【リクトの日記】
あれは、俺がまだ10歳の時のことだ。
――俺の故郷はあの日、一体の魔物によって壊滅した。
そこは、山奥にある小さな村だった。
昔から魔物がよく入り込むような場所だったから、年齢も性別も関係なく、村人全員が自衛の術を持っていた。
誰もが武器を持って、助け合いながら生きていた。
それが俺たちの“日常”だった。
俺たちは、長い間そうやって村を守ってきたんだ。
けど、その夜――あっけなく全てが崩れた。
それは、今まで見たことのない凶暴な魔物だった。
地響きのような咆哮と共に現れたそいつは、周辺にいた多くの魔物を呼び寄せ、村を襲った。
俺たちは立ち向かった。仲間たちを、家族を守る為に。
だけど、圧倒的な力の差を前に俺たちは為す術もなかった。
赤く燃え広がる炎と、地面に倒れて動かない仲間たち。
それを目の当たりにした俺は、ただ怖くて、怖くて仕方がなかった。
俺は、村の大人に手を引かれ、何もできないまま逃げた。
言われるがままに隠れて、必死に息を殺した。
その途中で受けた傷が酷く痛くて、焼けるみたいに熱くて。
泣いちゃ駄目だと思っても、勝手に涙が出てきた。
魔物のうなり声が近づくたび、喉がつかえて、呼吸が苦しくなって、震えが止まらなかった。
少しでも自分を落ち着かせたくて、安心させたくて、何度も自分の口癖を口にした。
「大丈夫……大丈夫……大丈夫……」
でも、本当は――全然、大丈夫なんかじゃなかったんだ。
翌朝。俺は治癒師の人たちに保護された。
村の家屋は焼かれ、煤と焦げ臭さを纏わせたまま入り口で倒れていた俺を、一人の治癒師の人が抱きかかえて、「大丈夫かい?」って優しく声をかけてくれた。
その声に反応しようと、ゆっくりと顔を上げたとき、違和感に気づいた。
――身体が、痛くない。
「酷い怪我だ。痛かっただろう? すぐに治してあげるからね」と、治癒師の人の言葉に俺は――無意識に返していた。
「大丈夫、全然痛くないから」って。
――不思議な感覚だった。
あれだけ熱くて、痛くて涙が止まらなかったはずなのに。
まるで、何事もなかったかのように自然に立ち上がる俺の様子を見て、周りにいた治癒師の人たちが凄く驚いた顔をしていたのを今でも覚えている。
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