【リクトの日記】


時々、どうしようもなく不安になる夜があった。
そんな時は愛用のナイフを握って、大丈夫って小さく呟く。
ナイフを握っていると、あの日誓ったことを思い出させてくれるお守りみたいに感じて、不思議と気持ちが落ち着いた。
いつしかそれが、俺の日常になっていった。


ある日、協会の庭でカイさんと手合わせをした。
普段はミカゲに止められていたけど、いつかギルドに行けた時に自分の身を守れるようにしたいし、今の実力を試したくてミカゲに何度もお願いをしてやっと叶ったことだった。

「よし、いつでもかかっておいで。君の武器は練習用じゃなくていいのかい?」

「はい。俺、これじゃないと落ち着かなくて」

そう言って木刀を構えるカイさんに微笑んで、腰につけたナイフの柄を軽く叩いた。
ちらりと庭の隅を見ると、ミカゲが立って見守っていた。
俺に何かあったら、いつでも駆け寄れるように。

俺はナイフを手に取った。久しぶりの運動だ。
しかも、実戦形式だから凄くわくわくした。
戦いの中で、俺の身体はいつも通り自然に動いた。
故郷の森で獲物を仕留めていた時と同じ感覚。
相手の動きをよく見て、最短距離で、隙を突くように。

――手応えはあった。
少しだけど、自分に自信が持てたような気がした。
だけど、カイさんが目を見開いてこう言ってきたんだ。

「驚いた。君、どこでそんな技術を覚えたんだ?」

俺は戸惑った。何でそんなこと聞くんだろうって。
よく見たら、カイさんの顔色が少し悪そうに見えた。

――すると、周りから話し声が聞こえてきた。
さっきの手合わせの様子を見ていたのだろう。
誰もが俺を見て囁きあっていた。

「あの子、どこかの民族の子?」
「子供の動きじゃないよね……」
「……末恐ろしいな」

最初は、なんのことだか分からなかった。
でも、何度か手合わせを繰り返すうちに気づいたんだ。
俺の当たり前は、他の人にとっては普通じゃないんだって。

そう思ったら、胸の内側がスッと冷えていく感じがした。
この感覚は覚えていた。これは……駄目なやつだ。

「……大丈夫」

故郷では、これが普通だった。
小さい頃から、生きるためにそうしてきただけ。
――そう。俺はちょっとだけ、他の人と違うだけ。

そう自分に言い聞かせるように、何度も何度も呟きながら、俺はナイフをそっと握りしめた。
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