祭りは楽しんだ者勝ち
あなたの名前は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※注意
この話は長編「めぐりめぐって」と地続きとなっている短編になります。
トビと主人公が割と打ち解けて(?)いる、未来の時間軸の設定です。
──────────────────────────
「今日はハロウィンですよ、トビさん!」
突然トビの部屋に訪れた名前がキラキラと瞳を輝かせてそう宣言したのは、とある平日の午前6時だった。
つまり明朝。トビが起きていたから良いものの、起きていなければそこそこ迷惑な来訪だ。
とはいえ、名前の突飛な行動は今に始まったことではないので驚きはなかった。呆れはするが。
いつにも増して遠慮のない行動に頭が痛むような錯覚を得るも、トビは仕方なく「何なんだ、それは」と問い返した。
名前はぱちぱちと目を瞬かせて、心底驚いたような面持ちで首を傾げる。
「ハロウィンをご存知ない?」
「だから何なんだ、そのハロウィンというのは。口振りからして何かの記念日か?」
「えーと、なんかお菓子寄越せって言ったりイタズラしたり仮装して大はしゃぎできるお祭りみたいな日です、多分?」
「何故そのあやふやさでオレに教えられると思ったんだ……」
まだ出会ったばかりの頃のほうが賢かったのではないかとトビが疑うほど、名前の説明は要領を得なかった。
しかし名前自身もそれは自覚しているらしく、うーんと悩ましげに呻く。
「いや、本当はそういうお祭りじゃないんですよね。遠い国のお盆のようなお祭りが、時間の流れとか文化間移動とかでかなり変化して、この国では純粋なイベント事として楽しまれるようになっちゃったんです」
打って変わって真面目につらつらと説明しだすため、トビは大人しく聞く姿勢を取った。
ハロウィンでは、トリックオアトリートっていう、お菓子をくれないとイタズラしますよって意味の合言葉があるんです。これを言われたらお菓子をあげるのが定番です。
元がお盆みたいなお祭りだから、死にまつわるものとか怪しげなものとかに仮装するのも最近だと一般的です。流石に大人はイベント会場とか街中とかでしかしませんけど。
いつになくテンションが上がっているのか、名前の声は弾んでいた。
「……という感じで、この国のイベント好き精神が発揮された結果のお祭りです! ご理解頂けました?」
「理解はした、が……結局、何故オレにそれを伝えに来た」
「え? トリックオアトリート」
「正気か?」
つい素の声が出そうになるほど、トビは困惑していた。
対する名前は変わらずニコニコしており、尚更彼は呆れの念を強めた。
先述の通り、名前の突飛な行動には慣れてきてはいた。
しかし己のような人間にここまでフランクに接してくるのは想定外で当然だろうとトビは思う。
数年前の彼女ならば、トビに話しかけることすら酷く緊張していた筈だ。だがいつの間にか遠慮も恐れもなくなり、人好きのする笑顔を浮かべて彼の名前を呼ぶようになっていた。
ここまで信用されるのは居心地が悪い。
口を開こうとしないトビの心中など想像もしていないのか、名前はトビを不思議そうに見やる。
しかし先程の頭の痛くなりそうな合言葉とやらを彼女が口にしたのは確かだし、手のひらを向けて催促する姿勢は変わらない。
この信用は舐められているだけではないかと懸念を抱きそうになるが、抱いたところでどうにもならないかと割り切り、トビはため息を吐く。
「……オレが菓子なんぞ持っていると思うか?」
「はい! なんか団子とか持ってそうですよね」
何故生菓子をチョイスしたのかと問い詰めたい衝動に駆られるも、名前のペースに飲まれかけていることにトビは気がつき黙り込んだ。
「でも、その口振りだと何も持ってらっしゃらないんですか?」
当然だと首肯すれば、名前は「えー!」とそれは残念そうに嘆き、困ったように眉尻を下げた。
「異世界のお菓子を食べられると思ってたんですが……」
「……まさかとは思うが、その為だけにこんな時間から押しかけたのか」
「だってこれから学校ですし、今日補習あるから帰るの夜くらいになっちゃうんですもん。それにトビさん、だいたいこの時間には起きてるって前言ってたじゃないですか」
だからといって事前連絡もなく押しかけるのはマナーとしてどうなんだと彼は問いたくなったが、自分が言えたことではないと気がつき、口を噤んだ。
今まで自分が名前に対してしてきた脅しや扱いを思い返せば、自分がマナーやモラルなどと口出しして良いわけがない。
黙ったトビを良いことに、名前はにっこり笑って「仕方ないですね」と呟いた。
「では、トリックですね。つまりイタズラです」
「……オレにか?」
「ええ。正直しばかれないか不安で泣きそうですがここまできたら完遂します」
「そんな身体を張ってまでする意味はあるのか……」
何が彼女をそこまで駆り立てるのかわからないが、先程やめろと言えなかった自分が悪い。
内容によっては後で締め上げればいいだけだとかなり名前が怖がりそうな考えを浮かべながらも、彼女の行動を静かに待つ。
「それじゃ、目を閉じて手を出してください」
「断る」
「断らないでくださいよここまできたら!!
大丈夫ですって、そんな……多分……きっと……怒らせるようなものじゃないですし!!」
「断言できない時点でロクでもないだろう」
「いや私がビビってるだけで割と良心的な筈です。寧ろイタズラガチ勢からカマトトぶってんじゃねーよとキレられるくらいです」
「わけがわからん」
とはいえ、こうなれば名前がしつこいのは目に見えていた。
仕方なく片手を差し出してやれば、疑わしげな声で「目閉じてます?」と尋ねてくる。
当然閉じていないトビは呆れ気味に返す。
「どの道お前からしたらオレが閉じているかなんぞわからんだろう。さっさとしろ」
「む、それはそうなんですけど……常に写輪眼だったら良いのになー、派手だから目開いてるかわかりやすいし」
一般的なうちは一族の人間が聞けば卒倒しそうな不躾な台詞を吐きながらも、名前は視界の確認を諦めたらしい。
制服のスカートに手を突っ込み、ごそごそと漁りだす。
何を出す気かとトビは訝しむが、彼女が取り出したのはなんてことはない、カラフルな包装紙に包まれた丸い何かだった。
それを彼の掌の上に数個置くと、「はい、目開けて良いですよー」と気の抜ける声を発する。
開いたままだった彼の瞳は、やはり何らかの菓子らしきものが自分の手のひらに乗っている様を映していた。
「……飴か?」
「残念、チョコでーす。あ、今更ですけどチョコって食べられます?」
食べられないことはないが、食べる意味もない。
そう言いたかったが、これまで再三自分が食物を必要としないと彼女に言ってきた事実を思い出す。
その上で押し付けてきたのだから何を言っても無駄かと諦め、彼はただ「問題ない」と答えた。
「ね、そんな悪趣味なイタズラじゃなかったでしょ?」
「お前が人の話を聞かないことを除けばな」
「あはは、ですね。
それカカオ95%だから結構苦いですよ。食べる時はお気をつけて。
それじゃ、そろそろお暇しますね」
名前は何気ない様子でそう言うと扉のノブに手をかける。
それが意外だったのか、何とも言えない雰囲気でチョコレートを眺めていたトビは怪訝そうに名前を見やった。
「それを明かして悪戯になるのか」
「ありゃ、トビさんってば順応お早いですね?
……まあ、お付き合い下さったお礼です。結構美味しいんですよ、それ。
イタズラじゃなくて、ただのトリートの押し付けになっちゃいましたね」
「私のおすすめのお菓子なのでちゃんと食べてくださいね!」と念押しして、名前は扉を開ける。
その様子をトビはやや神妙な心地で眺めていた。
何だかんだ、彼女は他者への気遣いを忘れない人間だ。今回のこれも、彼女なりに忙しないトビを気遣った結果かもしれない。
しかし、自分のような人間に心を砕くとは。トビは何度目かわからない呆れを抱いた。
そう思うことすら、自分が名前に対して絆されていることを痛感させられ、以前は苦々しかったのだが──ここまで無遠慮に距離を詰められると、いちいち気を張るのが馬鹿らしくなってしまった。
「今度来る時は、そっちの世界のお菓子とか持ってきてくださいね〜」
「本当に厚かましくなったな、お前は」
……いや、もしかすると、やはり単に舐められているだけなのかもしれないが。
──────────────────────────
アニオリの団子を食べるトビとデイダラの話が好きです。
せめて本編を同じ時間まで進ませてからやるべきだとは思ってたんですが、どうしても我慢できませんでした。
まあトビと打ち解けるということ以外ネタバレになるようなこと書いてないし良いでしょう。許して。
未来の時間軸とはしましたが、IFくらいに考えて頂けると幸いです。本編であるかもしれないしないかもしれないくらいの話の予定です。
この話は長編「めぐりめぐって」と地続きとなっている短編になります。
トビと主人公が割と打ち解けて(?)いる、未来の時間軸の設定です。
──────────────────────────
「今日はハロウィンですよ、トビさん!」
突然トビの部屋に訪れた名前がキラキラと瞳を輝かせてそう宣言したのは、とある平日の午前6時だった。
つまり明朝。トビが起きていたから良いものの、起きていなければそこそこ迷惑な来訪だ。
とはいえ、名前の突飛な行動は今に始まったことではないので驚きはなかった。呆れはするが。
いつにも増して遠慮のない行動に頭が痛むような錯覚を得るも、トビは仕方なく「何なんだ、それは」と問い返した。
名前はぱちぱちと目を瞬かせて、心底驚いたような面持ちで首を傾げる。
「ハロウィンをご存知ない?」
「だから何なんだ、そのハロウィンというのは。口振りからして何かの記念日か?」
「えーと、なんかお菓子寄越せって言ったりイタズラしたり仮装して大はしゃぎできるお祭りみたいな日です、多分?」
「何故そのあやふやさでオレに教えられると思ったんだ……」
まだ出会ったばかりの頃のほうが賢かったのではないかとトビが疑うほど、名前の説明は要領を得なかった。
しかし名前自身もそれは自覚しているらしく、うーんと悩ましげに呻く。
「いや、本当はそういうお祭りじゃないんですよね。遠い国のお盆のようなお祭りが、時間の流れとか文化間移動とかでかなり変化して、この国では純粋なイベント事として楽しまれるようになっちゃったんです」
打って変わって真面目につらつらと説明しだすため、トビは大人しく聞く姿勢を取った。
ハロウィンでは、トリックオアトリートっていう、お菓子をくれないとイタズラしますよって意味の合言葉があるんです。これを言われたらお菓子をあげるのが定番です。
元がお盆みたいなお祭りだから、死にまつわるものとか怪しげなものとかに仮装するのも最近だと一般的です。流石に大人はイベント会場とか街中とかでしかしませんけど。
いつになくテンションが上がっているのか、名前の声は弾んでいた。
「……という感じで、この国のイベント好き精神が発揮された結果のお祭りです! ご理解頂けました?」
「理解はした、が……結局、何故オレにそれを伝えに来た」
「え? トリックオアトリート」
「正気か?」
つい素の声が出そうになるほど、トビは困惑していた。
対する名前は変わらずニコニコしており、尚更彼は呆れの念を強めた。
先述の通り、名前の突飛な行動には慣れてきてはいた。
しかし己のような人間にここまでフランクに接してくるのは想定外で当然だろうとトビは思う。
数年前の彼女ならば、トビに話しかけることすら酷く緊張していた筈だ。だがいつの間にか遠慮も恐れもなくなり、人好きのする笑顔を浮かべて彼の名前を呼ぶようになっていた。
ここまで信用されるのは居心地が悪い。
口を開こうとしないトビの心中など想像もしていないのか、名前はトビを不思議そうに見やる。
しかし先程の頭の痛くなりそうな合言葉とやらを彼女が口にしたのは確かだし、手のひらを向けて催促する姿勢は変わらない。
この信用は舐められているだけではないかと懸念を抱きそうになるが、抱いたところでどうにもならないかと割り切り、トビはため息を吐く。
「……オレが菓子なんぞ持っていると思うか?」
「はい! なんか団子とか持ってそうですよね」
何故生菓子をチョイスしたのかと問い詰めたい衝動に駆られるも、名前のペースに飲まれかけていることにトビは気がつき黙り込んだ。
「でも、その口振りだと何も持ってらっしゃらないんですか?」
当然だと首肯すれば、名前は「えー!」とそれは残念そうに嘆き、困ったように眉尻を下げた。
「異世界のお菓子を食べられると思ってたんですが……」
「……まさかとは思うが、その為だけにこんな時間から押しかけたのか」
「だってこれから学校ですし、今日補習あるから帰るの夜くらいになっちゃうんですもん。それにトビさん、だいたいこの時間には起きてるって前言ってたじゃないですか」
だからといって事前連絡もなく押しかけるのはマナーとしてどうなんだと彼は問いたくなったが、自分が言えたことではないと気がつき、口を噤んだ。
今まで自分が名前に対してしてきた脅しや扱いを思い返せば、自分がマナーやモラルなどと口出しして良いわけがない。
黙ったトビを良いことに、名前はにっこり笑って「仕方ないですね」と呟いた。
「では、トリックですね。つまりイタズラです」
「……オレにか?」
「ええ。正直しばかれないか不安で泣きそうですがここまできたら完遂します」
「そんな身体を張ってまでする意味はあるのか……」
何が彼女をそこまで駆り立てるのかわからないが、先程やめろと言えなかった自分が悪い。
内容によっては後で締め上げればいいだけだとかなり名前が怖がりそうな考えを浮かべながらも、彼女の行動を静かに待つ。
「それじゃ、目を閉じて手を出してください」
「断る」
「断らないでくださいよここまできたら!!
大丈夫ですって、そんな……多分……きっと……怒らせるようなものじゃないですし!!」
「断言できない時点でロクでもないだろう」
「いや私がビビってるだけで割と良心的な筈です。寧ろイタズラガチ勢からカマトトぶってんじゃねーよとキレられるくらいです」
「わけがわからん」
とはいえ、こうなれば名前がしつこいのは目に見えていた。
仕方なく片手を差し出してやれば、疑わしげな声で「目閉じてます?」と尋ねてくる。
当然閉じていないトビは呆れ気味に返す。
「どの道お前からしたらオレが閉じているかなんぞわからんだろう。さっさとしろ」
「む、それはそうなんですけど……常に写輪眼だったら良いのになー、派手だから目開いてるかわかりやすいし」
一般的なうちは一族の人間が聞けば卒倒しそうな不躾な台詞を吐きながらも、名前は視界の確認を諦めたらしい。
制服のスカートに手を突っ込み、ごそごそと漁りだす。
何を出す気かとトビは訝しむが、彼女が取り出したのはなんてことはない、カラフルな包装紙に包まれた丸い何かだった。
それを彼の掌の上に数個置くと、「はい、目開けて良いですよー」と気の抜ける声を発する。
開いたままだった彼の瞳は、やはり何らかの菓子らしきものが自分の手のひらに乗っている様を映していた。
「……飴か?」
「残念、チョコでーす。あ、今更ですけどチョコって食べられます?」
食べられないことはないが、食べる意味もない。
そう言いたかったが、これまで再三自分が食物を必要としないと彼女に言ってきた事実を思い出す。
その上で押し付けてきたのだから何を言っても無駄かと諦め、彼はただ「問題ない」と答えた。
「ね、そんな悪趣味なイタズラじゃなかったでしょ?」
「お前が人の話を聞かないことを除けばな」
「あはは、ですね。
それカカオ95%だから結構苦いですよ。食べる時はお気をつけて。
それじゃ、そろそろお暇しますね」
名前は何気ない様子でそう言うと扉のノブに手をかける。
それが意外だったのか、何とも言えない雰囲気でチョコレートを眺めていたトビは怪訝そうに名前を見やった。
「それを明かして悪戯になるのか」
「ありゃ、トビさんってば順応お早いですね?
……まあ、お付き合い下さったお礼です。結構美味しいんですよ、それ。
イタズラじゃなくて、ただのトリートの押し付けになっちゃいましたね」
「私のおすすめのお菓子なのでちゃんと食べてくださいね!」と念押しして、名前は扉を開ける。
その様子をトビはやや神妙な心地で眺めていた。
何だかんだ、彼女は他者への気遣いを忘れない人間だ。今回のこれも、彼女なりに忙しないトビを気遣った結果かもしれない。
しかし、自分のような人間に心を砕くとは。トビは何度目かわからない呆れを抱いた。
そう思うことすら、自分が名前に対して絆されていることを痛感させられ、以前は苦々しかったのだが──ここまで無遠慮に距離を詰められると、いちいち気を張るのが馬鹿らしくなってしまった。
「今度来る時は、そっちの世界のお菓子とか持ってきてくださいね〜」
「本当に厚かましくなったな、お前は」
……いや、もしかすると、やはり単に舐められているだけなのかもしれないが。
──────────────────────────
アニオリの団子を食べるトビとデイダラの話が好きです。
せめて本編を同じ時間まで進ませてからやるべきだとは思ってたんですが、どうしても我慢できませんでした。
まあトビと打ち解けるということ以外ネタバレになるようなこと書いてないし良いでしょう。許して。
未来の時間軸とはしましたが、IFくらいに考えて頂けると幸いです。本編であるかもしれないしないかもしれないくらいの話の予定です。
1/1ページ