうになったり、物の価値が分からなくて無駄遣いしちゃったり、うっかり熱い食べ物で火傷を作ってしまうこともあった。

協会で暮らしていた頃、ミカゲや周りの人がなんで俺を危険から遠ざけようとしていたのか、今なら少しだけ分かったような気がする。
外の世界は俺にとって、どこに危険があるか分からないくらい、目に見えない障害物だらけの世界だったんだって。

――それでも、俺は歩いてみたいと思うんだ。
知らないことがまだまだ多すぎて、不安になったり、立ち止まることが沢山あると思う。

だから――俺は強くなりたい。
前を向いて、俺は生きていきたいんだ。
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