【プチ小話】


「……ん、ねみぃ」

ノアは朝がからっきしダメだ。
昨夜も遅くまで依頼書の確認と道具の整理に追われ、ようやく眠れたと思ったところで、カーテンの隙間から差し込む日差しが容赦なく目を刺す。

彼は眉をしかめて寝返りを打つ。
――が、その先にあったのは、ベッド脇で彼を覗き込んでいる“例の顔”。

「あ、起きた。おはよう~、ノア」

満面の笑みと共に、マシロは猫耳をぴこぴこと動かしながら挨拶してきた。
尻尾もゆらゆらと、ご機嫌なリズムを刻む。

「んふふー、今日もノアの寝顔、可愛いね~」

「」(理性ゲージがゴリゴリ削れていく音。)

本日は晴天なり。雨雲などあるはずもないのに、シェアハウスの一室に雷鳴が轟く。

「お前、また人の部屋に勝手に入って――!!」

「わー! ノア、ごめんってー!」

マシロはけたたましく笑いながら、身を翻して逃走。
数秒後、部屋からはピリピリと雷気をまとったノアがゆっくりと現れる。

「今日こそ……捻る」

――こうして、毎朝恒例の追いかけっこが幕を開けた。


◇◇◇


【マシロ逃走中】

「んふふー、ノアの寝顔は朝にしか見れない激レアなんだからね~。次はもっとびっくりさせてやろ~っと♪」

ルンルン気分でシェアハウス内を駆け巡るマシロ。
彼は一階へと続く階段の手すりにひょいっと飛び乗り、滑り台のように滑り降り――そのまま華麗に着地!
……するはずだった。

「むぎゅっ!」

――顔面、キャッチ。

「捕まえた」

「ぎゃあああああ!!」

顔を鷲掴みにしたノアの手の隙間から、鋭い金色の瞳がこちらを睨んでいる。
どこにそんな力があるのか、小柄なその手には容赦のない力がこもっていた。

「いだだだだだ! ちょ、なんで!? 上手く撒けたと思ったのに!」

「お前の逃走ルートなんざ、全部把握してんだよ」

言葉と同時に、再び室内に雷鳴が轟いた。
直後、床に横たわるのは、煙をまといながらちりちりと焦げたマシロ。
ノアは無言のまま、その襟を掴んでずるずるとリビングへ引きずっていった。


◇◇◇


【リビング】

「おはよう。今日はどっちが勝ったんだ?」

荷物をまとめていたリクトが笑いながら尋ねる。

「俺」

「……全く。朝くらい静かにできないんですかね」

ミカゲが溜め息まじりにコーヒーを啜る。

「二人とも、朝ごはんは何がいいかしら?」

キッチンから顔を出したエルトマが優しく微笑む。

「甘くないやつ。あと、こいつ飯抜き」

「そんなー!?」

――今日もシェアハウスは、平和です。
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