2話 無明と無名
あなたの名前は?
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うちはオビトに軽くこの世界のことを説明することになった私は、まず日本の特徴とその治安維持組織、運営についてなどを簡単に話した。
とりわけ面白いことは話せなかったが、一つ註釈をつけるとすれば、この国の治安維持組織はかなり強力で、集団としての力を上手く利用する優秀な組織だ、と誇張しておいたことくらいか。
こうする事で、うちはオビトが多少はこの世界での行動を弁えてくれないかと願ったのである。
あくまで願っただけだし、言った自分自身ですら効果は無い気がしたが。
そしてこちらの話は終わったため、奴の状況について簡単に話してもらうことにした。
特に興味はなかったが(というか、聞くのは聞くで恐ろしかった)、ここで聞かないのは不自然だろうと思えたから。
うちはオビトは一応話してくれたものの、本当に素っ気ない説明だった。同時にわかりやすくもあった。
「えーっと……つまり貴方は忍者で、異世界から来たということでしょうか?」
「そういうことだ。
──だが、意外だな。忍者は知っているのか」
少し、否、かなり疑わしげな声に、私は泣きそうになった。
が、なんとか堪えて、できるだけ落ち着いた声で答える。
「はい、忍者は結構有名です。日本でも5、600年くらい前まではいたそうですから。
……ただ、超能力が使えたなんて聞いたことはないので、違う存在だと思います」
うちはオビトは納得したでも疑い続けるでもなく、そうか、と呟いた。
がっかりした風にも見えないことにはないが、言及する度胸はなかったので、話を変えることにした。
「それにしても、異世界……まあ確かに、さっき私も勝手に口動いたし、少なくとも超能力はある訳ですよね……」
ある程度疑問を持ってますよアピールをする。いくら実際に幻術をかけられたといえど、何も疑わないのも不自然な気がした。
さて、演技は火事場の馬鹿力でそこそこ上手くやった。今のところカンペキ……だといいなあ。
中学生の全力なんて、忍者のこいつからしたら大したものではないのかもしれないが。
うーん、と悩むふりをしていると、うちはオビトが微かにふらついているのに気がついた。
そういやこいつ、人を殺すような真似したとはいえ普通に重病(?)だったな。
「あっ! 立たせたままですみませんっ……どうぞ、座ってください」
クッションを差し出し座るように促すが、うちはオビトは動かなかった。
「別に良い。貴様の気にすることではない」
「いえ、心配ですし……また倒られなさったら、看病とかしなきゃって、なります、し……」
ちょっと威圧的すぎて怖い。言葉が尻すぼみになってしまった。
でも座ってほしいのは事実だ。水はもう温くなってしまったからまた新しいのを入れなくちゃいけないし、何だかんだ心配だし、立たれてても怖いし。
そんな私の心情など慮ることもなく、うちはオビトは鼻を鳴らし、冷たく吐き捨てた。
「余計なことはするなと言っている」
「っ……そう、ですか……すいません……」
我ながら哀れになるほどしみったれた謝罪の声だ。
……ああ、本当に嫌な奴。もう少し人を思いやるということを知ってほしい。引きこもりなんて厚顔な真似してるガキだけど、私は繊細なんだぞ。
まあ第一印象が最悪だろうし、仕方がないかもしれないけど。
でも見下ろされるのは怖いし嫌です! そんなに威圧的だと、話すことも話せないでしょうが!
しかしそれを言うことはできず、私はただ頷くことしか出来なかった。
…………ん?
「あーーーーーーっ!?」
「五月蝿い、騒ぐな」
「す、すいません」
怖すぎだろ本当勘弁してくれ。まあ、私が騒がしくしたせいだし仕方ないか。
それにしても機嫌滅茶苦茶悪いんだな。熱のある人間に言うべき事ではないが、八つ当たり気味な態度が鼻に付く。
ああもうこいつ人を脅すわ苛つかせるわで腹立つことこの上ない。そんなに辛いなら休んでくれ私のためにも。
ってそうじゃない!!
すっごく大事なことを忘れていた! なんでこんな重要なこと聞くの忘れてたんだ私!?
自分の馬鹿さ加減に呆れてしまうけど、今は先に言うべきことがある。
「あ、あの! 貴方は自分の世界に帰ることが出来るんですかっ?」
「それが出来たら貴様に説明などしていなかっただろうな」
「で、ですよね……」
予感的中、気分は最悪だ。
これから起こるであろうイベントに、私は泣きたくなった。
「えっと、じゃあ……貴方は住むところがないんです、よね……」
「住むところは不要だが……」
うちはオビトは言い淀む。それも無理はないだろう。
こいつにとってこの世界は未知数だ。情報が少なすぎる。しかも私が軽く誇張して話したし、少なからず警戒もしているだろう。
何より、今のこいつは弱っている。敵との交戦なんぞ以ての外、強がってはいても野宿なんぞしたら危険なはず。
そして私も、こんな危険人物を世間に放つような真似は恐ろしい。
勿論近くにいるのも死ぬほど嫌だけど、どこにあるのかわからない爆弾に恐れを抱き続けるよりは、まだ目につくところに不安の種があるほうが多少は安心できる。
要するに、だ。
うちはオビトを、ここに、住まわせてやらなければならnくぁwせdrftgyふじこlp
うーん、現実が受け入れられない!
苗字さんは現実逃避に関しては引きこもり故一流ですがここまで非現実的となるとそうもいかないんですよねこれが!
いや、ふざけたことを考えている場合じゃないぞ、私。
こほん、と小さく咳払いをして気を取り直し、うちはオビトに問いかけた。
「あの、良ければうちを拠点にしませんか? 家族はいますが、説得できないことはない、と思うので」
というか、説得できないと私が困る。
誰がS級犯罪者かつラスボス候補を野放しにできますかってんだ。
「……貴様、オレに殺されかけてよくそんなことが言えるな」
酷く訝しげな声だ。
いや本当ごもっともですね、とは言えず。
「そ、そうですけど……流石にそんなこと言ってる場合でもないですし。まだ帰る方法も見つけてらっしゃらないなら、拠点とかないと大変なのかなって……」
こいつが不審人物として警察に職質でもされたらどうなることか。
いや、仮に見つからずに潜伏できていたとしても、バレなければOK理論でヤバい犯罪とかしそうだし、こいつ。
何より、こいつが私の家から出てきたなんて目撃情報が出たら、私は死ぬ覚悟がある。
人の目は何処にでもある。特に今時の日本なんて監視社会になりつつある。恐ろしいこと限りない。
「貴方を追い出すのは、いろんな意味で不安になってしまいます、から。
さっきも言いましたが、警察──治安維持組織がパトロールとかしてますし……結構、危険な武器を持ってるので」
「……」
「私は、まあ……揉め事とか危ない事が嫌です。
だから、私の家で静かに帰る方法を見つけてくださったら嬉しいなー、と」
息苦しいくらいの沈黙が訪れる。
暁のコートに身を包んでいる以上、こいつはトビとして暗躍している時期のはず。
つまり、如何に非道な手段をとってでも自分の世界に帰らねばならないはずだ。
なんせこの時のうちはオビトは、月の眼計画とやらを為すためだけに行動しているのだから。
「…………貴様の、」
「!! はい、なんですか?」
しばらくだんまりを貫くも、やおら口を開いたうちはオビトは、少し試すような口調で問うてきた。
「貴様の家族は、信用に足る者たちか?」
あの人たちが信用出来るか……そんなのお前次第に決まってんだろと言いたいが、そこはぐっと堪えて。
「大丈夫だと思います。多分、私なんかより凄く合理的な筈です。みんな私より年上ですし」
「……そうか」
自分でも驚くほどすんなりと告げることができた。
奴も虚偽はないと感じたのか、短い返事をした後思案げに黙り込む。やはりまだどう行動すべきかを悩み倦ねているようだ。
そして少しの間を置き、うちはオビトは答えを出した。
「では、頼む」
「っ!? わかりました!」
「少しでも怪しい行動をとれば……分かっているな」
「は、はい! 勿論です!」
まさか「頼む」なんて丁寧な物言いをされるとは思わなかった。
ただまあ、すぐその後に脅されたけれども。
……うん、正直、少し予想外で驚いた。黒幕とはいえ、流石にこんな場面で上から目線ではないのか。
まあ、そんなのはどうでもいいが。
さて、これで話は大体終わった。後は私の家族にどう話すかを適当に決めればいいか。
……ああ、いや。
まだ、一番聞くべきことを忘れていた。
念のため、警戒されないようにゆっくりと立ち上がり、うちはオビトに向き直る。
立ち上がっても尚、私の身長は奴の胸の辺りくらいまでにしか届かなくて、自然と見下ろされる形になった。
「あ、あの。私は苗字名前といいます。貴方は、何とお呼びすれば?」
「……呼び名、か」
呼び名って、名前と違って中二臭い言い方だなあ。まあ、こいつの場合仕方がないのか。
僅かに思案するような間の後、奴は変わらず平坦な声で答えた。
「オレの名はトビだ。姓は無い」
誰でもない男の名前は、やっぱり誰でもなかった。
──────────────────────
もし面を外したまま部屋を出て看病に戻ってきていたら、殺されはしなくても(いや殺されるかもしれないが)この話より更にハードモードな流れになっていたかもしれません(2敗)
とりわけ面白いことは話せなかったが、一つ註釈をつけるとすれば、この国の治安維持組織はかなり強力で、集団としての力を上手く利用する優秀な組織だ、と誇張しておいたことくらいか。
こうする事で、うちはオビトが多少はこの世界での行動を弁えてくれないかと願ったのである。
あくまで願っただけだし、言った自分自身ですら効果は無い気がしたが。
そしてこちらの話は終わったため、奴の状況について簡単に話してもらうことにした。
特に興味はなかったが(というか、聞くのは聞くで恐ろしかった)、ここで聞かないのは不自然だろうと思えたから。
うちはオビトは一応話してくれたものの、本当に素っ気ない説明だった。同時にわかりやすくもあった。
「えーっと……つまり貴方は忍者で、異世界から来たということでしょうか?」
「そういうことだ。
──だが、意外だな。忍者は知っているのか」
少し、否、かなり疑わしげな声に、私は泣きそうになった。
が、なんとか堪えて、できるだけ落ち着いた声で答える。
「はい、忍者は結構有名です。日本でも5、600年くらい前まではいたそうですから。
……ただ、超能力が使えたなんて聞いたことはないので、違う存在だと思います」
うちはオビトは納得したでも疑い続けるでもなく、そうか、と呟いた。
がっかりした風にも見えないことにはないが、言及する度胸はなかったので、話を変えることにした。
「それにしても、異世界……まあ確かに、さっき私も勝手に口動いたし、少なくとも超能力はある訳ですよね……」
ある程度疑問を持ってますよアピールをする。いくら実際に幻術をかけられたといえど、何も疑わないのも不自然な気がした。
さて、演技は火事場の馬鹿力でそこそこ上手くやった。今のところカンペキ……だといいなあ。
中学生の全力なんて、忍者のこいつからしたら大したものではないのかもしれないが。
うーん、と悩むふりをしていると、うちはオビトが微かにふらついているのに気がついた。
そういやこいつ、人を殺すような真似したとはいえ普通に重病(?)だったな。
「あっ! 立たせたままですみませんっ……どうぞ、座ってください」
クッションを差し出し座るように促すが、うちはオビトは動かなかった。
「別に良い。貴様の気にすることではない」
「いえ、心配ですし……また倒られなさったら、看病とかしなきゃって、なります、し……」
ちょっと威圧的すぎて怖い。言葉が尻すぼみになってしまった。
でも座ってほしいのは事実だ。水はもう温くなってしまったからまた新しいのを入れなくちゃいけないし、何だかんだ心配だし、立たれてても怖いし。
そんな私の心情など慮ることもなく、うちはオビトは鼻を鳴らし、冷たく吐き捨てた。
「余計なことはするなと言っている」
「っ……そう、ですか……すいません……」
我ながら哀れになるほどしみったれた謝罪の声だ。
……ああ、本当に嫌な奴。もう少し人を思いやるということを知ってほしい。引きこもりなんて厚顔な真似してるガキだけど、私は繊細なんだぞ。
まあ第一印象が最悪だろうし、仕方がないかもしれないけど。
でも見下ろされるのは怖いし嫌です! そんなに威圧的だと、話すことも話せないでしょうが!
しかしそれを言うことはできず、私はただ頷くことしか出来なかった。
…………ん?
「あーーーーーーっ!?」
「五月蝿い、騒ぐな」
「す、すいません」
怖すぎだろ本当勘弁してくれ。まあ、私が騒がしくしたせいだし仕方ないか。
それにしても機嫌滅茶苦茶悪いんだな。熱のある人間に言うべき事ではないが、八つ当たり気味な態度が鼻に付く。
ああもうこいつ人を脅すわ苛つかせるわで腹立つことこの上ない。そんなに辛いなら休んでくれ私のためにも。
ってそうじゃない!!
すっごく大事なことを忘れていた! なんでこんな重要なこと聞くの忘れてたんだ私!?
自分の馬鹿さ加減に呆れてしまうけど、今は先に言うべきことがある。
「あ、あの! 貴方は自分の世界に帰ることが出来るんですかっ?」
「それが出来たら貴様に説明などしていなかっただろうな」
「で、ですよね……」
予感的中、気分は最悪だ。
これから起こるであろうイベントに、私は泣きたくなった。
「えっと、じゃあ……貴方は住むところがないんです、よね……」
「住むところは不要だが……」
うちはオビトは言い淀む。それも無理はないだろう。
こいつにとってこの世界は未知数だ。情報が少なすぎる。しかも私が軽く誇張して話したし、少なからず警戒もしているだろう。
何より、今のこいつは弱っている。敵との交戦なんぞ以ての外、強がってはいても野宿なんぞしたら危険なはず。
そして私も、こんな危険人物を世間に放つような真似は恐ろしい。
勿論近くにいるのも死ぬほど嫌だけど、どこにあるのかわからない爆弾に恐れを抱き続けるよりは、まだ目につくところに不安の種があるほうが多少は安心できる。
要するに、だ。
うちはオビトを、ここに、住まわせてやらなければならnくぁwせdrftgyふじこlp
うーん、現実が受け入れられない!
苗字さんは現実逃避に関しては引きこもり故一流ですがここまで非現実的となるとそうもいかないんですよねこれが!
いや、ふざけたことを考えている場合じゃないぞ、私。
こほん、と小さく咳払いをして気を取り直し、うちはオビトに問いかけた。
「あの、良ければうちを拠点にしませんか? 家族はいますが、説得できないことはない、と思うので」
というか、説得できないと私が困る。
誰がS級犯罪者かつラスボス候補を野放しにできますかってんだ。
「……貴様、オレに殺されかけてよくそんなことが言えるな」
酷く訝しげな声だ。
いや本当ごもっともですね、とは言えず。
「そ、そうですけど……流石にそんなこと言ってる場合でもないですし。まだ帰る方法も見つけてらっしゃらないなら、拠点とかないと大変なのかなって……」
こいつが不審人物として警察に職質でもされたらどうなることか。
いや、仮に見つからずに潜伏できていたとしても、バレなければOK理論でヤバい犯罪とかしそうだし、こいつ。
何より、こいつが私の家から出てきたなんて目撃情報が出たら、私は死ぬ覚悟がある。
人の目は何処にでもある。特に今時の日本なんて監視社会になりつつある。恐ろしいこと限りない。
「貴方を追い出すのは、いろんな意味で不安になってしまいます、から。
さっきも言いましたが、警察──治安維持組織がパトロールとかしてますし……結構、危険な武器を持ってるので」
「……」
「私は、まあ……揉め事とか危ない事が嫌です。
だから、私の家で静かに帰る方法を見つけてくださったら嬉しいなー、と」
息苦しいくらいの沈黙が訪れる。
暁のコートに身を包んでいる以上、こいつはトビとして暗躍している時期のはず。
つまり、如何に非道な手段をとってでも自分の世界に帰らねばならないはずだ。
なんせこの時のうちはオビトは、月の眼計画とやらを為すためだけに行動しているのだから。
「…………貴様の、」
「!! はい、なんですか?」
しばらくだんまりを貫くも、やおら口を開いたうちはオビトは、少し試すような口調で問うてきた。
「貴様の家族は、信用に足る者たちか?」
あの人たちが信用出来るか……そんなのお前次第に決まってんだろと言いたいが、そこはぐっと堪えて。
「大丈夫だと思います。多分、私なんかより凄く合理的な筈です。みんな私より年上ですし」
「……そうか」
自分でも驚くほどすんなりと告げることができた。
奴も虚偽はないと感じたのか、短い返事をした後思案げに黙り込む。やはりまだどう行動すべきかを悩み倦ねているようだ。
そして少しの間を置き、うちはオビトは答えを出した。
「では、頼む」
「っ!? わかりました!」
「少しでも怪しい行動をとれば……分かっているな」
「は、はい! 勿論です!」
まさか「頼む」なんて丁寧な物言いをされるとは思わなかった。
ただまあ、すぐその後に脅されたけれども。
……うん、正直、少し予想外で驚いた。黒幕とはいえ、流石にこんな場面で上から目線ではないのか。
まあ、そんなのはどうでもいいが。
さて、これで話は大体終わった。後は私の家族にどう話すかを適当に決めればいいか。
……ああ、いや。
まだ、一番聞くべきことを忘れていた。
念のため、警戒されないようにゆっくりと立ち上がり、うちはオビトに向き直る。
立ち上がっても尚、私の身長は奴の胸の辺りくらいまでにしか届かなくて、自然と見下ろされる形になった。
「あ、あの。私は苗字名前といいます。貴方は、何とお呼びすれば?」
「……呼び名、か」
呼び名って、名前と違って中二臭い言い方だなあ。まあ、こいつの場合仕方がないのか。
僅かに思案するような間の後、奴は変わらず平坦な声で答えた。
「オレの名はトビだ。姓は無い」
誰でもない男の名前は、やっぱり誰でもなかった。
──────────────────────
もし面を外したまま部屋を出て看病に戻ってきていたら、殺されはしなくても(いや殺されるかもしれないが)この話より更にハードモードな流れになっていたかもしれません(2敗)