【リクトの日記】
ある夜のことだ。
急に胸の奥がざわついて、目が覚めてしまう日があった。
気づいたら、あの時の光景が何度も脳裏に浮かんできて――消えない。
赤く燃える村、悲痛な叫び声、嗤うような魔物たちの目。
俺は今、ここにいるのに、心はあの夜に引き戻されていた。
身体が、勝手に震える。
寒いのか、怖いのか、自分でもわからない。
痛みは感じないのに、息が詰まって、苦しくなって――何度も吐き気がこみ上げた。
「大丈夫、大丈夫、俺は生きてる……」
そう何度も繰り返して、自分に言い聞かせる。
それだけが、俺を『俺』でいさせてくれる呪文だった。
気がつくと俺は、診療室のベッドの上にいた。
視界がぼやける中、先生の顔が覗き込んできて「大丈夫かい?」と、優しく声をかけられた。
俺は、先生に向かって笑って返した。
「うん、大丈夫だよ」って。
先生は少し笑って、「そうか」と言ってくれた。
その一言だけで、少しだけ心がほぐれた。
誰かが笑ってくれるなら、それでいい。
俺は大丈夫なんだって、そう思いたかった。
先生の隣に目をやると、ミカゲがいた。
ずっと泣いていたのだろうか。目が真っ赤だった。
俺を見る度、涙を溢れさせては何度も手で拭っていた。
「もう泣くなよ」って、俺は笑った。
それなのに、ミカゲは少し苦しそうに俺を見てきた。
「嘘をつくな」って、そんな顔で。
……おかしいな。
先生は笑ってくれたのに。俺が“ちゃんと笑った”のに。
俺が笑えば、ミカゲもきっと安心してくれると思ったのに。
――どうしたら……どうしたら、ミカゲは俺に笑いかけてくれるんだろう?