9話 彼方の人は帰路に立ち
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母さんが仕事を終えて帰ってきてから症状を伝えたところ、大慌てで夜間病院に連れて行かれた(本当は自力で行きたかったけど、一番近くの病院でも歩いて15分はかかるし、多分まともに歩けない気がしたから行けなかった)。
結果、トビの予想通り肺炎とのこと。熱も39.5℃を叩き出しており、道理でしんどいわけだと納得。
まあ納得とか余裕ぶれるほど、元気はなかったんだけど。
医者からも母さんからも「こういう時はもう救急車呼びなさいマジで」と真面目に諭されてしまい、自分のアホさが情けなくてすみませんと謝るしかなかった。
それだけではなく、健康を損なうレベルで痩せていることを指摘されてしまった。
「最近、急に体重が減っていませんか。栄養失調というほどではないんですが、やや衰弱している状態です。だから免疫が落ちているのかと……」と医者には苦い顔をされ、母さんにも「やっぱり最近ほっそりしすぎてると思ったら……」と心配そうな顔になった。なんだかんだバレていたらしい。
幸い、肺炎の症状も衰弱自体も入院するほどではなかったため、薬を処方され自宅療養に。
勿論急変する可能性はあるから、その時は躊躇わず救急車を呼ぶようにと念押しされるので大人しく頷く。
母さんは今後の私の食生活についてアドバイスをされたようで、やたらと神妙な顔をしていた。
学校への連絡など諸々のことは母さんがやってくれるとのことだったので、帰ってからは即自室のベッド行きになった。
晩御飯はお粥を作るからそれまで寝てなさい。あと、ちゃんと水分は摂りなさいね。電話の子機は置いていくから何かあれば呼んで。と心配してくれる母さんが部屋から出ていくと、当然一気に静かになった。
私の呼吸の音は耳障りだったけど、それすら気にならないくらい、妙に寂しく感じる静かさだった。
多分、身体が弱っているからこんなに落ち込みやすいんだろう。
トビと話し終えた後からずっとテンションが上がらなくて困る。いや、仮にも体調崩している人間がテンション上げるのも良くないけど。
トビはもう少しでNARUTOの世界に帰る。
残りの時間も僅かだからちゃんと教わりきりたかったし、最近の身体の不調を気にしないようにしていた。
そして何より、週明けには期末テストが控えている。
授業自体は休んでも自学でどうとでもなるけど、一回休んでまたサボり癖がつくのが怖かった。だから毎日意地でも登校していた。微熱とか嘔吐とか、それくらい我慢できるしって。
それで免疫落ちてこんなザマになっては世話がない。
本当に何してるんだ、私。
……いや。
「……寝よ」
今のメンタルで悔やんでも不毛だ。一回寝て、まともに頭が回るようになってから反省しよう。
布団を首元まで手繰り寄せて目を閉じる。
頭は熱いのに全身としては寒気がする、発熱特有の嫌な感覚が消えない。
咳もなかなか治まらないけど、身体が酷く疲れていたためか、すぐに眠気がやってきて意識は溶けていった。
それから1日、2日と経ったけど、私の体調はなかなか良くならなかった。
いや、一応熱は解熱剤さえ飲めば37℃中間まで下がるし、食欲もそこそこあったから栄養は摂れてはいる。
ただ、安定はしない。解熱剤が切れればまた38℃以上になるし、咳もあまり止まらない。眠っても、咳のせいで目が覚めることもあって寝不足気味だった。
学校は当然休みだし、ずっと自室で寝ているから時間の経過はゆっくりに感じられたけど──ひとつ、どうしようと悩ませる問題があった。
今日は金曜日。
そして、明日土曜日は、トビが言っていた区切りの日。
明日には、トビがこの世界からいなくなる。
結局、最後まで教わりきれなかったな。
できたのはチャクラの知覚と、それを使い切る感覚だけ。
まだ耳を澄ませた時や、ぼーっとした時にチャクラを使ってしまうのは直せていない。
ただ、「あ、チャクラ使ってるな」と言う感覚は掴めるようになったから、耳を澄ましたりぼーっとするのを止めることはできるようになったけど。
……できれば、ちゃんと意図的にチャクラのオンオフをできるようになりたい。
普通に耳を澄まして何かを聞こうとしても、無駄なことまで聞いてしまうのは少し疲れるし。
とはいえこの体調で指導を頼むのは迷惑すぎるし、私自身まともに動ける気がしないし、したくない。
……それなら、今後何をすれば良いかだけ聞いてみるのはどうだろうか。
念のため体温を測る。
……解熱剤が効いているらしく、37.6℃と表示された。それでもかなり怠いけど、今は咳も落ち着いているし、少しは話せそうだ。
マスクをつけて、姿見でボサボサの髪を軽く直してから部屋を出た。
のたのた歩いていると、どう切り出すべきか悩ましくて足が重くなるのを感じる。
でも、どうせ挨拶くらいはしておきたいし。そのついでにダメ元で聞いてみるくらいは良いだろう。
機嫌が悪くないと良いなあ、と淡い期待を込めてトビの部屋をノックした。
「突然すみません。名前なんですけど、今お時間よろしいですか?」
なんだか久々に感じられて、緊張で声が上擦ってしまった。おまけに咳のしすぎでがらがらだったから、かなり恥ずかしい。
冷や汗をかきそうになるものの、割とすぐに扉が開けられたから、ビックリして固まってしまった。
予想だと無言か、扉越しに病人が寄るな帰れって言われるかと思っていたし。
少しぶりに見たトビは、前までと変わらない仮面とコートという格好のままだった。
表情も、感情も、何も伺えない。どうやら不機嫌ではなさそうだ。
「……何の用だ」
前言撤回、なんか滅茶苦茶声が冷めてる。
いや、それもそうか。あからさまに病人ですってナリ(ジャージの上から半纏を着て、マスクと冷えピタも付けてる)のクソガキが部屋に突撃してきたんだから嫌にもなるわ。
最後に話した時に馬鹿みたいなことばっかり言ってた記憶あるし、呆れさせたみたいだし。
ああ、なんか既にダメそうな気がしてきた……
しかしここまできてやっぱりやめるというのもおかしな話だ。
ヒリヒリズキズキする喉を鳴らしてから、なんとか「ご挨拶と、お願いをしたくて」と切り出した。
「明日、元の世界に帰られるんですよね。ご迷惑かとも思いましたが、最後にご挨拶はしておきたくて。
お世話になったのに、ロクにお礼もできなくてすみません。ありがとうございました」
あまり深くやると胸が圧迫されて咳が出やすくなるので、小さく頭を下げる。
トビは少しの間黙ったけど、すぐに「くだらない」とでも言いたげに鼻を鳴らした。
「世話などした気はないし、礼なんぞも求める気はない。前にもオレに恩義を感じていたが……お前は随分都合のいい解釈をするようだな」
「あはは……そうかも、しれないですね。
でも、結果として私が助かったのは事実ですから。不快にさせていたらすみません」
この人、こういう恩義とか向けられるの嫌いそうだもんな。使える駒ならともかく、そうでもない奴に好かれても邪魔なだけだろうし。
一応謝っておいたが、それさえも鬱陶しさを抱かせてしまう気がした。
トビは呆れ果てたのか、どうでもよくなったのか、はたまたどちらでもないのか。私にはわからないが、また黙り込んでしまった。
しかし、すぐに「それで、」と平坦な声で呟くから首を傾げてしまう。
そしたら仮面をしてても「あ、イラッとしてるな」とわかる雰囲気になった。思わず背筋を正して直立不動に。
「何か頼みがあるような口振りだったが違ったか。ないのならさっさと帰れ」
「あ、いや、ありますありますっ。
できるならなんですけど、トビさんがいなくなってもできるようなチャクラの制御の勉強法とか、教えてもらえませんか?」
大慌てで考えていた頼み事を言ったものだから、少し咽せそうになる。なんとかそれは堪えて、トビの返答を待った。
何故だろう。めっちゃくちゃ不審そうに、というか嫌そうに睨まれている気がする。
お面の奥の瞳は黒のままだし、実際どうかはわからないけど、多分きっとそう。無性に怖いし。
「……この期に及んでまだ諦めていなかったか。やめておけ。お前のような人間にはどの道扱いきれん。チャクラを感じられるようになったのなら十分だろう」
「いや、でもやっぱり勝手に使っちゃうのはやめられなくて困ってしまうというか……! これが治ったら、また頑張りたいんです。今は全然やる気ないですし、教えてもらっても忘れちゃいそうですけど」
だから書き留められるようにメモも持ってきました、と半纏からメモ帳とシャーペンを取り出して笑ってみせる。
それが意外だったのか、トビのイライラしたような気配は少しだけ弱まった。
「……少しは無駄を理解したか」
「そう、ですね。多分ですが。
この前は、手間を取らせてすみませんでした。色々焦ってて……空回りしてましたよね、私」
今になってみれば、本当に馬鹿だったと思う。
それはトビに指導してもらっていたときのことだけじゃない。学校に不調を抱えたまま、この数ヶ月通い続けていたこともだ。
ここ数日、トビとのやり取りでの反省を抱えつつほとんどを寝て過ごしたからか、自分の努力の方向性がズレていることが少しずつわかった。
いや、気づくしかなかった、というべきか。
成績は元に戻りつつあるものの、それ以上になる気配はない。それどころか、勉強中は集中をロクに維持できなかったため、今後はまた成績が低下していく可能性が高かった。みんな受験期になるから、いっそう勉強に身を入れるだろうし。
頑張っても結果が出ない焦りで、かえってその非効率的な頑張り方に執着してしまったのだと思う。
「続けていればそのうち治る」と対処を先延ばしにしていたのが良い例だ。
今となっては、もっと落ち着いて状況を見るべきだったと後悔しているが。
確かに私が受験までに費やせる時間は少ない。もっと勉強する必要はある。
けど、勉強中や学校での精神状態を悪化させ続けてまでやるメリットはない。
集中できていないのでは量も質も劣っている。
ちゃんと、意味のある頑張り方をしよう。こんなのを続けるのは、ただ「頑張った」事実が欲しいだけだ。
また「都合のいい解釈」と言われるし口には出さないが、トビの遠慮のない物言いのおかげで気がつくことができたし、自省できた。
きっとこの人が言う通り、善意でもなんでもないのだろう。
けど──いや、だからこそ、私は助けられたのだと思う。あんまり上手く説明できないのが、もどかしいけど。
「これからはもう、無駄にしちゃうようなやり方で何かに取り組むのはやめます。
お願いします。もし何か私だけでもできるようなチャクラの勉強法があるのなら、教えてくれないでしょうか」
やはり頭は深く下げられないで、ほぼ目礼の形で礼をとる。
それでも少し咳が出て、けほけほと軽く咽せていると、トビはため息をついた、気がする。
ほとんど音はしなかったし、ついた素振りも見せなかったから、確信はないけど。
「よくその状態で頼みにきたものだ。
まあいい。説明はしてやる。お前にできるかどうかは保証しないがな」
「っ、は、い! ありがとうございます!」
咳を堪えながらお礼を伝えれば、また鬱陶しそうに「咳き込むくらいなら大声を出すな」と指摘されたので、慌てて口を噤み首肯する。
……なんだか最後までカッコつかなさそうな気がするな、私。
結果、トビの予想通り肺炎とのこと。熱も39.5℃を叩き出しており、道理でしんどいわけだと納得。
まあ納得とか余裕ぶれるほど、元気はなかったんだけど。
医者からも母さんからも「こういう時はもう救急車呼びなさいマジで」と真面目に諭されてしまい、自分のアホさが情けなくてすみませんと謝るしかなかった。
それだけではなく、健康を損なうレベルで痩せていることを指摘されてしまった。
「最近、急に体重が減っていませんか。栄養失調というほどではないんですが、やや衰弱している状態です。だから免疫が落ちているのかと……」と医者には苦い顔をされ、母さんにも「やっぱり最近ほっそりしすぎてると思ったら……」と心配そうな顔になった。なんだかんだバレていたらしい。
幸い、肺炎の症状も衰弱自体も入院するほどではなかったため、薬を処方され自宅療養に。
勿論急変する可能性はあるから、その時は躊躇わず救急車を呼ぶようにと念押しされるので大人しく頷く。
母さんは今後の私の食生活についてアドバイスをされたようで、やたらと神妙な顔をしていた。
学校への連絡など諸々のことは母さんがやってくれるとのことだったので、帰ってからは即自室のベッド行きになった。
晩御飯はお粥を作るからそれまで寝てなさい。あと、ちゃんと水分は摂りなさいね。電話の子機は置いていくから何かあれば呼んで。と心配してくれる母さんが部屋から出ていくと、当然一気に静かになった。
私の呼吸の音は耳障りだったけど、それすら気にならないくらい、妙に寂しく感じる静かさだった。
多分、身体が弱っているからこんなに落ち込みやすいんだろう。
トビと話し終えた後からずっとテンションが上がらなくて困る。いや、仮にも体調崩している人間がテンション上げるのも良くないけど。
トビはもう少しでNARUTOの世界に帰る。
残りの時間も僅かだからちゃんと教わりきりたかったし、最近の身体の不調を気にしないようにしていた。
そして何より、週明けには期末テストが控えている。
授業自体は休んでも自学でどうとでもなるけど、一回休んでまたサボり癖がつくのが怖かった。だから毎日意地でも登校していた。微熱とか嘔吐とか、それくらい我慢できるしって。
それで免疫落ちてこんなザマになっては世話がない。
本当に何してるんだ、私。
……いや。
「……寝よ」
今のメンタルで悔やんでも不毛だ。一回寝て、まともに頭が回るようになってから反省しよう。
布団を首元まで手繰り寄せて目を閉じる。
頭は熱いのに全身としては寒気がする、発熱特有の嫌な感覚が消えない。
咳もなかなか治まらないけど、身体が酷く疲れていたためか、すぐに眠気がやってきて意識は溶けていった。
それから1日、2日と経ったけど、私の体調はなかなか良くならなかった。
いや、一応熱は解熱剤さえ飲めば37℃中間まで下がるし、食欲もそこそこあったから栄養は摂れてはいる。
ただ、安定はしない。解熱剤が切れればまた38℃以上になるし、咳もあまり止まらない。眠っても、咳のせいで目が覚めることもあって寝不足気味だった。
学校は当然休みだし、ずっと自室で寝ているから時間の経過はゆっくりに感じられたけど──ひとつ、どうしようと悩ませる問題があった。
今日は金曜日。
そして、明日土曜日は、トビが言っていた区切りの日。
明日には、トビがこの世界からいなくなる。
結局、最後まで教わりきれなかったな。
できたのはチャクラの知覚と、それを使い切る感覚だけ。
まだ耳を澄ませた時や、ぼーっとした時にチャクラを使ってしまうのは直せていない。
ただ、「あ、チャクラ使ってるな」と言う感覚は掴めるようになったから、耳を澄ましたりぼーっとするのを止めることはできるようになったけど。
……できれば、ちゃんと意図的にチャクラのオンオフをできるようになりたい。
普通に耳を澄まして何かを聞こうとしても、無駄なことまで聞いてしまうのは少し疲れるし。
とはいえこの体調で指導を頼むのは迷惑すぎるし、私自身まともに動ける気がしないし、したくない。
……それなら、今後何をすれば良いかだけ聞いてみるのはどうだろうか。
念のため体温を測る。
……解熱剤が効いているらしく、37.6℃と表示された。それでもかなり怠いけど、今は咳も落ち着いているし、少しは話せそうだ。
マスクをつけて、姿見でボサボサの髪を軽く直してから部屋を出た。
のたのた歩いていると、どう切り出すべきか悩ましくて足が重くなるのを感じる。
でも、どうせ挨拶くらいはしておきたいし。そのついでにダメ元で聞いてみるくらいは良いだろう。
機嫌が悪くないと良いなあ、と淡い期待を込めてトビの部屋をノックした。
「突然すみません。名前なんですけど、今お時間よろしいですか?」
なんだか久々に感じられて、緊張で声が上擦ってしまった。おまけに咳のしすぎでがらがらだったから、かなり恥ずかしい。
冷や汗をかきそうになるものの、割とすぐに扉が開けられたから、ビックリして固まってしまった。
予想だと無言か、扉越しに病人が寄るな帰れって言われるかと思っていたし。
少しぶりに見たトビは、前までと変わらない仮面とコートという格好のままだった。
表情も、感情も、何も伺えない。どうやら不機嫌ではなさそうだ。
「……何の用だ」
前言撤回、なんか滅茶苦茶声が冷めてる。
いや、それもそうか。あからさまに病人ですってナリ(ジャージの上から半纏を着て、マスクと冷えピタも付けてる)のクソガキが部屋に突撃してきたんだから嫌にもなるわ。
最後に話した時に馬鹿みたいなことばっかり言ってた記憶あるし、呆れさせたみたいだし。
ああ、なんか既にダメそうな気がしてきた……
しかしここまできてやっぱりやめるというのもおかしな話だ。
ヒリヒリズキズキする喉を鳴らしてから、なんとか「ご挨拶と、お願いをしたくて」と切り出した。
「明日、元の世界に帰られるんですよね。ご迷惑かとも思いましたが、最後にご挨拶はしておきたくて。
お世話になったのに、ロクにお礼もできなくてすみません。ありがとうございました」
あまり深くやると胸が圧迫されて咳が出やすくなるので、小さく頭を下げる。
トビは少しの間黙ったけど、すぐに「くだらない」とでも言いたげに鼻を鳴らした。
「世話などした気はないし、礼なんぞも求める気はない。前にもオレに恩義を感じていたが……お前は随分都合のいい解釈をするようだな」
「あはは……そうかも、しれないですね。
でも、結果として私が助かったのは事実ですから。不快にさせていたらすみません」
この人、こういう恩義とか向けられるの嫌いそうだもんな。使える駒ならともかく、そうでもない奴に好かれても邪魔なだけだろうし。
一応謝っておいたが、それさえも鬱陶しさを抱かせてしまう気がした。
トビは呆れ果てたのか、どうでもよくなったのか、はたまたどちらでもないのか。私にはわからないが、また黙り込んでしまった。
しかし、すぐに「それで、」と平坦な声で呟くから首を傾げてしまう。
そしたら仮面をしてても「あ、イラッとしてるな」とわかる雰囲気になった。思わず背筋を正して直立不動に。
「何か頼みがあるような口振りだったが違ったか。ないのならさっさと帰れ」
「あ、いや、ありますありますっ。
できるならなんですけど、トビさんがいなくなってもできるようなチャクラの制御の勉強法とか、教えてもらえませんか?」
大慌てで考えていた頼み事を言ったものだから、少し咽せそうになる。なんとかそれは堪えて、トビの返答を待った。
何故だろう。めっちゃくちゃ不審そうに、というか嫌そうに睨まれている気がする。
お面の奥の瞳は黒のままだし、実際どうかはわからないけど、多分きっとそう。無性に怖いし。
「……この期に及んでまだ諦めていなかったか。やめておけ。お前のような人間にはどの道扱いきれん。チャクラを感じられるようになったのなら十分だろう」
「いや、でもやっぱり勝手に使っちゃうのはやめられなくて困ってしまうというか……! これが治ったら、また頑張りたいんです。今は全然やる気ないですし、教えてもらっても忘れちゃいそうですけど」
だから書き留められるようにメモも持ってきました、と半纏からメモ帳とシャーペンを取り出して笑ってみせる。
それが意外だったのか、トビのイライラしたような気配は少しだけ弱まった。
「……少しは無駄を理解したか」
「そう、ですね。多分ですが。
この前は、手間を取らせてすみませんでした。色々焦ってて……空回りしてましたよね、私」
今になってみれば、本当に馬鹿だったと思う。
それはトビに指導してもらっていたときのことだけじゃない。学校に不調を抱えたまま、この数ヶ月通い続けていたこともだ。
ここ数日、トビとのやり取りでの反省を抱えつつほとんどを寝て過ごしたからか、自分の努力の方向性がズレていることが少しずつわかった。
いや、気づくしかなかった、というべきか。
成績は元に戻りつつあるものの、それ以上になる気配はない。それどころか、勉強中は集中をロクに維持できなかったため、今後はまた成績が低下していく可能性が高かった。みんな受験期になるから、いっそう勉強に身を入れるだろうし。
頑張っても結果が出ない焦りで、かえってその非効率的な頑張り方に執着してしまったのだと思う。
「続けていればそのうち治る」と対処を先延ばしにしていたのが良い例だ。
今となっては、もっと落ち着いて状況を見るべきだったと後悔しているが。
確かに私が受験までに費やせる時間は少ない。もっと勉強する必要はある。
けど、勉強中や学校での精神状態を悪化させ続けてまでやるメリットはない。
集中できていないのでは量も質も劣っている。
ちゃんと、意味のある頑張り方をしよう。こんなのを続けるのは、ただ「頑張った」事実が欲しいだけだ。
また「都合のいい解釈」と言われるし口には出さないが、トビの遠慮のない物言いのおかげで気がつくことができたし、自省できた。
きっとこの人が言う通り、善意でもなんでもないのだろう。
けど──いや、だからこそ、私は助けられたのだと思う。あんまり上手く説明できないのが、もどかしいけど。
「これからはもう、無駄にしちゃうようなやり方で何かに取り組むのはやめます。
お願いします。もし何か私だけでもできるようなチャクラの勉強法があるのなら、教えてくれないでしょうか」
やはり頭は深く下げられないで、ほぼ目礼の形で礼をとる。
それでも少し咳が出て、けほけほと軽く咽せていると、トビはため息をついた、気がする。
ほとんど音はしなかったし、ついた素振りも見せなかったから、確信はないけど。
「よくその状態で頼みにきたものだ。
まあいい。説明はしてやる。お前にできるかどうかは保証しないがな」
「っ、は、い! ありがとうございます!」
咳を堪えながらお礼を伝えれば、また鬱陶しそうに「咳き込むくらいなら大声を出すな」と指摘されたので、慌てて口を噤み首肯する。
……なんだか最後までカッコつかなさそうな気がするな、私。